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第1章 ポーター編
021.暗闇の真相
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「……うん、分かったわ。わざわざ報告してくれてありがとう。
実は、似た様な話が何件か、他にも報告されているの。
こちらとしても、何らかの対応を、しなければいけないと思うから、この話、他にもらさないで欲しいのだけれど……」
レフライアは、同意を求める為に、執務室のデスクの前に立つ、目の前の優秀な新米冒険者に、鋭い視線を向ける。
「それは、同じパーティーの仲間にも、ですか?」
リュウエンは、視線を逸らさずに問い返す。
「そうよ。何がどう影響するか、私にも分からないの。
彼女達や、ラルクス君、そして、ゼン君。
君達は、新人らしからぬ有能な冒険者だけど、君が言う様な、強大な魔族が動いてると言うのなら、話は別。
危険な要素は、最小限に留めたいの。分かってくれるかしら?」
「……そうですね。分かりました、ギルドマスター」
「うん、ありがとう。じゃあ、この話はこれでおしまい」
「はい。それでは、失礼します」
礼儀正しく頭を下げ、リュウエンが退室して行った。
ふう、と深く息をついて、傍らの秘書に目を向ける。
「どう思う?ファナ」
「どう、と言われましても、一介の秘書風情に過ぎない、私としましては、単純に魔界の過激派が、何かを画策しているらしい、ぐらいにしか」
「そう……。私には、一つ思い当たる話があるのよ」
「それは……私がお聞きしても、良いお話なのですか?」
「ええ。単なる憶測だから、誰かに聞いてもらって、それについての意見が欲しいの」
「はあ……。私ごとき者の意見等、塵芥(ちりあくた)の様な物。
気が進みませんが……」
「あなたのその変な、自己評価の低さは、余りいい事とは思えないのだけど。まあ、いいわ。
思い当たる話と言うのは、他ならぬ、私自身が片目を失い、仲間を失った事件の事よ」
「?それは、20年以上前、とお聞きした気がするのですが……」
「ええ、そう。でも、エルフの様に、寿命の長い種の魔族にしてみたら、瞬きの間の様なものよ」
そんなものでしょうか、とつぶやく。
ファナの気持ちも分かるが、とりあえずレフライアは気にしない。
自分だって、分かりはしないのだ。
「それで、どう話が繋がるのでしょうか?」
「あの事件は、そもそも色々おかしかったのよ。
王都の警備所だの、騎士団の訓練所等に謎の襲撃者が現れ、何十名かの重軽症者が出たの。
当時は多分、最高峰と言われていた私達のパーティーに、急にお呼びがかかったのだけど、行ってみたら、いきなり物凄い強者としか言いようのない集団に襲われ、私達のパーティーは壊滅した。
生き残りは、私だけ」
「はい、存じております」
「その後は何事も起こらず、ただ謎だけが残された。
今回の話を聞いて思ったの。
もしかしたらあの事件は、『私達』をおびき出す為だけに、仕組まれた物だったのかもしれない、とね」
「つまり、今回の謎の人物と同じ、『強者』のみを殺害する事が目的だった、と?」
「そう。自惚れ抜きに、あの頃の『紅の衝撃』は、最強パーティーだったから。
事件後、他に何も起こらなかったのは、彼等がもう目的を果たしたから、じゃないのかしら?」
「……それには、一つおかしな点が残ると思うのですが」
ファナは、ひかえ目に疑問を述べる。
「なに?」
「パーティーで一番の強者であったギルマス、レフライア様の命が奪われていないのは、おかしな事では?
それこそ、再度の襲撃、暗殺がないのは、おかしくはないでしょうか?」
「……いえ、おかしくないのよ。
私は、A級冒険者のレフライアは、あの時、死んだも同然だから。
この目の傷の、呪いのせいで……」
レフライアは、未だに痛む左目を抑える。
「……それでは、その『強者』のみを殺害する、というのは、どういう意味があるのでしょうか?
武道等とは縁のない、一般人以下の私には、わざわざ強い者、という殺害の難しい目標を設定する意味が、分かりかねるのですが……」
「そうね。でもそれも、少し思いついた事があるの」
「それは……?」
「うん、ちょっと待ってね。
呼び出しをかけておいた冒険者が来たみたいだから、彼とも少し話してみましょう」
コンコンと執務室に、ノックの音がする。
レフライアは、気配だけで廊下から来る存在に気づいたのだ。
「どうぞ。入ってちょうだい」
「やあやあ、レフライア。
ギルドマスター直々のご指名により、参上いたしましたよ」
勢いよくドアを開けて、入って来るなり、ふざけた仕草で大袈裟に、道化めいた礼をしたのは、フェルズにいる魔族の冒険者で一番ランクの高い男、A級冒険者のフォルネウス・イレイザーだった。
「お久しぶり、フォル。元気にやっているようでなにより」
しばしの、社交辞令的な挨拶のやり取りは省略しよう。
ファナは、横で黙って見ている。
フォルネウスという魔族は、意外と若く見える、一見美男子風な男だ。
だがファナは、いちいち動作が大きく、わざとらしい仕草をするこの魔族を、かなり胡散臭く感じた。
「彼は魔界の侯爵家の出よ。丁度、シリウスと同じね」
「かの『聖騎士(パラディン)崩れ』と並べられるとは、光栄ですな~。
私も家を出奔した身ですから、確かに共通点は多いようですが」
ファナは一応頭を下げ、自己紹介をしたが、余り知り合いになりたい部類の人物ではなかった。魔族とか抜きにしても。
レフライアは、ここ最近フェルズ周辺に現れる、魔族らしき謎の人物が、『強者』のみを狙う『暗殺者』らしき推測と、レフライアの過去の事件とを照らし合わせて説明し、フォルネウスに尋ねる。
「どう?何か心当たり、あるかしら?」
「おお、我等を束ねるご領主様の問いとあらば、答えねばならないでしょう」
意味不明の、勿体ぶった間。
「残念ながら……ありますな」
驚いた。
聞いたレフライアが驚くのもおかしな話だが、フォルネウスはあっさり、あると言ったのだ。
ファナは、ひかえ目に心の中で、「あるんかい!」と突っ込んでいた。
「……その心当たり、教えてもらえるのかしら?」
「……私としても、あちらを捨てた身とは言え、同族を裏切る気等サラサラなかったのですが、私も家も、友和派なので、馬鹿をやっている過激派の、阿呆集団に義理立てする必要はないでしょう」
フェルネウスはここが劇場で、何かの悲劇に悩む主役の役者の様に、クルクルと回る。
そして、顔を両手で覆い、突然の悲劇に苦しむ者のように、うつむき、嘆き、それから天を仰いで、大きなため息をつく。
「ええ、多分、私が知っている連中ですね。
過激派の中でも、特に頭のおかしな連中の集まり。
しかし、実力者ぞろいで、自分達の私兵集団も、迷宮に入れて鍛えている」
またクルクル回る。
この意味不明な行動は、気にしない方がいいらしい。
レフライアも無視している。
「彼等の集団名、聞いてお笑いになるかもしれませんな。
……彼等は、『神の信奉者』というのですよ」
ファナは、一瞬呆気にとられた顔をした。
フォルネウスはそれを見て、ニヤリ、と笑う。
だが、レフライアは違った。小さく、やっぱり、と口の中で呟いていた。
「驚かれるのも無理はありませんが、我等魔族とて、神に造られし被造物。神を信奉するのは、それなりに普通な事なのですよ。
魔界には神殿や教会もあります。こちらのそれとは、多少おもむきが異なる物かもしれませんが。
ですが、人や他の種族と争い、覇権を唱える一派に、『神の信奉者』という集団があるのは、かなり奇異な話ではあります」
レフライアは恐ろしく真剣な顔をして、怒気すら感じられる声色で、フォルネウスに問いを重ねた。
「その、『神の信奉者』とやらは、もしかして、真剣に、神の後継者……数々の『試練』をくぐりぬけ、神へと『進化』する事を、目指して、いる?」
「おお、流石は頭脳明晰な、我等がギルドマスター。ご明察ですな」
「じゃあこれも、私の想像通りなのかしら。
未だ神へと至らぬ彼等は、他の種族……いえ、人間の、神に成りえるかもしれない『強者』、神候補者、と言える強い冒険者を、さがして、潰してまわっている、とか……?」
ファナは驚きの声を、とっさに喉の中に押し込めた。
フォルネウスは、またクルクル回りだした。
「……私も、魔界を離れて幾年月、風の噂によると、多少、勢力図も変わり、友和派が増えたり、平和や安定を願う種族の声等が高まったりもしている、と聞きますが……」
人間にとっては、喜ばしき話を出した後で、彼は回転を止め、奇妙に歪んだ笑みを見せる。
「正解、ですな」
※
「……レフライア様、その……大丈夫、なんですか?」
ファナは漠然とした、うまく形にならない不安を声に出す。
「何が?彼等の目標(ターゲット)になるであろう、このフェルズで1、2を争う二人には、たった今警告を言い渡したじゃない。
それ以上、うてる手はないわ。
彼等自身が、ここの『最高戦力』なんだし、護衛なんか出しても意味はない。自己防衛をしてもらうしかないのよ」
「……そう、です、よね……」
「それよりも問題なのが……問題というか、もう終わってしまっているかもしれない、『事』の方が、重大事かもしれないのよ……」
レフライアの言葉に、更にファナの不安は膨らむ。
「世界には、S級となった冒険者が、何人かいるわ。
でも彼等は、基本、究極的に変わり者の変人や、偏屈な人が多くて、めったに人前には出てこない。
獣すら寄り付かない山奥にこもって、修行する者もいれば、いつのまにか最上級迷宮に入り込んで、深層で探索を続けている者もいたりしたの。
例え依頼があっても、それを伝える術もなく、偶然、運命の悪戯で、何処かでバッタリ出会えたりでもしない限り、S級冒険者にはたどり着けない、『そう思われていた』……」
「実際、そうではないのですか?」
「そうだったのが、今、問題になっているのよ。
行方不明の様に会えないS級冒険者、この中で、今現在『何人』が『本当に生きている』のか分からない。
本当に、行方不明になっているのかも……」
レフライアの声は、表情は、どんどん深刻さを増していた。
「え……?」
「よく考えてみなさい。どう考えても、今いるA級冒険者なんかよりも、ずっと『神』に近い、と言えるのは、彼等の方なのよ」
ファナはまるで想像もしなかった。
S級冒険者とは、この世界を根底から支える、大黒柱のようなものだ。
何本も、太い柱が世界を支え、存在している、それが当り前だったのだ。
「だから、最悪の事態を想定するなら、もうこの世界に、S級冒険者なんていう英雄は、『一人もいない』のかもしれない……」
世界の底は、抜けたのだろうか?
※
今、執務室にはレフライア一人だ。
今日はもう帰っていいと、ファナに言い含めてある。
ひどい顔色だった。
ファナには悪い事をした、とレフライアは、ひどく落ち込む。
彼女の冷静沈着さや、時折見せる変わった視点からの分析、辛口の批評等は、頭脳派では決してないレフライアにとって、自分の考えの正しさの確認や、思い込みで間違いに走りかねない、ギルマスのブレーキ役としても、なくてはならない大事な指針だったのだ。
でも、だからと言って、今のこの、世界の重大事件に心悩ませるのは、自分のような、ギルドマスターという責務の人間が負うべき役目であるのに、心ならずも巻き込んでしまった。
(大体、『神の信奉者』とか自称する馬鹿どもが悪いのよ!)
彼等が勝手に神を目指すのは、どうでもいい。
どうぞ好きにおやりなさい、と言ってやりたいぐらいだ。
だが、自分達がなれないからと言って、他の種族の邪魔をするとか、頭悪いとしか言いようがない。
そんな事の為に仲間達は死んだのか?そんな事の為に自分は片目を奪われ、天職と思っていた冒険者を、辞めざるを得なくなったのか?
(クソッ、キ○ガイどもめ!狂信者どもめ!)
そもそもレフライアにとっては、神になる、とかどうでもいい。
恐らく、ほとんどの人間がそうだろう。
いつかなれたらいいね。1万年、10万年、1億年ぐらい経ったら、そんな進化とかする人がいるのかなぁ。
ほとんどの人間が、そんな感覚だろう。
(無駄に長生きとかするから、そんな下らない事考えて、狂った行動に走る!)
(自分に本来の力があれば、魔界にでもなんでも行って、全員叩き殺してやるのに!)
(そもそも、その、神の候補者をさがして殺しまわる、とか、意味わからん!
自分の行動の意味すら考えないのか?顧みないのか?
それは、単なるヒガミ、究極的な嫉妬、醜い妬みだと言う事に、自分で気づかないのか?)
「みっともない!」
思わず心の声が、外に出ていた。
とにもかくにも。
冒険者ギルドの通信魔具を使って、全世界のギルドに今回の情報(『神の信奉者』の事)と、これから起こるかもしれない事態(A級以上の冒険者の暗殺)、もう終わっているかもしれない事(S級冒険者の暗殺)の懸念は伝えた。
S級冒険者と連絡が取れるギルドがあるのなら、『神の信奉者』という狂信者どもの脅威を伝え、その襲撃に備えるだろう。
もっといいのは、S級冒険者が集まって、『神の信奉者』というクズの集まりを排除、殲滅するのが望ましいのだが、そんな事が可能なのか、そもそもS級冒険者が、何人生きているかも分からない。
最悪は全滅で、最善は、『神の信奉者』がS級冒険者を探し当てられなくて、一人の被害も出ていない事だ。
その場合は、レフライアの空回り、という事になるが、そんな事はどうでもいい。
彼女は、自分の名誉だの名声だのを考えた事等、ただの一度たりとしてないのだ。
今のところ。どう転ぶか予想もつかない。
相手を返り討ちにしたS級が、いる可能性だってあるのだ。
もう闘技会まで2週間もないのに、何故こんな大きな問題が転がり込んで来たのか。
自分の出来得る事はやり尽くした、と思うレフライアは、もう天命を待つのみだ。
※
それよりも、いくばくか前の時間。
冒険者ギルド本部、5階の廊下を、最強と言われる二人の男が、並んで歩いていた。
「卿はどう思う?先程、ギルドマスターが言われた事」
(卿、とか柄じゃないから、言うなっつってんだがな……)
「あ~、せいぜい気をつけて、自分の身を護れって事だろ。
そうしろよ」
『流水』のラザンは、大した考えもなく、自然体で、ただ事実を述べるだけだ。
「それは、そうなのだが……」
『聖騎士(パラディン)崩れ』のシリウスは、その端正な顔に戸惑いを浮かべる。
「悩む意味があるのか?来たら斬る。それだけだ」
「卿は、いつもそうヌルヌルと、捉(とら)えどころのない……」
「いやいや、今、俺の話に何故なる?うろついてる羽虫の話だろ。
お前は油断するなよ。足元すくわれるタイプだからな」
「卿は、我を侮辱するのか!」
「いや、ちょっと注意しただけだろ。なんつーか、本当お前は、やり難いなぁ……」
ボサボサの頭をボリボリ掻くと、ラザンはその場で立ち止まる。
シリウスも、当然のように立ち止まる。
「俺は、決勝で前に負けた、誰かさんとやり合う前に、負ける気なんざ、サラサラないんだが、お前は違うのか?」
「と、当然だ!我とて卿以外の者に負ける気なぞ、微塵もない!」
「なら気張れや、『聖騎士(パラディン)崩れ』」
ラザンは拳を握り、シリウスのプレートメイルに包まれた胸を、ポンと軽く叩く。激励だ。
「お、応さ、『流水』!」
笑顔で応じるシリウスの嬉しそうな様子は、飼い主に褒められた子犬の様であった。
(あ~~、メンドくせ……)
とか思われてると、知らずに。
二人はまた仲良く?並んで歩きだすのだった……。
*******
オマケ
ファ「……なんだか目が回りますぅ~」
レ 「あれとは目を合わさない。小動物が回し車をしてるとでも思いなさい」
フォ「クルクルクルクル~」
シ 「む。こういうのは、存外緊張するものだな。卿はどうだ?」
ラ 「あ”?あ~、ソウダナ、確カニナ。(どうでもいいんだが、そう言うと、スネる予感が…)」
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