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第二十四章 油断

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「ユウ兄ちゃん……!」
 ミュゼットが目をウルウルさせて僕を見た。
「ボクのこと何もかもぜーんぶ理解してくれてたんだね。ありがとう!」

「……ミュゼット、そういうことだったの」
 そんなミュゼットに対し、男爵がすまなそうな顔をして謝った。
「アタシ、アンタがそこまで深く考えて戦っていたなんて思いもしなかった。怒ったりして悪かったわ。――でもね、こんな危ない戦いはもう御免よ。アンタにもしものことがあったら、ロゼットとリゼットに申し開きができないじゃない」

「みんな心配してくれるのは有難いけど、別に大丈夫だよ。ボクももう子供じゃないし、王の騎士団キングスナイツの正規の団員なんだもん。多少危険なのは覚悟の上だから、姉さまたちにもそう言っておいてよ」

 ロゼット、リゼット……。
 あのデュロワ城の二人のメイドのことか。
 それにミュゼットが“姉さまたち”と呼ぶということは――

 どうやらロゼットとリゼットは、ミュゼットと合わせ三姉妹、ということらしい
 道理で名前が似ているし、揃いも揃って美人なわけだ。
 
「あのっ! ユウトさん、男爵様、そろそろ出発してはどうでしょうか!」
 と、そこでリナがやぶから棒に言った。
「霧の中に待たせている兵士のみなさんも不安でしょうし」

「ああ……そ、そうですよね」
 リナのいつになく不機嫌そうな態度に、僕は戸惑いながら返事をした。

 なんで……?
 リナは明らかに僕に対して腹を立ててるようだけど――

 って、まさかリナはさっきから猫みたいに僕にじゃれつくミュゼットを見て怒っているのか?

 おいおい。リナにはリューゴという立派な想い人がいるのだから、別にヤキモチを焼く必要はないのに。
 それとも、目の前でこんなにベタベタされると、一人の女の子としてやっぱり不快なのだろうか?

「あのミュゼットさん――」
 ひっついて離れようとしないミュゼットに、僕は言った。
「そろそろ笛の演奏をお願いします。笛の音がないと兵士は動けませんから」

「えー“さん”付けはヤダ。さっきハイオークから守ってくれた時みたいにミュゼットって呼び捨ててよ!」

「わ、わかりましたから、とにかく笛を!」

「はいはい、じゃあもう一回吹きますよっと。――ユウ兄ちゃん、この続きはあとでね!」

 ミュゼットはそう言ってウインクし、ようやく僕から離れてくれた。 
 それから笛を取り出し、薄い桃色の唇にあてた。

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