吸血鬼で元賢者ですが今は受付嬢やってます

家具屋ふふみに

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第2章

2ー3 情報収集その1

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 エレナはヴェレナを送還した後、自分の体に魔法を施した。

「…第6階級光魔法、変幻ヘルミヤ

 すると、エレナの綺麗な金髪が黒く染る。そして、エレナ自身からは見えないが、瞳の色も鮮やかな赤から黒に変わっていた。
 これは光の反射、屈折を利用した魔法だ。
 例えば、リンゴが赤く見える理由。それは、赤い光を反射しているから。それを利用し、黒い光だけを反射するようにしたのだ。
 ……一見簡単そうな魔法ではあるが、かなりの魔力制御が必要とされる魔法だ。それを軽く使えるのは、流石は元賢者と言うべきか。

 そしてなぜエレナがこの魔法を施したのか。それは、5年前とはいえ、この国で賢者として名が知られているからである。
 姿を知る人は余りいないだろうが、念の為だ。

「よし。髪色は大丈夫」

 自分の髪色を確認し、エレナは大通りへと向かっていった。

「まずは…宿かな」

 ひとまず泊まるところを探すことにした。

「すいません。いい宿知りませんか?」

 5年前では色々と変わってしまっている。なので近くの店の店主に話を聞くことにしたようだ。

「お?キレイな嬢ちゃんだな。宿を探してるのか?」
「はい。久しぶりに王都に来たので…」
「そうか。なら、この通りの先にある黄色い看板の宿がいい」
「そう。ありがとう」

 お礼を言って、その宿に向かうことにした。

「黄色い看板……あれね」

 遠くからでも分かる黄色い看板が見えた。目の前までいくと、キレイな宿だ。おそらく、最近出来た宿だろう。

 ドアを開けて、中に足を踏み入れた。

「あ、いらっしゃいませー。おひとりですか?」
「はい。泊まれます?」
「大丈夫ですよー。食事はどうします?今作れますけど」
「じゃあお願いしようかな。はい、代金」
「はい。じゃあそこで待っててください」

 しばらくして、食事がエレナの目の前へと運ばれてくる。

「お姉さんは王都はじめて?」
「いえ、でも、5年くらい前に来たっきりね」

 エレナの前に運んできてくれた受付の女の子が座る。エレナより少し身長が低い。

「仕事はいいの?」
「小休止です」

 どうやらサボりのようだ。

「ねぇ、この王都の話聞かせてくれない?」

 ちょうどいいので、エレナは情報収集することにしたようだ。

「王都の話ですか?そうですね……5年前賢者様がいきなりいなくなって、かなり国は混乱しましたよ」
「……それとは別の話で」

 その言葉はエレナの心を抉るに十分なものだった。

「そうですか?賢者様の話は宿泊者に人気なんですよ?国に襲ってきたドラゴンを魔法1発で撃退したり、大規模盗賊団を一夜にして壊滅させたり…」

 ゴンッ!

「だ、大丈夫ですか!?」
「大、丈夫…」

 自分の行為を人から聞くのがこうも恥ずかしいことだと初めて自覚したエレナであった。
 ……そう。その話は実は全て本当なのだ。

「…この王都ってスラム街とかあるの?」

 これ以上気持ちが抉られる前に会話を変えることにしたようだ。

「スラム街ですか?ありますよ」
「あるの!?」

 エレナは自分で聞いておいて驚いた。

「あ、あります」

 エレナが驚いた理由。それは、5年前スラム街はなかったからだ。
 いや、と言った方がいい。

 エレナが賢者だったとき、最も力を入れていたのは、仕事を失った人達への救援だ。
 犯罪によって職を失った人以外には、必要最低限の保証金を払う仕組みを作った。
 ちなみに犯罪で職を失った人は大体鉱山奴隷として送られるため、その人に保証金を払わなくても問題はなかった。
 なのでこの制度は比較的成功を収め、王都のスラム街は無くなったはずだった。

「…どうして?スラム街は無くなったはず」
「あぁ。お姉さんは5年前に来たんでしたよね。スラム街が出来たのは、つい最近からです」
「最近…原因は分かる?」
「すいません…それは分かりません」
「そう…ありがとうね」

 そう言ってエレナは銅貨を1枚渡した。情報料だ。

「ありがとうございます!」

 女の子は嬉しそうにお金を自分の服のポケットへと入れた。

「ご馳走さま。美味しかったわ」
「はい。じゃあこれ鍵です」
「あ、今から出かけるんだけど、鍵は預かってもらっていていい?」
「分かりました。お気をつけて」

 エレナは宿を後にした。
 宿で聞いた話からすると、どうやら保証金が横領されている可能性がある。スラム街が増えたのが1番の証拠だろう。それを知り、依頼をしてきたということか。

「ひとまず情報の裏付けしないと」

 人から伝え聞いた話は歪むものだ。情報の裏付けは必要だ。

「すいません。ここで行かない方がいい所ってあります?」

 正直にスラム街はどこですか?と聞いても、おそらく教えてはくれないだろう。ならば、行かない方がいい所を聞き、そこにいくのが手っ取り早いのである。

「行かない方がいい所か…西地区は行かない方がいい。スラム街があるからな」

 思ったより簡単に情報が手に入った。

「そうなんですね…わたしがここに来た時はスラム街はなかったと思うんですけど」
「嬢ちゃんが来たのはいつだ?」
「5年前です」
「5年前…賢者様がいなくなった時か」

 ここでもそれを言われる。エレナは少し心にチクッと痛みを覚える。

「そう、ですね」
「なら知らなくても問題ない。賢者様がいなくなって、ぼちぼちと金がない職を失った人が目立ち始めて、それも多くは無かったんだが、少しづつ増えだしてな。スラム街が出来ちまったのさ」
「…それって賢者様がいなくなったのが原因?」

 思わず聞かずにはいられなかった。

「んにゃ。それは違う。確かに混乱はしたが、それで職を失うなんてない。聞く話によると、保証金が少なくなっていって、ついに最近出なくなったとか言ってたな」

 ほっと安堵すると共に、これは確定だと確信したエレナだった。




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