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第1章 ポーター編
025.闘技会(3)
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※
ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!
ゼンは、カクレガの前でずっと、リュウエンから貰った練習用の木剣を、ただ一心に振り続けていた。
昼間の闘技会で見た衝撃の興奮が、中々冷めてくれないのだ。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!
それに、素振りは、振れば振る程剣が上達するような、そんな錯覚がして、ついつい剣を振るのが、止められなくなってしまうのだ。
それで、1回徹夜してしまった事がある。
目ざとくそれに気付いた、旅団メンバーのみんなが、ゼンに厳しくお説教をしてくれたのだが。
ゼンにはそれは、まるで厳しく感じられず、怒られれば怒られる程、胸がポカポカしてきて困ったぐらいだ。
結局それは、皆がゼンの事を気遣ってくれる、優しさでしかなく、怒られている、というのとは実際には程遠い状態で、そういう事に慣れていないゼンは戸惑い、どうしていいのか分からなくなる。
ゼンは、自分がまったく知らなかった、知りえなかった、暖かい感情が時々溢れそうになるので、それを持て余し気味だった。
普通に暮らしている人達は、こんなのが当り前なのだろうか?幸福な自分の状態を、持て余したりはしないのだろうか?
それが、ゼンには不思議だった。
「そろそろ止めて、寝ようかな……」
また怒られても、それはそれで、魅力的な気もしないでもないのだが、明日は闘技会の準決勝があるのだ。
寝ぼけ眼(まなこ)で、あの人の試合を見たくない、という気持ちが強い。
ゼン自身よく分からないが、あの『流水』のラザンという人の剣は、他の試合の全てが、色褪せて見えてしまう程に衝撃的で、剣技とか剣術とか、まだまだ分からない事だらけな、素人のゼンなのだが、それでもそれが、『特別』な領域の何かだとは分かる。
その事を考えると、また色々と昂(たか)ぶってくるので、ゼンは頭を振って、カクレガの中へと戻った。
この頃の夜は、時折嫌な夢を見るのだが、今日は大丈夫だろう。
こんなに疲れているのだ。夢なんか見ずに、朝までグッスリだろう、そんな気がする。
翌朝起きると、ゼンは変に寝汗をかいている、自分に気がついた。
(まさか、覚えていないだけで、またあの夢を見たのだろうか……)
気づくと、右の手の甲の部分に、歯型が思いっきりついていた。
血がにじんでいる。それは、当然自分の歯型だ。
まるで、悪い夢から覚めるために、自分で自分に激しい痛みを与える為のような跡が……
彼はまだ知らない。
今日が彼にとって、どれ程大事な日なるかを。
今日が、運命の日である事に………
運命の日が始まる。
それがどんな結果となるかは、彼次第………
※
【……決まった~~~~!】
怒号のような観客席の声の波、そして、準決勝から入るようになった試合の実況解説の、観客以上に試合の勝敗に興奮した声。
準決勝午前の部、『血の魔剣』ザルバート対『聖騎士(パラディン)崩れ』シリウスの試合は、恐ろしく呆気ない幕切れを迎えていた。
いや、迷宮都市フェルズの住民なら、ほぼ予想通りの展開なのか。
ゴウセル同様に、観客席の客達の表情は、「ああ、やっぱりな」という顔をしている。
一部の観客はやたらと悔しがり、何かを投げ捨てているのは、恐らく試合の勝敗の賭けでもしていたのだろう。
試合の事前予想が、圧倒的にシリウス有利と出ていたので、大穴狙いでザルバートに賭けた気持ちは、分からなくもないのだが……。
「なんというか、凄かったな。『剣の威力が』……」
ゴウセルも、ここまで一方的に終わると思っていなかったのか、どこか呆れ顔だ。
ザルバートが開幕早々放った剣撃は、シリウスに躱されたものの、観客席に張られた結界術の防御障壁が、破られるのではないかと思われる程のものだった。
障壁が不気味にきしむ、鈍い音をたてて、せっかくの最前列で見ていた観客達が悲鳴をあげ、逃げかけた位だ。
あれで、”不殺の術式”というのが発動しなかったのが、不思議な程なのだが、結界の障壁が破れなかったぐらいなのだから、ギルドの想定の範囲内なのだろう。
(あるいは、シリウスの防御強度が通常より高いのか)
でなければ、無辜(むこ)の市民の大量虐殺が起きていた訳なのだから。
「今度から、魔剣の持ち込みの類いは、規制した方がいいかしら?」
と、某ギルマスが冷や汗を浮かべ呟いていたのは、誰も知らない知られちゃいけない~、聞かなかった事にした方がいい真実の一つだ。
結局のところ、ザルバートが放つ攻撃は、全てシリウスに躱され、シリウスが、明らかに手加減したっぽい剣の一振りを、魔剣で受けたザルバートは、遥か場外の彼方にまで吹き飛び、闘技場の端の壁に突き当って、そこで止まった。
闘技場の壁は、流石に丈夫だった。壁、最強。
その激突の衝撃で気絶したザルバートは、当然、5分以内に競技舞台まで戻って来る事はなかったのであった。
そして決着にかかった時間は、その5分を覗けば、1分もかかっておらず、文字通り秒殺であった。
戻って来ると思って、剣を構えて待っていたシリウスが、待ちぼうけで哀れな位であった。(忠犬シリウス)
規定の試合時間は40分であったのを、準決勝から1時間と、前より20分長くなっていたのだが、この場合では、それがまるで無意味だった。
これから昼まででまだ3時間近くある。
準決勝なので、1時間弱試合、1時間は引退した冒険者の試合解説講座、その後は客同士で、その試合談義で盛り上がったり、で間がもつだろう、というギルド側の計算は、完全に当てが外れた状態となった。
時間が、ある程度余るのは仕方ない。
観客だって承知の上だ。今日は2試合しかないのだから。
問題は、そのメインが余りにも短く、終わってしまった事だった。
イベント運営をするギルド側の、完全不手際だった。出てこい、運営!
いや、この場合文句は、ザルバートに言うべきか?気絶中。ならシリウス?まあ、それはそれとして。
(あちゃぁ。これ、どうするのかしら……?)
領主観覧席で、他人事に考えていたギルマス・レフライアは、
【え~、マイクテス、マイクテス】
と、勇者から、こういう場合に言うといいと伝えられた、謎の呪文を、場内放送で流した解説役の女性が、
【緊急呼び出しです。ギルドマスター・レフライア様、ギルドマスター・レフライア様。おりましたら、最寄の関係者会議室まで、お越し下さい。繰り返し、放送いたします~~】
各国来賓に囲まれた席で、色々吹き出しそうになったレフライアは、
(おりましたら、っていない訳ないでしょうが、あの子達ときたらもう~~~!)
「部下からの呼び出しのようで、すみませんが、失礼いたします……」
ひきつった顔に、謎の愛想笑いを浮かべたレフライアは、ファナを引き連れて、凄い勢いで闘技場の運営区画にある会議室まで、早歩きで移動した。
(また、認識阻害のマントを羽織っていたので、客には気づかれず?に移動した)
「あなた達、なに考えて、私なんか呼び出してるの!?」
レフライアの額に、怒りのバッテンが浮かんでいたのは言うまでもない!
「「「レフライア様~~~」」」
「「「「ギルドマスタ~~」」」」
と、今回の闘技会運営を任されていた、冒険者ギルド職員の、泣きついてくるスタッフ一同。
なんだかんだ言って、頼られられると弱いレフライアである。
「また、なにかこうビシっと、演説でもかましてくださいよ~~」
試合そのものが短すぎたので、引退した冒険者の試合解説講座なんてしたら、逆に野次や文句が飛びそうで、もう使えない。
「あなたねぇ、解説に選ばれたって、浮かれまくってた癖に、もう……
こういう予定外な、緊急の場合も想定してないでどうするの?」
基本は、決まりきった業務を遂行するだけの、冒険者ギルド職員だ。
魔物関連なら、色々想定外も対応出来るが。
ここフェルズの冒険者ギルド辺境本部は、表の事務、カウンター業務は女性職員が、荒事の現場、解体、その他の力仕事は男性職員が、と役割分担が二極化しているので(完全に、ではないが)、今回のイベントスタッフは、ほぼ女性職員が切り盛りしていた。
3年に1度のイベント、前回のスタッフは、引退するか別の場所のギルドに移っていたのが、災いした様だ。
突発的な事態に慣れていない娘が、多過ぎた。
「でもでもだって、こんなの想定の範囲外過ぎますよ~~~」
AAAという、S級に一番近いクラスの冒険者が秒殺されるとは、中々想定しづらいのは理解出来る。
「大体、私だって、ただ話なんかしてたって、場をそんなに長時間もたせられないわよ。
来賓の方々ほっといて、そんな見世物まがいな事してるのも……」
そこでレフライアは、ある事を思いついた。
「あの娘なら、あるいは……」
これしかないだろう。現状で、出来る事は……。
「人をやって、本部の特別保管室から……今は、副ギルマスのロナルドがいるから、この杖を出して来てもらいなさい。
許可証は、今書くから」
レフライアは、パパっとその場で、事情と杖の持ち出し許可を許す旨(むね)を書いた許可証を作り、たたんでその場にあった封筒にいれると、職員の一人に渡す。
「ファナ、あなたは、私が手配した特別室に行って、あの”娘”を呼んできて。至急ね」
誰を連れてくるのか、こっそり耳打ちして。
ゴウセル達の個室観覧席でも、観客席の不平不満のどよめきが聞こえてきていた。
聞こえなく調整は出来るが、今それをしても、状況が変わる訳ではないのでしないだけだ。
「ギルドマスター、呼ばれてましたけど、どうするんですかね?」
リュウエン達は、なんとなくゴウセルに話を聞いてみる。
未来の旦那だし。
「いや、どうするんだろうなぁ。ここまで想定外の事が起きると、客に入場料の返却とか、は無理か。損害が凄い事になるし、な」
ちなみに、今日の闘技会入場券は、午前の部と午後の部に別れている。
勿論、午前午後のセット販売もある。汚い。流石、運営、汚い。
商売人として、ゴウセルも腕を組み考える。
「多分、間に合わせで、何か見世物とかやるとかで、誤魔化すぐらいか?」
この空気で、それをやらされる奴は、可哀想だがな、と注釈をつけて。
そんな事を言っていた矢先に、認識阻害のマントを羽織ったファナが、また勝手に鍵を外から開けて、入ってきた。そして、
「”サリサリサ”さん、ギルドマスターがお呼びです。
一緒に来てもらえないでしょうか?」
ギルマスのご指名、サリサさんでした!
「はあ?私に?何か激しく嫌な予感しか、しないんですけど……
……うん、行かない方がいいと、私の鋭い直感がささやいているわ!」
サリサリサも危険を避ける勘は、ゼン程でなくとも、それなりに良いのだ。
「まあ、来られないのでしたら多分、冒険者資格の剥奪なども、あり得るかと……」
ファナは、平然と職権乱用な事を言う。
ギルマスの教えは、脈々と受け継がれていた……。
そこで、ゴウセルの隣り座るライナーが、何故か激しく咳き込んでいた。
「なんだ、飲み物が気管にでも入ったか?」
「そ、その様です……」
ゴウセルに背中をさすられながら、かろうじて答える、会長補佐なライナー君。
「それに、貴方にとっては、かなりいい取引になると、私(わたくし)は愚考する次第なのですが……」
ファナは、とても意味ありげだ。
「……分かった。ともかく、話だけでも聞いてくるわ」
逃げても無駄だと悟ったサリサリサは、妥協案として聞くだけ、と言っているが、それで済む訳がない。
「行ってらっしゃい、サリ~~~」
アリシアは、ニコニコご機嫌だ。
これから親友に課せられる試練に、気づいていないのだろうか?
※
「これは、魔力消費が百分の一になる、特殊な魔具の杖よ。
それで、貴方には、何か会場の観客の不満をやわらげ、準決勝の代わりになる程度には、派手な見た目の魔術を、披露してもらいたいのだけれど……」
レフライアは、随分飾り気のない、シプルな見た目の杖をサリサリサに見せるが、
「~~~想像以上に無茶な話でした無理でしたお断りします」
丁寧に頭を下げ、脱兎の如(ごと)く逃げ出そうとしたが、ファナが回り込んでいる!有能秘書からは逃げられない!
「……でしたら、報酬としてその杖が、そのままいただけるんですか?なら、喜んでやりますけど」
「それこそ、無茶言わないで。これは普通に、国家予算とかに匹敵するぐらいの価値はあるわ。
遺跡で見つかった古代術具(アーティファクト)に、うちの錬金馬鹿が、勝手に手を加えて偶然生まれた、間違いなく世界にただ一つの”宝具”よ。(やったのはハルアさんです)
でも、必要な時にだけ、貸し出してもいいとは思っています」
言外で、ボス戦の様な危険で、生還率の低い戦闘の場合、と言っている。
「~~~正直、それでも、私一人だと無理っぽい気がします。
C級~D級ぐらいで、魔術増幅(マジックブースト)を使える術士って、何人か集められませんか?」
「心当たりがなくもないけれど、貴方、自分を基準に考えられると困るわよ?」
「大丈夫です。最初に増幅(ブースト)かけてもらえたら、術の維持はこちらでしますから。
あ、後、その認識阻害のマント貸して下さい。後で、無駄に騒がれたくないので」
サリサリサは腕を組み、ふんぞり返って、「やってやろうじゃない!」と、無茶な依頼を引き受けたのであった。
そして……
場内放送で集められた6人の魔術師が、本来準決勝の場所である中央舞台に、マントのフードを深く被って、顔を隠したサリサリサを囲むように配置され、それはこれからなにか舞でも踊るのか、と観客達に淡い期待を持たせる。
「本当なら金返せ、とか怒鳴りたい所だが、もう時間潰せるなら何でもいいよな……」
と、そこで、試合解説をしていたギルドの女性職員の声が、場内に大きく響いた。
【これから、ギルド期待の新星による、ド派手な魔術ショーをお見せいたします。皆さま、ご期待ください~~~】
(あの子、解説になると妙に変なノリを出すのね。
なんで、ド派手とか期待を煽るような事、言って盛るのかしら。
もう、こういう役割やらせられないわ……)
苦虫を噛み潰したような気分になったが、それを今は顔には出せない。
領主観覧席に戻ったレフライアは、「どんなものが見せていただけるのか、期待が高まりますなぁ」とかおべんちゃら言ってる来賓に、適当な相槌(あいづち)で誤魔化していた。
※
(派手って言うと炎とか雷、いや、もう土以外なら何でも有りだ、適当にやろう。
威力とか、考えないでいいんだし、派手……派手ねぇ。
私は精霊術士じゃないけれど、ただ呼び寄せる位は出来る。
ともかく呼んで、視覚化で普通の人にも見える様にして、精霊達に、術とたわむれてもらおう。よし、コンセプトは決まった)
「じゃあ、行きます。増幅(ブースト)お願いします……」
「「「「「「はい!」」」」」」
呼び出された6人の魔術師が、声を合わせる。
複数でやる集団術式、というのは何処の魔術学校でもやる、基本的な術式だ。
それも、6人が6人とも冒険者歴のそれなりに長いベテラン、失敗する要素はなかった。
(問題は、この子が何をやって、観客を少しでも満足させられるか、にかかってる……)
6人が中央の術者、サリサリサに、魔術増幅(マジックブースト)を同時にかける。
それは中央で重なり、合わさって、更なる効果を上げる。
(そっか、こんな時なのに、思い出しちゃった。私が生まれて初めて魔術を使ったのは、泣いてるあの子を笑わせる為だったって……)
いつも優しい、天使のよう私の親友……
中央の術士が、まばゆいばかりの光を放つのを、観客達はただただ、静かに、息を飲んで見守っていた。
これから起きる事が、ただならぬ事である事を予感して。
最初に、緑の風が巻き起こった。その中で、羽根をはやしたシルフが、はしゃいで飛び回っている。
次に、炎があふれ出た。勇ましき風貌のサラマンドラ達が、炎の中を、楽しそうに泳ぎまわっている。
雷が、鳴り響き、周囲全体へと広がっていく。ボルトは、いたずらっ子の様だ。
周りの他の精霊達に、ちょっかいをかけては逃げ回っている。楽しく笑いながら。
氷雪の嵐を呼ぶ。それは、周囲の精霊と競い合って楽しむセルシスだ。
炎と氷が戯(たわむ)れるように交わって、ウンディーネが現れた。
最初戸惑っていた彼女も、周囲の精霊達と一緒に踊りだす。
様々な自然現象、さまざまな精霊達、それがまるで全員が家族のように仲良く、華麗に、鮮やかに、飛び、泳ぎ、踊り、走り、それぞれがバラバラでありながら、混然一体となったパノラマショーは、闘技場の闘技箇所全体にまで広がり、皆が嬉しそうに、この状況を楽しんでいた。
レフライアが思いついて、またファナを伝言に走らせる。
しばらくして、観客と闘技区画をへだてた結界障壁が消え、精霊達は、観客席まで広がって遊びだした。
炎や雷って、危ないんじゃないのか?と思って、恐る恐る手を伸ばした勇気ある観客がいた。
だが、精霊達が客に害をなすことはなかった。
炎の精霊はほんのり暖かい、雷の精霊は少しだけピリっと来る、氷の精霊は、ちょっと冷たい、それだけだった。
安全だと分かると、大人も少数いた子供も、手差し出して、率先して精霊達と遊びだした。
「ここまでやったんだから、仲間外れは寂しいわね!」
サリサリサがの精霊新たに術を加える。
大地に向かって杖を向けた先で、ノーム達が、ポコポコ地面から無数に湧いて出た。トンガリ帽子のおチビさんだ。
そして、土くれから生まれた武骨で素朴なゴーレムが、腕や肩、頭にまでノームを乗せて、闘技区画全体で不器用に踊りだした。
突然地面から木が伸びた。ドリア―ド達が現れ、彼女達も、ゴーレムの上に加わった。
全ての精霊が笑っていた。楽しんでいた。
それは、観客達も一緒だった。
大人も子供も、貴族も平民も冒険者も、人間もエルフも魔族も獣人も、皆が笑い、楽しく精霊達と触れ合っていた。
(何これ?四大精霊、全部いるじゃない。あの子、使えない属性がないっていうの?)
サリサリサが成した、とんでもない術式に、6人の術士達は驚きうろたえながらも、彼女達も勿論楽しんでいた。
楽しくない訳がない。自然に笑みが浮かんでしまう。
呼んでもいないのに、浮かれて誘い出されたのかハルモニウム達が現れ、さまざまな楽器を鳴らし、吹き、歌を歌い、それに合わせ踊り、人間が聞いた事のない、音楽、曲、歌を披露してくれていた。
それは正に、その場にいる全ての人々、精霊達が全員参加する一大祭(パレード)りだった。
喜びの声は、想いは、輪になって広がり、共鳴してさらに強くなる。
まるでここが、精霊達の楽園のようであった………
終わりは突然だった。
夢のような時間は、あっという間に終わりを告げ、気付けば時間は正午を少し過ぎていた。
精霊達は全員、手を振って笑いながら別れを惜しみ、消えていった。それぞれの場所に帰ったのだ。
術の維持を解き、全てが終わった、とホっと一息つくサリサリサのいる場所、正面に、息を飲む程美しい、透き通った、一人の少女が立っていた。
「……え”?」
サリサリサの感覚に間違いがなければ、それは精霊王(ユグドラシス)だった。
王には性別はない。
サリサリサに合わせて女性体、彼女と同じ年齢ぐらいの姿を見せているだけだ。
(やばっ!使役した訳じゃないけど、勝手にあんなに大勢精霊達を呼んで、私、叱られる?!)
身を低くして、ビクビクして怒りの言葉を待つサリサリサに、精霊王(ユグドラシス)がそっと手を伸ばす。
<人の子よ、私の大勢の子供達(精霊達)と仲良く遊んでくれて、ありがとう。礼を言います……>
(あれ?怒られない?逆?)
精霊王(ユグドラシス)の手が、サリサリサの被ったフードを外し、その額にそっと口付けをした。
<貴方に加護を。いつか、また会いましょう……>
にっこり微笑んで、精霊王(ユグドラシス)は静かに、少しずつ薄くなり、消え去って行った。
しばらく、ボーっと余韻に浸(ひた)っていたサリサリサだったが、ハっと正気付いて、慌ててフードを被り直す。
実際、数秒であったし、精霊王(ユグドラシス)がフードの効果を知って、同じ術式をサリサリサに一時付与していたので、サリサリサの顔は、誰にも分からなかった。
サリサリサは精霊王(ユグドラシス)の相手で精一杯だったので気づいていなかったが、彼女の術を手伝(サポート)てくれた6人の所にも、四大精霊の王が現れ、それぞれの杖に、その術士が得意とする属性の加護を授け、精霊王(ユグドラシス)と一緒に去って行った。
しばらく会場全体が、怖い程の静寂に包まれていた。
(あれ?受けてたんじゃないの?まあ、いっか。ともかく退場しなきゃ……)
サリサリサは、会場に向けてペコリと頭を下げると、6人の術士と退場しようと動いた時、会場全体が、轟(とどろ)き割れんばかりの歓声に溢れ、物凄い状態になった。
【す、すご、凄い術、凄過ぎます!私、感動して涙が止まりません!うぅ、う、エグエグッ……。素晴らしい光景を、ありがとう!皆さま、彼女達に、盛大な拍手を、お、お願いします!】
実況解説の女性職員は、本気で泣いていた。
彼女の周囲のスタッフ達も同様だった。
言われて、観客達も気づいたのだろう、皆が立ち上がって、涙を流しながら拍手をしていた。
手が痛くなろうと構わず、それだけでは、自分達の思いが伝わらないと思ってか、大声で叫ぶ者もいた。
とにかく、凄まじい歓声と拍手の嵐だった。
ギルドマスター・レフライアの開催の演説の時すら越える、とんでもない祝福と賛辞の雨あられ、感動で、泣いていた。
精霊達とすごした幸福感で、泣いていた。泣き笑いしている者もいた。
万来の拍手と喝采、歓声が木霊するなか、この闘技会で一番の盛り上がりを見せた一時が終わった。
この時見られた素晴らしき光景を、忘れる者は、誰一人としていないだろう。
誰もが、一生涯の一番大切な記憶と、想いとして、それを心の中にしまい込んだ。
大切な”宝”として………
*******
オマケ
サ「つっかれた~。もうやらないもう出来ない!」
ア「ふふ。なんかサリーが初めて使った術、思い出しちゃった~~。すご~く、良かったよ~」
リ「…お疲れ様だな」
ラ「…おつかれ」
ゼ「うん、とっても、良かった……」
ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!
ゼンは、カクレガの前でずっと、リュウエンから貰った練習用の木剣を、ただ一心に振り続けていた。
昼間の闘技会で見た衝撃の興奮が、中々冷めてくれないのだ。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!
それに、素振りは、振れば振る程剣が上達するような、そんな錯覚がして、ついつい剣を振るのが、止められなくなってしまうのだ。
それで、1回徹夜してしまった事がある。
目ざとくそれに気付いた、旅団メンバーのみんなが、ゼンに厳しくお説教をしてくれたのだが。
ゼンにはそれは、まるで厳しく感じられず、怒られれば怒られる程、胸がポカポカしてきて困ったぐらいだ。
結局それは、皆がゼンの事を気遣ってくれる、優しさでしかなく、怒られている、というのとは実際には程遠い状態で、そういう事に慣れていないゼンは戸惑い、どうしていいのか分からなくなる。
ゼンは、自分がまったく知らなかった、知りえなかった、暖かい感情が時々溢れそうになるので、それを持て余し気味だった。
普通に暮らしている人達は、こんなのが当り前なのだろうか?幸福な自分の状態を、持て余したりはしないのだろうか?
それが、ゼンには不思議だった。
「そろそろ止めて、寝ようかな……」
また怒られても、それはそれで、魅力的な気もしないでもないのだが、明日は闘技会の準決勝があるのだ。
寝ぼけ眼(まなこ)で、あの人の試合を見たくない、という気持ちが強い。
ゼン自身よく分からないが、あの『流水』のラザンという人の剣は、他の試合の全てが、色褪せて見えてしまう程に衝撃的で、剣技とか剣術とか、まだまだ分からない事だらけな、素人のゼンなのだが、それでもそれが、『特別』な領域の何かだとは分かる。
その事を考えると、また色々と昂(たか)ぶってくるので、ゼンは頭を振って、カクレガの中へと戻った。
この頃の夜は、時折嫌な夢を見るのだが、今日は大丈夫だろう。
こんなに疲れているのだ。夢なんか見ずに、朝までグッスリだろう、そんな気がする。
翌朝起きると、ゼンは変に寝汗をかいている、自分に気がついた。
(まさか、覚えていないだけで、またあの夢を見たのだろうか……)
気づくと、右の手の甲の部分に、歯型が思いっきりついていた。
血がにじんでいる。それは、当然自分の歯型だ。
まるで、悪い夢から覚めるために、自分で自分に激しい痛みを与える為のような跡が……
彼はまだ知らない。
今日が彼にとって、どれ程大事な日なるかを。
今日が、運命の日である事に………
運命の日が始まる。
それがどんな結果となるかは、彼次第………
※
【……決まった~~~~!】
怒号のような観客席の声の波、そして、準決勝から入るようになった試合の実況解説の、観客以上に試合の勝敗に興奮した声。
準決勝午前の部、『血の魔剣』ザルバート対『聖騎士(パラディン)崩れ』シリウスの試合は、恐ろしく呆気ない幕切れを迎えていた。
いや、迷宮都市フェルズの住民なら、ほぼ予想通りの展開なのか。
ゴウセル同様に、観客席の客達の表情は、「ああ、やっぱりな」という顔をしている。
一部の観客はやたらと悔しがり、何かを投げ捨てているのは、恐らく試合の勝敗の賭けでもしていたのだろう。
試合の事前予想が、圧倒的にシリウス有利と出ていたので、大穴狙いでザルバートに賭けた気持ちは、分からなくもないのだが……。
「なんというか、凄かったな。『剣の威力が』……」
ゴウセルも、ここまで一方的に終わると思っていなかったのか、どこか呆れ顔だ。
ザルバートが開幕早々放った剣撃は、シリウスに躱されたものの、観客席に張られた結界術の防御障壁が、破られるのではないかと思われる程のものだった。
障壁が不気味にきしむ、鈍い音をたてて、せっかくの最前列で見ていた観客達が悲鳴をあげ、逃げかけた位だ。
あれで、”不殺の術式”というのが発動しなかったのが、不思議な程なのだが、結界の障壁が破れなかったぐらいなのだから、ギルドの想定の範囲内なのだろう。
(あるいは、シリウスの防御強度が通常より高いのか)
でなければ、無辜(むこ)の市民の大量虐殺が起きていた訳なのだから。
「今度から、魔剣の持ち込みの類いは、規制した方がいいかしら?」
と、某ギルマスが冷や汗を浮かべ呟いていたのは、誰も知らない知られちゃいけない~、聞かなかった事にした方がいい真実の一つだ。
結局のところ、ザルバートが放つ攻撃は、全てシリウスに躱され、シリウスが、明らかに手加減したっぽい剣の一振りを、魔剣で受けたザルバートは、遥か場外の彼方にまで吹き飛び、闘技場の端の壁に突き当って、そこで止まった。
闘技場の壁は、流石に丈夫だった。壁、最強。
その激突の衝撃で気絶したザルバートは、当然、5分以内に競技舞台まで戻って来る事はなかったのであった。
そして決着にかかった時間は、その5分を覗けば、1分もかかっておらず、文字通り秒殺であった。
戻って来ると思って、剣を構えて待っていたシリウスが、待ちぼうけで哀れな位であった。(忠犬シリウス)
規定の試合時間は40分であったのを、準決勝から1時間と、前より20分長くなっていたのだが、この場合では、それがまるで無意味だった。
これから昼まででまだ3時間近くある。
準決勝なので、1時間弱試合、1時間は引退した冒険者の試合解説講座、その後は客同士で、その試合談義で盛り上がったり、で間がもつだろう、というギルド側の計算は、完全に当てが外れた状態となった。
時間が、ある程度余るのは仕方ない。
観客だって承知の上だ。今日は2試合しかないのだから。
問題は、そのメインが余りにも短く、終わってしまった事だった。
イベント運営をするギルド側の、完全不手際だった。出てこい、運営!
いや、この場合文句は、ザルバートに言うべきか?気絶中。ならシリウス?まあ、それはそれとして。
(あちゃぁ。これ、どうするのかしら……?)
領主観覧席で、他人事に考えていたギルマス・レフライアは、
【え~、マイクテス、マイクテス】
と、勇者から、こういう場合に言うといいと伝えられた、謎の呪文を、場内放送で流した解説役の女性が、
【緊急呼び出しです。ギルドマスター・レフライア様、ギルドマスター・レフライア様。おりましたら、最寄の関係者会議室まで、お越し下さい。繰り返し、放送いたします~~】
各国来賓に囲まれた席で、色々吹き出しそうになったレフライアは、
(おりましたら、っていない訳ないでしょうが、あの子達ときたらもう~~~!)
「部下からの呼び出しのようで、すみませんが、失礼いたします……」
ひきつった顔に、謎の愛想笑いを浮かべたレフライアは、ファナを引き連れて、凄い勢いで闘技場の運営区画にある会議室まで、早歩きで移動した。
(また、認識阻害のマントを羽織っていたので、客には気づかれず?に移動した)
「あなた達、なに考えて、私なんか呼び出してるの!?」
レフライアの額に、怒りのバッテンが浮かんでいたのは言うまでもない!
「「「レフライア様~~~」」」
「「「「ギルドマスタ~~」」」」
と、今回の闘技会運営を任されていた、冒険者ギルド職員の、泣きついてくるスタッフ一同。
なんだかんだ言って、頼られられると弱いレフライアである。
「また、なにかこうビシっと、演説でもかましてくださいよ~~」
試合そのものが短すぎたので、引退した冒険者の試合解説講座なんてしたら、逆に野次や文句が飛びそうで、もう使えない。
「あなたねぇ、解説に選ばれたって、浮かれまくってた癖に、もう……
こういう予定外な、緊急の場合も想定してないでどうするの?」
基本は、決まりきった業務を遂行するだけの、冒険者ギルド職員だ。
魔物関連なら、色々想定外も対応出来るが。
ここフェルズの冒険者ギルド辺境本部は、表の事務、カウンター業務は女性職員が、荒事の現場、解体、その他の力仕事は男性職員が、と役割分担が二極化しているので(完全に、ではないが)、今回のイベントスタッフは、ほぼ女性職員が切り盛りしていた。
3年に1度のイベント、前回のスタッフは、引退するか別の場所のギルドに移っていたのが、災いした様だ。
突発的な事態に慣れていない娘が、多過ぎた。
「でもでもだって、こんなの想定の範囲外過ぎますよ~~~」
AAAという、S級に一番近いクラスの冒険者が秒殺されるとは、中々想定しづらいのは理解出来る。
「大体、私だって、ただ話なんかしてたって、場をそんなに長時間もたせられないわよ。
来賓の方々ほっといて、そんな見世物まがいな事してるのも……」
そこでレフライアは、ある事を思いついた。
「あの娘なら、あるいは……」
これしかないだろう。現状で、出来る事は……。
「人をやって、本部の特別保管室から……今は、副ギルマスのロナルドがいるから、この杖を出して来てもらいなさい。
許可証は、今書くから」
レフライアは、パパっとその場で、事情と杖の持ち出し許可を許す旨(むね)を書いた許可証を作り、たたんでその場にあった封筒にいれると、職員の一人に渡す。
「ファナ、あなたは、私が手配した特別室に行って、あの”娘”を呼んできて。至急ね」
誰を連れてくるのか、こっそり耳打ちして。
ゴウセル達の個室観覧席でも、観客席の不平不満のどよめきが聞こえてきていた。
聞こえなく調整は出来るが、今それをしても、状況が変わる訳ではないのでしないだけだ。
「ギルドマスター、呼ばれてましたけど、どうするんですかね?」
リュウエン達は、なんとなくゴウセルに話を聞いてみる。
未来の旦那だし。
「いや、どうするんだろうなぁ。ここまで想定外の事が起きると、客に入場料の返却とか、は無理か。損害が凄い事になるし、な」
ちなみに、今日の闘技会入場券は、午前の部と午後の部に別れている。
勿論、午前午後のセット販売もある。汚い。流石、運営、汚い。
商売人として、ゴウセルも腕を組み考える。
「多分、間に合わせで、何か見世物とかやるとかで、誤魔化すぐらいか?」
この空気で、それをやらされる奴は、可哀想だがな、と注釈をつけて。
そんな事を言っていた矢先に、認識阻害のマントを羽織ったファナが、また勝手に鍵を外から開けて、入ってきた。そして、
「”サリサリサ”さん、ギルドマスターがお呼びです。
一緒に来てもらえないでしょうか?」
ギルマスのご指名、サリサさんでした!
「はあ?私に?何か激しく嫌な予感しか、しないんですけど……
……うん、行かない方がいいと、私の鋭い直感がささやいているわ!」
サリサリサも危険を避ける勘は、ゼン程でなくとも、それなりに良いのだ。
「まあ、来られないのでしたら多分、冒険者資格の剥奪なども、あり得るかと……」
ファナは、平然と職権乱用な事を言う。
ギルマスの教えは、脈々と受け継がれていた……。
そこで、ゴウセルの隣り座るライナーが、何故か激しく咳き込んでいた。
「なんだ、飲み物が気管にでも入ったか?」
「そ、その様です……」
ゴウセルに背中をさすられながら、かろうじて答える、会長補佐なライナー君。
「それに、貴方にとっては、かなりいい取引になると、私(わたくし)は愚考する次第なのですが……」
ファナは、とても意味ありげだ。
「……分かった。ともかく、話だけでも聞いてくるわ」
逃げても無駄だと悟ったサリサリサは、妥協案として聞くだけ、と言っているが、それで済む訳がない。
「行ってらっしゃい、サリ~~~」
アリシアは、ニコニコご機嫌だ。
これから親友に課せられる試練に、気づいていないのだろうか?
※
「これは、魔力消費が百分の一になる、特殊な魔具の杖よ。
それで、貴方には、何か会場の観客の不満をやわらげ、準決勝の代わりになる程度には、派手な見た目の魔術を、披露してもらいたいのだけれど……」
レフライアは、随分飾り気のない、シプルな見た目の杖をサリサリサに見せるが、
「~~~想像以上に無茶な話でした無理でしたお断りします」
丁寧に頭を下げ、脱兎の如(ごと)く逃げ出そうとしたが、ファナが回り込んでいる!有能秘書からは逃げられない!
「……でしたら、報酬としてその杖が、そのままいただけるんですか?なら、喜んでやりますけど」
「それこそ、無茶言わないで。これは普通に、国家予算とかに匹敵するぐらいの価値はあるわ。
遺跡で見つかった古代術具(アーティファクト)に、うちの錬金馬鹿が、勝手に手を加えて偶然生まれた、間違いなく世界にただ一つの”宝具”よ。(やったのはハルアさんです)
でも、必要な時にだけ、貸し出してもいいとは思っています」
言外で、ボス戦の様な危険で、生還率の低い戦闘の場合、と言っている。
「~~~正直、それでも、私一人だと無理っぽい気がします。
C級~D級ぐらいで、魔術増幅(マジックブースト)を使える術士って、何人か集められませんか?」
「心当たりがなくもないけれど、貴方、自分を基準に考えられると困るわよ?」
「大丈夫です。最初に増幅(ブースト)かけてもらえたら、術の維持はこちらでしますから。
あ、後、その認識阻害のマント貸して下さい。後で、無駄に騒がれたくないので」
サリサリサは腕を組み、ふんぞり返って、「やってやろうじゃない!」と、無茶な依頼を引き受けたのであった。
そして……
場内放送で集められた6人の魔術師が、本来準決勝の場所である中央舞台に、マントのフードを深く被って、顔を隠したサリサリサを囲むように配置され、それはこれからなにか舞でも踊るのか、と観客達に淡い期待を持たせる。
「本当なら金返せ、とか怒鳴りたい所だが、もう時間潰せるなら何でもいいよな……」
と、そこで、試合解説をしていたギルドの女性職員の声が、場内に大きく響いた。
【これから、ギルド期待の新星による、ド派手な魔術ショーをお見せいたします。皆さま、ご期待ください~~~】
(あの子、解説になると妙に変なノリを出すのね。
なんで、ド派手とか期待を煽るような事、言って盛るのかしら。
もう、こういう役割やらせられないわ……)
苦虫を噛み潰したような気分になったが、それを今は顔には出せない。
領主観覧席に戻ったレフライアは、「どんなものが見せていただけるのか、期待が高まりますなぁ」とかおべんちゃら言ってる来賓に、適当な相槌(あいづち)で誤魔化していた。
※
(派手って言うと炎とか雷、いや、もう土以外なら何でも有りだ、適当にやろう。
威力とか、考えないでいいんだし、派手……派手ねぇ。
私は精霊術士じゃないけれど、ただ呼び寄せる位は出来る。
ともかく呼んで、視覚化で普通の人にも見える様にして、精霊達に、術とたわむれてもらおう。よし、コンセプトは決まった)
「じゃあ、行きます。増幅(ブースト)お願いします……」
「「「「「「はい!」」」」」」
呼び出された6人の魔術師が、声を合わせる。
複数でやる集団術式、というのは何処の魔術学校でもやる、基本的な術式だ。
それも、6人が6人とも冒険者歴のそれなりに長いベテラン、失敗する要素はなかった。
(問題は、この子が何をやって、観客を少しでも満足させられるか、にかかってる……)
6人が中央の術者、サリサリサに、魔術増幅(マジックブースト)を同時にかける。
それは中央で重なり、合わさって、更なる効果を上げる。
(そっか、こんな時なのに、思い出しちゃった。私が生まれて初めて魔術を使ったのは、泣いてるあの子を笑わせる為だったって……)
いつも優しい、天使のよう私の親友……
中央の術士が、まばゆいばかりの光を放つのを、観客達はただただ、静かに、息を飲んで見守っていた。
これから起きる事が、ただならぬ事である事を予感して。
最初に、緑の風が巻き起こった。その中で、羽根をはやしたシルフが、はしゃいで飛び回っている。
次に、炎があふれ出た。勇ましき風貌のサラマンドラ達が、炎の中を、楽しそうに泳ぎまわっている。
雷が、鳴り響き、周囲全体へと広がっていく。ボルトは、いたずらっ子の様だ。
周りの他の精霊達に、ちょっかいをかけては逃げ回っている。楽しく笑いながら。
氷雪の嵐を呼ぶ。それは、周囲の精霊と競い合って楽しむセルシスだ。
炎と氷が戯(たわむ)れるように交わって、ウンディーネが現れた。
最初戸惑っていた彼女も、周囲の精霊達と一緒に踊りだす。
様々な自然現象、さまざまな精霊達、それがまるで全員が家族のように仲良く、華麗に、鮮やかに、飛び、泳ぎ、踊り、走り、それぞれがバラバラでありながら、混然一体となったパノラマショーは、闘技場の闘技箇所全体にまで広がり、皆が嬉しそうに、この状況を楽しんでいた。
レフライアが思いついて、またファナを伝言に走らせる。
しばらくして、観客と闘技区画をへだてた結界障壁が消え、精霊達は、観客席まで広がって遊びだした。
炎や雷って、危ないんじゃないのか?と思って、恐る恐る手を伸ばした勇気ある観客がいた。
だが、精霊達が客に害をなすことはなかった。
炎の精霊はほんのり暖かい、雷の精霊は少しだけピリっと来る、氷の精霊は、ちょっと冷たい、それだけだった。
安全だと分かると、大人も少数いた子供も、手差し出して、率先して精霊達と遊びだした。
「ここまでやったんだから、仲間外れは寂しいわね!」
サリサリサがの精霊新たに術を加える。
大地に向かって杖を向けた先で、ノーム達が、ポコポコ地面から無数に湧いて出た。トンガリ帽子のおチビさんだ。
そして、土くれから生まれた武骨で素朴なゴーレムが、腕や肩、頭にまでノームを乗せて、闘技区画全体で不器用に踊りだした。
突然地面から木が伸びた。ドリア―ド達が現れ、彼女達も、ゴーレムの上に加わった。
全ての精霊が笑っていた。楽しんでいた。
それは、観客達も一緒だった。
大人も子供も、貴族も平民も冒険者も、人間もエルフも魔族も獣人も、皆が笑い、楽しく精霊達と触れ合っていた。
(何これ?四大精霊、全部いるじゃない。あの子、使えない属性がないっていうの?)
サリサリサが成した、とんでもない術式に、6人の術士達は驚きうろたえながらも、彼女達も勿論楽しんでいた。
楽しくない訳がない。自然に笑みが浮かんでしまう。
呼んでもいないのに、浮かれて誘い出されたのかハルモニウム達が現れ、さまざまな楽器を鳴らし、吹き、歌を歌い、それに合わせ踊り、人間が聞いた事のない、音楽、曲、歌を披露してくれていた。
それは正に、その場にいる全ての人々、精霊達が全員参加する一大祭(パレード)りだった。
喜びの声は、想いは、輪になって広がり、共鳴してさらに強くなる。
まるでここが、精霊達の楽園のようであった………
終わりは突然だった。
夢のような時間は、あっという間に終わりを告げ、気付けば時間は正午を少し過ぎていた。
精霊達は全員、手を振って笑いながら別れを惜しみ、消えていった。それぞれの場所に帰ったのだ。
術の維持を解き、全てが終わった、とホっと一息つくサリサリサのいる場所、正面に、息を飲む程美しい、透き通った、一人の少女が立っていた。
「……え”?」
サリサリサの感覚に間違いがなければ、それは精霊王(ユグドラシス)だった。
王には性別はない。
サリサリサに合わせて女性体、彼女と同じ年齢ぐらいの姿を見せているだけだ。
(やばっ!使役した訳じゃないけど、勝手にあんなに大勢精霊達を呼んで、私、叱られる?!)
身を低くして、ビクビクして怒りの言葉を待つサリサリサに、精霊王(ユグドラシス)がそっと手を伸ばす。
<人の子よ、私の大勢の子供達(精霊達)と仲良く遊んでくれて、ありがとう。礼を言います……>
(あれ?怒られない?逆?)
精霊王(ユグドラシス)の手が、サリサリサの被ったフードを外し、その額にそっと口付けをした。
<貴方に加護を。いつか、また会いましょう……>
にっこり微笑んで、精霊王(ユグドラシス)は静かに、少しずつ薄くなり、消え去って行った。
しばらく、ボーっと余韻に浸(ひた)っていたサリサリサだったが、ハっと正気付いて、慌ててフードを被り直す。
実際、数秒であったし、精霊王(ユグドラシス)がフードの効果を知って、同じ術式をサリサリサに一時付与していたので、サリサリサの顔は、誰にも分からなかった。
サリサリサは精霊王(ユグドラシス)の相手で精一杯だったので気づいていなかったが、彼女の術を手伝(サポート)てくれた6人の所にも、四大精霊の王が現れ、それぞれの杖に、その術士が得意とする属性の加護を授け、精霊王(ユグドラシス)と一緒に去って行った。
しばらく会場全体が、怖い程の静寂に包まれていた。
(あれ?受けてたんじゃないの?まあ、いっか。ともかく退場しなきゃ……)
サリサリサは、会場に向けてペコリと頭を下げると、6人の術士と退場しようと動いた時、会場全体が、轟(とどろ)き割れんばかりの歓声に溢れ、物凄い状態になった。
【す、すご、凄い術、凄過ぎます!私、感動して涙が止まりません!うぅ、う、エグエグッ……。素晴らしい光景を、ありがとう!皆さま、彼女達に、盛大な拍手を、お、お願いします!】
実況解説の女性職員は、本気で泣いていた。
彼女の周囲のスタッフ達も同様だった。
言われて、観客達も気づいたのだろう、皆が立ち上がって、涙を流しながら拍手をしていた。
手が痛くなろうと構わず、それだけでは、自分達の思いが伝わらないと思ってか、大声で叫ぶ者もいた。
とにかく、凄まじい歓声と拍手の嵐だった。
ギルドマスター・レフライアの開催の演説の時すら越える、とんでもない祝福と賛辞の雨あられ、感動で、泣いていた。
精霊達とすごした幸福感で、泣いていた。泣き笑いしている者もいた。
万来の拍手と喝采、歓声が木霊するなか、この闘技会で一番の盛り上がりを見せた一時が終わった。
この時見られた素晴らしき光景を、忘れる者は、誰一人としていないだろう。
誰もが、一生涯の一番大切な記憶と、想いとして、それを心の中にしまい込んだ。
大切な”宝”として………
*******
オマケ
サ「つっかれた~。もうやらないもう出来ない!」
ア「ふふ。なんかサリーが初めて使った術、思い出しちゃった~~。すご~く、良かったよ~」
リ「…お疲れ様だな」
ラ「…おつかれ」
ゼ「うん、とっても、良かった……」
0
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