吸血鬼で元賢者ですが今は受付嬢やってます

家具屋ふふみに

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第2章

2ー4 情報収集の合間の出来事

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 情報を教えてくれた男にお礼を言い、エレナはその場をあとにした。

「横領は確実…でも、それにロンベルグ様が気づかないのはおかしい…」

 ロンベルグはたまに王城を抜け出すような人ではあるが、世間的には賢王と呼ばれるほどの人物だ。そんな人が横領を見逃すとはとても思えない。
 さらに言えば、役所の横領くらいならば、王命で徹底的に調べるほうが効率がいい。
 それをしない、もしくはできない状態にあるのか?
 それとも想像もできないようななにかが裏で動いているのか?

 エレナは歩きながら考えを巡らせるが、如何せん情報が少な過ぎる。

 依頼内容は役所の調査。ひとまずはそれを目指し行動する。
 エレナは依頼内容から外れた行為をすることは滅多としてない。だが、今回はそうも言っていられない。
 エレナはロンベルグに拾われた。だからこそ身寄りのない人々を救おうと努力していたのだ。それを踏みにじられ、悲しさとも怒りともとれる感情がエレナの中に渦巻いていた。

 何としても突き止めてみせる。

 ひとまずは男からの情報。西地区に向かうことにした。
 王都は広い。そのため王都の中を走る馬車もある。だが、スラム街があると思われる西地区に向かうならば馬車は使わないほうがいい。御者に変な顔をされるのは目に見えているからだ。

「…でも、明日かな」

 エレナが思考の海から浮上すると、もう既に辺りは薄暗くなっていた。
 スラム街で影から諜報活動をするならば今からでも問題はないのだが、今回はスラム街ののだ。それならば朝、もしく昼がいい。
 そう結論付け、エレナは宿へと戻った。

「あ、おかえりなさい!」

 宿へと戻ると、元気な声が飛んできた。

「ただいま。忙しそうね」
「はい。今の時間は特に」

 この宿は食堂としての一面も持っているため、夕食時の今はとても混むらしい。宿の娘…名前はサラというらしいが、彼女1人で切り盛りしているようだ。

「時間をずらした方がいいかな?」

 時間とは食事をする時間のことだ。
 周りを見れば、座る席はない。なのでエレナは少し時間がたって人が空いてから食べようかと思ったのだ。

「それなら、部屋に運びましょうか?」
「いいの?」
「はい。あ、これ鍵です。どうします?」
「じゃあお願いしようかな」

 サラから鍵を受け取り、エレナは部屋がある2階へと上がる。
 鍵に書かれた番号の部屋へと入る。
 中は極めて質素。あるのは小さいテーブルとベット。ちいさめのチェストくらいだ。宿としては普通。
 だがベットはふかふかで、なかなか高級なものだった。

「食事持ってきました」
「どうぞ」

 サラがお盆を持って部屋へと入ってくる。そして小さなテーブルの上へと置いた。

「お皿は外に出してください」
「分かった、ありがとう」
「いえ。あ、お風呂は使います?」

 一般的な宿にはお風呂がある。それは宿泊者限定で、料金に含まれていることが多い。

「別料金?」
「いえ」

 どうやら含まれているらしい。
 エレナは魔法で体を綺麗にはできるが、精神的な疲労を癒せない。なのでエレナはお風呂を使うと言った。

「時間は決まってませんけど、長湯はしないでください。それと…」
「それと?」
「……襲われないよう気をつけてください」

 エレナは小首を傾げる。襲われるとは比喩だろうか?それとも本当に…だとして、何が襲ってくるのか?
 そんな疑問をあらわしていた。

「えっと…お姉さん綺麗だから、その…」
「…あぁ。そういう」

 つまりは男に、ということらしい。
 今は本来の色ではないが、それでもエレナは思わず見とれる外見をしている。
 ……そこまでエレナの自己評価は高くないが。

「大丈夫よ。こう見えて冒険者だから」
「そうなんですか?」
「今は証明証を見せられないんだけど、正真正銘冒険者よ」

 そもそも証明証はあまり見せびらかすものではない。なのでサラは、証明証を見せられないというエレナの言葉を納得してくれたようだ。

「それより、仕事はいいの?」
「あぁ!?そうでした!」

 バタバタと騒がしくサラは去っていった。
 エレナは扉を閉めて鍵をかけ、さらにそれを魔法で強化した。おそらくこれを破れる人物はそういないだろう。
 そこまで警戒する理由。それはただ単に癖だからとしか言いようがない。
 過度なまでの警戒をしてしまうのだ。やはりエレナも女の子なのだ。
 ……もう女の子という年齢でないが。

 話していたせいで少し冷めたご飯を食べ終え、エレナはそれを持って下へと降りた。
 まだ人はいたが、それでも3分の1ほどに減っていた。

「あ、持ってきれくれたんですか?ありがとうございます」
「気にしないで。それより、お風呂は使える?」

 エレナがそう聞くと、食事をしていた男の一人がエレナのことを軽く見始めた。
 無論それに気づかないエレナではない。が、ただ見られただけでは何も問題はない。なのでなにもできない。

「使えますよ。お姉さんが最後です」
「そう。じゃあ使わせてもらうね」
「どうぞごゆっくり」

 エレナは1階にあるお風呂へと向かう。そして、それの後ろをごく自然についてきた存在が1つ。

 また、面倒な。

「なにか御用ですか?」

 後ろを振り向く。男は気づかれていないとでも思っていたのか、驚いた表情をした。が、直ぐに気持ちの悪い笑みを浮かべた。

「なぁ嬢ちゃん。一人でこの宿にきたのか?」
「そうですが?」
「なら心配だろう?心配ない。お兄さんがついていてあげるよ」

 そんなことを言いながらエレナに少しづつ近づいてくる。
 そんな様子に怖気ずいたようにエレナは後ろへと下がる。
 男はさらに気持ちの悪い笑みを浮かべ、近づいてくる。
 男は上玉だとでも思ったのだろう。確かに上玉かもしれない。
 ………エレナがただの女の子ならば。

「ふふっ」

 いきなり笑い出すエレナに男は怪訝そうな顔になる。

「とりあえず邪魔なので消えてくださいね」
「何を言っ……」

 その瞬間、文字通り、男が消える。
 男の行方。それは……兵の詰所だ。転移魔法により、エレナが昔から信頼している兵の元へと送ったのだ。

「今頃どうしてるでしょうね」

 転移させたのは男だけではない。先程までの会話を録音…いや、録画した魔道具と、エレナの手紙を送ったのだ。
 昔から知る兵は、エレナがよくこういうことに合うことを知っている。エレナの手紙を見ただけで男が何をしようとしたのか理解するだろう。

「さて。じゃあお風呂に入りましょう」

 エレナはもう男のことなど忘れ、お風呂を楽しむのだった。




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