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第2章
2ー1 手紙
しおりを挟むエレナが手紙を開き、その中の文面に目を通す。
「……はぁ」
そして深いため息をはいた。
「ふぉっふぉっふぉっ。そこまで嫌う必要もないじゃろ」
「あれ?ロンベルグ様、この手紙の中身を知っていらっしゃるんですか?」
「無論じゃ。安心せい。ちゃんとした依頼じゃ」
エレナの手紙の内容。それは依頼書だった。ある人からの指名依頼。
「冒険者辞めようかな…」
「それはやめてくれんか!?わしの依頼もしてもらいたいのじゃから」
「…冗談ですよ」
半分本気だったが。
第6階級の冒険者は、言わば1人の軍人扱いだ。国から指名依頼をされることも少なくない。エレナはかつて そう言った依頼を持ちかけられたことがある。その内容は戦争。
……エレナはその依頼をキッパリ断ったが。
基本国からの指名依頼であれば、断ることは難しい。だが、その依頼で攻め入る国が……ガルドメアだったのだ。エレナの故郷とも言える国を攻めるなど、言語道断だった。なのでエレナは断るため、ギルド職員…受付嬢となった。
ギルドは基本国に関与しない。国からの依頼は受け付けるが、それだけだ。それは冒険者を守る為でもある。だが、根無し草の冒険者もいれば、その国に住む冒険者もいる。特に高ランクの冒険者ほど、定住していることが多い。そこまで上げるのに、かなりの歳をとることになるからだ。そのため指名依頼を断れば、最悪国に住めなくなる可能性があった。結果国に住むため、やむ無く依頼を受けることが多いのだ。
……ちなみにエレナは約5年で最高ランクまで昇格したが、それは異常なのだ。本来、最低でも約10年はかかる。それだけ第5階級と第6階級の間には、超え難い壁があるのだ。
エレナは根無し草の冒険者であったが、その動向を監視されており、国から出るのを強制的に止められてしまった。そのため、冒険者ではなくギルド職員として働くことにしたのだ。そうすれば国は関与出来なくなる。その時知り合ったのが、今回の依頼人だ。
「…グラマスによろしくお伝えください」
今回の依頼人、それはギルド本部の最高責任者、グランドマスターだった。グラマスは考えるより動く人らしく、色々な国を巡っていた。そのため、エレナと知り合うことになったのだ。
ギルド本部はガルドメアにある。その国それぞれの本部はあるにはあるが、ガルドメアの本部はその中で最も高い地位にある。それはギルドという組合が発足したのがガルドメアだからだ。
「分かっておる。それと…近々久しぶりに茶会でもどうじゃ?」
「そうですね…はい。でしたらこの依頼が終わった後にでも」
「分かった。じゃあの」
「はい。お気を付けて」
ロンベルグは手を振りながら、その場を後にした。どうやら護衛はしっかりついてきていたらしく、近くの木陰で待機していたようだ。現に木陰から飛び出し、ロンベルグに耳打ちしている。
「ロンベルグ様、はやくお帰りになりませんと…」
「分かっとるわい」
ロンベルグは護衛と一言二言会話し、ちょっと不機嫌そうに馬車へと乗り込む。護衛がロンベルグが乗り込んだのを確認すると、馬車はゆっくりと去っていった。
「そっか…ここガルドメアだった」
エレナが来たこの場所、実は国境を越えていたのだ。故に馬車でロンベルグはここへ来ることが出来た。比較的王都から近いのだ。
「主様、今から行くの?」
「うん…しっかりと根回しされてたよ」
手紙にはしっかりと「ガルドには伝えてある」と書いてあった。つまり、しばらく依頼のせいで帰れないのを見越しているのだ。
「はぁ…ちゃっちゃと終わらせられるものなら良かったのに…」
キュリソーネ領ギルド支部の人員は不足している。なのでエレナは結構働き詰めだ。エレナ1人で処理する仕事は多いので、エレナが抜けた穴は大きいだろう…なのでエレナは依頼を早く終えたかった。だが、今回の依頼はそうもいかないようだ。
「どんな依頼なの?」
エレナはヴェレナに手紙を見せた。
────────
指名依頼:エレナ
至急王都ガルドメアの役所の裏を調査せよ。なお、期限は問わない。もし不正が発覚した場合、確実な証拠を押えること。その証拠と調査報告書はギルド本部まで。
────────
そう書かれていた。
「これ…」
「冒険者の仕事じゃないでしょ?」
「う、うん」
そう、これは最早冒険者の仕事ではない。だが、エレナは至って冷静。なぜなら、このような依頼を何度も受けたことがあるからだ。
………エレナは決して暗部などではないではないのだが。しかし、諜報活動はロンベルグも認めるほどの腕がある。何度か賢者ではなく暗部にスカウトしようとしていた程だ。
「でもこれ、達成条件書いてないの」
依頼書には必ず達成条件が記載される。だが、この依頼書には記載がない。
「それね…確実に不正があるから、調べろってことだよ。だから達成条件は、その証拠を押えること」
「え……」
依頼書には「もし不正が発覚した場合」と書いてあるが……もしではない。確実だ。
「だからめんどくさいんだよ…」
エレナは天を仰いだ。
「はぁ…ヴェレナ、王都までよろしく」
「分かったの…」
元の姿に戻ったヴェレナに跨り、エレナは王都ガルドメアへと向かった。
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