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第1章 ポーター編
009.ダンジョン探索の進捗具合
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「え~と。それは悩みに入るのかしら?
それとも、嬉しい悩み、として自慢されてるのなら、私、正直余りそういう遠回しな、嫌味か皮肉のような表現、好きではないのだけれど……」
某所の高級レストラン内、個室で分かれた室内は、品のいい調度品で趣味よく飾られており、余りこういった金持ち向けの高級志向な店には寄り付かない、レフライアやゴウセルなのだが、今夜は大事な……そう極めて大事な話が、かわされる日であった。
それだけに、余り安っぽい店に行く訳には行かなかったので、会長補佐のライナーが勧めてくれた店に、予約を入れておいたのだが、正解だったようだ。
(人気の店なのに急な予約が取れたのは、有能な会長補佐が手をまわしたお陰だった)
派手さのない、落ち着いた雰囲気の店内を気に入った二人は、その上出された料理の、特上、と言っていい味にも満足して、終始なごやかなムードで食事は進み、肝心の恋愛系な嬉し恥ずかしな話も、基本、問題なく終わった。
しばらく、デザートに出されたケーキよりも、甘々な世界が構築されていたが、そうして食後の雑談、となった所で、ついゴウセルは、昨日の西風旅団と、そのオマケとなるゼンについての話を出してしまっていた。
「いや、別に自慢がしたかった訳じゃない。
確かに、連中の探索が上手くいってくれたのはいい事だし、ゼンがそこで思いもしなかった方法でパーティーを補助(サポート)して貢献して、それが成功に繋がった、というのも、普通なら喜んでいい話でしかない……」
「普通なら、ね。
つまり普通じゃない事で悩んでいるのね。それって、やっぱりゼンという少年の、スキル関連の話ね」
ゼンが西風旅団のポーターに決まった日、ギルドの、冒険者の能力などを見る鑑定具にかけてもらった。
ゼンの年齢の証明と、他になにかめぼしいスキルがあれば、ゼンの有用性の証明にもなると、思ったからだったのだが……。
「……そうだ。あの日は余り詳しく話さなかったんだが、俺はやっぱり気になるんだ。
迷宮(ダンジョン)探索が上手くいく程、ゼンの能力値は高い、という事になる。なのに……」
「彼がギルドで鑑定した結果には、スキルは何もなかった。
ええ、それは理解したけれど、その……。そんなに悩む様な事かしら。
スキルが何もなく産まれてくる子は、一定確率で必ずいるわ。
多い訳ではないけれど、さりとて少なくもない。彼が運悪くそういった子供達の一人だったに過ぎない、という事ではないの?」
ゴウセルとレフライアの話は、昔は仲間で今は恋人同士、婚約までした間柄のせいか、話はポンポンとテンポ良く進んだ。
「それは、分かってる。でも、そうじゃないんだ。
俺は、ゼンからスラムでのあらかたの事は聞いている。
あいつは、当たり前の話だが、自分に力がない事を自覚していて、なんでもかんでも、走って逃げて切り抜けてきた、らしい。
スラムに来る、奴隷商の商品確保に来る手下や、食料の争奪で襲ってくる、スラムの大人子供、並べたてるとキリがないくらい、あいつにとっての世界は敵で満ちている。
恐らく、敵味方関係なく逃げる事だけが、自分を守る唯一の方法だったんだろうさ。
俺が、その足に目をつけて雇おうと思った時も、話す暇すら与えてくれずに、すぐに逃走した。
結局、商会の従業員二十人ぐらいに協力してもらって、スラムだと子供のみが通れるスキマとか多いから、市民街の方に追い込んだ。
包囲網をしいて、それなのにあいつは、逃げて逃げて逃げまくって、どうにか捕まえるのに、三時間ぐらいかかった……」
その時の事を思い出したのか、ゴウセルはグッタリと、疲れた顔を見せた。
「あ~、その捕り物騒動の話は聞いたわよ。市民や冒険者からの苦情も、何件か上がってたし」
レフライアは、クスクスと上品に笑う。
「笑い事じゃないんだが……。それだけあいつの逃走は凄かったって事だ。
気配を消すのも上手くて、それこそ、そういうスキルを持ってるんじゃないか、と思ったぐらいだ」
「うん、それで?」
「分からないのか?つまり、あいつがスラム来てからの、恐らく四年ぐらいの月日、あいつはそういう風に、自分を逃走特化に鍛えていた、という風にみる事が出来る」
「そうかもね。子供が出来る事なんて、そんなものでしょ?」
「じゃあなんで、そういう『スキル』の一つも習得出来ていないんだ?」
ゴウセルの指摘に、レフライアの表情に、それまでなかった真剣さが加わった。
「俺達は、人間、獣人、エルフ、ドワーフ等の亜人、魔族の区別なく、何かを集中して鍛えていけば、それは必ずスキルへと昇華される。
剣を鍛えれば剣術が、舞を鍛えたら舞踏、とか。
だからあいつは、『俊足』だの、『気配遮断』とか『気配隠蔽』とか、そういうスキルを、持っていなければおかしいんだ!」
思わず、ゴウセルの声が大きくなる。
レフライアも真剣に考察する。
「確かに。零歳の赤子にスキル無しはいるわ。
でも、十歳まで育った子供には何かしらスキルを覚えていて、それを参考に将来を決めたりするのよね。
持っていない、としたらそれは、病弱で、生まれてからずっとベッドに縛られた子供とか…いえ、その場合でも『忍耐』、とか、あるいは本を読んだりして、学習系のスキルを覚えたりしていると聞くわね」
ゴウセルが、重々しく頷く。
「じゃあこの子の、スキル無し、というのは、いったいなんなの?」
「それが分からないから、困っている訳なんだが」
ゴウセルとしても、答えようがない。
「まさか、人間じゃなくて、魔族か魔獣が人間に擬態して……」
「いやいや。鑑定結果に種族『人間』て出てただろ。
もしギルドの鑑定具を誤魔化せるよう存在だとしたら、それはかなり高位の魔族、魔獣、幻獣って事になる。
それこそ、暴れて一つの街が壊滅するような……」
「……そんな感じでは、ないのね?」
「ん。ゼンからはそういう、力ある者が持つ、隠し様のない圧迫感(オーラ)、というのは感じられない。
そもそも、そんな高位の存在が、ゼンというスラムの弱者に化けて、この『迷宮都市フェルズ』に潜入するような意味が、見いだせない。
ここは確かに力ある強者と呼べる冒険者の多い場所だが、別に首都でもなんでもない、戦略的に重要な位置にも存在しない場所だ。東への街道からも外れているし、な」
「じゃあ現状だと、謎で正体不明、意味不明な、有能天才少年って事になるのかしら」
レフライアは諦めた様に、ホウと吐息をついて結論らしき事を口にする。
「ゼンは天才って感じはしないが、おおむねそんな所かな」
ゴウセルも困惑の為に、微妙な笑みを浮かべた。
もしかして自分は、とてつもなく面倒な事に手を出してしまったのではないか、という嫌な?予感が胸の内に湧き出してくるのを止められなかった……。
※
あれから1週間ほどが過ぎ、『西風旅団』のロックゲート攻略は、余りにも順調過ぎる程順調に進んでいた。
すでに8、9階へと到達しており、初級の迷宮(ダンジョン)の中でも1番階層の少ない、ロックゲートの最上階は10階だ。
最上階にボスがいるので、ボス戦を挑むかどうか、というのを悩みつつ、多少は下層よりも戦利(ドロップ)品のいい、8、9階の魔物を倒してまわるのが、現状の日課となりつつあった。
実入りの少ない、下層中層は敵を避け、なるべく戦闘を回避しつつ、最短距離で移動して、次の階の階段を目指す。
そのルート選択でも、ゼンが意外な力を発揮して、スムーズに移動出来るようになってしまった。
つまりは『勘』だ。
「なんかこの先、嫌な感じがする……」
ゼンがそう言った時は必ず、そのしばらく先に、敵の魔物がいるのだ。
「便利過ぎて怖いな……」
「スラムでも色々な厄介ごとを、こんな感じに避けてた、と言っていたが、日常で、必要性に迫られて育った感覚、って事なのか」
「冒険者のスキルに危機感知、危険予知とかあるけれど、それに近い、のかしら」
「急がば回れ、だよね。ゼン君偉い!」(それはちょっと違う)
と、本当に、必要最小限度の戦いで上に進み、上層での戦利(ドロップ)品狙いでの戦闘が、思う存分出来るのだから、いい事ずくめだ。
8、9階で出る敵は、Dオークに、おなじみ大蝙蝠(ジャイアントバット)、それとDグレイウルフ(普通の灰色狼とは別物)だ。
Dオークの戦利(ドロップ)品は、こん棒や状態の良くない槍、大銅貨1枚、そして上質豚肉の塊(ブロック)。
それらがランダムに出る。
Dグレイウルフは、毛皮、牙、大銅貨1枚、そして何故か首輪がレアで出る。
これには、念話系の魔術が込められている魔具で、テイマーの素質がある者が使うと、犬系の魔物との意思疎通がしやすくなる効果がある。
大蝙蝠(ジャイアントバット)は、魔石のみ出(ドロップ)る魔物なのだが、大蝙蝠(ジャイアントバット)には、戦闘中の特殊行動として、味方が減ると『仲間を呼ぶ』事がある。
それに気づいたゼンは、パーティーが敵を殲滅するまでの間に、大蝙蝠(ジャイアントバット)を1匹だけ見逃して放置し、増えたら倒す。
また1匹放置増えたら倒す、の無限連鎖の型(パターン)を覚えてしまい、毎日哀れな大蝙蝠(ジャイアントバット)の魔石が、大量生産される事になってしまった……。
魔石は、全ての魔物に共通で1つ出(ドロップ)るが、それに籠められた魔力はその魔物の強さによって違い、強い魔物程上質の魔力が籠められた石となる。
また、その魔力の波動は魔物毎に違い、それを測定する事で倒した魔物が何か、ギルドで判定具にかけて特定出来る。
特にダンジョンでは、魔石、という魔物の弱点を破壊しても、倒した後に傷一つない魔石が必ず落ちる。
なので、魔物の討伐任務の納入品に指定されており、その場合の報酬は、魔石の価値分を、討伐報酬に上乗せした、合計金額がギルドから支払われる。
迷宮(ダンジョン)外の場合、魔石を壊すと籠められた魔力はほとんど霧散して無価値になってしまうので、代わりとなる魔物の指定部位があるが、それには価値がない物がほとんどで、その場合は魔石分、冒険者は利益を得られない事になる。
だから、魔物を倒すのが上手い上級冒険者は、魔石以外の弱点(心臓なり脳なり)を狙って倒している。
※
ロックゲートの8、9階の魔物達は、大体2種が同時に出る場合が多い。
ただ、どう多くても、同時に出る数は、この初級の迷宮(ダンジョン)では8頭までと決まっているらしく、それ以上を考える必要はない。
そうした経験を踏まえた上で、西風旅団は敵の構成に応じて色々な攻撃型から最良なものを選択し、効率のいい戦闘で魔物を殲滅していく。
その姿には、ゼンと最初に出会った頃の、多少不慣れな、まさしく新人冒険者、という感じはなく、手慣れた熟練者の顔になっていた。
オークの群れを相手しながら、話が出来るぐらいに……。
「上のボス、どうするべきかな?」
オークのこん棒を持つ腕を斬り飛ばしながら、リュウエンは、隣に位置するラルクスへ声をかける。
「う~~ん。ボスっていうのは、階下の雑魚とは違って一段強いって聞くしな。
それだけの強さと自信が備わってから、っていうのが常道じゃないのか」
オークの喉を短剣で刺し貫き、ラルクスは答える。
「それは、分かるんだが、俺達こいつらよりは格上になってる気がするんだがな」
「そう思わんでもないが……」
「ボスって何が出るんだったか……」
「3種のいずれかで、ゴブリンキング、以下部下四体。他、コボルドキング以下略。
それとオークキング以下略だな。部下の種類は多少変わるんだが。
ちなみに、この中で一番強く、落とす物がいいのはオークキングだな」
「そうか……」
リュウエンは答えながら、ゼンに小石を当てられ、そちらに注意を向けたオークの首を刎ねる。
それが群れの最後の1頭だった。
戦利品が落ちると同時に、ゼンが来て素早く拾っていった。
「……快適過ぎる……」
「……同感」
リュウエン達が、オークの血で汚れた剣を、ボロ布で拭きながら、女性陣の待機場所まで戻って来ると、サリサリサが、プリプリと頬を膨らませ怒っていた。
「あんた達、最後の方なんか無駄話してたでしょ!緊張感足りないわよ!」
「サリー、そんな怒らなくても……。あれよ、きっとリュウ君たちは、オークの落とした上質豚肉には、肉汁で作ったソースが合うのか、塩コショウだけのシンプル味付けの方が合うのか、とか高尚なお話をしてたんだよ~。ね?」
「……シア、その話、高尚でもなんでもないから……」
アリシアが、妙な例え話をしたせいで、全員が空腹を覚え、豚肉料理を食べたくなってしまったのであった……。
*******
オマケ
リ「強過ぎる自分の才能が怖いな……」
ラ「俺はそ、んな事を真顔で言えるお前が怖いよ」
サ「まあ、私の天才ぶりには圧倒的に劣るけどね」
ア「迷宮で取れた豚肉美味しいね~。半分は売って、半分は自分達用に残しておこう!」
ゼ「……終わらない蝙蝠退治……面白い……」(砂暖めかw)
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今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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