吸血鬼で元賢者ですが今は受付嬢やってます

家具屋ふふみに

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第2章

2ー2 王都へ

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 1ー3エレナの2つ名を編集しました。

─────────────────

 エレナはヴェレナにまたがり、森の中を疾走していた。正確には、森の中の道だが。
 向かう先は王都ガルドメア。
 途中ロンベルグが乗っている馬車を追い抜いたが、護衛達は気づいていない。突然突風が吹いたとしか分からなかっただろう。

『主様、このまま行くの?』
「うーん、ひとまず森を抜けたら止まって」

 従魔とはいえ、1匹の魔物だ。いきなり現れたら混乱は避けられない。そのため、エレナは1度森を抜けたら止まるよう指示を出した。



 しばらく走り続けると、森の出口が見えた。そしてそのまま森を抜けると、ヴェレナが止まる。

『ここなの?』
「うん。ありがと」

 エレナは真っ直ぐ先を見据える。そこには遠くに巨大な壁が聳えていた。それこそ、王都ガルドメアだ。

 王都ガルドメアは街自体を巨大な壁が囲んでいる。その壁は砦の役割があり、難攻不落の要塞でもある。
 そして壁の上には等間隔で塔が立ち並んでいる。それらは風車だ。

 この世の全てには魔力が含まれている。それは風も然りだ。壁の上にある風車は風を魔力に変換する役割を持っている。そして変換された魔力は、壁の結界に利用される。結界は王都自体を包み込むように展開される。それにより、例え空からでも侵入することは難しくなる。それが難攻不落と呼ばれる所以だ。
 だが、風が無ければどうするのか?答えは簡単。貯めている魔力を使うのだ。
 というのも、結界は常に展開されている訳ではない。有事の際にだけ王都全体を包み込むように展開される。いつもは風から変換した魔力は、基本壁の結界に使われ、壁だけを強化する。そして余りの魔力が地下深くの魔核へと蓄えられる。

 魔核とは魔物から取れる石のようなものだ。それは魔力を蓄えることができる性質をもつので、地下にある魔核はその性質を利用している。なので風がない時はそれに蓄えた魔力を利用して結界を展開するのだ。だが、それはあくまで非常用であり、風があるに越したことはない。

 魔核には大小様々な大きさがあり、大きいほど多くの魔力を蓄えられる。大きい魔核を持つのはランクか高い魔物だ。それ故に大きい魔核ほど高く買い取ってもらえる。その魔核を買い取るのもギルドの仕事だ。


 ちなみに、地下深くに埋まっている魔核は、無論Sランクの魔物の魔核だ。エレナも詳しいことは知らないが、初代の国王が倒した魔物の魔核らしい。



 エレナは壁を見つめる。王都に入るには検問をする必要がある。別にやましいことはない。ただ……身分証としてギルドの証明証を提示する必要があるのだ。
 エレナが持っているギルド証明証は第6階級の冒険者を示すものだ。
 ……厄介なことになるのは目に見えている。

「はぁ…まぁ、後で謝っとこう」
『主様?』
「なんでもないよ。じゃあ壁に向かって走って」

 エレナは道を逸れ、王都へと向かう。途中、エレナは魔法を発動する。

「……第8階級光魔法、迷彩カモフラージュ

 迷彩カモフラージュとは光の屈折を利用した魔法だ。迷彩というよりも、人の盲点に無理やり入り込むような魔法。それにより、他人から見えなくなる。

 ……つまり、そういう事だ。

『あ、主様。もしかして…』
「うん。登っちゃおう」

 簡単に言うが、壁の高さはそれなりにある。しかも垂直だ。無理にも程がある。

『無理無理!』
「大丈夫だって…第7階級風魔法、空歩スカイウォーク

 エレナがもうひとつの魔法を発動する。すると、ヴェレナの体が浮き上がった。

『うぇ!?』
「じゃあいってみよー」

 空歩スカイウォークは風で足場を作り、空を歩く魔法だ。風という不安定な足場なので、普通は歩くことしか出来ない。だが、エレナにかかれば歩かず走ることができる。一見簡単そうだが、実はかなり難しい。まぁヴェレナにその事が分かるわけもないが。

『もう!じゃあいくよ!』

 ヴェレナも吹っ切れたらしい。一気に上へと走っていく。ヴェレナにも迷彩はかかっているので、気にされることもない。影はできるが、ヴェレナの速さではその影を見ることは叶わないだろう。

『主様、人いるけど』

 壁は砦だ。もちろん警備する人はいる。だが、そこにヴェレナの姿をその目で捉えることができる者はいないだろう。

「行って」
『うぅ…分かった』

 一気にスピードを上げて、ヴェレナは壁の上を通った。気づいた者はいないようだ。

『はぁ…通っちゃった』

 魔物とはいえヴェレナは人型になれる。エレナと一緒では無い時は、普通に人として生活していたりもするので、これがいけないことだと理解しているのだ。

「大丈夫、もし見つかったらロンベルグ様に頼むから」
『それもそれでどうかと思うよ?』

 全くもって正論である。だが、エレナは気にしていない。

「だってあの依頼、ロンベルグ様が絡んでるはずだもん」

 役所の調査をギルドがすることは珍しい。というより、しない。役所が不正をして困るのは民だが、その不満を受けるのは国だ。なのでロンベルグが依頼したと考えるのが妥当である。だが、ギルドは国に関与しない。よって、グラマスを通じて指名依頼をしてきたということだ。
 そして、ロンベルグが絡むということは、それなりの行為は見逃してくれるということでもあった。なので不正侵入でも、問題は無い……はずだ。

『ほんとかなぁ…』
「ほんとだよ。さて、じゃあヴェレナはどうする?」

 どうする。それは人型になって一緒に行動するかということだ。

『うーん…今回はいいや』
「そう。じゃあまたよろしくね」

 エレナはヴェレナを送還しようとする。

『あ!ブラッシングは忘れないでよね!』
「分かったよ」

 苦笑しながらエレナは頷き、ヴェレナを送還した。

「さて。じゃあまずは宿を探しましょうか」

 自身にかけていた魔法を解除して、エレナは王都を歩き始めた。


   
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