剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

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第2章 流水の弟子編

069.悪魔の壁(19)40

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 ※


「これで、従魔がある程度の増員になる事が出来ると、分かって貰えたと思うのですが」

 ゾートをしまったゼンはその場に座って言う。

「それは分かったが、一応、何人いて、何を出来るのか教えて貰えるか?」

 リュウがリーダーらしく、戦力把握に努める。

「分かりました。

 まず、俺の家事補助で、剣も使えるコボルト犬鬼 のミンシャ。スキルは危機察知とか気配隠蔽かな。

 同じく家事補助で、治癒術士兼呪術師ラミア 半人半蛇のリャンカ。完全治癒スキル持ちです。

 スカウト系で、偵察、潜入調査等が得意な、幻獣、影狼(シャドウ・ウルフ)のガエイ。影から影への転移スキル等、影を使って色々出来ます。隠蔽スキルもあります。

 幻術士で、他の魔術も多少は使える、ユニコーン一角馬 のセイン。ちょっと気弱です。

 大剣士で、魔獣・剣狼 ソ-ド・ウルフのゾート。剣狼 ソ-ド・ウルフのスキルは色々あるので、詳細は魔獣辞典とかでお願いします。妹が俺に代わって師匠の料理番してます。

 大槌使いで岩熊(ロック・ベア)のガンボ。力が強く、鉱物分解、精製なんかのスキルもあります。

 最後に、ロック鳥のルフなんですが、この子は訳あって、雛鳥の時に死にそうになっていたのを助けたので、一人だけまだ子供、雛です。魔物の成長は早いので2,3カ月もすれば、俺達全員乗せて空を飛べる様な立派なロック鳥に、なれるんじゃないかな、多分……。

 以上の7名です」

 ゼンは7人全員の紹介説明を終える。多少の抜けはあるが、重要な事はない筈だ。

 リュウやラルク、アリシアやサリサは、7人の、今聞いた職やスキル、特徴をメモした紙から目を離して一言。

「これ、ゼンと従魔で1パーティー組めちゃうんじゃないのか?」

「言われると思ってました。まず、それは無理です。ルフを戦力外としても、俺が今まで一度に実体化出来たのは5体ですが、やはりかなり消耗します。街中でチンピラを相手するぐらいなら何とかなっても、迷宮とかにはそれで行けませんね」

「従魔の実体化は、俺の弱体化、戦闘力が普通に下がる、と思って下さい。出してから1週間ぐらい静養して、従魔は出しっ放しにして、気の回復に努めるとかすれば、あるいはそれも可能かもですが。

 実体化した後の従魔のエネルギー補給は、普通に食事で出来ますので」

 結構大食いの従魔もいる。

「本来は4体持ち、内2体が同時稼働、というのが、普通の限界らしいので、その2倍近くやっている俺は異常で、その限界もよく分かっていません。爺さんにも、これ以上従魔を増やすな使い過ぎるな、どうなっても知らんぞ、と言われてまして……」

「そ、そうか。いればいるだけ出して使える訳でもない、と。中々難しいな。

 ……ところでこの、家事補助って言うのは?」

「ああ、元々、俺の、師匠の世話をする手伝いをして貰ってたので、料理とかも俺並みに上手くなっているので、そこら辺の補助をこれからもして貰おうと思ってまして」

「ふむ?今は、ラザンの世話をする訳じゃないのに、補助がいるのか?……迷宮内での俺達の食事?」

「それだけじゃないです。ここでこんな風に言い出すつもりじゃなかったのですが、話の流れだし、うん。俺がこうなったらいい、と勝手に考えていた未来予想なので、みんなに断られたらそれまで、なんですが……」

「なんだ?ともかく言ってくれ」

「言ってくれないと分からないよ~~」

「だな」

「何でも相談……」

 4人それぞれが言う。

「……皆には宿を出て、俺と、どこかの屋敷を借りて、共同生活して欲しいんです。

 まだ言ってないですよね?ゴウセルと相談しただけだったかな?宿生活の、無駄なお金の浪費を失くす事も目的ですが、その先の話もありまして、とりあえずはその提案です」

「ああ、それは聞いた様な?おや、俺もゴウセルさんからだったかな?宿で贅沢に暮らすな、って、あれは、前の闘技会の時だったか……」

 それはゼンが旅立ち前の話だ。

「しかし、結局してないのは、自炊が……、え、もしかして、それをこの従魔の子らと?」

「そうです。俺と3人で、ほとんどやりますよ。ミンシャもリャンカも軽く人の十倍は働きますから。宿とほとんど変わらない生活を約束出来ると思います」

「なあなあ、ゼン。その従魔の子達は、名前からして女の子なのか?」

 突然ラルクが割り込んで前に乗り出して聞く。

「あ、はい。後ルフの3人だけ女の子です。二人は、『ご主人様に仕えるならこの服!』とか、どこで知恵をつけたか分からないんですが、いつもメイド服着てて、まあ、今考えている役職には合ってるから、いいのかな、と思ってますが……」

 ゼンは苦笑まじりに言う。

「メイドが色々世話してくれて、3食ゼンの料理?ああ、だから、俺達に3食食いたいか、と聞いてたのか?」

「実は、そうなんです。宿の食事で満足してたら意味ないんですが」

「ヤバい、何だその天国……」

 ラルクの想像がかなり極端な楽園図になっている様だ。

「落ち着け、ラルク。気持ちは分からんでもないが。なあ、ゼン。その話、ゴウセルさんは納得してるのか?」

「一応話してあります。納得してるか、と聞かれても、あの二人が結婚したら当然同居する訳で、流石に俺も、あの自然にイチャイチャしだす二人と一緒に住むのはきついかなぁ、と。二人とも同居のままでいいじゃないか、みたいな事言ってましたけど……。

 それに、あの屋敷は、今は人いませんが、ゴウセルが商売を再開したら、前以上に人で溢れる事になると思います。そうすると、増員もしにくくなるので……」

(ゴウセルさんを慕うゼンでも、あの熱々ぶりにはあてられるか。まあ、当り前だよな……)

「増員て、もしかしてその、『クラン』のメンバー全員も、一緒の家に住まわせるつもりなのか?」

「出来得るなら。ある程度以上仲良くなって、気心の知れた相手でもないと、そんな命がけの仕事を一緒にするのは難しいですから」

「いや、言ってる事は分かるが、一体何人ぐらいのクランを想定してるんだ?」

「30人以上。6PTぐらい加わって欲しいと思ってます」

 かなりの大人数。確かに百に迫る敵が押し寄せるなら、それ位は必要なのか?

「待ってくれ。それを全部、お前と従魔では、流石に世話しきれんだろう?それに、どんな規模の豪邸を住居に考えてるんだ?」

「もう、時々リャンカとかを住居探しに行って貰っていて、丁度いい物件があったんです。話が進まないと無駄になると分かってはいたんですが……。

 昔、砂漠の国の王族がフェルズに来て、自分の護衛の騎士隊ごと住まわせる屋敷を造らせた物があるんですが、なんか政変があったとかで、結局はその王族は国に逆戻りして、造らせた屋敷も手放す事になった、というのがありまして、広くて大きすぎるので、借り手がまるでつかない屋敷があるんです。

 貴族街にないので、貴族は対象外なんです。でも、普通のお金持ちだと二の足踏む大きさで。その屋敷の掃除とか整備とかするなら、格安で貸してくれるそうです。

 格安って言っても、その規模では、の話ですが」

「うぉ~、なんか知らん間に凄い話が大きく、なのに具体的になっている気が……」

 ラルクがうめくが、あくまでゼンがそうなったら、の話をしているだけで、自分達次第で断れる話ではあるのだが。

「ゼン、その家賃はどうする……」

「あ、初年度は、俺が立て替えておきますから。人数集まったら、家賃として、月々返済、みたいな形でいいんじゃないかと」

 ゼンがラザンとの旅でいくら位貯め込んでるかは分からないが、恐らくはかなりあるのだろう。そもそも節約癖のあるゼンだ。貯蓄は万全と見るべきだろう。

「で、そこの家事全般の話ですが、手前勝手な話なんですが、スラムの子供達を何人か住み込みで雇って手伝いに使えないかな、と。地下とかに奴隷用の部屋とかあるんですが、そこを綺麗に改装すれば使えると思うので……」

「そうか。俺達は別に構わんが、嫌がる奴が出そうな気も……」

「子供達も従魔もとりあえず、俺の従者としての身分登録しようと思っているので、苦情は俺が聞きますから」

 つまり『流水の弟子』に面と向かって文句を言って見ろ、と。確信犯か……。

「むむむ。待て、話が飛び過ぎてるな。まず、俺等がB級昇格しなきゃ進まない話だ」

「すぐしますよ。少なくとも、この迷宮終わっで試験受けたらC級は確定ですし」

 ゼンは自信満々だ。

「確定なのか?」

「もう、ここの戦闘の手応えで分かってると思いますが。結構余裕で、物足りなくなってませんか?」

「え?あ、いや、そんな事はない、んじゃないかな~?サリサとかアリアはともかく」

 リュウは慌て迷う。確かに少し、そんな感じがなくもないのだ。しかし、それをそのまま言うべきかと言うと……。

「いやぁ、俺、弓で楽々だわ」

 ラルクは気楽に言う。

「お前は~~」

「ラルクさんは、本来の位置ですし、牽制、援護が完璧なので。リュウさんはきついですか?」

「あ、や、でもな、それは魔剣のお陰がかなりあるし、なぁ……」

「あの剣にしろ弓にしろ杖にしろ、使いこなせないと持ってる意味すらありません。それに、最初魔剣じゃなくても、普通に戦えてたと思いますが」

 だから魔剣なしでの戦闘もさせていた訳だ。

「それは……まあ、そうなんだが……」

「どちらにしろ、昇級は検定官が決める事です。迷宮制覇(ダンジョン・クリア)すれば、無料で昇級試験受けられるんだから、当然受けるんですよね?」

「それは、腕試しに受けるものだし、な……」

「なら大丈夫です。絶対受かります」

 『流水の弟子』からの力強いお言葉。

「……じゃあ、受かったとして、それでどうする?」

「で、承諾してもらえるなら、共同生活の始まりですね」

 とても楽しそうにゼンは言う。

「俺は……俺等にとっては、いい事ずくめの話だ。受けない理由を考える方が難しい。しかし、お前はいいのか?お前みたいに一流の剣士がそんな、冒険者の従者がする様な、貴族の侍従の様な雑事をするなんて……」

「俺は、一流じゃないですよ。せいぜいが、二流以上一流未満、ぐらい?シリウスさんやビシャグさんが本気出したら、多分確実に負ける程度です」

 たとえがおかしい。『三強』いや、今は『二強』か?に負けない剣士なぞ、少なくともフェルズにはいない。

「それに、ずっと従者やってましたし、そっちのが本業な感じなので、別に気になりませんから。みんなに喜んでもらえるなら、その方がずっと嬉しいですよ」

 機嫌良く言われてしまう。

 どうしてこうも献身的に尽してくれるのか、リュウは時々疑問になるし、それに流されほだされてもいいのだろうか?と思う時がある。

「ゼンはなんで男なんだろうなぁ。女の子ならすげえいい嫁になるのに……」

 思わず、と言った感じでラルクが呟く。同意しなくもないが、色々困る事も多いだろう。俺だって、アリアがいるし……。とリュウは無意識におかしな事を考えていた。

「そ、それはそれとして、共同生活はともかく、そのクラン用に、かなり大きめの屋敷がいいみたいだが、そんなに人、集まるか?俺達は、若過ぎてフェルズで完全に浮いてる十代パーティーだぞ」

「だから、くだらない羨望や嫉妬の対象になってますね」

「分かってるじゃないか。そんな所と、クランを組むとか、俺は人が集まらんと思うのだが……」

「分かります。だから、最初は色々と言葉は悪いですが、釣る為の条件の提示をしようと思ってます」

「釣る為の条件?」

「まず、募集はC級に話を持って行きます」

「上級の為のクランなら、B級以上じゃないのか?」

「上に上がった癖にグダグダしてる、しょうもないプライド高さばかりが極まった上級ランクの冒険者よりも、まだそこまで上がっていない冒険者の方がいいと思うんです」

 身も蓋もない話。

「ふむ。それは、分からんでもないな。B級になったとしても、上がりたての若僧とは組めん、とか言われそうだしな」

「だから、こちらがC級になったら、多分そこまでの最速記録になるだろうし、同じC級として、B級に一緒に上がる補助(サポート)をする、と、それが最初の条件です。

 見た所、リュウさん達と同じで、“気”の使い方が上手くやれてない人、多いですから、戦士系の人にはそこら辺の助言(アドバイス)とか。

 後、武器や防具の提供も出来ます。流石に、魔剣レベルのは、そうはないですが、かなり丈夫で、“気”や魔力を流しても大丈夫な武器ならたくさんありますから。あるいは、素材のみ出して、自分のお抱えの鍛冶師に造らせたり、もいいかも」

「なるほど。一緒にB級になって、その暁にはクラン加入、と」

「はい。なったらなったで止める、と言い出す所もあるでしょうが、それは仕方ないです」

「そう、だな。無理に嫌々入らせて、後で揉めても仕方ないからな」

「で、術士の方には、他に洩らさない様に契約魔術してもらって、パラケス爺さんの“疑似無詠唱”の仕方を教える、とか」

「あれは、術士には凄く実用的な技術ね。私達も今はほとんどそれだけど、ポンポン術が使え
て、詠唱してからの時間差(タイムラグ)を気にしなくていいから凄く楽で速い。確かに、あれはお金払っても教えて欲しいって言われそう」

 サリサはその実用性を知っているので、しみじみ同意する。

 そうだよね~~、とアリシアも頷いている。

「で、戦力に不安がある所には、従魔を派遣してもいいかな、と」

「俺達自身が手伝いに行くとかしないのか?そういう一時的な手助け ヘルプするって聞いた事あるが。ゼンとか呼ばれるんじゃないか?」

「それでもいいんですけど、慣れないパーティーだと、多少危険がありますよ。従魔だと、言っちゃ悪いんですが、全滅しても、従魔は戻ってきます。俺にある程度負担が来ますが」

「そ、そうか。従魔は主人さえ無事なら戻れるからな。ちょっとシビア過ぎる気もするが」

「アリシアやサリサが、他で使い潰されるとか、考えたくないでしょう?」

「それは当然だ!……あー、成程、そうか、うん。単身で手助け ヘルプは危ないな。しかし、2人以上の助けがいる所は、それ以前の問題か」

「はい。そんな戦力不足の所は最初から誘いませんから。手がどうしても足りない所を、従魔で埋める様な、そんな手助け ヘルプでいいと思います」

「後、俺は、この迷宮(ダンジョン)終ったら、従魔関係の研究の手助けとかで、フェルズからそんなに離れられなくなるかもしれないので。日帰りの野外任務位なら行けるかなぁ……。

 多分、最低でも1カ月ぐらい?」

「その話もあったのか。その期間の根拠は?」

「多分、試しのテストケースとして、B級の冒険者、男女一組か二組で、従魔を再生して、育てさせると思うんですが、それが成獣……獣系じゃないのもあるかな?ともかく育つまでが1カ月なので、それが無事、従魔として育つか、使い物になるか、みたいなのを見ると思います。

 で、成功したら、他の冒険ギルドに情報提供、そしてそこでも試して、と繰り返しだから、世界中でちゃんと従魔の技術が広がるまで、2~3か月後ぐらいになるんじゃないかと。

 フェルズでは一番早くなりますが」

「ギルドにとっても未知の技術だしな。慎重に研究して、安全や効果を確かめてから、か」

「だから、みんなも何を従魔にするか、とか考えておくといいかも。場合によっては人種(ひとしゅ)にもなりますし」

「そうなるのは一流どころだと思うが、候補を考えるか」

 サリサとアリシアが、あれがいい、これは駄目とか話している。

「で、クランの話に戻りますが、その期間、俺がフェルズで、交渉したり勧誘したりするつもりです」

 フェルズに縛られる間に、そうした交渉事をするつもりなのだ。

「屋敷には、従魔の為の厩舎とかも多分必要になるでしょう」

「出し入れ出来るのに、か?」

「出来るのに、です。入れて出す負担を考えると、出しっ放しにする冒険者が多くなるだろう、と爺さんは予想してます。実際、多分、そうなると思います」

(ゼンは例外で、それは口外禁止、か……)

「で、釣りの条件その二。その屋敷の家賃を低くする事。と、俺や従魔の子の料理の提供です」

「それは……かなり魅力的で、でかい餌だが、食わないと分からんのでは?」

「試しの試食会みたいなのをするつもりです」

(釣り、もうそれだけで充分で、凄くいいんじゃないかな?誰も断らないんじゃないかな?)

 と旅団の残り4人全員が考えていた……。



*******
オマケ

ミ「屋敷でご主人様とお仕事!これからが本番ですの!」
リ「その時の為に習い覚えた技術ですし、ね」
ル「るーも、めいどするお?」
セ「流石に無理じゃないかな?ボク、派遣、嫌だなあ。女性のみのパーティーなら。あ、でも乙女じゃないかも……」
ガ「任務忠実遂行」
ゾ「傭兵とか、いいね。悪くない」
ボ「何処でも、がんばる!」
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