剣・恋・乙女の番外編 ~持たざる者の成長記録~

千里志朗

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1部最終章EX 星の英雄

幕間:155.5話 パロディ

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 ※


 火星の降下軌道に入った。

 ミーミル知恵の神の言った通りに、火星の重力は母星の第3惑星ほどではない。

 と言っても、高高度からの落下なのだ。小まめに減速して、加速を弱めなければ危険だ。

 ……まあ、ジークの張れる耐熱障壁(シールド)なら、別に大した事にはならない。

 前に、ゼンが高所からアルティエールに落とされた時の方が、余程危なかった。

 ……(怒)

 ゼンがその時の事を思い出して、怒りが再燃しそうになっていたので、別の事に頭を切り替えようと、火星の荒地を見渡すと、一つ、ポツンと激しい違和感を放つ物が存在した。

 この地に文明は存在ない筈なのだが、それは人工物としか見えない、黒い長方形の壁のような物が、荒野に唐突な感じで屹立しているのだ。

 まだかなり遠方の景色なのに、やけにハッキリ見えるので、結構巨大な建造物なのかもしれない。

 キッチリ角が見えるし、壁面は滑らかで、加工した物の様にしか思えない。

「……アレは、一体何だろう?」

 ゼンは、ジークの機能で、くだんの黒い壁を、拡大(ズーム)して、アルや神々に意見を求めた。

 ジークと同調(シンクロ)しているアルティエールは勿論、その機体に間借りしている神々にも、ゼンの視界は共有されている筈なのだが、皆、ヴォイドの降下した地点にばかり気を取られていて、ゼンが気にしていた黒い物体には気付いていなかった。

 だからなのか、いきなりアルと神々に、強い驚きと緊張が走った。

「ま、まさか、アレはアレなのかや?」

 アルティエールが、意味不明の単語を疑問形でつぶやく。アレがアレで、何をどう分れと言うのだろうか。

【うむ。アレに相違ないじゃろう】

【まさか、アレがここにある筈が……】

 だが、二柱の神々には通じた様だ。

【目標変更だ。ゼン、アレをどうにかしなければならない】

「?ヴォイド関連の物ですか?」

【違うのじゃ。じゃが、それよりも始末が悪い……。何故、アレがここにあるのかは謎じゃが、至急どうにかしなけれが、この世界の、世界観が危険じゃ】

 世界観?

 ゼンには、何の話だがまるで分からないが、神々が一時的にせよ、ヴォイドよりも重要視している存在だ。仇やおろそかには出来るものではない。

 ゼンは、ジークを滑空させ(シークの背には羽だかエンジンだか分からない物がついている。一応飛行ユニットらしいのだが、飛んでいる感じ、余り関係ない気もする)、その黒い壁のような物を前面らしき場所に、ある程度の距離を置いて着地させた。

 降りてみると、やはり大きな建造物だ。ジークより一回り大きい。

 そして、とんでもない力と存在感を感じる。まるで“神器”と相対しているような強い圧力まで感じる。

 黒い壁の表面には文字らしき物も見えるが、よく見えないし、読める文字ではないのかもしれない。

「ゼン、モノ―――アレを、破壊するのじゃ!」

 アルティエールも、多少の緊張と恐れを見せながらも、決然とした強い意志を示して言った。

「あれ、壊していい物なんですか?なんか、悪い物じゃない感じがするんですけど……」

 ゼンは、神々の方に尋ねる。

【いや、アルティエールの言う通り、アレは破壊して欲しい。ここにあってはならない物なのだ】

【うむ。この作品世界が崩壊しかねない、危険な代物じゃ。悪い物ではないからこそ、始末が悪いのじゃ。ゼン、全開MAXパワーで、アレを粉剤するのじゃ】

 こうまで言われて、やらない訳にはいかない。

 ゼンは、前にヴォイドを撃った重ライフルよりも強い火器を出そうとして、アルティエールに止められた。

「ゼン、アレは重火器では駄目じゃ。大剣の方が良いじゃろう」

 何か対策を知っている風なハイエルフの言葉に合わせ、おなじみ、機動装甲兵装(エインヘリヤル)用の大剣を出し、構える。

 前回、ライフルを駄目にした事から、何故、機神(デウス・マキナ)に専用兵装が造られなかったかは分かった。

 操縦士パイロットが決まらなけれが、機神(デウス・マキナ)はどこまでエネルギーを使えるか分からず、最低でも機動装甲兵装(エインヘリヤル)用の数十倍、上は数百倍の強度を持った武器を造らなければいならない。

 試験的にであろうとも、そんな金のかかる重装備を、適当な予想で造る事が出来なかったのだ。

 実際、武器などなくとも、ジークはそのエネルギーを直に放出するだけで、大抵の敵は殲滅出来てしまう、恐るべき最終兵器だ。

 ヴォイドの特異性から、余りそう言ったいい加減な方法で倒す事はしていないが、ジークは“力”の巨人、とでも呼称すべき存在だ。

 そのジークが、大剣を持つと、どんな物体でも斬れそうな気がするが、果たして、あの黒い物質にも通用するのか、やって見なければ分からないであろう。

「究極無双斬空剣!」

 アルが唐突に叫ぶのは、剣の名前なのか?勿論、そんな大層な名前が付けられた剣ではない。

「ゼン、サン〇イズ立ちじゃ!」

 突如、アルティエールが意味不明な指示を言い出す。

「三雷図断ち?“雷の気”で三連撃をするの?俺、“雷の気”なんて……。ああ、アルの力を借りれば出来るのかな?」

「違う違う、違うのじゃ!剣の構えの事じゃ。身体を斜めに、大剣は中段で、敵に向かって重そうに大剣を構えるのじゃぞ」

「……これ、機動装甲兵装(エインヘリヤル)用の大剣だから、ジークにはそんなに重く、大きくないよ?」

「いいから気分でやるのじゃ!」

 何となく、アルティエールの様子から、例の異世界の趣味絡みと分かって来て、ゼンは段々いい加減な気分になっていた。

「はいはい……」

「そうしたらダッシュで、アレをすれ違いざまに。全力でたたっ斬るのじゃ!」

「へいへい……」

 とにもかくにもゼンは、アルの言う通りに構え、全力ダッシュで一気に間合いを詰め、その黒い板状の物を、袈裟懸けに斬った。

 何か、不思議な感触がしたが、その謎の黒い壁は斜めに断ち斬られた。

「銀河、ぁー、アンドロメダ星雲斬り!」

 また何かアルが適当な事を言っているが、当然無視だ。

 通り過ぎて、確かめようと振り向こうとしたが、アルにまた止められた。

「斬ったポーズのまま、しばし待つのじゃ!」

 まるで、アルの言葉を合図にした様に、黒い板状の物体は、爆発、四散した。

「はぁ?俺、ただ斬っただけで、爆発する“気”なんて込めてないぞ?」

「これぞ『お約束』じゃ!」

【無事に斬れたか。なら大丈夫じゃろう】

【うむうむ。危ないところだったな】

 振り返ってみると、黒い壁は粉々で、風に吹かれて飛散し、もうそこに何があったかすら定かではなくなっていた。

「ゼン、安心するのじゃ!著作〇法は守られた。間一髪かもしれんぞい」

 アルティエールがカンラカンラと豪快に笑う。

 ゼンは何か、取り返しのつかない事をしてしまった様な気がして、仕方がなかった……。












*******
オマケ

ゼ「そもそも、あれは何だったんですか?」
ミ【あれは、別世界の、知恵無き者に知恵を与え、知恵ある者には、次の段階へと誘う物、じゃな】
ゼ「??ダンジョンみたいに、進化の促進とか?」
テ【それに近い】
ゼ「ならいい物じゃないですか!なんで壊したんですか?」
ア「だから、あれはあくまで別世界の物で、この世界で使用されてはいかんのじゃぞ」
ゼ「……そうなの?」
ミ【うむ。詳しくは言えぬが、もしかしたら利権関係も絡むかもしれん】
ゼ「……はぁ?」
ア「そう変な顔をするでない。世の中、そういう事もあるのじゃぞ?」
ゼ「あー、そうですか。俺には関係ないでしょ。もうどうでもいいよ……」
大宇宙の神秘!?
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