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2部?章
番外編:監獄島からの脱出(中編)
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※
所長に、いきなり短鞭で激しく打たれ続けボロボロになった少年を、刑務所の看守をしている職員達が抱えて運び、所定の牢に放り込んだ。
「ったく。あの髭、いきなり立てなくなるほど、ガキを鞭で殴ってどうするんだよ。運ぶこっちの苦労が増えたじゃねーか!」
「まあそう言うな。まだ小さな子供だ。そんなに重くないだろう?」
「いや、それが、やっぱり冒険者だからなのか、筋肉で結構重い。当り前に鍛えてるんだろうぜ」
「ほう。ただ有名なだけじゃないか。だが、そんな英雄様でも間違いを犯すんだからな」
「ここ、監獄島にすぐ放り込まれるとは、何人、冒険者をブッ殺したんだか」
「おっかねぇな。まあ、ここなら、スキルも何も使えない、単なる子供に成り下がる。心配は必要ないが」
ゼンは、息をひそめて看守たちが歩き去るまで、弱った演技を続けた。
完全に気配が去り、感知する限り、近くに人は来ないと確認してから、牢の冷たい床から身体を起こした。
<ふう。派手にやってくれたから、囚人服がボロボロだ>
<主様、お怪我はございませんか?>
<大丈夫。身体強化をした身体に、大した力もない常人が何で殴ろうと、痛くも何ともないよ。むしろ、身体強化に気づかれる危険性があるから、少し弱めて、派手に吹っ飛ぶフリもしたけど、本当に単なるオジサンだったから、鞭で打つ方が疲れたと思うよ>
実際に、所長は自室の救急セットで擦り剥けた手の平の治療をしていた。
<それよりも、現状確認を。セイン>
<は、はひ。あ、えと……この刑務所は、東西南北、四つの区画に分けられ、主様が入れられたここは、北区画3階奥です。同じ任務で潜入した冒険者は、近い時期の潜入……逮捕ですから、同じ区画である可能性が高い、と思われます>
<違う区画、階だと面倒だけど、符丁もあるし、冒険者の気は、強くて特徴的だ。何とか見つけられるだろう。男性の区画は、北と>
<東です。南、西が女性囚人用です。人数は、男性囚人程は多くない筈ですが、なので、王女はそちらかと>
<最重要人物な事から考えても、最上階の一番奥、かな?>
<一応、刑務所、監獄島の入り口は北側なので、南側が奥になりそうです>
<うん。まず、職業を偽って潜入している冒険者の救助から始め、彼等が王女の牢の居場所を突き止めている事を祈ろう>
ゼンは、早速行動を開始する事にした。
本来は、真夜中とか、人目に付かない時間に行動すべきだが、そう出来ない事情もある
それに、こんな不衛生で食事もマズそうな場所に、一日たりと留まりたくないのだ。
ゼンが来たのが、午後の遅い時間だったので、もう夕暮れで日が落ちかけている。
囚人の食事は、朝に適当なパンや干し肉、水等が配られるのみで、それで一日分だそうだ。ゼンの分は、運んで来た看守の一人が、部屋の隅に置いた物があるが、当然そんなのは食べない。
水は他に、決まった時間ではなく、看守の気分次第で配られるんだとか。囚人の扱いは、基本的にかなり悪いようだ。
見張りや見回りなどがあるだろうが、恐らくほとんど真剣にやっている守衛はいないと思われる。それだけ、『スキル封印の腕輪』に頼り切っているのだろう。
ゼンは、指先に気を集中させると、鍵部分のみを切り抜き、音がしないように手で受け止め、床にっそっと置いた。
牢も壁も床も、刑務所全体が、海からの潮風による傷み対策の術をほどこされているぐらいで、大して強化がなされている訳でもない。
ゼンはなんだか、卑怯な手でインチキしているような気分になって来た。
<主様は、日頃鍛えた技術を使われているだけなのですから、罪悪感を覚えるいわれなど、微塵もありませんわ>
言葉にしていないのに、主人の心を敏感に感じ取ったリャンカが先回りして言う。
<ん。そうだね……>
ゼンの使う技術は、純粋に修行の旅で鍛え上げたもので、“スキル”という枠の縛りがないだけだ。彼に『スキル封印の腕輪』の効果がない事に、無駄な引け目など感じても意味などない。
ゼンは、密命を帯びてここに来ている。
余計な事など考えずに、ただ粛々とそれをこなせばいい。
とりあえず牢を後にして、刑務所内の通路で感知の“気”を研ぎ澄ます。
同じ階に二人、それらしき人物がいる。
ゼンは、気配を殺し、存在を気づかれぬように物音一つ立てずに移動する。
冒険者は、偽名で収監されているので、本名の方で確認。念の為、教えられた符丁も使う。
「囚われの王女は?」
「身に覚えなき罪に泣き濡れる……」
本名で呼びかけてからの符丁確認。
相手は、子供なゼンの外見に唖然としていたが、牢獄の鍵を壊し、『スキル封印の腕輪』をゼンが素手で壊すともっと驚愕していた。
途中、勘のいい囚人が、騒いで看守に報せようとしたが、“気”の衝撃波で昏倒させた。
一人、更に動きのいい、盗賊系の男が牢から離れ、奥に移動して攻撃されないようにしたが、それは遠当てで気絶させた。
残り二人も下の階で見つけ、自由にした所で、“気”による秘匿会話で、一応の自己紹介と、これからの逃走経路について説明を始めようとしたが。
<ローゼン王国の、東辺境本部から派遣されて来たゼンです(他国の冒険者が、その国で仕事をする場合、自分の所属するギルドを言うのは最低限の礼儀だ)。>
<ローゼン……子供の冒険者って、まさか『流水の弟子』か!>
<そうか、言われてみれば!>
四人にすぐ素性を気づかれてしまった。だから、この自己紹介は嫌いだ。恐らく、ゼンがそう気づかれなくなるまでには、彼が成人以上の見た目に成長するまでかかるだろう。
気の長い話だ。
<……そう世間では呼ばれてます>
<おぉっ!じゃあ、『スキル封印の腕輪』の腕輪をつけたままでも何か力が使えるようだが、それも『流水』の剣術か?>
<あ、いえ―――>
そう聞かれた時の言い訳は、あらかじめ考えてあった。
<皆さん、従魔術の従魔を保持しておられませんよね?>
<ああ、ギルドから少し前に布告された。どうにも、敵である魔物や魔獣を、魔物使役術士(テイマー)でもないのに味方にするのは、心理的抵抗があってな……>
<俺もだな。魔物に絶対の信頼なんて、おけないだろう>
他の二人も似た様な表情でうなずいている。
こういう見解の冒険者も多い。敵だった魔物に、背中が預けられるか?と思ってしまう様だ。冒険者としての、彼等の考え方は決して間違えた考え方ではない。普通はそうなる。
まだまだ、従魔術における従魔の本質が理解されていないのだ。
だがそれも、従魔持ちの冒険者を見れば、徐々に変わっていくだろう、とギルドでは見ている。なので、無理に押し付けたりせずに、従魔への冒険者の理解、社会の理解が浸透していくのを待つのが現状の方針だ。
なんにでも、急激な変化は反発を生みかねないものだから。
<俺は、複数の従魔持ちで、この『腕輪』をしていても、中の従魔のスキルには影響がない事が分かっていたんです>
部分的な嘘だ。それが確かめられたのは、この腕輪をつけられ、刑務所内の敷地に入ってからだからだ。
それでも、自分のスキルなしを明かすよりも、余程説明が早く、納得がいく話だ。
<ほう。従魔術の従魔が、収納みたいに主人の中に入れられるとは聞いていたが、そこからでもスキルが使えるのか?>
<ええ、そうなんです>
<それは、刑務所側からしたら、完全に盲点をつかれた話だな。……俺も、従魔が欲しくなったな>
<例えば、ですね。皆さん、大小、怪我をされてますね>
<あ、ああ。脱獄騒ぎを何度かしてせいで、罰を受けたんだ>
ゼンは、大なり小なり、裂傷のある冒険者に、分かりやすく手を向ける。
(リャンカ、頼む)
(はーい!)
ゼンの手から放たれる、暖かな光で、冒険者達の傷は全て、綺麗サッパリ治療がなされた。
(スキル使うまでもなく、普通の治癒術で済みました)
冒険者達は、明らかに治癒術士でないゼンが、それをしたのに驚愕した。
<それと……>
ゼンは今そこにある壁が、刑務所の外壁である事を、脳裏の刑務所建築図面で確かめ、
<俺の従魔、岩熊(ロック・ベア)のスキルに、鉱物を精製、分解出来るスキルがあります>
ゼンが、その壁に手を向けると、壁は砂となって崩れ、ほとんど日が落ちた外の風景が覗き、潮風や波の音が聞こえる、大人が余裕で通れる穴となった。
<こういう事も出来るんです>
『スキル封印の腕輪』のない冒険者なら、力づくで壊せもするが、壁を砂の様にする事は流石に出来ない。壊す音もたてず、看守に気づかれる事もないだろう。
<へー、本当に、従魔を外に出してなくても、そのスキルが使えるのか。便利だな>
<ええ。だから、従魔をスキルで選ぶ人もいるみたいです>
<しかし、その……逆らったり、反抗的になったりしないのか?>
<なりません。従魔は、主人の役に立つのが生き甲斐で、奴隷術みたいに、強制的に言うことを聞かせる訳じゃありませんから。それに、話せば意思疎通出来ますし>
<へ?従魔と話し、出来るのか?>
<はい。従魔になると、人との“絆”が結ばれる事によって、ある程度以上の知性が、従魔には芽生えるらしいんです。念話で、主人としか話せませんが、今ギルドで、その念話を音声に変えて、他の人とも話せる魔具を研究中です>
<<<<へー!>>>>
ゼンの説明で、彼等の中での従魔の認識が大いに見直されたようであった。
<それはともかく、ここは北区画の端、西側に穴を開けたので、ここから降りて、左側に進んで下さい。右側だと、刑務所の入り口に向かってしまいますから>
2階なら、身体強化がなくても降りられるだろうが、あれば万全だ。
<島の裏手に行け、と。そちらに脱出の手段が?>
<はい。上位の魔術師が、この島の封絶結界を中和して穴を開け、小舟で皆さんを待つ手筈になっています。迷彩と隠蔽の術で見えなくしてますが、気配は消してないので、皆さんならすぐに見つけられるでしょう>
封絶結界とは、これもこの島の力を利用して造られた、島の周囲を覆う、物理障壁で、監獄島の第二の特徴だ。
外側からの侵入に限り、作用する。内側からは意味をなさないが、スキルを封じられた囚人が刑務所外に出られた例は、過去に一人も存在しない。
これがある限り、野盗の親玉が捕まり、集団で外から手下達が脱獄を手引きしようと、大勢で襲って来たとしても、島の周囲で立ち往生になる訳だ。
<至れり尽くせりで悪いな。俺達はそこで、君と王女を待てばいいのか?>
<いえ。乗り込んだらすぐに出発して下さい。俺は、ギルマス命令で、王女の無実を宣伝する、パフォーマンスをしなきゃいけないので……>
ゼンは乾いた笑みを浮かべる。
<そ、そうなのか。大変だな……>
フェルズのギルマスで、名誉領主なレフライアも、冒険者には有名な英雄だ。
<とにかく、王女は南区画の最上階、五階の特別牢に入れられているらしい。その階は、王女以外は無人で、それ以外、見張りの兵士が二人、いるのみ、だそうだ>
<女性だが、腕の立つ猛者らしい。気を付けて。武運を祈る>
<外で会えたら礼をさせてくれ>
<またな、『流水の弟子』>
それぞれが情報提供してくれた後、ボンガの開けた穴から身軽に飛び降りて行った。
ゼンは、ボンガに穴の修復を頼む。
瞬く間に壁に開いた大穴はなくなり、他との違和感もない、ただの壁に修復された。
<後は、王女を救出するのと、外に目が行かない様に、中で騒ぎを起こすかな。
リャンカ、所長の所に、予告状を出してくれ>
<了解しました、主様!>
その時、空中にあらかじめ浮かばせたカードがあった。所長の部屋は、所長自身にマーキング(魔術的印)がなされていたので、分かっている。
その部屋のガラス窓を破り、頑丈そうな金属製のカードが、所長室のデスクに突き刺さった。
「な、なんだ、なんだ?!」
弓か魔術で狙撃でもされたのかと、所長は一旦伏せて様子見していたが、何もないと分かり、恐る恐る立ち上がり、デスクに刺さったカードに気が付く。
「なんじゃ、これは?……予告状。今宵、無実の王女を頂きに、参上いたします。『夜の黒薔薇』、だと!」
ガブラフ所長は、その大胆不敵な犯行予告に、顔を真っ赤にして怒声を上げた。
*******
オマケ
レ「ゼン君、頑張ってるかしら。私の台本通りに」
ゴ「……ちょっとこれは、少女趣味と言うか……」
レ「少女な王女様にはピッタリの演出でしょ?」
ゴ「王女様的にはいいのかもだが、やるゼンの方が苦痛だろう?」
レ「それくらい。無実の罪で投獄された、可哀想な少女なのよ。多少のサービスはしてあげなきゃ」
ゴ「演出過剰な気もするんだが……」
レ「大丈夫大丈夫。義賊『夜の黒薔薇』の名声は、あちらのギルドででっち上げてあるから。それに説得力を持たせて、『夜の黒薔薇』は王女の無実を喧伝するのよ」
ゴ「実際、無実な訳だから、悪くないとは思うが……」
(ゴウセルは、心の中でひっそりと、義息子の応援をするのであった……)
所長に、いきなり短鞭で激しく打たれ続けボロボロになった少年を、刑務所の看守をしている職員達が抱えて運び、所定の牢に放り込んだ。
「ったく。あの髭、いきなり立てなくなるほど、ガキを鞭で殴ってどうするんだよ。運ぶこっちの苦労が増えたじゃねーか!」
「まあそう言うな。まだ小さな子供だ。そんなに重くないだろう?」
「いや、それが、やっぱり冒険者だからなのか、筋肉で結構重い。当り前に鍛えてるんだろうぜ」
「ほう。ただ有名なだけじゃないか。だが、そんな英雄様でも間違いを犯すんだからな」
「ここ、監獄島にすぐ放り込まれるとは、何人、冒険者をブッ殺したんだか」
「おっかねぇな。まあ、ここなら、スキルも何も使えない、単なる子供に成り下がる。心配は必要ないが」
ゼンは、息をひそめて看守たちが歩き去るまで、弱った演技を続けた。
完全に気配が去り、感知する限り、近くに人は来ないと確認してから、牢の冷たい床から身体を起こした。
<ふう。派手にやってくれたから、囚人服がボロボロだ>
<主様、お怪我はございませんか?>
<大丈夫。身体強化をした身体に、大した力もない常人が何で殴ろうと、痛くも何ともないよ。むしろ、身体強化に気づかれる危険性があるから、少し弱めて、派手に吹っ飛ぶフリもしたけど、本当に単なるオジサンだったから、鞭で打つ方が疲れたと思うよ>
実際に、所長は自室の救急セットで擦り剥けた手の平の治療をしていた。
<それよりも、現状確認を。セイン>
<は、はひ。あ、えと……この刑務所は、東西南北、四つの区画に分けられ、主様が入れられたここは、北区画3階奥です。同じ任務で潜入した冒険者は、近い時期の潜入……逮捕ですから、同じ区画である可能性が高い、と思われます>
<違う区画、階だと面倒だけど、符丁もあるし、冒険者の気は、強くて特徴的だ。何とか見つけられるだろう。男性の区画は、北と>
<東です。南、西が女性囚人用です。人数は、男性囚人程は多くない筈ですが、なので、王女はそちらかと>
<最重要人物な事から考えても、最上階の一番奥、かな?>
<一応、刑務所、監獄島の入り口は北側なので、南側が奥になりそうです>
<うん。まず、職業を偽って潜入している冒険者の救助から始め、彼等が王女の牢の居場所を突き止めている事を祈ろう>
ゼンは、早速行動を開始する事にした。
本来は、真夜中とか、人目に付かない時間に行動すべきだが、そう出来ない事情もある
それに、こんな不衛生で食事もマズそうな場所に、一日たりと留まりたくないのだ。
ゼンが来たのが、午後の遅い時間だったので、もう夕暮れで日が落ちかけている。
囚人の食事は、朝に適当なパンや干し肉、水等が配られるのみで、それで一日分だそうだ。ゼンの分は、運んで来た看守の一人が、部屋の隅に置いた物があるが、当然そんなのは食べない。
水は他に、決まった時間ではなく、看守の気分次第で配られるんだとか。囚人の扱いは、基本的にかなり悪いようだ。
見張りや見回りなどがあるだろうが、恐らくほとんど真剣にやっている守衛はいないと思われる。それだけ、『スキル封印の腕輪』に頼り切っているのだろう。
ゼンは、指先に気を集中させると、鍵部分のみを切り抜き、音がしないように手で受け止め、床にっそっと置いた。
牢も壁も床も、刑務所全体が、海からの潮風による傷み対策の術をほどこされているぐらいで、大して強化がなされている訳でもない。
ゼンはなんだか、卑怯な手でインチキしているような気分になって来た。
<主様は、日頃鍛えた技術を使われているだけなのですから、罪悪感を覚えるいわれなど、微塵もありませんわ>
言葉にしていないのに、主人の心を敏感に感じ取ったリャンカが先回りして言う。
<ん。そうだね……>
ゼンの使う技術は、純粋に修行の旅で鍛え上げたもので、“スキル”という枠の縛りがないだけだ。彼に『スキル封印の腕輪』の効果がない事に、無駄な引け目など感じても意味などない。
ゼンは、密命を帯びてここに来ている。
余計な事など考えずに、ただ粛々とそれをこなせばいい。
とりあえず牢を後にして、刑務所内の通路で感知の“気”を研ぎ澄ます。
同じ階に二人、それらしき人物がいる。
ゼンは、気配を殺し、存在を気づかれぬように物音一つ立てずに移動する。
冒険者は、偽名で収監されているので、本名の方で確認。念の為、教えられた符丁も使う。
「囚われの王女は?」
「身に覚えなき罪に泣き濡れる……」
本名で呼びかけてからの符丁確認。
相手は、子供なゼンの外見に唖然としていたが、牢獄の鍵を壊し、『スキル封印の腕輪』をゼンが素手で壊すともっと驚愕していた。
途中、勘のいい囚人が、騒いで看守に報せようとしたが、“気”の衝撃波で昏倒させた。
一人、更に動きのいい、盗賊系の男が牢から離れ、奥に移動して攻撃されないようにしたが、それは遠当てで気絶させた。
残り二人も下の階で見つけ、自由にした所で、“気”による秘匿会話で、一応の自己紹介と、これからの逃走経路について説明を始めようとしたが。
<ローゼン王国の、東辺境本部から派遣されて来たゼンです(他国の冒険者が、その国で仕事をする場合、自分の所属するギルドを言うのは最低限の礼儀だ)。>
<ローゼン……子供の冒険者って、まさか『流水の弟子』か!>
<そうか、言われてみれば!>
四人にすぐ素性を気づかれてしまった。だから、この自己紹介は嫌いだ。恐らく、ゼンがそう気づかれなくなるまでには、彼が成人以上の見た目に成長するまでかかるだろう。
気の長い話だ。
<……そう世間では呼ばれてます>
<おぉっ!じゃあ、『スキル封印の腕輪』の腕輪をつけたままでも何か力が使えるようだが、それも『流水』の剣術か?>
<あ、いえ―――>
そう聞かれた時の言い訳は、あらかじめ考えてあった。
<皆さん、従魔術の従魔を保持しておられませんよね?>
<ああ、ギルドから少し前に布告された。どうにも、敵である魔物や魔獣を、魔物使役術士(テイマー)でもないのに味方にするのは、心理的抵抗があってな……>
<俺もだな。魔物に絶対の信頼なんて、おけないだろう>
他の二人も似た様な表情でうなずいている。
こういう見解の冒険者も多い。敵だった魔物に、背中が預けられるか?と思ってしまう様だ。冒険者としての、彼等の考え方は決して間違えた考え方ではない。普通はそうなる。
まだまだ、従魔術における従魔の本質が理解されていないのだ。
だがそれも、従魔持ちの冒険者を見れば、徐々に変わっていくだろう、とギルドでは見ている。なので、無理に押し付けたりせずに、従魔への冒険者の理解、社会の理解が浸透していくのを待つのが現状の方針だ。
なんにでも、急激な変化は反発を生みかねないものだから。
<俺は、複数の従魔持ちで、この『腕輪』をしていても、中の従魔のスキルには影響がない事が分かっていたんです>
部分的な嘘だ。それが確かめられたのは、この腕輪をつけられ、刑務所内の敷地に入ってからだからだ。
それでも、自分のスキルなしを明かすよりも、余程説明が早く、納得がいく話だ。
<ほう。従魔術の従魔が、収納みたいに主人の中に入れられるとは聞いていたが、そこからでもスキルが使えるのか?>
<ええ、そうなんです>
<それは、刑務所側からしたら、完全に盲点をつかれた話だな。……俺も、従魔が欲しくなったな>
<例えば、ですね。皆さん、大小、怪我をされてますね>
<あ、ああ。脱獄騒ぎを何度かしてせいで、罰を受けたんだ>
ゼンは、大なり小なり、裂傷のある冒険者に、分かりやすく手を向ける。
(リャンカ、頼む)
(はーい!)
ゼンの手から放たれる、暖かな光で、冒険者達の傷は全て、綺麗サッパリ治療がなされた。
(スキル使うまでもなく、普通の治癒術で済みました)
冒険者達は、明らかに治癒術士でないゼンが、それをしたのに驚愕した。
<それと……>
ゼンは今そこにある壁が、刑務所の外壁である事を、脳裏の刑務所建築図面で確かめ、
<俺の従魔、岩熊(ロック・ベア)のスキルに、鉱物を精製、分解出来るスキルがあります>
ゼンが、その壁に手を向けると、壁は砂となって崩れ、ほとんど日が落ちた外の風景が覗き、潮風や波の音が聞こえる、大人が余裕で通れる穴となった。
<こういう事も出来るんです>
『スキル封印の腕輪』のない冒険者なら、力づくで壊せもするが、壁を砂の様にする事は流石に出来ない。壊す音もたてず、看守に気づかれる事もないだろう。
<へー、本当に、従魔を外に出してなくても、そのスキルが使えるのか。便利だな>
<ええ。だから、従魔をスキルで選ぶ人もいるみたいです>
<しかし、その……逆らったり、反抗的になったりしないのか?>
<なりません。従魔は、主人の役に立つのが生き甲斐で、奴隷術みたいに、強制的に言うことを聞かせる訳じゃありませんから。それに、話せば意思疎通出来ますし>
<へ?従魔と話し、出来るのか?>
<はい。従魔になると、人との“絆”が結ばれる事によって、ある程度以上の知性が、従魔には芽生えるらしいんです。念話で、主人としか話せませんが、今ギルドで、その念話を音声に変えて、他の人とも話せる魔具を研究中です>
<<<<へー!>>>>
ゼンの説明で、彼等の中での従魔の認識が大いに見直されたようであった。
<それはともかく、ここは北区画の端、西側に穴を開けたので、ここから降りて、左側に進んで下さい。右側だと、刑務所の入り口に向かってしまいますから>
2階なら、身体強化がなくても降りられるだろうが、あれば万全だ。
<島の裏手に行け、と。そちらに脱出の手段が?>
<はい。上位の魔術師が、この島の封絶結界を中和して穴を開け、小舟で皆さんを待つ手筈になっています。迷彩と隠蔽の術で見えなくしてますが、気配は消してないので、皆さんならすぐに見つけられるでしょう>
封絶結界とは、これもこの島の力を利用して造られた、島の周囲を覆う、物理障壁で、監獄島の第二の特徴だ。
外側からの侵入に限り、作用する。内側からは意味をなさないが、スキルを封じられた囚人が刑務所外に出られた例は、過去に一人も存在しない。
これがある限り、野盗の親玉が捕まり、集団で外から手下達が脱獄を手引きしようと、大勢で襲って来たとしても、島の周囲で立ち往生になる訳だ。
<至れり尽くせりで悪いな。俺達はそこで、君と王女を待てばいいのか?>
<いえ。乗り込んだらすぐに出発して下さい。俺は、ギルマス命令で、王女の無実を宣伝する、パフォーマンスをしなきゃいけないので……>
ゼンは乾いた笑みを浮かべる。
<そ、そうなのか。大変だな……>
フェルズのギルマスで、名誉領主なレフライアも、冒険者には有名な英雄だ。
<とにかく、王女は南区画の最上階、五階の特別牢に入れられているらしい。その階は、王女以外は無人で、それ以外、見張りの兵士が二人、いるのみ、だそうだ>
<女性だが、腕の立つ猛者らしい。気を付けて。武運を祈る>
<外で会えたら礼をさせてくれ>
<またな、『流水の弟子』>
それぞれが情報提供してくれた後、ボンガの開けた穴から身軽に飛び降りて行った。
ゼンは、ボンガに穴の修復を頼む。
瞬く間に壁に開いた大穴はなくなり、他との違和感もない、ただの壁に修復された。
<後は、王女を救出するのと、外に目が行かない様に、中で騒ぎを起こすかな。
リャンカ、所長の所に、予告状を出してくれ>
<了解しました、主様!>
その時、空中にあらかじめ浮かばせたカードがあった。所長の部屋は、所長自身にマーキング(魔術的印)がなされていたので、分かっている。
その部屋のガラス窓を破り、頑丈そうな金属製のカードが、所長室のデスクに突き刺さった。
「な、なんだ、なんだ?!」
弓か魔術で狙撃でもされたのかと、所長は一旦伏せて様子見していたが、何もないと分かり、恐る恐る立ち上がり、デスクに刺さったカードに気が付く。
「なんじゃ、これは?……予告状。今宵、無実の王女を頂きに、参上いたします。『夜の黒薔薇』、だと!」
ガブラフ所長は、その大胆不敵な犯行予告に、顔を真っ赤にして怒声を上げた。
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オマケ
レ「ゼン君、頑張ってるかしら。私の台本通りに」
ゴ「……ちょっとこれは、少女趣味と言うか……」
レ「少女な王女様にはピッタリの演出でしょ?」
ゴ「王女様的にはいいのかもだが、やるゼンの方が苦痛だろう?」
レ「それくらい。無実の罪で投獄された、可哀想な少女なのよ。多少のサービスはしてあげなきゃ」
ゴ「演出過剰な気もするんだが……」
レ「大丈夫大丈夫。義賊『夜の黒薔薇』の名声は、あちらのギルドででっち上げてあるから。それに説得力を持たせて、『夜の黒薔薇』は王女の無実を喧伝するのよ」
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辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
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最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
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「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
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