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第十一章 デート
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リコから借りた魔術を使い、古里たちを撃退してから、一週間が経過した。
あれから奴等は、何のアクションも取ってこなかった。新たな刺客が現れることもなければ、集団で出向いてくることもなかった。祐真の予想通り、もう標的にすることを諦めたのだろう。
古里たちを撃退するために使った魔術は、リコに礼を言ったあの晩、リコ本人へと返却した。あのまま不必要に保持し続けても、発覚のリスクを高めるだけであったからだ。必要があれば、また何かしら力を貸してくれるという。
これにて一件落着と相成ったが、新たな問題が一つ噴出していた。
それは当のリコのことである。
あの件以降、リコのアプローチは激しさを増していた。祐真の感謝の言葉が、リコの情熱をさらに燃焼させたらしい。
激化した点を挙げると、例えば、入浴の際、これまでリコは共に入浴を催促したり、覗き程度に留まっていたものが、今は裸になって風呂場へと追従するようになった。また、祐真が入浴していると、あとから風呂場に押し入ることもあった。
就寝の際も同様で、妙なメンズ用のセクシー下着を着用し、頻繁に祐真を性交へと誘う行動をとっていた。
つまりは、これまで以上に、祐真の体に並々ならぬ執着を示すようになったのだ。誘惑の激化である。一応は拒否をすると、身を引いてくれるのだが、言動自体を抑えることはなかった。
いよいよ貞操の危機を覚えた祐真は、一刻も早くリコを元いた世界へ送り返すために、あの赤い召喚の本を本格的に探すことにした。
連日、学校帰りにあの図書館へと通い、本棚を隅々まで調べる。目立つ本なので、見落とすことはないはずだった。
しかし、赤い本は全く見当たらない。図書館に設置してある端末で検索するも、一切引っ掛からなかった。
図書館の職員に訪ねてみても、同じだった。それどころか、妙なことに、祐真の貸し出し履歴には、確かに借りたはずの、あの赤い本の記録が載っていなかったのだ。
その時に貸し出しされたことになっている書物は、数学の問題集のみで、赤い本は始めから存在していなかったかのように、完全に記録から消え去っていた。
おかげで祐真は、赤い本の紛失届けを提出しようとしたものの、職員からおかしな目で見られる結果となった。もっとも、紛失した事実さえなかったことになったので、弁済は発生せず、その点は幸運と言えるが。
図書館では赤い本を発見できなかったため、次はネットで調べることにした。
それらしい単語を検索サイトのバーに入力して、検索してみる。思った以上に複数のサイトがヒットするが、どれも祐真が狙っている本ではなく、いかがわしい悪魔召喚本や、儀式本ばかりの情報しかなかった。
ネットも駄目となると、祐真はさすがに頭を抱えた。貞操が危ぶまれていることもそうだが、『ペナルティ』のリスクは常に付き纏っている。可能な限り、早めにリコを送り返したい。
残る方法は、数多くある図書館へと赴き、しらみつぶしに探すことしか思いつかなかった。元々千葉の片隅の図書館にあったシロモノなのだ。他の図書館でも見付かる可能性はあるかもしれない。
祐真は諦めず、これからも時間があったら、図書館を巡り、赤い本の探索を行うことを心に決めた。
その最中のことである。
リコは、あの時の約束を履行することを要求してきた。
古里たちを撃退するために、手を貸してくれたことへの礼である『デート』であった。
祐真としては望ましくないのだが、自分で約束した手前、断るのも気が引けた。リコのお陰で解決したのも事実ではある。
よって、休日になると祐真は、リコと共に街の中へと『デート』に繰り出したのだった。
祐真たちは、その日、高速バスに乗り、舘山自動車道から東京湾アクアラインを通って、渋谷へと赴いていた。
渋谷をチョイスしたのは、リコだった。なぜ渋谷かと祐真が質問すると、若者の街だからと、リコは年寄りみたいな説明を行った。
ちなみに、ひどく人目を引くリコの銀髪だが、魔術により、他の人間には黒髪に見えているらしい。これで、買い物などで頻繁に外出するリコに対し、妙な噂が立たない理由が判明した。
それでも、リコはその美貌そのものにより、衆目を集めるようだ。
渋谷に向かうバスや電車の中でも、数多くの人から刺さるような視線を投げ掛けられていた。隣にいる祐真はひしひしとそれを実感する。
そのほとんどが、羨望や敬愛のものであり、中でも女子高生や若い男などは、二人に聞こえるような声で、リコの容姿を賛美することすら少なくなかった。
当然だが、人外の存在だと疑いの眼差しを向けるものは皆無である。むしろ、アイドルや俳優などに対する目線に酷似していた。
祐真もリコの容姿が優れていることは認めていたが、もうすでに見慣れている上、毎日のように行われるアプローチと、インキュバスという人外の存在が相手であるため、リコの美貌の効力自体が、すっかり祐真の意識から除外されていたのだ。
今回、リコとの初めての遠出で、リコがどれほど魅力のある容姿を誇っているのか、再認識できた。とはいえ、それが祐真にとって、大してメリットにならないことは理解しているが。
渋谷駅前にある忠犬ハチ公像広場に二人は降り立つ。祭りのように多い人混みの中で、なおもリコは周囲の視線に晒されていた。共にいる祐真にもその視線は刺さっており、恥ずかしくなる。
「行こう」
リコは歩き出した。109の建物がある方角だ。
祐真は、リコに訊く。
「どこに行くんだ?」
「ちょっと色々買い物しようと思ってさ。まずは服を買うよ」
「服かよ」
祐真はリコの服装を見た。
普段どこで買っているのか知らないが、リコは、己のファションを磨くことにも余念がなかった。今も薄手の黒いスタンドコートにベージュのカーゴパンツ、足元はチャッカブーツといった出で立ちだ。白人モデルのようにスタイルがいいため、ファッション雑誌からそのまま抜け出てきたような雰囲気を纏っている。
比べて祐真は、パーカにジーンズという適当に選んだ服装だ。隣を歩いていると、少し気後れする。
「祐真の服も買ってあげるね」
リコは優しくそう言った。
「いいよ別に」
「遠慮しなくていいよ。僕が色々見繕ってあげるから」
リコのことだから、おそらく自分色に染め上げようという魂胆だろう。面倒だが、損はないので好きにさせようと思う。今日はこいつのためのデートなんだし。
祐真は、大人しくリコに従うことにした。
あれから奴等は、何のアクションも取ってこなかった。新たな刺客が現れることもなければ、集団で出向いてくることもなかった。祐真の予想通り、もう標的にすることを諦めたのだろう。
古里たちを撃退するために使った魔術は、リコに礼を言ったあの晩、リコ本人へと返却した。あのまま不必要に保持し続けても、発覚のリスクを高めるだけであったからだ。必要があれば、また何かしら力を貸してくれるという。
これにて一件落着と相成ったが、新たな問題が一つ噴出していた。
それは当のリコのことである。
あの件以降、リコのアプローチは激しさを増していた。祐真の感謝の言葉が、リコの情熱をさらに燃焼させたらしい。
激化した点を挙げると、例えば、入浴の際、これまでリコは共に入浴を催促したり、覗き程度に留まっていたものが、今は裸になって風呂場へと追従するようになった。また、祐真が入浴していると、あとから風呂場に押し入ることもあった。
就寝の際も同様で、妙なメンズ用のセクシー下着を着用し、頻繁に祐真を性交へと誘う行動をとっていた。
つまりは、これまで以上に、祐真の体に並々ならぬ執着を示すようになったのだ。誘惑の激化である。一応は拒否をすると、身を引いてくれるのだが、言動自体を抑えることはなかった。
いよいよ貞操の危機を覚えた祐真は、一刻も早くリコを元いた世界へ送り返すために、あの赤い召喚の本を本格的に探すことにした。
連日、学校帰りにあの図書館へと通い、本棚を隅々まで調べる。目立つ本なので、見落とすことはないはずだった。
しかし、赤い本は全く見当たらない。図書館に設置してある端末で検索するも、一切引っ掛からなかった。
図書館の職員に訪ねてみても、同じだった。それどころか、妙なことに、祐真の貸し出し履歴には、確かに借りたはずの、あの赤い本の記録が載っていなかったのだ。
その時に貸し出しされたことになっている書物は、数学の問題集のみで、赤い本は始めから存在していなかったかのように、完全に記録から消え去っていた。
おかげで祐真は、赤い本の紛失届けを提出しようとしたものの、職員からおかしな目で見られる結果となった。もっとも、紛失した事実さえなかったことになったので、弁済は発生せず、その点は幸運と言えるが。
図書館では赤い本を発見できなかったため、次はネットで調べることにした。
それらしい単語を検索サイトのバーに入力して、検索してみる。思った以上に複数のサイトがヒットするが、どれも祐真が狙っている本ではなく、いかがわしい悪魔召喚本や、儀式本ばかりの情報しかなかった。
ネットも駄目となると、祐真はさすがに頭を抱えた。貞操が危ぶまれていることもそうだが、『ペナルティ』のリスクは常に付き纏っている。可能な限り、早めにリコを送り返したい。
残る方法は、数多くある図書館へと赴き、しらみつぶしに探すことしか思いつかなかった。元々千葉の片隅の図書館にあったシロモノなのだ。他の図書館でも見付かる可能性はあるかもしれない。
祐真は諦めず、これからも時間があったら、図書館を巡り、赤い本の探索を行うことを心に決めた。
その最中のことである。
リコは、あの時の約束を履行することを要求してきた。
古里たちを撃退するために、手を貸してくれたことへの礼である『デート』であった。
祐真としては望ましくないのだが、自分で約束した手前、断るのも気が引けた。リコのお陰で解決したのも事実ではある。
よって、休日になると祐真は、リコと共に街の中へと『デート』に繰り出したのだった。
祐真たちは、その日、高速バスに乗り、舘山自動車道から東京湾アクアラインを通って、渋谷へと赴いていた。
渋谷をチョイスしたのは、リコだった。なぜ渋谷かと祐真が質問すると、若者の街だからと、リコは年寄りみたいな説明を行った。
ちなみに、ひどく人目を引くリコの銀髪だが、魔術により、他の人間には黒髪に見えているらしい。これで、買い物などで頻繁に外出するリコに対し、妙な噂が立たない理由が判明した。
それでも、リコはその美貌そのものにより、衆目を集めるようだ。
渋谷に向かうバスや電車の中でも、数多くの人から刺さるような視線を投げ掛けられていた。隣にいる祐真はひしひしとそれを実感する。
そのほとんどが、羨望や敬愛のものであり、中でも女子高生や若い男などは、二人に聞こえるような声で、リコの容姿を賛美することすら少なくなかった。
当然だが、人外の存在だと疑いの眼差しを向けるものは皆無である。むしろ、アイドルや俳優などに対する目線に酷似していた。
祐真もリコの容姿が優れていることは認めていたが、もうすでに見慣れている上、毎日のように行われるアプローチと、インキュバスという人外の存在が相手であるため、リコの美貌の効力自体が、すっかり祐真の意識から除外されていたのだ。
今回、リコとの初めての遠出で、リコがどれほど魅力のある容姿を誇っているのか、再認識できた。とはいえ、それが祐真にとって、大してメリットにならないことは理解しているが。
渋谷駅前にある忠犬ハチ公像広場に二人は降り立つ。祭りのように多い人混みの中で、なおもリコは周囲の視線に晒されていた。共にいる祐真にもその視線は刺さっており、恥ずかしくなる。
「行こう」
リコは歩き出した。109の建物がある方角だ。
祐真は、リコに訊く。
「どこに行くんだ?」
「ちょっと色々買い物しようと思ってさ。まずは服を買うよ」
「服かよ」
祐真はリコの服装を見た。
普段どこで買っているのか知らないが、リコは、己のファションを磨くことにも余念がなかった。今も薄手の黒いスタンドコートにベージュのカーゴパンツ、足元はチャッカブーツといった出で立ちだ。白人モデルのようにスタイルがいいため、ファッション雑誌からそのまま抜け出てきたような雰囲気を纏っている。
比べて祐真は、パーカにジーンズという適当に選んだ服装だ。隣を歩いていると、少し気後れする。
「祐真の服も買ってあげるね」
リコは優しくそう言った。
「いいよ別に」
「遠慮しなくていいよ。僕が色々見繕ってあげるから」
リコのことだから、おそらく自分色に染め上げようという魂胆だろう。面倒だが、損はないので好きにさせようと思う。今日はこいつのためのデートなんだし。
祐真は、大人しくリコに従うことにした。
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