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145話
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「奏ちゃんって、瑠華ちゃんの何処が好きなの?」
「……へっ!?」
予想だにしない言葉を投げかけられ、奏が思わず素っ頓狂な声を上げてその思考が停止する。
梓沙としてもあまりにも突然過ぎた自覚はあるのか、目を白黒させる奏を見て苦笑を浮かべた。
「ごめんなさいね。でも気になっちゃって。別に隠しているつもりは無いのでしょう?」
「そ、それはそうですけど…」
奏としては確かに隠しているつもりは無かったが、わざわざ聞くその理由が分からなかった。
「な、なんでそんないきなり…」
「んー…まぁちょっと気になったからと言うのが半分。もう半分は、多分助けになれると思ったからよ」
「助け?」
「ええ」
そこで梓沙が言葉を切ると、もう一度目線をサナの方へと向ける。その行動が何を意味するのか一瞬分からなかった奏だが、とある場所に目線が合った途端、その意味を理解したのか大きく目を見開いた。
「…えと、取り敢えず座ります…?」
「そうね。ゆっくり話しましょ」
梓沙を奥のダイニングへと通し、向かい合って座る。すると透かさず紫乃がお茶と茶請けを用意し、一礼して下がった。……が、それを梓沙が呼び止める。
「紫乃ちゃん…だっけ。貴方も一緒にどう?」
「いえ私は…」
「恋する者同士、仲良くしましょ」
「っ!?」
梓沙がニヤニヤとした笑みを浮かべながら言い放った言葉に、紫乃が息を詰まらせた様な音を零す。
「な、なんで…」
「あら、図星だったかしら」
それで漸くカマを掛けられたのだと気付き、紫乃が己の失策を呪った。
紫乃が自分の気持ちを自覚したのは随分と最近の事であり、その後配信には映っていない。つまり今の段階で梓沙がそれを知る術は無いという事は、少し考えれば気付けた事だった。
「え、え? えっ!?」
「あら、奏ちゃんは気付いて無かったの?」
「知らないですよ! えっ、紫乃ちゃんどういう事!?」
思わずガタンッ! と勢い良く立ち上がり、紫乃へと詰め寄る。奏としては大混乱だ。何せ最初の頃に紫乃自らライバルでは無いと宣言していたのだから。
詰め寄ってきた奏に対して紫乃が何か言わんとするも、言葉を探しているのかその目が泳ぐ。
「え、えと、えーっと……」
「まぁまぁ。取り敢えず座ってから、落ち着いて話しましょ?」
そう声を掛けるものの、元はと言えば梓沙が元凶である。二人とも睨み付けるような眼差しを向けるが、その提案は正論だったが為に渋々と席に着いた。
「そんなに紫乃ちゃんが恋してるのが意外なの?」
「意外というか、前に聞いたんです。瑠華ちゃんを狙うつもりは無いって」
「私は別に対象が瑠華ちゃんだとは断定していないけれど……」
「じゃあ逆に有り得ます? この【柊】で過ごしてて、瑠華ちゃん以外を好きになる事」
ずっと一緒に居るからこそ、瑠華という存在がどれだけ周りから慕われ好かれるかを理解している。故に【柊】からほぼ出る事が無い紫乃が恋する対象など、瑠華以外考えられなかった。
「えーっと…実際どうなの?」
「………はぃ……」
話を振られた紫乃が、今にも消え入りそうな声で肯定する。そして自分の気持ちが露顕した事による羞恥心からか、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「あっ、じゃあ昨日煩悩を発散するって言ってたの、もしかして瑠華ちゃんに対する…」
「わー! わー!」
奏から気付かれたくなかった事を指摘され、その言葉を遮るように大きな声を上げる。
紫乃にしては珍しいその行動に、サナに纏わり付いていた子達が何事かと思い一斉に視線を向けた。
「どしたのー?」
「あっ、な、何でもありませんよっ!?」
普段落ち着いている紫乃があたふたと慌てながら弁明する姿に目をぱちくりとさせるも、素直にその言葉を信じてまたサナに目線を戻す。
何とか興味を逸らせた事にほっと胸を撫で下ろすも、まだ問い詰められる事を考えると胃がキリキリと痛んだ。
「煩悩…あぁそういう」
「納得されるのも複雑です……」
「まぁ正常な反応ではあるし、そう気にする必要も無いと思うわよ?」
「…瑠華様は私にとって憧れのお方なので、その…申し訳なさが」
「私はもう慣れちゃったからなぁ…耐性無い友達とかは偶に顔を赤らめてたりするけど」
「耐性って…」
そのあんまりな言い方に梓沙が苦笑する。
「でもそう言うしかないんですよ。瑠華ちゃん生粋の誑しだし、凄く良い匂いするし」
「分かります」
「隠すの止めるの早くない?」
「ここまで来たらもう諦めました」
清々しい物言いに今度は奏が苦笑を零す側になった。
「えーっとそれで何を話して……あぁそうそう。瑠華ちゃんの何処が好きかっていう話をしようとしていたわね」
巡り巡ってやっと最初の話題へと戻ってくる。まずは手本をという訳では無いが、奏から話す事になった。
「瑠華ちゃんの好きな所…正直全部ですけど、強いて言うなら声かも」
「声?」
「瑠華ちゃんの声ってちょっとダウナーって言うか、落ち着いた雰囲気なんですけど、だから聞いてると安心するっていうか…誰かに褒められるにしても、やっぱり瑠華ちゃんの声で聞きたいって思っちゃいます」
瑠華の事は自重しないところも含めて全て好きだと断言出来る奏だが、声はその中でも特筆して好きだった。
「紫乃ちゃんは?」
「わ、私がその様に決めるなど畏れ多いです」
「いいじゃないの。そんな事で怒るような子じゃないのは紫乃ちゃん達が一番良く理解しているでしょう?」
その言葉を否定する事は出来ず、散々迷いながらも意を決した様子で口を開く。
「私はうr……御髪、でしょうか」
思わず鱗と言いそうになったのを寸前で堪え、何とか軌道修正する。幸いそこを追求される事はなく、気付かれない程の小さな息を吐いた。
「髪なの?」
「あの美しい御髪には憧れます。それにあれこそ瑠華様を象徴する物だと私は思うので」
穢れを知らない、純白の髪。それは瑠華の鱗と全く同じ色であり、紫乃の記憶に深く刻まれた龍人の姿を想起させるものだ。憧れであり畏怖すべき象徴。
(あの御髪の手入れを任せては頂けないでしょうか…)
そしてあわよくば手入れしたい。多分言ったらさせてくれるだろうが、流石の紫乃もそれを口にする勇気は無かった。
「成程ねぇ…二人とも本当に好きなのね。話してる時の顔を見れば分かるわ」
「まぁ伊達に長く片思いしてないですし」
「私は…まだ分かりません。そもそも、そうかもしれないと自覚したのがつい最近なので…」
「え、そうなの?」
「じゃあ質問。何か考える度、瑠華ちゃんの事が脳裏にチラつく?」
梓沙の質問に対して少しばかり紫乃が思案する。そして、自信なさげに小さく頷いた。
「瑠華ちゃんの為に何かしたいって思う?」
それには躊躇いなく頷く。拾われた恩を返したいという想いとは別として、頼りにされたい、支えになりたいと。
「後は簡単。瑠華ちゃんが好きだと口に出してみたらどうなる?」
「…瑠華様が、す…」
言われた通りの言葉を口に出そうとした途端、身体が急速に熱を持って心臓が有り得ない程に暴れ出す。まるで言う事を聞かなくなった身体に驚愕し思わず戸惑うが、その反応が予想通りだったとでも言うように梓沙がしたり顔で頷いた。
「身体は正直な物よ」
「私も自覚したてはそんな感じだったなぁ…」
「えっ、えっ!?」
「落ち着いて…って言っても仕方無いわね。まぁそれで自覚出来たかしら?」
「じ、自覚…」
「またライバル増えた…瑠華ちゃんの馬鹿。女誑し」
日に日にライバルが増えていく現状に、思わず奏の口から恨み辛みが飛び出す。
「まぁモテそうよね。それに“アレ”が実現すればもっと増えそうだわ」
「アレ…?」
「あら、知らない? 日本の有名な研究者が発表したんだけど…とあるダンジョンから発見された未知のポーションを研究した結果、同性同士で子供を作れるかも知れないって……」
「「………ゑ?」」
「……へっ!?」
予想だにしない言葉を投げかけられ、奏が思わず素っ頓狂な声を上げてその思考が停止する。
梓沙としてもあまりにも突然過ぎた自覚はあるのか、目を白黒させる奏を見て苦笑を浮かべた。
「ごめんなさいね。でも気になっちゃって。別に隠しているつもりは無いのでしょう?」
「そ、それはそうですけど…」
奏としては確かに隠しているつもりは無かったが、わざわざ聞くその理由が分からなかった。
「な、なんでそんないきなり…」
「んー…まぁちょっと気になったからと言うのが半分。もう半分は、多分助けになれると思ったからよ」
「助け?」
「ええ」
そこで梓沙が言葉を切ると、もう一度目線をサナの方へと向ける。その行動が何を意味するのか一瞬分からなかった奏だが、とある場所に目線が合った途端、その意味を理解したのか大きく目を見開いた。
「…えと、取り敢えず座ります…?」
「そうね。ゆっくり話しましょ」
梓沙を奥のダイニングへと通し、向かい合って座る。すると透かさず紫乃がお茶と茶請けを用意し、一礼して下がった。……が、それを梓沙が呼び止める。
「紫乃ちゃん…だっけ。貴方も一緒にどう?」
「いえ私は…」
「恋する者同士、仲良くしましょ」
「っ!?」
梓沙がニヤニヤとした笑みを浮かべながら言い放った言葉に、紫乃が息を詰まらせた様な音を零す。
「な、なんで…」
「あら、図星だったかしら」
それで漸くカマを掛けられたのだと気付き、紫乃が己の失策を呪った。
紫乃が自分の気持ちを自覚したのは随分と最近の事であり、その後配信には映っていない。つまり今の段階で梓沙がそれを知る術は無いという事は、少し考えれば気付けた事だった。
「え、え? えっ!?」
「あら、奏ちゃんは気付いて無かったの?」
「知らないですよ! えっ、紫乃ちゃんどういう事!?」
思わずガタンッ! と勢い良く立ち上がり、紫乃へと詰め寄る。奏としては大混乱だ。何せ最初の頃に紫乃自らライバルでは無いと宣言していたのだから。
詰め寄ってきた奏に対して紫乃が何か言わんとするも、言葉を探しているのかその目が泳ぐ。
「え、えと、えーっと……」
「まぁまぁ。取り敢えず座ってから、落ち着いて話しましょ?」
そう声を掛けるものの、元はと言えば梓沙が元凶である。二人とも睨み付けるような眼差しを向けるが、その提案は正論だったが為に渋々と席に着いた。
「そんなに紫乃ちゃんが恋してるのが意外なの?」
「意外というか、前に聞いたんです。瑠華ちゃんを狙うつもりは無いって」
「私は別に対象が瑠華ちゃんだとは断定していないけれど……」
「じゃあ逆に有り得ます? この【柊】で過ごしてて、瑠華ちゃん以外を好きになる事」
ずっと一緒に居るからこそ、瑠華という存在がどれだけ周りから慕われ好かれるかを理解している。故に【柊】からほぼ出る事が無い紫乃が恋する対象など、瑠華以外考えられなかった。
「えーっと…実際どうなの?」
「………はぃ……」
話を振られた紫乃が、今にも消え入りそうな声で肯定する。そして自分の気持ちが露顕した事による羞恥心からか、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「あっ、じゃあ昨日煩悩を発散するって言ってたの、もしかして瑠華ちゃんに対する…」
「わー! わー!」
奏から気付かれたくなかった事を指摘され、その言葉を遮るように大きな声を上げる。
紫乃にしては珍しいその行動に、サナに纏わり付いていた子達が何事かと思い一斉に視線を向けた。
「どしたのー?」
「あっ、な、何でもありませんよっ!?」
普段落ち着いている紫乃があたふたと慌てながら弁明する姿に目をぱちくりとさせるも、素直にその言葉を信じてまたサナに目線を戻す。
何とか興味を逸らせた事にほっと胸を撫で下ろすも、まだ問い詰められる事を考えると胃がキリキリと痛んだ。
「煩悩…あぁそういう」
「納得されるのも複雑です……」
「まぁ正常な反応ではあるし、そう気にする必要も無いと思うわよ?」
「…瑠華様は私にとって憧れのお方なので、その…申し訳なさが」
「私はもう慣れちゃったからなぁ…耐性無い友達とかは偶に顔を赤らめてたりするけど」
「耐性って…」
そのあんまりな言い方に梓沙が苦笑する。
「でもそう言うしかないんですよ。瑠華ちゃん生粋の誑しだし、凄く良い匂いするし」
「分かります」
「隠すの止めるの早くない?」
「ここまで来たらもう諦めました」
清々しい物言いに今度は奏が苦笑を零す側になった。
「えーっとそれで何を話して……あぁそうそう。瑠華ちゃんの何処が好きかっていう話をしようとしていたわね」
巡り巡ってやっと最初の話題へと戻ってくる。まずは手本をという訳では無いが、奏から話す事になった。
「瑠華ちゃんの好きな所…正直全部ですけど、強いて言うなら声かも」
「声?」
「瑠華ちゃんの声ってちょっとダウナーって言うか、落ち着いた雰囲気なんですけど、だから聞いてると安心するっていうか…誰かに褒められるにしても、やっぱり瑠華ちゃんの声で聞きたいって思っちゃいます」
瑠華の事は自重しないところも含めて全て好きだと断言出来る奏だが、声はその中でも特筆して好きだった。
「紫乃ちゃんは?」
「わ、私がその様に決めるなど畏れ多いです」
「いいじゃないの。そんな事で怒るような子じゃないのは紫乃ちゃん達が一番良く理解しているでしょう?」
その言葉を否定する事は出来ず、散々迷いながらも意を決した様子で口を開く。
「私はうr……御髪、でしょうか」
思わず鱗と言いそうになったのを寸前で堪え、何とか軌道修正する。幸いそこを追求される事はなく、気付かれない程の小さな息を吐いた。
「髪なの?」
「あの美しい御髪には憧れます。それにあれこそ瑠華様を象徴する物だと私は思うので」
穢れを知らない、純白の髪。それは瑠華の鱗と全く同じ色であり、紫乃の記憶に深く刻まれた龍人の姿を想起させるものだ。憧れであり畏怖すべき象徴。
(あの御髪の手入れを任せては頂けないでしょうか…)
そしてあわよくば手入れしたい。多分言ったらさせてくれるだろうが、流石の紫乃もそれを口にする勇気は無かった。
「成程ねぇ…二人とも本当に好きなのね。話してる時の顔を見れば分かるわ」
「まぁ伊達に長く片思いしてないですし」
「私は…まだ分かりません。そもそも、そうかもしれないと自覚したのがつい最近なので…」
「え、そうなの?」
「じゃあ質問。何か考える度、瑠華ちゃんの事が脳裏にチラつく?」
梓沙の質問に対して少しばかり紫乃が思案する。そして、自信なさげに小さく頷いた。
「瑠華ちゃんの為に何かしたいって思う?」
それには躊躇いなく頷く。拾われた恩を返したいという想いとは別として、頼りにされたい、支えになりたいと。
「後は簡単。瑠華ちゃんが好きだと口に出してみたらどうなる?」
「…瑠華様が、す…」
言われた通りの言葉を口に出そうとした途端、身体が急速に熱を持って心臓が有り得ない程に暴れ出す。まるで言う事を聞かなくなった身体に驚愕し思わず戸惑うが、その反応が予想通りだったとでも言うように梓沙がしたり顔で頷いた。
「身体は正直な物よ」
「私も自覚したてはそんな感じだったなぁ…」
「えっ、えっ!?」
「落ち着いて…って言っても仕方無いわね。まぁそれで自覚出来たかしら?」
「じ、自覚…」
「またライバル増えた…瑠華ちゃんの馬鹿。女誑し」
日に日にライバルが増えていく現状に、思わず奏の口から恨み辛みが飛び出す。
「まぁモテそうよね。それに“アレ”が実現すればもっと増えそうだわ」
「アレ…?」
「あら、知らない? 日本の有名な研究者が発表したんだけど…とあるダンジョンから発見された未知のポーションを研究した結果、同性同士で子供を作れるかも知れないって……」
「「………ゑ?」」
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