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第1章 ポーター編
026.闘技会(4)
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「……疲れた。死にそう……」
サリサリサは戻って来るなリ、バッタリとその場に倒れ込んでしまった。
余程疲れたのだろう。
ゼンがポーチに、キャンプ用の毛布を入れたままだったので、それで簡易的な寝床を作り、休んでもらっていた。
「サリー、昼食だけど、どうする~?何か少しでも食べないと体力回復しないよ~。治癒術はそういうの、どうにも出来ないから~」
アリシアが、親友のお世話を、甲斐甲斐しくやっている。
「うん……何か飲み物と、軽い食べ物ある?」
「サンドイッチあるよ~、具は野菜系がいい?食べられるなら、卵とかお肉はさんだのもあるからね~」
ゼンがトコトコと歩いて、飲み物の入ったコップを運んで来た。
大き目ので、こぼれない様にフタの付いた、屋台で売られている果汁系の物だ。
「飲み物、果物のがあるよ。ちょっと酸っぱいのと、甘いの。どっちがいい?」
「あ~、両方ちょうだい。少し元気出て来たし、起きて飲むから。サンドイッチなら、多分なんでも大丈夫そうかな」
それからサリサリサは、二食分のサンドイッチと、飲み物も2つとも飲み、むさぼる様に完食した。それだけ消耗していたのだ。
「……はふ、なんとか生き返ったって感じ。
あんな無茶、やるもんじゃないわね。
3時間通しで、四大属性全部使った魔術の維持なんて、後半フラついたし……」
調子にのって、”土”増やしたのはサリサリサ自身なのだが。
「あの、えと、凄い……と、とにかく、凄い凄くて凄かった!」
ゼンは、上手く言葉に出来なかった様だが、彼がいかに感動したか、圧倒されたかは、サリサリサにも伝わったきた。
「ま。まあ、私にかかればこんな者よ。軽い軽い。お茶の子さいさいってね」
ゼンの直球ストレートな褒め言葉に、サリサリサも思わず顔が赤くなっていた。
「ぷ~~!サリーってば、さっきまで、あんな弱った様子見せておいて、それは無理があるんじゃないかな~~」
余りに現金な、サリサリサの態度に、アリシアが吹き出して指摘するのも無理ない話だ。
ここにいる全員が、その衰弱ぶりを見ていたのだから。
なので全員が、そこで笑ってしまっていた。
サリサリサも、最初は不貞腐れた顔をしていたが、途中から自分も笑っていた。
「……しかし、あれってどういう原理で出来るものなんだ?
サリサは、精霊魔術は使えないと言ってたと思うんだが」
ラルクスが心底不思議そうな顔で、種明かしを求める。
「あ~、うん。あれは、精霊魔術じゃないわよ。
でも、呼びかけて来てもらうぐらいは、魔術師にも出来るの。
元々精霊は、魔力(マナ)に惹かれる性質があるから、なにかしら魔術使うと、結構近くに寄って来てたりするものなのよ。
でも、姿は普通の人には見えない。
だから私がやったのは、魔術で精霊の遊び場みたいな”場”をつくって精霊に呼びかけ、それを視覚化、つまり、普通に見えるようにしただけなの。
小規模に、なら普通の術士にも簡単に……は出来ないかな?
ま、まあとにかく、そう凄い難易度の高い物じゃなかった、て事」(つまりそれなりの難易度です)
と、大まかな内容を伝えて、ふうと一息つく。
「あ、魔力回復ポーション飲んだ方がいいのかな~。
魔力全部、使い切った風じゃないみたいに見えたけど~」
治癒術の使い手としては、親友を色々心配してしまう、アリシアだった。
「うん、大丈夫。魔力消費百分の一、とかいう頭のおかしな杖を、貸してもらってやったから。
あれがなかったら。見た目だけ派手とは言え、私の魔力容量で使い続けられる術じゃなかったな」
「……それ、性能だけ聞いても凄いな。
ギルドで、そんな目ん玉飛び出るような代物、買ったり出来ん筈だが……」
ゴウセルという商人にとっては、気になる話だ。
「なんか遺跡で見つかった、古代術具(アーティファクト)だって言ってましたよ。
ギルドの調査隊が、発見したんじゃないかしら。
それを、更にギルドの錬金術師が、手を加えたとかギルマス言ってましたし」
サリサリサは、あの場で聞いた話を思い浮かべながら話す。
「あのハルアって娘っ子か。
なんか色々やらかしてるとは聞いていたが……。
下手をすると、その古代術具(アーティファクト)、元の機能ごとなくなって、全部台無しになってもおかしくない話だぞ」
「ゴウセルさんも、知ってるんですか?
俺達も、多分1回だけ会った事あるっていうか、見ただけ、な感じな人だけどな」
仲間内で苦笑する。訓練場の雑な案内を思い出して。
「ああ。何度か魔具の取引で会ってるし、レフライアが、その娘の事でやたらと愚痴るんでな。
大きく成功する事もあるが、失敗するのも多くて、差し引きゼロになるとか。
クビにしたくても、そうしたら多分生活力なくて、ただ部屋に籠って一心不乱に研究するタイプだから、ギルドが見捨てたら、家の中で餓死して見つかりそう、とか」
「?今だって、自分の家から通ってるんじゃ?」
「いやそれが、ほとんど研究棟に、勝手に住み込んでるって話だ。
それと帰る場所は、ギルドの職員用の寮だな。
あそこは、食堂とかも完備してて、栄養のバランスちゃんと管理する、腕のいい調理師がいるって話だ。
寮に帰ってないと、意味ない話だが、クビになったら、そこも追い出される事になるしな」
「なるほど」
「でも、ま、面倒見のいいギルマス様は、口ではクビクビ言ってても、実際には見捨てたりしないさ。
錬金術師だって、そうそういるもんじゃないし、な」
ノロケか、ノロケなのか?とか思わないでもない一同。
「そうですね。そもそも術士自体、全然いませんからね」
「え、そうなの?」
驚いたゼンは言って、まだ親友の面倒を見ている神術士と、先程、闘技場の観客全員の、度肝を抜く程の術を使った、魔術師を見る。
「ん?ああ、そうか。ゼンはうちのパーティーでしか、仕事してないから、ここ基準で考えてるのか。
ここは、他と比べたら、呆れる程に条件のいいパーティーなんだよ」
リュウエンが肩をすくめて言う。
自慢ではないが、事実だ。
「そうそう。だから、俺も安心してゼンを任せられたし、な。
いいか、ゼン。この世界で、魔術、神術、精霊魔術、錬金術、治療術、色々あるが、人間にその適正……才能ある奴はめったにいない、全体の2割ぐらいか。
しかも、大抵の場合が女性だ。
なんでかは、よく分かってないが、術士の割合は、女性が8割を占めている」
人間全体のたった2割が術士適正を持ち、その内の8割が女性なのだ。
なので、術士がいるパーティーの方が珍しく、全員前衛職の、超攻撃特化なパーティーだって多いのだ。
「だからギルドは、術士に色々便宜を図っているし、優遇もしてもいる。
ギルド独自の保護法、なんてのもあるが、まあこれは今は知らなくてもいいか。
エルフとかは例外で、精霊と通じ合える者が多いから、精霊魔術の使い手はかなりいる。
精霊術の使えるエルフの男女比率は、そこまで極端ではないが、それでも女性の方が多い。
逆に、獣人族が術士適正が低くて、戦士系の適正がやたら高い。有名なパーティーの前衛は獣人族が占めてたりする事もある」
しかし、結局のところ、個々人の資質に左右されるものだから、エルフで強い剣士もいるし、獣人族で凄い魔術師もいたりする。
「魔族とかでも、そうですよね~~」
アリシアも適当に話に混ざる。
「ああ。魔族は、魔神の加護もあるからな。
エルフの魔術版みたいな感じか。
魔族は、戦士系も悪くないから、魔法剣士とかいたりする。
魔族も、女性のが魔術師は多い。
だから、歴史とかで見ても、その名が歴史書に記されるほど活躍した術士は、大体女性だな。
伝説の魔女、とかもそうだし」
先程のサリサリサの魔術の補助(サポート)など、場内放送で呼び集めたのが、この広い闘技場で冒険者だって、かなりな数が来ているのだが、それでも来たのはたったの6人なのだ。
どれだけ術士が少なく、貴重なのかが分かる。
自分は、補助(サポート)とは畑違いと思った者や、面倒で行かなかった者もいたりはするのだが。
「ただ、生き物は大なり小なり、魔力自体は持っているものだ。
それは、生きる生命力と魔力源(マナ)は同質の物だから。
戦士が使う闘気、気もそうだな。
戦士は、体内でで闘気(マナ)を使い、身体強化したりする。
術士は、自分の魔力(マナ)を体外に出して、自由に操作が出来る、って感じだ。
で、生活魔術、日常魔術とか呼ばれる簡単な術なら、そこらの主婦でも使っていたりするんだ。マキに火をつける小さな火種を出したり、ひと塊の氷を出したり。
多分、ゼンもコツを掴めば、それ位は出来るようになっても、おかしくないぞ」
ゴウセルは、ゼンに根本から詳しく話して聞かせた。
全く知らない様であったからだ。
「というか、それ以前に、ここら辺の知識も、教えてあげて欲しかったんだがな」
チラと旅団メンバー達を見やる。
「あ~、すいません。そこら辺は、私らが教えておくべきでした。
つい、剣士志望だと、そっちに教育が偏りがちで……」
サリサリサとアリシアが、揃って縮こまる。
「俺もライナーと、日常的な事は、教えてたつもりだったが、色々抜けてる知識とかがあると思うんで、すまんな。
ゼンも、疑問に思った事とか、どんどん俺達や、旅団の連中に聞いていいんだからな」
「あ、うん、じゃない、はい」
ゼンは、素直に頷く。
「それと、そういうの含めて、もう俺の家に来た方が、帰宅してからの時間を、学習とかに使えるんだぞ。
お前が、俺に迷惑かけたくない、とか遠慮深いのも分かるが、そうしてくれた方が、時間が有意義に使えるし、生活だって安定する」
これは、前に言った事の繰り返しだが、どう考えても、ゼンがスラムで一人暮らしを続けるのが、ゴウセルは不安なのだ。
ゼンは今、それなりの収入のある身だ。
もし、その事に気づいた、スラムのチンピラやゴロツキに目をつけられ、そのねぐらを襲われたりでもしたら。
ゼンなら、最終的にはそうした事も、独力で何とかしてしまいそうだが、それは、単なる結果論でしかない。
事前に避けられるなら、避けられる環境に、身を置く方がいいのだ。
「ライナーも、俺の屋敷って言う程立派な物じゃないが、そこの別棟にある建物に、住んでたりするんだぞ。
他にも、社員寮とかもそこにある。
旅団の奴らの世話になって、宿暮らしってのは勧められないが……。
お前らも、いつまでも贅沢に、宿暮らしを続けるのは、長期的に見て余りいい選択じゃない。
どこかの寮の部屋を借りたり、あるいは、それなりの集団なんだから、一軒家を借りたりとか、そうやってやり繰り上手な冒険者はやっているぞ」
ゼンは、話題が西風旅団の方にズレたので、内心ホっとした。
決して嫌なわけではないが、やっぱり幸福過ぎるのは、落ち着かない、というのがゼンの本心だ。
「あ~、それは分かるんですが、俺達、特に料理がそれ程出来ないんで、今話に出たギルドの寮みたいに食堂とかあるんなら考えますけど」
それに洗濯、掃除と色々やる事はある。
それなら充分収入があるのだから、と面倒で宿暮らしを続ける冒険者は確かに多いが、それでは、後々装備を新調したりする時や、迷宮攻略に必要な、高い魔具を買う時などに、肝心のお金がない、という事態に陥(おちい)る。
「女子、二人もいるのに、料理駄目ってどうなんだ?」
少し呆れ顔なゴウセルだが、女子なら料理が出来る、と安直に考えるのもある種の偏見だ。
「え……と。スイマセン。
私もシア……アリシアも、壊滅的に料理駄目で、術方向に才能全部、いっちゃったんでしょうかね。ホントすいません……」
なんとなく、立つ瀬がない二人。
何故か謝ってしまう。
「食堂ある寮って、そんないい所あったとしても、とっくに埋まってるだろ。
いっそ、ギルドの専属になるって手も、なくはないが……」
その場合、自由に仕事を受けたりは、出来なくなる。
生活は安定はするが、色々不自由な身にもなるのだ。
「しかし、こんな風に俺が口出しするべき、問題じゃないよな。
お節介が過ぎたか」
ゴウセルは、彼等の親でも保護者でもない。
パーティー外の者が口を出すには、繊細な問題だ。
彼等には彼等のやり方がある。
それを黙って見守るのも、大人の勤めだ。
「いえ、俺達の事を思って、言ってくれているのは分かりますから、色々考えてみます」
リュウエンが、綺麗にまとめた。
中々難しいな、と内心思いながらも。
「と、こんな事話し込んでると、すぐ昼なんて過ぎちまうな」
ゴウセルは、今更気づく。
もう試合開始が近いのでは、と。
「あれ?なんか、午後の試合開始、1時間遅らせる事にしたって言ってましたよ。
場内放送とかで、流してませんか?」
サリサリサは不思議がる。
先程、運営会議室で聞いたばかりの話だ。
「いや。聞いてないな。聞き逃す事はない筈だが……」
その時をまるで狙いすましたかの様に、放送が始まった。
【あ~、、マイクテス、マイクテス。
午後からの準決勝の試合は、1時間ズラして、午後2時から始めたいと思います。皆さま、ご了承くださいマセ。繰り返し~~】
そう話している後ろで、「何でもっと早く放送しないの?延期決めたからって、安心して放送しないんじゃ、まるで意味ないでしょうが!」と怒鳴っているギルマスの声が、聞こえていた。
「……どうやら昼、今日は、運営スタッフと打ち合わせしながら、食べてるみたいだな。道理で、こっちに来ない訳だ」
ゴウセルは、乾いた笑いを見せる。
あれじゃ、内情がモロバレだろう、と。
「つまり、午後の試合で、午前の試合の再現でも、起きやしないかと危惧してるのか。
気持ちは分かるが、あれ程極端にはならんだろう。
万年3位、なんて言われちゃいるが、ビィシャグだって、ここまで勝ち残れる程の実力なのは、間違いない訳なんだがな……」
※
そして時刻は、午後二時。
中央の闘技舞台で向かい合う、二人の男。
『豪岩』ビィシャグ。
褐色の肌、3メートル近い背丈、体格も大柄で、闇夜に出会ったら、確実に逃げ出すだろう凶悪さ。
鍛え切った筋肉で、はち切れんばかりの身体に、サイズが合うのがないのか、適当にプレートメイルをばらして、張り付けた様な雑な鎧は、上半身の胸のみだ。
その腕に持つ巨大な戦斧は、別になんの効果付与もされていない、単なる大きさだけの特注品だが、彼がふるうとそれは、強大無比な凶器へと変貌する。
『流水』ラザン。
適当に伸びた、ボサボサの黒髪を、雑に頭の後ろで縛り、女性がやるような髪型になっている。
無精髭、始終皮肉げにニヤけた口元。
何故か、口に咥えた木の枝らしき物。
服は、ゆったりただ羽織っているようにしか見えない、故郷の様式だという絹布のキモノ。
剣は、腰に差した、妙に頼りなく細いカタナ。
奇妙に対称的な二人は、どちらも嬉しそうにニヤニヤ笑っている。
「今日こそブッ殺す!」
「お手柔らかに、大将……」
*******
オマケ
ビィ「今日こそブッ殺す!」
ブーーー!
解説「おーっと、ここで試合終了の判定が下されました!」
ビィ「は?ま、待て、一体何が?!」
審判「ルール復唱、『相手を殺してしまった場合』は?」
ビィ「……敗北」
解説「厳正な審査が下された模様です!それでは皆さま、次はまた3年後、さようなら~~~」
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途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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