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第2章 流水の弟子編
060.悪魔の壁(10)21~22
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D悪霊(レイス)4体が―――
「『ターン・アンデッド』!」
見えた途端にアリシアが術を発動させると瞬く間にD悪霊(レイス)は浄化の光に包まれ消える。
D歩く死体の犬が3体―――
「『ターン・アンデッド』!!」
D幽霊(ゴースト)が2―――
「『ターン・アンデッド』!!!」
D蠢く影が1―――
「『ターン・アンデッド』!!!!」
「ちょ、ちょっと待った待った!」
ゼンは、テンションが妙な勢いで上がっていくアリシアをやっとの事で止めた。
これはひどい。余りにひどい。いや、アリシアの力が凄い、うんぬんはいいとしても、こんな単調で大雑把な戦闘―――いや、こんなのは戦闘でなく、単なる作業だ。
「ん~、あ!すぐそこ“休憩室”なので、そこで話し合いましょう!」
幸いそこに移動するまで何も出なかったので、アリシアの『ターン・アンデッド』の出番はなかった。
“休憩室”で落ち着き、各々が座ってくつろぎモードに入ったところで、ゼンは尋ねる。
「いつもあんな、なんですか?」
「そうだな。随分調子がいいみたいだが」
「いつもはもう少し、取りこぼしがあった気がするぞ」
「ああ、そうね。今日は綺麗に決まり過ぎてる感じはするわ」
「調子いい~~」
前と違う所、それは、ゼンが提供したソラス・ロッド(光の杖)に装備が変わった事だろう。
(そうか、アリシアとソラス・ロッド(光の杖)の相性が、良過ぎるんだ)
ソラス・ロッドは、精神力で、光や聖属性を強めるらしいから、そのせいで余計にああも綺麗に浄化してしまえるのだ。
それは、本来なら悪い事ではないのだが、余りに一方的過ぎる戦闘には弊害がある。
「……俺は、年下だけど、外で色々経験して来たから、ここの戦闘指導(アドバイザー)みたいになってますよね?」
ゼンは一応の確認をする。
「何を今更。その通りで、俺達この層までやって来ただろ?」
「ん。エルダー・トレントなんて、ゼンがいなきゃ倒せなかっただろうな。あれ、初見じゃ攻略の糸口すら掴めんだろう」
リュウとラルクは当然だ、と頷いている。
「遠慮しなくていいから。ちゃんとみんな認めてるわよ」
「そうだね~~。ゼン君は今は戦闘の先生だよ~~」
サリサもアリシアも異存はない様だ。
「術士じゃないし、そっちの口出しするつもりなかったんだけど、なら、言わせてもらうと、今の様な戦闘を続けるのは、みんなの為にならないと思います」
アリシアがが~~ん、とか言ってるが続けよう。
「いつもはこれで、アリシアが大容量の力を持っていても、どこかで力が尽きますよね。その場合は?」
「ああ、そうなったらアリア休ませて、俺達の出番、みたいにやってたんだが……」
「……それも極端過ぎます。せっかくアリシアというメインの柱があるのに、今度はなしで戦うとか……。サリサの魔術援護で何とかしてるの?」
「そうね。そんな感じよ」
ゼンはしばらく、それらの情報を踏まえた上で思案して、結論を出す。
「やっぱり、根本的に変えた方が良さそう。アリシアが術を使える間は、みんなアリシアに依存して油断し過ぎてて、まるでゆるゆるなのが伝わって来てたから、この先、光耐性や障壁でアリシアの浄化が効かない敵が出た時、総崩れしそうな危うさを感じました」
「「「「……」」」」
誰も一言もない。実際、不死系(アンデッド)や霊的な敵はアリシアがいれば済む、との意識が強くて、油断していない等、到底言えたものではないからだ。
「アリシアがいる利点を生かしつつ、皆も戦闘に参加しないと、不死系(アンデッド)との戦闘経験だけが極端に少ない変なパーティーになってしまうし、ここだけ陣形、入れ替えましょうか。俺が下がって、アリシアが前に出て」
「え?それはそれで、危なくないか?」
リュウが心配してしまうのも無理はないが、それは通常の場合だ。
「大丈夫ですよ。アリシアの防御壁は、何もしてなくても聖性を帯びているから、不死系(アンデッド)や霊的な敵の攻撃は通じないし、ソラス・ロッドの打撃は、今まで以上に敵に効く、弱点属性の打撃になりますから、リュウさん並の攻撃になりますよ。
初級の時のボス戦闘を見る限り、アリシアの近接にそれ程不安はないと思いますから」
それに、すぐ後ろに俺がいて、何かあれば援護します、とゼンはフォローする。
「で、アリシアは、『ターン・アンデッド』は、敵が12体以上なら使う。サリサが大量の敵に魔術使うみたいに。それより少ないなら封印で。さっき、1、2体の敵でも使ってたでしょ?あれ、ゴブリンに大砲撃つような物で、もったいないよ?」
「うぅ~~。は~~い……」
少ししょぼくれているが、リュウと並んで戦うなんて事はそうはないので、そちらは実は楽しみにしてるアリシアだった。
「後は、皆の武器に光属性付与しておくのを忘れずに。不死系(アンデッド)との戦闘の定番。皆、魔力の込められた武器持ってるから、絶対必要でもないけど、攻撃の効きが違うし」
ゼンはサリサの方を向いて言う。
「ここだけ、俺が指示だすけど、いいかな?」
「はいはい、了解よ。私もリュウも、不死系(アンデッド)の時の指示なんて、まるで考えてなかったから、ここで勉強させてもらうわ」
「後、あんまりサリサの出番、ないかもだけど―――」
「それも了解。私は別に出番ないからって誰かさんみたいにムクレたりしないから」
誰かさんって誰~~?知らない~、と仲良くやりとりする二人はいいとして。
「え~と。それと、あれが使えるかな。アリシア、立って、杖構えて」
「何かな~~?」
アリシアは素直に立って、誰もいない壁の方に杖を構える。
「『光、あれ』って念じて、言葉で言ってもいいけど、で、そっちの方に杖振ってみて」
「?うん~。『光、あれ』えい!」
ソラス・ロッドから、拳より少し大きい位の光弾がかなりの速さで飛び、壁に炸裂した。
「え~~、なになに、これ?」
「杖に元々ある機能。そんなに強い威力じゃないけど、えーと、3発まで連射可能、だったかな。リュウさんの魔剣と同じ様な感じ」
あちらはリュウの“気”によって威力が変わるが、こちらは威力固定だ。強い威力ではないが、今の場合はその方が好都合だ。もしアリシアの力が反映されたら、とんでもない威力になってしまうかもしれない。
「遠距離で多少敵を弱らせるとか牽制とかに使える、かな?あれ、どうしたの?」
アリシアがまたプ~~とムクレている。
「なんでこんな便利なのが出来る事、最初から教えてくれなかったの~~?」
なにかアリシアがじたばた足踏みして怒っている。
「あー、俺も、アリシア、そんなの必要ないかな、と。ごめんね」
「むぅ~~~。ゼン君、減点1だよ~~」
「あ、ハイ……」
(何だろう?減点溜まると何か罰則(ペナルティ)とかあるのだろうか?注意しよう……)
そうして一休みした後、再出発した一行だった。
※
「え~~~い!」
何か気が抜ける様な掛け声とともの繰り出された光弾3発は、D歩く死体達に当たり、動きが多少鈍くなりながらも前に進み、こちらに迫ろうとする。
「俺がこっち3体やるから、アリア2体頼む」
「は~~い」
リュウが左右にばらけたD歩く死体の多い方3体に大剣を振る。
アリシアも、容赦ない打撃でD歩く死体2体に攻撃をする。ゆったりした声とは別で、打撃は鋭く重い。その上光の属性付きで本人の聖性が高い。D歩く死体は瞬く間に地に返る。
ラルクがその後方にいたD幽霊(ゴースト)3体にに矢を撃つが、ある程度のダメージにとどまり、D幽霊(ゴースト)は本能的に聖性の高いアリシアを避けてか、リュウの方に向かうが、すでにD歩く死体を倒し終えていたリュウは余裕でそれも迎え撃つ。
「うん、大丈夫そうですね」
とりあえず最初の群れは圧勝だ。
「ゼン、俺の弓、剣とかに比べて、効きが悪くないか?」
ラルクが戦闘が終わった所でゼンに聞く。
「それは、仕方ないですよ。飛び道具は間接付与になってしまいますから。短剣とかで参加したら、話は別です」
「ああ、そういう事か。いや、疑問に思っただけだから」
ラルクの場合、弓に光の属性が付与されている。弓矢の方ではない。そうなると付与された力を直接攻撃に生かせる近接武器と威力が違うのは仕方がないのだ。
「もう階段だから、次、22階ですよ」
通路を進むと階段の入り口が見える。
「やっぱりこの杖、凄い威力だね。D歩く死体がすぐボロボロになったよ~~」
「……アリシアが使ってるお陰もあると思うよ」
光と聖性の相乗効果なのだろう。真面目に、術なしでも全然余裕そうだった。
「それでも余り調子に乗らないでよ。シアは、すぐどこかしらでミスるかボケるかするから、心配よ……」
ミスるはともかくボケるって何するんだろう、とゼンは心配になる。
階段を上がり、22階に。
そこから歩き出すとすぐにD幽霊(ゴースト)とD悪霊(レイス)の混成部隊、合わせて15体いた。
「アリシア、浄化していいよ」
ゼンがすぐ指示する。一生懸命数を数えていたアリシアは、張り切って頷いた。
「『ターン・アンデッド』!」
綺麗に全て浄化されるが、皆ちゃんと生き残りがいないか身構え準備していた。
「数は俺が数えるから、大丈夫だよ。(もう油断もないし、大丈夫かな?)」
それからの何度かの戦闘も危なげなくこなし、これなら、と思っていた所で、強敵が現れた。
多少広めの場所で、大柄な影が歩み出る。
首のない黒毛の馬、それにまたがる、黒い甲冑の首のない騎士、Dデュラハンだ。
「アリシア、あれには浄化効かないから、使って試してみて」
「え?効かないの?じゃあいくよ。『ターン・アンデッド』!」
アリシアがすぐに術を起動させる。Dデュラハンは、確かに光に包まれたが、そこから悠然と馬を歩ませ進み出る。
「うぉ、本当に、効かない敵って、いるんだな……」
ラルクが感心した様に言う。
「障壁持ちです。散開して!馬で突っ込んで来ますよ!」
ゼンが言う前からDデュラハンは手綱握り、首なし馬に拍車をかけ突っ込んで来た。
ゼンがサリサを庇いながら、リュウがアリシアを庇いながら左右に別れる。
その中央を馬で駆け抜けるDデュラハンは、本能的に一番危険な敵が分かるのか、アリシアにすれ違いざま剣を振るうが、リュウの魔剣に弾き返される。
「俺が囮になって抑えますから、左右から馬を狙って下さい。機動力を奪わないと!」
Dデュラハンがまた馬で突っ込んで来るが、ゼンがその前に飛び出し、鋭い連撃で牽制する。
リュウとアリシアが左右に挟む感じで、首なしの馬への攻撃の機会を伺う。ラルクが後ろから風の短剣ウィンディアの加護で、凄い速度で馬の前後の脚の間に滑り込み、その腹を裂いて通り抜けた。
それに驚いた首なしの馬が後ろ脚立ちしてしまう。動きが硬直した。
アリシアが馬の腰辺りに思いっきりソラス・ロッドの打撃を叩き込む、リュウが左の後ろ脚を魔剣で切断する。
崩れる馬からDデュラハンは振り落とされるが、華麗に空中で回転して着地した。
リュウがすかさず大剣で打ちかかると、その剣を首なし騎士は余裕で受け止める。
「うぉ!す、凄い膂力だっ!」
リュウは押し負けまいと、必死で押し返すが、完全には押し返せない。微妙な均衡。
<アリシア、後ろから杖をあいつの背中つけて、浄化だ!>
ゼンの“気”で隠蔽された声がアリシアだけに聞こえる。
「あれ?効かないんじゃないの~~、えい、『ターン・アンデッド』!」
アリシアは言われた様に、リュウとの力比べで完全無防備になったデュラハンの背中に、ソラス・ロッドをピッタリ押し付け呪文を使う。
先程と同じ様に、デユラハンはリュウごと光に包まれ、そしてその後、鎧は音をたてて、まるでその中身がなくなったかの様にパーツがバラバラになって崩れ落ちた。
リュウを押し返していた剣も同様に床へと落ちる。
「た、助かった……」
床にバラバラになって落ちた鎧も、青い光の粒子になって消える。
そこに戦利品が落ちる。片手剣と、大銀貨数枚、それと高級馬肉……。
「お、今使ってたデユラハンの剣じゃないか、結構いい物じゃないか?」
ラルクが言う。
黒い片手剣は、どこか呪われていそうな気がしなくもない剣だったが、ゼンが拾って、様子見した感じでは大丈夫そうだ。
「一応鑑定に見てもらうのがいいと思いますが、多分魔剣っぽいですね。変な呪いもなさそう。当たりじゃないかな」
「ねえねえ。最初効かなかったのに、なんで浄化出来たの?」
アリシアが、「私、疑問です」な顔をして聞いてくる。
「障壁内部だったからです。馬ごと包んでたみたいだし、接近すれば術的に無防備になる、と。
あの鎧になにか効果があったとしても、関節部にいくらでも隙間があるから、浄化の光を止めるのは無理だったんでしょう」
「そっか~、うん分かった。やっぱりゼン君の言う通り、効かない敵、早速出ちゃったね。やっぱり適当に使うだけじゃ駄目なんだ~~」
アリシアは、初めて自分の浄化が効かない敵に遭遇して、少なからず動揺したのかもしれない。
「でも、倒せたのもアリシアのお陰ですよ。リュウさんも助かったし」
「ああ、ちょっと危なかったな」
リュウは苦笑して合わせる。彼も恋人の動揺を感じたのだろう。
「ラルクさんも首なし馬の腹を滑り込んで斬ったの凄かったですよ。あれで馬を潰せたみたいだから」
「おう、任せとけ」
ラルクはグっと親指を立てる。
「サリ~だけ何もなし~~」
「私はいつも頑張ってるからいいの!」
仲良く喧嘩する親友二人。
やっぱり、この『西風旅団』はいいなぁ、と再認識するゼンだった。
*******
オマケ
リ「騎士で馬持ちって反則だよな。馬もそれなり強い……」
ラ「馬肉になったがな。あれって、片手に頭持ってなかったか?」
ゼ「持ってたりいなかったりみたいで。持ってると片手塞がる上に弱点だから、持ってない方が賢明だと思いますよ。こっちは戦いやすいですけど」
ア「う~ん、久しぶりにちゃんと戦闘参加、いいね~~!」
サ「程々にね。転ばないか心配……」
ア「サリ~お姉ちゃんか!ならお小遣い~~」
サ「意味分からない絡み方しないの。もう凄く上機嫌ね」
ア「だって、楽しいんだもん~~。やっぱりみんな揃うと違う~」
サ「困ったことに、そうね。緩んでたとこも引き締めてくれたし」
ア「あれあれ、誰の事ですか~?」
サ「誰って。ゼンしかいないでしょうが」
ア「まあぁね~。ゼン君凄い偉い。後は理想の嫁を~~」
サ「いい加減になさいな。本人困るわよ」
ア「まあ、まだ早いとは思うけど~、綺麗だけど胸の平らなお姉さん紹介するぐらい……」
サ「……眠りを(スリープ)」
ア「きゅう……Zzzzz」
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