異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十五章 兄弟と兄妹

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「待ってください男爵様! あの人たちを追って、いったい何をどうしようというんですか?」
 握り合った手に男爵の熱と汗を感じながら、僕は尋ねた。

「シッ! 静かにして。気付かれちゃうじゃない」
 
 男爵は僕の質問を無視し、廊下の角で立ち止まって壁に身を寄せた。
 そしてそこからこっそり顔を出すと、左に折れた廊下の先を覗き込んだ。
 
「ねえ見て! あの兄妹、まるで本物の恋人のようじゃない?」

「……ええ、確かにそんな感じはしますけど」 

 男爵につられる形で、僕もクロードとティルファの様子をうかがう。
 二人は仲良く手をつなぎながら、ちょうど廊下の突き当たりにある部屋の中に入るところだった。
 
「あの部屋、私が二人のあてがった部屋よ」
 と、男爵が小声でささやく。
「兄妹水入らずで過ごした方が、きっとティルファの回復が早いと思ったから……」

「じゃあ男爵の狙いは当たったということじゃないですか。あの酷い精神状態だったティルファさんが、あんなに良くなったんですから」
 僕は男爵にささやき返した。
「それに今だって二人して自分の部屋に戻っただけじゃないですか? 何の問題もないでしょう」
 
「ノンノンノン!」
 男爵は首を振って言った。
「ダメなのよ、ダメ! 血がつながった兄妹の親しすぎる関係――このロードラント王国ではそれが大問題になるの! ――あ、二人が部屋に入ったわ」

 男爵がそう言ったその時、突き当たりの部屋の扉が「パタン」と閉じ、続いて中からカチャリと鍵のかかる音が聞こえた。

「さあユウちゃん、来て」

 男爵は僕の手を再びつかむと廊下を飛び出し、素早くかつ忍び足でクロードとティルファの部屋の手前まで来る。

 けれど部屋に鍵をかけて、引きこもってしまったらどうしようもないだろう。
 のぞきは趣味でないし……。

「男爵様、いい加減戻りましょうよ。アリス様もお待ちですし」

「いいえ、ダメ! さあ、こっちの部屋から探るわよ」
 と、言って男爵は、隣室のドアをそっと開けた。

 その部屋はカーテンが引かれ薄暗かったが、やはり客室らしく、きちんとメイクされた大きなベッドが二つと、立派な椅子にテーブルが置かれていた。
    
「なんなんですか、もう……」 
 
 ぶつくさ言う僕を放置して、男爵は部屋の右側の石張りの壁に駆け寄り、そこにぴったり耳をつける。
 壁の向こう側はクロードとティルファの部屋だ。

「ダメだわ、何も聞こえない。――ちょっとユウちゃん、そっちのテーブルの上にあるコップ……そうそう、そのガラスのコップを取って!」

 男爵は僕からコップを受け取ると、それを壁に当てて、その上にピアスだらけの耳を置く。
 
「ンもう! やっぱりなーんも聞こえない! まったく、この城の壁って無駄に分厚いのよね。――ちょっとユウちゃん、隣の部屋の声が筒抜けになって聞こえてしまう、みたいな魔法ってないの?」

「ありませんよ、そんな魔法……。でも男爵、ちょっとヘンですよ。二人の仲を探るのに、いくらなんでも躍起になりすぎじゃ?」

「それはね――」
 フウッと男爵はため息をつく。
「ちゃんとした理由があるのよ」

「え?」

「実は昨日の晩、見回りの衛兵から報告があったんだけど……月明かりの下、お城の庭の片隅で、クロードとティルファがキスを――それも超濃厚なやつをしていたって言うのよ!」

「ええーーっ!」

「しかもキスだけじゃなくて、その先も……」

「えええーーっ!?」

 僕は仰天したあまり、クロードとティルファがすぐ隣の部屋にいるのも忘れて、思わず叫んでしまった。


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