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過去の記憶

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 しばらくマリと空中散歩を楽しんでいると……少し厄介な場面に遭遇してしまった。

「ユーリ様…」
「……うん。ちょっと待っててね」
「…え、どうやって行くのですか…?」
「うん?こうやって」

 マリをアーテルの背に残し、わたしはその場から飛び降りる。

「えぇっ!?」
『心配しなくても主は大丈夫だよ。飛べるし』

 あ、そっか。言ってなかった。

「いきなりでごめんね。心配しないでいいよ。アーテルはマリを連れて帰って」
『りょーかい』
「…お気を付けて」
「もちろん」

 さあってと。その遭遇した厄介な場面なんだけど……村がね、魔物に襲われちゃってたんだ。小さな村ではあるけれど、さすがに見殺しには出来ない。まぁもとより、見て見ぬふりをするという選択肢はないんだけどね。

「…これでいいか」

 魔法を構築し、魔力を放出する。そして、それぞれの射線を固定し、自動追尾を設定……よし。

「…"穿うがて"」

 たった一言。それだけで、魔力によって構築された不可視の槍が魔物へと襲いかかる。
 自動追尾をしている為、絶対命中。さらにには当たらないよう、しっかりと計算している。助けるのに怪我させたら元も子もないからね……。

 不可視の槍は、寸分の狂いなく魔物を刺し殺した。残りは……いないな。

「さて。村の様子は……」

 そこでわたしは、村の人々の目を見てしまった。
 ……それは、瞳。
 怯え、恐怖の色に染った瞳。

「…っ」

 それが必ずしも、わたしに対してそう感じている訳では無い。先程の魔物に対しての感情でもあるだろう。
 ……けれど、そう分かっていても、わたしの中に渦巻く感情があった。

「……違う。これは違うの」

 自分自身に言い聞かせる。……しかし、体は正直だ。震えが止まらない。

「……っ」

 わたしはその場から転移で消え去る。
 あの瞳を見たくなくて。
 あの瞳から逃れたくて。



「おかえりなさいませ。……どうかしましたか?」

 執務室に直接転移すると、アニスがそう聞いてきた。
 ……やはり、バレてしまうか。

「……体洗ってくる。誰も入れないで」
「……かしこまりました」

 そう言ってわたしは足早に、浴室への通路を進んだ。


 


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