ワキガ少女が異世界へ転生したところ、異世界人は皆ワキガフェチだったため、少女は女王として征服することに決めました

佐久間 譲司

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第六章 異世界での暮らし

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 晴香が異世界へ転生してから、二ヶ月ほどが経過した。その間、晴香はずっとルーラル村で生活を続けていた。

 ここでの暮らしは素晴らしかった。村の皆が、晴香をまるで王族のように敬い厚遇し、服従心を持って接してくれるのだ。

 これまでにない経験だった。ずっと他者から拒絶され、中傷を受けていた人生が一変したのである。

 やがて、いつしか晴香は『姫』と呼ばれるようにすらなっていた。

 満たされた日々を過ごす晴香。しばらく日数が経つと、いくつかこの世界の実情を把握することができた。

 その中で、特筆するべきものがいくつかあった。

 一つが、この世界の公用語が日本語であることだ。初め、ロイや村人たちと言葉を交わした時にも驚いたのだが、それは、村へ訪れる行商人や交易人も同じだった。皆が日本語を使い会話を行っているのだ。

 言葉だけではない。書物や書類へ書かれる文字も日本語であった。漢字やひらがな、カタカナが入り混じった文字を、現地人は当たり前のように使用しているのだ。

 お陰で晴香は言語習得の必要性がなく、難なく異世界の人間たちとコミュニケーションを取ることが可能だった。当初は違和感があったものの、すぐに慣れが生じ、その感情はすぐに消え失せていた。

 そして、異世界の文明の尺度。大体が、中世時代のヨーロッパレベルのように見受けられた。

 移動は馬や馬車がメインで、機械の類は存在しない。建物はレンガ造りのものが多く、大抵がかまどと煙突を備える。まさにファンタジー世界然とした雰囲気だった。

 まだ晴香はこの村から出たことはないが、話を聞く限り、街や都市はもっとファンタジー世界に近い景色のようだ。近々、ロイや村人たちが晴香を街へ連れて行ってくれるらしいので、その時を楽しみにしている。

 他にもある。種族のことだ。この異世界には、晴香やロイのような種族(ヒューマンというらしい)以外にも、言葉を使い、文明的な生活を送る別の種族が生活しているのだ。

 ルーラル村はヒューマンだけしかいなかったが、村を訪れる行商人や野菜などを買い取る交易人は違った。エルフと呼ばれる尖った耳を持つ、色白の美しい種族や、小柄で筋骨隆々としたドワーフなど、ファンタジー世界で定番の別種族の者たちが存在することを知った(この世界では、人間や人、人物という呼称は、ヒューマンだけではなく、全種族を指すらしい)。

 映画や本の世界でしか目にすることがなかった彼らと遭遇し、晴香は感動を覚えた。

 しかも驚くことに、彼らや彼女らは、村人たち同様、晴香の体臭に対し、著しい魅力を感じているようであった。晴香の体臭を嗅ぐと、人が変わったように晴香へ服従心を抱くのだ。そのお陰で、売り物を無料で貰うことも多々あった。

 晴香のワキガに魅了されるのは、ロイなどのヒューマンだけではなく、全種族、つまり、異世界人全てであることがこの時点で判明した。

 最後に魔法の存在。ファンタジーで定番の魔法は、この世界には存在しないらしいのだ。前の世界と同様、言い伝えや都市伝説のような噂の中では存在するようだが、現実に確認されてはいないようだ。

 ただ、不可思議な効力を発揮する素材はある。最初、ロイと出会った時に、彼が手にしていたライトのごとく光を放つ石がそうだった。それ以外にも、火を発する石、無線のように音を別の石へ伝播する石など、前の世界では存在しなかった物が、この世界では一般家庭で当たり前のように使われていた。それらは魔石と呼ばれている。

 他にも、炎を放つモンスターから作られた素材や、水を大量に保持できるモンスターから取られた素材も流通し、それらは村や街などのインフラにも利用されているとのことだ。そのため、上下水道は完備されていた。

 魔石やモンスターの素材は、入手から流通、利用に至るまで生活に密接し、市場の一つとしても確立されているようだ。

 晴香はそのような世界の中、何不自由ない生活を満喫していた。『姫』と呼ばれ、敬われる日々。出会う者皆が晴香の体臭を絶賛し、服従を誓っていた。異世界人は皆がワキガフェチなのだ。

 そんなある日、ちょっとしたトラブルの話が晴香の耳へ舞い込んできた。



 「農作物が荒らされている?」

 晴香は、報告を行ったロイに聞き返した。

 ロイは、整った顔に憂いを帯びさせながら頷く。

 「ええ。そうなんです。ここ最近、頻繁に作物を取られているようなんですよ」

 現在晴香は、村の皆が晴香のために建ててくれた家屋の居間にいた。目の前では、他の住居よりも豪華に形作られた暖炉が、くべた薪の火を静かに燃やしている。

 晴香は質問した。

 「動物とかモンスターの仕業とかじゃなくて?」

 ロイは首を振った。

 「それがどうも人の仕業らしいのです」

 「人?」

 この村は大陸の奥地にある。森に囲まれ、行商などの目的がないと、まず人が訪れない場所だ。晴香のように、迷いでもしない限りは。

 「エイリックさんのところの畑もやられたみたいですよ」

 奥の台所から、シルヴィア・ドリーフが夕食を載せたお盆を持って現れた。

 シルヴィアは晴香のお手伝いだ。身の回りをさせるよう、村長からあてがわれた中年の女性。言い換えると、侍女といった存在である。

 「エイリックさんの畑が? それは色々大変ね」

 エイリックは、ルーラル村で一、二を争う大きな畑を持つ農家だ。晴香のワキガ臭を絶賛し、まるで女王陛下へ貢ぎ物をするかのように、晴香へ野菜をいつもくれていた。

 そのエイリックの畑も被害を被ったとなると、事態はそれなりに深刻かもしれない。ましてや、相手が人間なら尚更だ。この村は農業で生計を立てているので、畑泥棒の類は天敵である。

 ロイは言う。

 「そこで夜間を通し、村の者で見張ることにしました。賊はどうも夜に盗みを働いているようなので」

 「畑泥棒の犯人は一人なの?」

 晴香は、着ている自身の制服を撫でながら訊く。この制服は、異世界へ転生してからも、ずっと身に付けているものだ。

 「荒らされた規模からすると、一人のようです。だからと言って、安心できません。一刻も早く捕まえなければ」

 それからロイは真剣な面持ちになり、続けて言った。

 「そのため、危険ですから姫様は事が収束するまで、夜の間、決して外へ出ないようにして下さい」

 ロイの忠告に、晴香は首肯した。

 夕食の準備を終えたシルヴィアが、口を開く。

 「姫様のことは私に任せなさい。何が起きても私の目が黒い内は指一本触れさせないよ」

 シルヴィアは恰幅の良い体を揺らしながら、朗らかに笑ってみせた。
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