上 下
6 / 55

終わった

しおりを挟む
「……終わった」
「お疲れ様です……(まさか終わるとは思いませんでしたが)」
「ア゙ア゙?」
「冗談です」

 冗談に聞こえなかったんだが……まぁ、いい。

「もう仕事ない?」

 椅子から飛び降りつつ尋ねる。まぁ、流石にこれだけやればもう「あります」……


「…あるの?」

 もう嫌なんだけど。
 思わずアニスを睨む。

「っ!そ、そんな顔しないでください」
「あ、ごめん」

 アニスから視線をずらす。するとほっと胸をなでおろしたのがわかった。
 どうやらわたしは、睨むと相手を怯えさせてしまうらしいんだ。たまに機嫌が悪いときに睨んじゃうんだよねぇ……。

「で、残りは?」
「収穫祭の祝辞ですが……」
「………」

 やるの?まじで?

「……声変えなきゃ」

 祝辞は国全体に伝わる。勿論、わたしの声で。
 ただね……自分で言うのもなんなんだけど……わたしの声ってかなり幼いのよね。
 さすがに一国の王たる魔王がそんな声じゃ締まらないからね。

「もういっその事そのお姿も…」
「やだ!」

 そんなことしたら街に忍び込めないじゃないか!

「……重要視するとこそこなんですね」
「当然」

 さてさて。祝辞は……こんなんでいいか。
 あとは声を魔法で変えてっと……よし。







『収穫祭を楽しんでいるかな、皆』

 国全体に高くも低い、中性的な声が響く。国民全員がその声に耳を傾ける。

「あ、魔王様だ!」

 ある子供がそう騒ぐが、親に静かにするように叱られる。それだけ皆が聞きたがっているのだ。

『さて。今年も多くの恵みを得ることができたと思う』

 国民が頷く。

『だが、それは当たり前のことではない。常にこの恵みを得られるとは限らないからな。だからこそ今を楽しみ、感謝し、忘れぬようにしよう』

『では、最後にわたしからの祝いだ』

 その言葉が聞こえた瞬間、夜空に破裂音とともに大輪の火の華が咲き誇る。

「「「うわぁぁ!!」」」

 これら全て、魔王であるユーリ1人が魔法でやっているのだが、それをわざわざ知る必要は無い。

 五分ほど火の華が咲き誇り、夜の静けさを取り戻す。
 人々はその余韻に浸る……が、1人が呟いた。

「そう言えば、魔王様って、性別どっちだ?」

 



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

冬休みのシュレーディンガー

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

恋に悩む人へかける魔法

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

俺の居場所

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:137

誰でもレイプしちゃう男の娘の話

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:81

俺があんたを愛する理由

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:131

【完結】記憶喪失の少女と1人の少年の物語

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

バウンティハンター

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

お譲りさん

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

長い兄弟げんか

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:50

俺の彼女は14歳のホームレスだった

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...