剣・恋・乙女の番外編 ~持たざる者の成長記録~

千里志朗

文字の大きさ
6 / 25
1部1章 ポーター編

幕間13.5話 有名ごぶすれ的な話

しおりを挟む

 ※


 迷宮の階段を昇りながら、ゼンは、つくづくこの迷宮(ダンジョン)という、不思議空間について考える。

 見え上げる程の大岩だからといって、このように広い迷宮が、内部にあるのはそもそもおかしい。

 広さもそうだが高さも。

 十階という高さは、あの外から見た大岩の大きさを、当たり前に越えている。

 前にアリシアに講義してもらった、中が別空間だというのは、本当に納得の理不尽さだ。

 それに、そもそも広いとはいえ、こんな密閉空間に魔物が常に一定数いるのも、明らかにおかしい。

 彼等は、何を食料として生きているのか。

 仮に、倒した冒険者の肉を食っているとしても、このロックゲート岩の門は稼ぎの少ない、フェルズの冒険者からは、避けられ気味の不人気迷宮だ。

 今現在、ここを攻略しているのは、西風旅団を除くと、わずかに2パーティーしか探索に来ていないと、前に素材や魔石の買い取りをしてくれた、ギルド職員が言っていた。

 実際、その2パーティーと遭遇した事は、一度もないのだが、仮にそのパーティーに数人の被害者がいて、魔物に食料としての肉を提供していたとしても、このそれなりに広大な(他の迷宮はもっと広いらしい)迷宮(ダンジョン)を、まかなえる量の食料とならないのは明白だ。

 それとも、魔物は共食いしたり、あるいは違う種の魔物を捕食している?

 ギルドでは、そんな話聞いた事もない。

 飲み水だって、どうしているというのか。

 スラムで、飲料水の確保に苦労していたゼンとしては、とても気になる話なのだ。

 いつものように、安全地帯で休憩に入った仲間達(この単語が使える様になったのを、ゼンは密かに喜んでいた)に尋ねると、何故か笑われた。

 馬鹿にしている訳ではなく、微笑ましい、といった様子だ。

「ゼンは面白い事、気にするんだな。学者肌というか……」

「まあ、常識とは違う場所だから、常識的な知識を持っている人には、気になってもおかしくないでしょ」

「探求心を持つのはいい事だ。冒険者を目指してるんだから、それはそれでいいのさ」

「うんうん。ゼン君は、今や冒険者見習いだからね。色々講義していかないと」

 と、一通りの感想が出た後で、ゼンの疑問への授業が始まる。

 教師役は、今回、冒険者養成所卒業生のラルクスだ。

「つまり、迷宮内の魔物は、正しい意味では、もう生き物じゃないのさ。

 外にいる魔物とは、見た目同じでも、まったく別物。

 攻撃方法とかは同じだが、形と中身が同じ実体のある影、とでも表現するのが正しいのか、だから食事も排泄もなし。

 それに交尾して、子供を産んで増える訳でもない」

「ふむう……」

 ゼンはその意味を、頭の中でよく考え、理解しようとしている。

「ちょっと、そういう話はまだ早いんじゃない?」

「?オレ、分かるよ。スラムはひどい所だから、女の人は基本、住居している廃屋の外には、なるべく出ない出さない。

 別に詳しく描写しないけど、基本、ひどい目に合うからね」

 聞いたサリサリサや、顔を赤くしてうつむいているアリシアよりも、余程ゼンの方が大人であった。

「そういう話のついでだ。

 女の冒険者は、外での冒険よりも迷宮(ダンジョン)の探索の方を好む。何故か分かるか?」

「……素材の剥ぎ取りとかで血を見ないで済むし、面倒な作業がないからじゃなかった?」

「それは、基本男も女も一緒だ。

 理由は、ゴブリンやオークなんかが代表的な例かな」

「……?」

「ゼンは知らないか。オークやゴブリンには男……オスしか生まれない。

 そういう種族の魔物なんだ。

 それが、自分の一族を増やすのにどうするかと言うと、他種族のメスの腹を借りる……いや、こんな生ぬるい表現じゃダメか。

 つまり、他の人種(ひとしゅ)族のメス……女をさらって、巣に持ち帰り監禁して、……で増やすのさ」

 ラルクスも、女性陣の目が怖い。直接的な描写は避けた。

 ゼンは、普通に感心して頷いている。

「だから、人種(ひとしゅ)族はどこの者でも、このての魔物を見つけたら、絶対殲滅対象だ。

 洞窟に巣を作ったり、集落を作っていたりしたら最悪だ。

 見つけ次第、ギルドに連絡が行って、大規模な討伐隊が組まれる。

 俺達も最初……この話はいいか。

 ともかく、そうして殲滅して、その巣なり村なりを調べると、そこにはほぼ絶対、女が何人か捕まっている、”養殖所”がある。

 当然救助するが、大抵正気じゃなくなっている。

 これは、教会で記憶消去や改変をして、なんとか癒すんだが、それはそれとして」

 余り気分のいい話ではない。早々に切り上げる。

「で、迷宮(ダンジョン)の話に戻ると、ここみたいな『試練』の迷宮(ダンジョン)内にいる、オークやゴブリンは……このロックゲート岩の門に丁度2種族ともいるが……は、女を襲ったりさらったりもしない。

 そういう意味で、女性には安全なのは迷宮(ダンジョン)なのさ。と言っても、攻撃して来ない訳じゃないが」

 ラルクスは、わざとらしく肩をすくめてみせる。

「だがそれは、迷宮(ダンジョン)では、種族的特徴を使っての戦略、作戦は使えない、と言う事にもなる。

 外でなら、女の匂いをオトリにして罠に追い込んだり、とか色々手があるんだが、迷宮(ダンジョン)では、もう正攻法で戦うしかない、と、こっちは余談か」

「そうなんだ。全然知らなかった」

 ゼンは、ただただ感心するばかりだ。

「覚えておいて損はない、どころじゃない……冒険者の必須知識だな。

 外で、こういう特徴の魔物を見つけたら、そいつが子供で可哀想、とかいう、無意味で頭からっぽな感情論で見逃したりしたら駄目だ。

 赤子だろうと卵だろうと全部つぶす。

 これは、冒険者の絶対義務だな……。

 これぐらいでこの話はやめるから、そんなににらむなよ。リーダー何か言ってくれ……」

「ああ、うん。二人とも仕方ないだろう。

 これ本当に必須条件だぞ。

 J級……最下級から始めるなら、筆記の試験で必ず出る問題だ」

「でも、ねぇ……」

 顔を見合わせて、嫌な顔をする二人。

 二人は美人であるだけに、こういう話には過敏なのかもしれない。

「アリシアだっていつか、リュウさんの子供産むんでしょ?

 二人の家族計画に口出す人は、いないんだろうけど……」

 ゼンがポロっと、とんでもない話を口にする。

「な、なななななな何言ってるのかな、ゼン君は!」

 アリシアは、真っ赤な顔をして立ち上がると、普段ほとんど使わない金属製の戦棍(メイス)を取り出し、ゼンに対して、鋭い突きを繰り出し始めた。

 もうどうやら、完全に我を忘れているらしい(笑)。

 ゼンも立ち上がり、素早く避けているが、かなりの速度で身体の近くをかすめていく、魔物を殺傷する為につくられた凶器に、珍しく冷や汗を隠せないでいる。

「…あの……オレ、何か…怒らせ…る事、言った?」

「ももももっもう、この子ってば、オマセさんなんだから!」

 アリシは、基本神術による回復、補助がメインの役をになっているが、それは決して、武器による近接戦闘が出来ないわけではない。

 むしろそちらも成績優秀で、そこら辺をうろつく雑魚モンスター程度なら、軽く撲殺出来る実力の持ち主だった。

「誰か、そろそろ止めないと、あの子に、殺人の前科がつく事になるわよ……」

 サリサリサは、普通に腕力のない魔術師なので、下手に止めに入って、親友に殺されたくはない。

 ゼンだからこそ躱(かわ)せているが、普通なら、よくて重症コースだ。

「あ、ああ……、そうか、ちょっといきなり過ぎて、呆気にとられてしまった……」

 やっとリュウエンとラルクスが、ジリジリと背後から、アリシアを止めようと動き出したが、その二人もかなり冷や汗が止まらない、見事な連続突きだ。

「あの娘(こ)って、恋愛事でからかうの、NGなのよね。

 すぐに頭に血が昇って、とんでもない事やらかすから。

 そういえば、ゼンに話していなかったわね……」

 サリサさん、事前に話してやって下さい。

 主人公最大の危機です……。


 そんなこんなで、西風旅団とゼンの迷宮探索は、楽しく(?)進むのであった。


*******
オマケ
リ「な、なんとか止められた……」
ラ「なんでお前の彼女は、攻撃面まで優秀なんだよ、やめてくれ……」
サ「さ、落ち着いた?水でも飲んで、深呼吸して」
ア「う、うん~。もしかして、なんか変な事した?カアっとすると、記憶飛ぶ時あって、困る~~」

(困るのはアリシア以外の全員だ!と心の中で3人は激しくツッコんだ)

ゼ「……」(黙って、顔にある擦り傷を拭いている)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...