妹が追放してくれました

家具屋ふふみに

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妹視点

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 窓の外を眺めていると、城門から出ていく1台の馬車が見えた。ふぅ…ひとまずは第1段階は終了だ。

「お姉様…」

 突然だが、わたしはお姉様が大好きだ。いつも押し付けられた仕事に追われながらも、他の人には、無論わたしに対しても決して笑顔を絶やすことがない。そんなお姉様が。
 それがお姉様の嘘の表情かと言われれば、違うと断言できる。お姉様は本当に仕事を楽しんでいたからだ。
 けれどやはりお姉様の精神は疲れ切っていた。時折深いため息をついていたし、笑顔もなんだか元気がなかったから。
 
「……大丈夫。きっと」

 今回の事はお姉様が望む事ではなかっただろう。けれどこのまま何もせず、お姉様が壊れていくのを見たくはなかった。
 自己満であることは重々承知している。しかし、お姉様ならばまた笑って許してくださるだろう。

「シャーロット、今いいかい?」

 コンコンコンと扉がノックされ、そのすぐ後にそう声が聞こえた。

「大丈夫です」

 わたしが了承すると、扉が開き1人の若い男性が入ってきた。
 ……非常に不本意だが、わたしの婚約者だ。非常に、不本意だが。本当に。

「あぁシャーロット…目が腫れているではないか」

 確かに先程まで泣いていたが、悲しんでいた訳では無い。お姉様を解放できた嬉し涙というやつだ。

「君の事を殺そうとしたあいつにもそんな情をかけるなんて、君はなんて優しいんだ」
「………」

 あぁぁ……ぶん殴りたい。
 今回の追放に至るまでのあらすじは、お姉様がわたしを殺そうとして罪に問われたが、わたしがお姉様を擁護したことで、本来ならば処刑されるほどの罪を国外追放に……というものだ。
 
 お姉様がわたしを殺そうとした? そんなこと、するはずない。お姉様はどんなに不当な扱いを受けていたとしても、負の感情を他人に見せることも、ぶつける事もしなかったのだから。
 …ちなみにお姉様にとってわたし達人間はひ弱なので、殺そうとすればすぐにできる。それを、この国のやつらは理解していない。 
 
 ……話が逸れた。
 この目の間にいる人物の名はジークムント。この国の第一王子にあたる。無論、人間至上主義者だ。故にお姉様を毛嫌いしていた。

「ジーク様、わたしは少し体調が優れないので、このまま屋敷に帰らせて頂きたく思います」
「あぁ、わかった。馬車を用意しよう」

 そう言って最後にわたしの頬を撫でて部屋を出ていった。
 ……正直反吐が出る。それでも持ちこたえたわたしの表情筋を褒めたい。

 ジークムントが用意させた馬車に乗り込み、わたしは王城を後にした。屋敷まではそう遠くない。
 道中窓の外を眺める。一見すると活気溢れる市場が広がっているが、脇道にはボロボロの布を身につけた…いや、体に巻いた人がチラホラと見受けられる。
 国としては普通の光景ではあるが、それでも数が多い。これは王族が私腹を肥やしているのが、直接的な原因だ。炊き出しなどを週に一回でもすればいいのに、無駄な経費だと言って行わない。
 
「……この国は、もう無理ね」

 巷では反乱軍が組織されているという噂も存在する。近々大きな衝突が起きることは、最早避けられないだろう。

 そう国の行く末へ考えを巡らせていると、屋敷へと到着した。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 メイドの1人がそう声をかけてくる。

「ただいま。お父様は、今会える?」
「はい。お嬢様がお帰りになればすぐに呼ぶよう仰せつかっております。こちらへ」

 お父様が今どの部屋にいるかは分かるが、それでも一人で行くことはなく、メイドの案内について行く。貴族とはまぁ面倒臭いものだ。

 部屋の前まで来たところで、メイドが下がる。これも指示されているのだろう。
 ドアを3回ノックし、声をかける。
 
「お父様、シャーロットです」
「ああ、入っていいぞ」

 失礼します、と言いながら部屋の中へ身を滑り込ませる。

「様子はどうだ?」
「今のところ、順調です」
「そうか、なら次に進もうか」

 関係ない人からすると、この会話は意味不明なものだろう。だが、それでいい。逆に分かってしまっては大惨事だ。

「……フェシリアは、怒るだろうな」
「そうですね」

 今回のお姉様の追放茶番は、無論お父様もご存知だ。というか嬉々として準備していた。お父様はお姉様を実の娘のように可愛がっていたから、わたしと同じく、壊れるところを見たくなかったのだ。

「わたしはこの国の行く末を見守る義務がある。例えそれが滅びであってもだ。だから、わたしは行けない」
「存じております」

 貴族とは、本当に面倒くさい。お姉様はあんなに簡単に国を出れたのに……

「……言うほど簡単ではなかったのだがな」
「戸籍を用意するの、大変でしたから」

 お姉様とわたし。たった2人分の戸籍だけでも、用意するのは結構大変なことだった。

「ではわたしは、反乱軍が決起した時、ここを去ります」

 しかし、そう簡単に出れるかと聞かれれば、普通の貴族なら無理だろう。反乱軍の狙いは王族、つまり貴族だ。逃がす真似はしないだろう。
 ……けれど、この家は違う。反乱軍と内通しているからだ。そのため逃げる手筈も整えてある。
 どうして内通できたのかというと、それはお姉様のお陰である。
 お姉様は街を歩いていた際にある反乱軍の一派に拉致されたことがあるのだが、拉致されたというのに寧ろ手助けを申し出たのだ。
 お姉様は情報収集能力や処理能力が高く、それにより元々バラバラに活動していた反乱軍は統率され、より綿密な計画を練ることができるようになった。無論お姉様の力だけでなく、ミシュリーヌ家の助力もある。その結果、反乱軍とミシュリーヌ家はかなり強く結び付いている。
 だからこそ、今回のお姉様の追放脱出も手助けしてくれ、わたしもその恩恵を受けることができた。

 ……こうして改めてお姉様の凄さがよく分かる。戸籍の用意だって、用意するのがお姉様のものだったからこそ用意出来たようなものだし。

「そうだな。ひとまず今日は休みなさい」
「はい。失礼します」

 部屋を出て、自分の部屋……には向かわず、お姉様の部屋へ向かう。

「はぁ…お姉様…」

 お姉様のベットに倒れ込むと、まるでお姉様に抱きしめられているかのようで、思わず脱力する。

「……会いたい」

 まだ別れてからそう時間も経っていないのに、わたしは猛烈にお姉様に会いたかった。
 お姉様に抱きしめられたい。お姉様に撫でられたい。お姉様の尻尾をブラッシングしたい。お姉様を……

「……やめよ」

 想像しても虚しいだけだ。
 
「すぐ、行くからね…」

 誰に言うわけでもなくそう呟き、わたしは微睡みの中に沈んで行った。





 
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