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第五章 素晴らしき待遇
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「そして、このお方が峰崎晴香様。説明したように、森で迷っていたところをここまで連れてきたのです」
ロイが晴香を村の皆へ紹介した直後の彼らや彼女たちの反応は、目を見張るものがあった。
村へと案内された晴香は、まず中心にある少し大きめの建物へと導かれた。その後村の人たちが集まり、晴香は面を通した。
晴香を前にした時から、村人たちの様子は明らかにおかしかった。村人は老若男女五十名程はいたが、その皆が魅入られたかのように、晴香を凝視してきたのだ。
そして、ロイが事情を含め、晴香を紹介した直後、村人は皆、王が訪問したかのように、一斉に平伏したのだ。
森の中でのロイの行動と、全く同じだった。
晴香は目を見張り、ひどく困惑する。目の前の光景が信じられなかった。一体、何が起きているのだろう。
晴香が立ち竦んでいると、村人たちの先頭で床へ額を付けていた人物が、顔を上げた。仙人のように、長くて白い髭を蓄えた老人だ。
「恐れながら申し上げます。私はこのルーラル村の村長をしておりますモーリス・クロエという者です。この度、このような小さい村へ訪れていただき、大変感謝しております。ロイが晴香様を助けることができたのは、非常に光栄なことでございます」
モーリスの敬服した言動に、晴香は自分が政府の要人にでもなったような錯覚に陥った。
晴香は、慌てて言う。
「あの、どうしてそこまで私に恭しくするんですか? 私、ただの女子高生ですよ」
モーリスは首を傾げる。
「女子高生、とは? あなたが住んでいた世界での高貴な方の肩書きですかな?」
晴香は首を振ると、女子高生について簡単な説明を行った。
「なるほど。こちらの世界にも学徒はおりますが、それと同じということですな。いやはや、それだったらなおさら驚きだ。あなたのような素晴らしい体臭をお持ちの方が、ただの学徒の少女だったとは。前の世界ではさぞかし尊敬されていたことでしょう」
晴香は、眉根を寄せる。
「ロイさんも言ってましたけど、素晴らしい体臭って、その……私、ワキガなんですよ?」
晴香が訊くと、モーリスは目を輝かせた。
「ワキガと仰るんですね。あなた様の素晴らしい体臭の源は」
どうも、話に食い違いがある。晴香は混迷を極めた。だが、しかし不快ではなかった。
晴香は、思いきって質問する。
「あの、臭くないんですか?」
晴香の質問に、モーリスは大仰な仕草で手を振った。
「臭いなんてとんでもない。こんな素晴らしい香り、滅多にありませんぞ。嗅いでいるだけで幸せな気持ちになり、あなた様に服従したくなるのです」
村長のモーリスがそう言うと、周囲で平伏していた他の村人も顔を上げ、口々に晴香の体臭を称賛し始める。
「とても良い匂いですよ」
「ずっと嗅いでいたいわ」
「匂いを嗅がせてくれるなら、何でもします!」
「おねーちゃん、もっと近くで嗅がせて!」
「私もあなたのようなワキガになりたいわ」
村人たちの顔は真剣だった。冗談や揶揄ではなく、本気で晴香の体臭を素晴らしいものとして認識していることがわかった。
隣にいるロイに目を向けると、彼も深く共感しているのか、しきりに頷いている。
晴香はしばらく絶句していたが、やがて、大きく息を吐いた。吐息が震えていることがわかる。
これまで自身を屈辱のどん底へと突き落とし続けた体臭が――ワキガが、ここまで絶賛されるなんて。
気がつくと、晴香は涙を流していた。村人たちが、ぎょっとしたように晴香を見つめるが、涙は止まらなかった。
自分の存在が初めて肯定された気分になった。嬉しい。嬉しい。
晴香は泣きじゃくりながら、ずっと抱えていた自殺への願望が、どこかへと吹き飛んだことを自覚していた。
ロイが晴香を村の皆へ紹介した直後の彼らや彼女たちの反応は、目を見張るものがあった。
村へと案内された晴香は、まず中心にある少し大きめの建物へと導かれた。その後村の人たちが集まり、晴香は面を通した。
晴香を前にした時から、村人たちの様子は明らかにおかしかった。村人は老若男女五十名程はいたが、その皆が魅入られたかのように、晴香を凝視してきたのだ。
そして、ロイが事情を含め、晴香を紹介した直後、村人は皆、王が訪問したかのように、一斉に平伏したのだ。
森の中でのロイの行動と、全く同じだった。
晴香は目を見張り、ひどく困惑する。目の前の光景が信じられなかった。一体、何が起きているのだろう。
晴香が立ち竦んでいると、村人たちの先頭で床へ額を付けていた人物が、顔を上げた。仙人のように、長くて白い髭を蓄えた老人だ。
「恐れながら申し上げます。私はこのルーラル村の村長をしておりますモーリス・クロエという者です。この度、このような小さい村へ訪れていただき、大変感謝しております。ロイが晴香様を助けることができたのは、非常に光栄なことでございます」
モーリスの敬服した言動に、晴香は自分が政府の要人にでもなったような錯覚に陥った。
晴香は、慌てて言う。
「あの、どうしてそこまで私に恭しくするんですか? 私、ただの女子高生ですよ」
モーリスは首を傾げる。
「女子高生、とは? あなたが住んでいた世界での高貴な方の肩書きですかな?」
晴香は首を振ると、女子高生について簡単な説明を行った。
「なるほど。こちらの世界にも学徒はおりますが、それと同じということですな。いやはや、それだったらなおさら驚きだ。あなたのような素晴らしい体臭をお持ちの方が、ただの学徒の少女だったとは。前の世界ではさぞかし尊敬されていたことでしょう」
晴香は、眉根を寄せる。
「ロイさんも言ってましたけど、素晴らしい体臭って、その……私、ワキガなんですよ?」
晴香が訊くと、モーリスは目を輝かせた。
「ワキガと仰るんですね。あなた様の素晴らしい体臭の源は」
どうも、話に食い違いがある。晴香は混迷を極めた。だが、しかし不快ではなかった。
晴香は、思いきって質問する。
「あの、臭くないんですか?」
晴香の質問に、モーリスは大仰な仕草で手を振った。
「臭いなんてとんでもない。こんな素晴らしい香り、滅多にありませんぞ。嗅いでいるだけで幸せな気持ちになり、あなた様に服従したくなるのです」
村長のモーリスがそう言うと、周囲で平伏していた他の村人も顔を上げ、口々に晴香の体臭を称賛し始める。
「とても良い匂いですよ」
「ずっと嗅いでいたいわ」
「匂いを嗅がせてくれるなら、何でもします!」
「おねーちゃん、もっと近くで嗅がせて!」
「私もあなたのようなワキガになりたいわ」
村人たちの顔は真剣だった。冗談や揶揄ではなく、本気で晴香の体臭を素晴らしいものとして認識していることがわかった。
隣にいるロイに目を向けると、彼も深く共感しているのか、しきりに頷いている。
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これまで自身を屈辱のどん底へと突き落とし続けた体臭が――ワキガが、ここまで絶賛されるなんて。
気がつくと、晴香は涙を流していた。村人たちが、ぎょっとしたように晴香を見つめるが、涙は止まらなかった。
自分の存在が初めて肯定された気分になった。嬉しい。嬉しい。
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