サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました

佐久間 譲司

文字の大きさ
66 / 90

第六十五章 報告

しおりを挟む
 「転校生の女の子?」

 「そう。転校生の女子」

 祐真は首肯し、言葉を繰り返す。

 夕食時、祐真は影山沙希のことについて、リコに話をした。二人の間にあるテーブルには、リコ手製の食事が並んでいる。

 「少し前にうちのクラスに転校してきたんだ」

 祐真は肉じゃがを箸で摘むと、口へ運んだ。熱がしっかり通ったじゃがいもの、柔らかい身から甘い出汁が零れ出て、思わず舌鼓を打った。

 「どんな子?」

 リコは、味噌汁の椀を持ったまま質問してくる。なぜか神妙な面持ちだ。

 「けっこう可愛い子だよ」

 祐真はじゃがいもを咀嚼しながら、沙希の容姿を脳裏に思い起こした。

 日向のようなおっとりとした容貌。そこらのグラビアモデルを遥かに超える大きな胸。白くてきめ細かい肌。

 沙希の姿を思うだけで、静かに心臓が高鳴った。彼女が素敵な女子だと強く思う。いまだ、一度も会話などしたことないが……。

 ふと我に返ると、リコが渋面でこちらを見つめていた。

 「ふーん、つまり祐真はその女子のことが好きなんだ」

 「べ、別に好きってわけじゃあ……」

 図星を突かれ、祐真はあたふたと訂正する。

 「だから黙っていたんだ?」

 リコは咎めるような視線を向けた。

 沙希の件を話す結果になったのは、リコから質問を受けたためだ。夕飯が始まるなり、最近何かあったのかと、疑問を呈された。

 祐真自身、普段と変わらない態度のつもりだったが、どうも沙希のことが頭の隅にあったらしく、無意識に行動に出ていたようだ。

 「黙っていたわけじゃないよ。別に殊更伝えるべき出来事ではないってだけ」

 実際、当初から祐真は、沙希のことをリコへ教えるつもりはなかった。だが、変に詰められたせいで、思わず口に出してしまったのだ。言ったあとで後悔したが、すでに取り消せない。

 リコは味噌汁の椀を置き、疑い深げに目を細める。どうも沙希のことが気に食わないらしい。

 「その影山って女子と話をしたの?」

 「いや、してない」

 「向こうは祐真のことどう思っているの?」

 「どう思うも何も、道端に落ちている空き缶か何かとしか見てないんじゃないかな?」

 悲しいことに、これが現実なのだ。容姿が優れているわけでも、勉強ができるわけでもない弱い男。方や相手は、転校するなり人気を掻っ攫った可愛い巨乳女子。比較すら無礼に当たる相手だろう。

 そもそも、異性として魅力ゼロのオタク然とした祐真を好きになる酔狂な女子など、この世に存在しようがなかった。

 「そうかな? 祐真みたいな素敵な男の子、女子が放っておくはずがないと思うけど」

 リコの真面目なもの言いに、祐真はため息をついた。

 「何もわかってないな。お前はインキュバスだからわからないだろうけど、人間には好みってものがあるんだぜ。俺のことを魅力的に思う女子なんかいないって」

 祐真が放つ悲しい事実に対し、リコは心底不思議そうな顔をみせた。

 「こんな素敵な人なのに?」

 リコは、切れ長の目で、こちらを凝視してくる。それには、強い恋慕の情が込められており、祐真は背筋がむず痒くなった。

 「ま、まあともかく、俺とは大して接点がないんだから、気にする必要はないよ」

 会話を打ち切るつもりで、祐真はそう言い切った。リコは少しの間、何かしら深く考えていたようだが、やがて顔を明るくさせた。

 「そうだね。僕は祐真を信じているよ」

 変な物言いだが、リコは納得してくれたらしい。祐真は胸をなでおろした。

 会話が一段落したところで、祐真は付け合せのサラダを口に運んだ。しかし、安心するのが早かった。会話はまだ終わっていなかったのだ。

 「もしも祐真がその女の子を好きになっていたら、僕は絶対その子を許さないから」

 祐真はサラダを口に入れたまま、リコを見つめる。リコは真剣な眼差しを祐真へ注ぎながら、身を乗り出し、こちらの肩に優しく手を置いた。

 「だから、祐真はその子のこと気にしちゃ駄目だよ」

 リコの手からは、熱情のような嫉妬が伝わってきた。おそらく、祐真の本心をある程度察しているらしい。

 「……うるさいな。心配は必要ないって言っただろ」

 祐真は、リコの手を振り払った。

 祐真は、サラダを飲み込みながら思う。確かに自分と沙希が今後仲良くなる可能性はゼロに等しい。そのため、リコの心配は杞憂に過ぎないが、もしも、と考える。

 もしも、沙希と接点を持ったとしても、リコがいるこのアパートには連れてくることはできないだろう。

 ペナルティのリスクもさることながら、リコの嫉妬心により、沙希の命まで危ぶまれるからだ。



 翌朝。祐真は普段よりも早く起きて、アパートを出た。リコは昨夜の夕食時の出来事など忘れてしまったかのように、普段通りに接してきていた。

 朝食もいつもと変わらず、美味しくてバランスが取れたもの。祐真はしっかり完食する。これも普段通り。ただ、少し違うのは、リコがあまり朝食に手を付けていない点だ。やはり、昨夜の祐真の話の影響で、食欲が沸かないのだろうか。

 アパートを出たあとは、高校へ直行する。少し早めの登校なので、通学路は比較的空いていた。特に用事があったわけではないが、こういうのも新鮮で気持ちがいいと思う。

 祐真は晴れ渡った朝の空を見上げ、大きく息を吸った。澄んだ空気が肺腑の奥に流れ込み、浄化されたかのように気分がすっきりとする。

 今日はいいことがありそうだ。

 祐真は息を吐きながら、確信を持った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

処理中です...