14 / 18
第2章
2ー3 情報収集その1
しおりを挟む
エレナはヴェレナを送還した後、自分の体に魔法を施した。
「…第6階級光魔法、変幻」
すると、エレナの綺麗な金髪が黒く染る。そして、エレナ自身からは見えないが、瞳の色も鮮やかな赤から黒に変わっていた。
これは光の反射、屈折を利用した魔法だ。
例えば、リンゴが赤く見える理由。それは、赤い光を反射しているから。それを利用し、黒い光だけを反射するようにしたのだ。
……一見簡単そうな魔法ではあるが、かなりの魔力制御が必要とされる魔法だ。それを軽く使えるのは、流石は元賢者と言うべきか。
そしてなぜエレナがこの魔法を施したのか。それは、5年前とはいえ、この国で賢者として名が知られているからである。
姿を知る人は余りいないだろうが、念の為だ。
「よし。髪色は大丈夫」
自分の髪色を確認し、エレナは大通りへと向かっていった。
「まずは…宿かな」
ひとまず泊まるところを探すことにした。
「すいません。いい宿知りませんか?」
5年前では色々と変わってしまっている。なので近くの店の店主に話を聞くことにしたようだ。
「お?キレイな嬢ちゃんだな。宿を探してるのか?」
「はい。久しぶりに王都に来たので…」
「そうか。なら、この通りの先にある黄色い看板の宿がいい」
「そう。ありがとう」
お礼を言って、その宿に向かうことにした。
「黄色い看板……あれね」
遠くからでも分かる黄色い看板が見えた。目の前までいくと、キレイな宿だ。おそらく、最近出来た宿だろう。
ドアを開けて、中に足を踏み入れた。
「あ、いらっしゃいませー。おひとりですか?」
「はい。泊まれます?」
「大丈夫ですよー。食事はどうします?今作れますけど」
「じゃあお願いしようかな。はい、代金」
「はい。じゃあそこで待っててください」
しばらくして、食事がエレナの目の前へと運ばれてくる。
「お姉さんは王都はじめて?」
「いえ、でも、5年くらい前に来たっきりね」
エレナの前に運んできてくれた受付の女の子が座る。エレナより少し身長が低い。
「仕事はいいの?」
「小休止です」
どうやらサボりのようだ。
「ねぇ、この王都の話聞かせてくれない?」
ちょうどいいので、エレナは情報収集することにしたようだ。
「王都の話ですか?そうですね……5年前賢者様がいきなりいなくなって、かなり国は混乱しましたよ」
「……それとは別の話で」
その言葉はエレナの心を抉るに十分なものだった。
「そうですか?賢者様の話は宿泊者に人気なんですよ?国に襲ってきたドラゴンを魔法1発で撃退したり、大規模盗賊団を一夜にして壊滅させたり…」
ゴンッ!
「だ、大丈夫ですか!?」
「大、丈夫…」
自分の行為を人から聞くのがこうも恥ずかしいことだと初めて自覚したエレナであった。
……そう。その話は実は全て本当なのだ。
「…この王都ってスラム街とかあるの?」
これ以上気持ちが抉られる前に会話を変えることにしたようだ。
「スラム街ですか?ありますよ」
「あるの!?」
エレナは自分で聞いておいて驚いた。
「あ、あります」
エレナが驚いた理由。それは、5年前スラム街はなかったからだ。
いや、無くしたと言った方がいい。
エレナが賢者だったとき、最も力を入れていたのは、仕事を失った人達への救援だ。
犯罪によって職を失った人以外には、必要最低限の保証金を払う仕組みを作った。
ちなみに犯罪で職を失った人は大体鉱山奴隷として送られるため、その人に保証金を払わなくても問題はなかった。
なのでこの制度は比較的成功を収め、王都のスラム街は無くなったはずだった。
「…どうして?スラム街は無くなったはず」
「あぁ。お姉さんは5年前に来たんでしたよね。スラム街が出来たのは、つい最近からです」
「最近…原因は分かる?」
「すいません…それは分かりません」
「そう…ありがとうね」
そう言ってエレナは銅貨を1枚渡した。情報料だ。
「ありがとうございます!」
女の子は嬉しそうにお金を自分の服のポケットへと入れた。
「ご馳走さま。美味しかったわ」
「はい。じゃあこれ鍵です」
「あ、今から出かけるんだけど、鍵は預かってもらっていていい?」
「分かりました。お気をつけて」
エレナは宿を後にした。
宿で聞いた話からすると、どうやら保証金が横領されている可能性がある。スラム街が増えたのが1番の証拠だろう。それを知り、依頼をしてきたということか。
「ひとまず情報の裏付けしないと」
人から伝え聞いた話は歪むものだ。情報の裏付けは必要だ。
「すいません。ここで行かない方がいい所ってあります?」
正直にスラム街はどこですか?と聞いても、おそらく教えてはくれないだろう。ならば、行かない方がいい所を聞き、そこにいくのが手っ取り早いのである。
「行かない方がいい所か…西地区は行かない方がいい。スラム街があるからな」
思ったより簡単に情報が手に入った。
「そうなんですね…わたしがここに来た時はスラム街はなかったと思うんですけど」
「嬢ちゃんが来たのはいつだ?」
「5年前です」
「5年前…賢者様がいなくなった時か」
ここでもそれを言われる。エレナは少し心にチクッと痛みを覚える。
「そう、ですね」
「なら知らなくても問題ない。賢者様がいなくなって、ぼちぼちと金がない職を失った人が目立ち始めて、それも多くは無かったんだが、少しづつ増えだしてな。スラム街が出来ちまったのさ」
「…それって賢者様がいなくなったのが原因?」
思わず聞かずにはいられなかった。
「んにゃ。それは違う。確かに混乱はしたが、それで職を失うなんてない。聞く話によると、保証金が少なくなっていって、ついに最近出なくなったとか言ってたな」
ほっと安堵すると共に、これは確定だと確信したエレナだった。
「…第6階級光魔法、変幻」
すると、エレナの綺麗な金髪が黒く染る。そして、エレナ自身からは見えないが、瞳の色も鮮やかな赤から黒に変わっていた。
これは光の反射、屈折を利用した魔法だ。
例えば、リンゴが赤く見える理由。それは、赤い光を反射しているから。それを利用し、黒い光だけを反射するようにしたのだ。
……一見簡単そうな魔法ではあるが、かなりの魔力制御が必要とされる魔法だ。それを軽く使えるのは、流石は元賢者と言うべきか。
そしてなぜエレナがこの魔法を施したのか。それは、5年前とはいえ、この国で賢者として名が知られているからである。
姿を知る人は余りいないだろうが、念の為だ。
「よし。髪色は大丈夫」
自分の髪色を確認し、エレナは大通りへと向かっていった。
「まずは…宿かな」
ひとまず泊まるところを探すことにした。
「すいません。いい宿知りませんか?」
5年前では色々と変わってしまっている。なので近くの店の店主に話を聞くことにしたようだ。
「お?キレイな嬢ちゃんだな。宿を探してるのか?」
「はい。久しぶりに王都に来たので…」
「そうか。なら、この通りの先にある黄色い看板の宿がいい」
「そう。ありがとう」
お礼を言って、その宿に向かうことにした。
「黄色い看板……あれね」
遠くからでも分かる黄色い看板が見えた。目の前までいくと、キレイな宿だ。おそらく、最近出来た宿だろう。
ドアを開けて、中に足を踏み入れた。
「あ、いらっしゃいませー。おひとりですか?」
「はい。泊まれます?」
「大丈夫ですよー。食事はどうします?今作れますけど」
「じゃあお願いしようかな。はい、代金」
「はい。じゃあそこで待っててください」
しばらくして、食事がエレナの目の前へと運ばれてくる。
「お姉さんは王都はじめて?」
「いえ、でも、5年くらい前に来たっきりね」
エレナの前に運んできてくれた受付の女の子が座る。エレナより少し身長が低い。
「仕事はいいの?」
「小休止です」
どうやらサボりのようだ。
「ねぇ、この王都の話聞かせてくれない?」
ちょうどいいので、エレナは情報収集することにしたようだ。
「王都の話ですか?そうですね……5年前賢者様がいきなりいなくなって、かなり国は混乱しましたよ」
「……それとは別の話で」
その言葉はエレナの心を抉るに十分なものだった。
「そうですか?賢者様の話は宿泊者に人気なんですよ?国に襲ってきたドラゴンを魔法1発で撃退したり、大規模盗賊団を一夜にして壊滅させたり…」
ゴンッ!
「だ、大丈夫ですか!?」
「大、丈夫…」
自分の行為を人から聞くのがこうも恥ずかしいことだと初めて自覚したエレナであった。
……そう。その話は実は全て本当なのだ。
「…この王都ってスラム街とかあるの?」
これ以上気持ちが抉られる前に会話を変えることにしたようだ。
「スラム街ですか?ありますよ」
「あるの!?」
エレナは自分で聞いておいて驚いた。
「あ、あります」
エレナが驚いた理由。それは、5年前スラム街はなかったからだ。
いや、無くしたと言った方がいい。
エレナが賢者だったとき、最も力を入れていたのは、仕事を失った人達への救援だ。
犯罪によって職を失った人以外には、必要最低限の保証金を払う仕組みを作った。
ちなみに犯罪で職を失った人は大体鉱山奴隷として送られるため、その人に保証金を払わなくても問題はなかった。
なのでこの制度は比較的成功を収め、王都のスラム街は無くなったはずだった。
「…どうして?スラム街は無くなったはず」
「あぁ。お姉さんは5年前に来たんでしたよね。スラム街が出来たのは、つい最近からです」
「最近…原因は分かる?」
「すいません…それは分かりません」
「そう…ありがとうね」
そう言ってエレナは銅貨を1枚渡した。情報料だ。
「ありがとうございます!」
女の子は嬉しそうにお金を自分の服のポケットへと入れた。
「ご馳走さま。美味しかったわ」
「はい。じゃあこれ鍵です」
「あ、今から出かけるんだけど、鍵は預かってもらっていていい?」
「分かりました。お気をつけて」
エレナは宿を後にした。
宿で聞いた話からすると、どうやら保証金が横領されている可能性がある。スラム街が増えたのが1番の証拠だろう。それを知り、依頼をしてきたということか。
「ひとまず情報の裏付けしないと」
人から伝え聞いた話は歪むものだ。情報の裏付けは必要だ。
「すいません。ここで行かない方がいい所ってあります?」
正直にスラム街はどこですか?と聞いても、おそらく教えてはくれないだろう。ならば、行かない方がいい所を聞き、そこにいくのが手っ取り早いのである。
「行かない方がいい所か…西地区は行かない方がいい。スラム街があるからな」
思ったより簡単に情報が手に入った。
「そうなんですね…わたしがここに来た時はスラム街はなかったと思うんですけど」
「嬢ちゃんが来たのはいつだ?」
「5年前です」
「5年前…賢者様がいなくなった時か」
ここでもそれを言われる。エレナは少し心にチクッと痛みを覚える。
「そう、ですね」
「なら知らなくても問題ない。賢者様がいなくなって、ぼちぼちと金がない職を失った人が目立ち始めて、それも多くは無かったんだが、少しづつ増えだしてな。スラム街が出来ちまったのさ」
「…それって賢者様がいなくなったのが原因?」
思わず聞かずにはいられなかった。
「んにゃ。それは違う。確かに混乱はしたが、それで職を失うなんてない。聞く話によると、保証金が少なくなっていって、ついに最近出なくなったとか言ってたな」
ほっと安堵すると共に、これは確定だと確信したエレナだった。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる