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第二十八章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで

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 僕が密かに化けネズミ食料化計画を練っているその横で、アリスは報告にやって来た竜騎士を詰問し始めた。

「反乱だと!? この期に及んで反乱とはいったいどういうことか。何が起きているのか詳しく話せ」

「失礼しました。反乱とはやや言葉が過ぎたかもしれません。しかし兵士たちはここ一日何も食べておらず空腹でひどく苛立っており、ひょんなことから言い争いと小競り合いを始め、その……」

 竜騎士が急に言葉を濁したので、アリスは眉をひそめ問い正した。

「どうした? お前も騎士ならば曖昧なことは言わずはっきりものを申せ」

「も、申し訳ありません。実は小競り合いと言うのは我々竜騎士と兵士との間に起ったことなのです。どうも兵士たちは日ごろか騎士階級の者に対し鬱憤うっぷんをため込んでいたらしく、ここへ来てそれが一気に爆発したと申しましょうか今は一触即発の危険な状態です」

「そういうことか。――やんぬるかな、今は仲間同士で争っている場合ではないのは皆わかっているだろうに」

「アリス様のおっしゃる通りでございます」

「いやいや」
 と、アリスは自戒するように首を振って言った。
「厳しい戦いが続いているのに食事ができず飢えれば不満が溜まるのは思えば当然のこと。責められるべきは、食料の調達すら満足にできない指揮官であるこの私だ」

「そんなことはございません。この不利な戦況の中、アリス様はよくやっていらっしゃいます」

「よせ! うわべだけの慰めなど無用だ」

 アリスはそう言って、美しい金の髪をくしゃくしゃ掻きむしった。

「ああ! まったく我ながら不甲斐ない。が、今は思い悩んでいる暇はない。とにかく私が出て行かねば騒動は収まらないだろう。――ユウト、すまないがまた私と一緒に来てくれるか?」

「え? ああ、はい!」

 ちょうど頭の中で化けネズミ食料化計画をまとめ終わったので、僕はアリスの頼みを受けた。
 すぐに執務室を出て、諍いが起きている現場である城の中庭に向かう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 城の中庭は、その明媚な風景に似合わない、殺伐とした空気に包まれていた。
 数十人の竜騎士と、それを取り囲むようにして集まっている数百人の兵士が両者反目し、今にも乱闘でも始まりそうな雰囲気だからだ。

 が、それでもアリスは一切ひるむことはない。
 みんなの前へ進み、深く息を吸い込んでから大声を張り上げた。

「お前たち、これはどういうことだ!  お前たちはいったい誰と、何を争っているのだ?」

「おお!」
「アリス様!」
「アリス様がいらしたぞ!!」

 兵士たちがようやくアリスに気づき、口々に叫ぶ。
 そんな彼らを見回し、アリスが叫んだ。

「皆、よく聞け! よいか? 以前にも言ったことがあるから覚えている者もいるだろう。兵士と騎士はいかに身分に差があっても同じロードラントの臣民――つまり同士ではないか」

「………………」

「どんなに不平不満があろうともその仲間が互いに争うことに何の意義がある? 今、我々が戦うべき相手は城壁の向こうにいるではないか」

 王女アリスの毅然とした態度に、兵士たちは一瞬我に返ったようだった。
 さながら救いの女神の登場といった感じだろうか、その場の張りつめていた緊張の糸が少し緩んだ。
 そして、 兵士を代表するような形で、エリックがアリスに言った。

「アリス様、そりゃあその通りなんですがねえ、まあいろいろありまして」

「エリックか。このただ事ではない様子は何なのだ。いいから状況を説明してくれ」

「ええ、それが――アリス様もご承知だとは思いますが、今日一日食料の配給がまるでなく、朝からここにいる誰も何も口にしてないわけでして」

「そのことについては皆に対し心から済まないと思っている」

「化けネズミに食糧庫を見事に食い荒らされた件については兵士たちはみんな知っています。そういう理由ならばまあ我慢できなくはないというものですが、しかし――」

「しかし――どうした?」

「実は普段から竜騎士様と一般の兵士の食糧事情には差がありまして、当然あちらさんの方が内容が豪華で量も多くそれがこの事態になっても変わらないというわけなのです」

「なに! つまり竜騎士だけが今日も食事を取っているというわけか」

「有り体に言えばそういうことです。そしてその食事の場面を兵士の一人がたまたま見てしまいそれで大騒ぎになっちまったってわけで――」 

 エリックがアリスにそこまで言った時、竜騎士の内の誰かが叫んだ。
 声は怒りで満ちている。

「貴様、アリス様に何を言うか! 食料の配給を受けられなかったのは我々も同じことだ!」 

 再び空気が緊迫する。
 この竜騎士と兵士との間のひどく険悪なムードは今に始まったことではない。
 もともと両者の対立の根はよほど深いのだ。 

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