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第六十九章 苦境
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それからしばらくの間、江実のアプローチは続いた。毎日のように、祐真を『口説いて』くるのだ。
同時に、カップルの数も日を追うごとに増えていった。一生彼女なしの仲間だと思われた星斗と直也も、今ではすっかり『リア充』の仲間入りである。もっともそれが、淫魔術という不可思議な力の影響であることは、知る由もなかったが。
祐真は朝、登校するなり、変わり果てた学校の惨状に改めて目を見開いていた。
どこを見ても、男女のカップルばかり。人目も憚らず、乳繰り合っている。ここがカップル喫茶でもあるかのように。
現在、祐真のクラスでカップルになっていないのは、祐真と彩香、江実、あとは転校生の影山沙希くらいだ。
彩香は現状を危惧してか、今は休学中である。江実は祐真が断ったため、カップルが成立していないだけで、淫魔術にはかかっているだろう。
つまるところ、二年一組において、完全に無事だと言える者は、祐真を除いて一人しかいなかった。
祐真は、その者の姿を自分の席からそっとうかがう。
沙希は自分の席に座り、おどおどとした様子で周囲を見回していた。教室内で展開されているピンク色の世界に、戸惑いを隠せないでいるようだ。
これまでは、美少女転校生という理由で、多くの男子生徒から囲まれていたが、今は一人である。
沙希の象徴のような豊満な胸は健在で、ここからでも制服越しに確認できるくらいだ。おっとりした整った顔も、相変わらず素敵だ。
祐真は自分が沙希に見惚れてしまっていることに気づき、はっとする。いけない。これでは出歯亀ではないか。沙希に知られたら嫌われてしまう。
祐真は無理矢理に沙希から目を逸らし、机の天板を見つめた。しかし、と不思議に思う。
どうして沙希は無事なのだろう。あれほど大勢の男子に囲まれていたのに、誰も沙希を狙わないというのも妙な話である。転校生だから標的にされていないのか。
あるいは、沙希が召喚主なのだろうか。自分を除き、このクラスで唯一無事の存在だ。疑うのは当たり前である。
だが、転校早々、淫魔術を発動させる目的がわからなかった。そもそも、花蓮に続き、転校生がピンポイントで犯人という流れが何度も続くのも疑問である。
このクラスが発端であるのは祐真の間に過ぎず、他のクラスや学年では、まだまだカップル化していない生徒も多いため、安易に沙希を疑うのは早計かもしれない。
ともかく、このままでは非常にまずいだろう。いつぞやのBL化計画のように、いつ何時自分の身に危険が迫るかわかったものではなかった。すでに現状、目を付けられているのだから。
「おはよう羽月君!」
明るい声が聞こえた。声の主の姿を確認せずともわかる。江実が登校してきたのだ。
「……おはよう」
祐真はうんざりしながら江実に返事をする。江実は細い目をほころばせ、祐真の席の前に立った。
「どうしたの? 考え事?」
江実は顔を覗き込んでくる。祐真は顔を逸らした。
この女子のせいでリコに相談できないことは、痛感の極みである。江実のことを隠して伝えることも考えたが、逆効果だろう。確実に江実の件はリコの耳に入るはずだ。そうなれば、江実の身の安全は保障できない。
もういっそ、江実などどうでもいいではないかと割り切ることも可能だが、夢見が悪くなること間違いなし。操られてるとはいえ、好意を抱き、告白してきた相手だ。さすが見捨てることはできなかった。
「ねえ、羽月君。いい加減私たち付き合おうよ」
江実は幾度となく聞いた文言を口にする。祐真は肩をすくめ、首を振った。
「何度も言うけど、付き合えないよ」
祐真は断ったものの、江実は引き下がらず、しばらくアプローチを続けた。
だが、HRの時間が迫ると、残念そうな顔で席へと戻っていった。祐真はほっと胸をなでおろす。
HRが始まり、担任教諭の朝の伝達事項が行われる。最近増えている校内のカップル化現象について、注意喚起がなされた。
祐真は漠然と担任教諭の話を聞き流しながら、ぼんやりと考える。
この現象の犯人の目的を。
彩香は己の野望のために全校生徒をBL化させ、古里は復讐のためにGL化させた。両者には明確な違いがあり、前者は不特定多数が標的、後者は特定の人物が標的である点が挙げられる。
後者はより特徴的で、彩香を自身と同じ目にあわせるため、わざわざ全校生徒を巻き込んだテロ行為であった。
今回の一件はどうだろうか。特定の人物が標的なのか、無差別攻撃が目的なのか。
しかし、男女のカップルが発生するという現象に、なんの意味があるのだろうか。BL化やGL化などなら、何か特別な意味を感じるが、ただ男女のカップルが生まれているだけである。
犯人の意図が全くわからなかった。それに彩香が話してくれた、告白は全て女子生徒かのほうから行われる、という現象も今のところ理由不明だ。
現在、森に迷い込んだように、わからないことばかりだった。
「えー、そのため、未成年であなたたちは……」
担任教師の声で、祐真は現実に引き戻された。教師は、不良の素行を咎めるような強い口調で、蔓延している男女カップルの恋愛に対し、叱咤をしていた。
それに対し、クラスメイトたちはどこ吹く風だ。時折、カップリングが成立している者同士、目配せし合う始末。このまま放置していても、確実に解決しないことの表れでもあった。
祐真は頭を抱えそうになった。
同時に、カップルの数も日を追うごとに増えていった。一生彼女なしの仲間だと思われた星斗と直也も、今ではすっかり『リア充』の仲間入りである。もっともそれが、淫魔術という不可思議な力の影響であることは、知る由もなかったが。
祐真は朝、登校するなり、変わり果てた学校の惨状に改めて目を見開いていた。
どこを見ても、男女のカップルばかり。人目も憚らず、乳繰り合っている。ここがカップル喫茶でもあるかのように。
現在、祐真のクラスでカップルになっていないのは、祐真と彩香、江実、あとは転校生の影山沙希くらいだ。
彩香は現状を危惧してか、今は休学中である。江実は祐真が断ったため、カップルが成立していないだけで、淫魔術にはかかっているだろう。
つまるところ、二年一組において、完全に無事だと言える者は、祐真を除いて一人しかいなかった。
祐真は、その者の姿を自分の席からそっとうかがう。
沙希は自分の席に座り、おどおどとした様子で周囲を見回していた。教室内で展開されているピンク色の世界に、戸惑いを隠せないでいるようだ。
これまでは、美少女転校生という理由で、多くの男子生徒から囲まれていたが、今は一人である。
沙希の象徴のような豊満な胸は健在で、ここからでも制服越しに確認できるくらいだ。おっとりした整った顔も、相変わらず素敵だ。
祐真は自分が沙希に見惚れてしまっていることに気づき、はっとする。いけない。これでは出歯亀ではないか。沙希に知られたら嫌われてしまう。
祐真は無理矢理に沙希から目を逸らし、机の天板を見つめた。しかし、と不思議に思う。
どうして沙希は無事なのだろう。あれほど大勢の男子に囲まれていたのに、誰も沙希を狙わないというのも妙な話である。転校生だから標的にされていないのか。
あるいは、沙希が召喚主なのだろうか。自分を除き、このクラスで唯一無事の存在だ。疑うのは当たり前である。
だが、転校早々、淫魔術を発動させる目的がわからなかった。そもそも、花蓮に続き、転校生がピンポイントで犯人という流れが何度も続くのも疑問である。
このクラスが発端であるのは祐真の間に過ぎず、他のクラスや学年では、まだまだカップル化していない生徒も多いため、安易に沙希を疑うのは早計かもしれない。
ともかく、このままでは非常にまずいだろう。いつぞやのBL化計画のように、いつ何時自分の身に危険が迫るかわかったものではなかった。すでに現状、目を付けられているのだから。
「おはよう羽月君!」
明るい声が聞こえた。声の主の姿を確認せずともわかる。江実が登校してきたのだ。
「……おはよう」
祐真はうんざりしながら江実に返事をする。江実は細い目をほころばせ、祐真の席の前に立った。
「どうしたの? 考え事?」
江実は顔を覗き込んでくる。祐真は顔を逸らした。
この女子のせいでリコに相談できないことは、痛感の極みである。江実のことを隠して伝えることも考えたが、逆効果だろう。確実に江実の件はリコの耳に入るはずだ。そうなれば、江実の身の安全は保障できない。
もういっそ、江実などどうでもいいではないかと割り切ることも可能だが、夢見が悪くなること間違いなし。操られてるとはいえ、好意を抱き、告白してきた相手だ。さすが見捨てることはできなかった。
「ねえ、羽月君。いい加減私たち付き合おうよ」
江実は幾度となく聞いた文言を口にする。祐真は肩をすくめ、首を振った。
「何度も言うけど、付き合えないよ」
祐真は断ったものの、江実は引き下がらず、しばらくアプローチを続けた。
だが、HRの時間が迫ると、残念そうな顔で席へと戻っていった。祐真はほっと胸をなでおろす。
HRが始まり、担任教諭の朝の伝達事項が行われる。最近増えている校内のカップル化現象について、注意喚起がなされた。
祐真は漠然と担任教諭の話を聞き流しながら、ぼんやりと考える。
この現象の犯人の目的を。
彩香は己の野望のために全校生徒をBL化させ、古里は復讐のためにGL化させた。両者には明確な違いがあり、前者は不特定多数が標的、後者は特定の人物が標的である点が挙げられる。
後者はより特徴的で、彩香を自身と同じ目にあわせるため、わざわざ全校生徒を巻き込んだテロ行為であった。
今回の一件はどうだろうか。特定の人物が標的なのか、無差別攻撃が目的なのか。
しかし、男女のカップルが発生するという現象に、なんの意味があるのだろうか。BL化やGL化などなら、何か特別な意味を感じるが、ただ男女のカップルが生まれているだけである。
犯人の意図が全くわからなかった。それに彩香が話してくれた、告白は全て女子生徒かのほうから行われる、という現象も今のところ理由不明だ。
現在、森に迷い込んだように、わからないことばかりだった。
「えー、そのため、未成年であなたたちは……」
担任教師の声で、祐真は現実に引き戻された。教師は、不良の素行を咎めるような強い口調で、蔓延している男女カップルの恋愛に対し、叱咤をしていた。
それに対し、クラスメイトたちはどこ吹く風だ。時折、カップリングが成立している者同士、目配せし合う始末。このまま放置していても、確実に解決しないことの表れでもあった。
祐真は頭を抱えそうになった。
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