遊神来夏の怪異録

椒央スミカ

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【怪異15】化け猫 -あなたも見たことがあるかも?-

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 あたし、早良杏璃さわら・あんり、十五歳!
 この春から高校生!
 輝かしいハイスクールライフの始まり、幕開け!
 まあそこに「知らない土地で」っていうのが、つくんだけれど。
 アハハハ……。
 お父さんの転勤についてきて、あたしはいま、新しい街に。
 ここは、坂と緑が多くて……。
 ビルとお店が少なくて、道路の幅も狭くてバスも少なくて……。
 要するに地方、郊外、田舎──。
 けれど目に映る者すべてが新しくて、毎日が驚きの連続!
 それにもう、お友達もできたわ。
 家を出て、最初の角を曲がったところにあるおうちのお庭。
 その端っこに、まるで猫ちゃんのような石があるの。
 手足を曲げて、おなかを地面につけてる、灰色の毛の猫ちゃん!
 種類は、ちょっと色薄めのロシアンブルーかな?
 あたし角を曲がるたびに、その石を猫ちゃんと見間違っちゃうの。
 でも近寄ってよーく見れば、全然猫に見えない。
 これが不思議と、ただのありふれた石なの。
 きっと凹凸おうとつの陰影によって、パッと見のときだけ猫の姿に見えるのね。
 あたしはこれから毎日、投稿のたびにあの猫ちゃんに会うの。
 それも、ほんの一瞬だけ!
 パッと現れてパッと消える猫だなんて……それって「不思議の国のアリス」のチェシャ猫じゃない?
 だからあたし、この新しい街が不思議の国に思えちゃうの!
 胸を高鳴らせる驚きが、たくさんたくさん待ってるんだわ!
 きっと学校にも、あの川岸にも、あそこの神社にもっ!
 だからあの猫ちゃん石が、あたしのお友達第一号!
 あしたの入学式で、お友達たくさん作るつもりだけど……。
 あたしの親愛なる友人、その栄えある第一号はあなたよ!
 動くことも鳴くことも、お気に入りの人間へ匂いをこすりつけることもできない、石のチェシャ猫ちゃん!
 これからよろしくねっ、アハハハハッ!

 ◇ ◇ ◇

「……ところが動くのよねぇ、

 女子高生・杏璃の姿が住宅街の角へと消えたあと、ぶらりと石のそばへ現れる遊神来夏。
 猫の頭部に相当する箇所へ、三本の指をそっと添え、一度撫でる。
 それに反応して、耳に相当する箇所がほんのわずか、前方へと傾斜──。

「パッと見で猫に錯覚しちゃう石や樹……ああいうのね。人間の見間違いを浴び続けていると、あやかし化することがあるの。いわゆる化け猫も、そのプロセスで誕生するケースがあるわ。この石もそれ」

 石は個人宅の柵の外側にあり、ゆきずりにさわれる状態。
 いまの時刻は正午少し前。
 太陽はほぼ真上にあり、石の凹凸おうとつの影は薄く、猫には見えにくい。

「えーっと。日が昇るのは、あっちのほうだから……。あの子が登校する時間帯に、柵の影が石へ落ちるわね」

 金属製の黒塗りの棒を、約十センチ間隔で立てた柵。
 それらの影が、石の背から尾に掛けて落ちる様を来夏は想像。
 横縞模様を帯びた紫色の猫の姿を、脳裏に描く。

「これはまさにチェシャ猫……ディズニー版だけれど。あの妄想たくましそうな子が熱い視線送り続けたら、卒業の頃合いに化け猫へ仕上がりそう」

 そう思案する来夏の顔は、眉をくにゃくにゃに曲げた苦笑。
 頬の弛緩で位置がズレた眼鏡、そのブリッジに指先を添えて正す。

「しかしまあ、天然記念物ものの青春ガールだったわね……くすっ。アリスというより、アン・シャーリーだわ」
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