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第3章 従魔研編
088.混迷(中編)
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二人が出て行くのを見送った後、女性陣は自分達の部屋に駆け込んだ。
残されたリュウとラルクは途方に暮れる。
「……今の、断るべきだったと思うか?部外者を入れるのは、とかなんとか強弁して」
「いや、無理だろ。不自然だし、それに断ったら断ったで、ゼンが悲嘆にくれた顔になって、ザラさんがそれを慰めて、とかこっちが悪役になった上で、最後は受け入れる事になってたんじゃないかね」
むしろその方が最悪だっただろ?、とラルクは言う。
二人も自分達の部屋へと戻る。秘密の話ではないかもしれないが、チーム内のプライベートな話をいつまでも外でしているのは落ち着かない。
「あの話は、軽く、最短に終わらせて良かったんだよ。変な雰囲気になりかけてたし、それ以上は、向こうの問題だろ?」
今さっき自分達の部屋に駆け戻って行った女性陣の部屋の方を指して。
「そうだとは思うが、何かもうして俺達がしてやれたりは……」
「ないない。それに、問題はサリサだ。ゼンがいくら優秀だ、大陸の英雄だのと言っても、俺等はその子供時代を知ってるからな。5歳年下の、可愛がってた男の子を、恋愛対象に見る事の、葛藤とか抵抗みたいなのがあるんじゃないのか?なまじ頭がいいだけに余計」
「……よく分かるなぁ。それだけ今の状況を見てるって事なのか?なら、的確な助言(アドバイス)とかしてやれば……」
「やめてくれ!気軽にそんな事言うなよな。こっちだって、今度のスーリアの休みには、求婚(プロポーズ)って一生に一度の重大事があって、いっぱいいっぱいなんだ。
あんなややこしくて危ない話に関わりたくないんだよ。その為の、危機回避のための観察であり考察なんだ」
ラルクは自分にどこまでも素直であった。
※
「どどどどどどどうしよう、シア、ななななんなの、これ、なんでこんな事に???」
サリサがパニくって、訳分かんなくなっていた。
アリシアも、事態が急転直下した事に驚き、戸惑っていたが、サリサ程ではなかった。
「落ち着いて、サリー。ともかく、ベッドに腰かけて、深呼吸して……」
サリサはアリシアの言う通りに、深呼吸して、吸って吸って吸って……
赤い顔してジタバタ苦しそうなサリサ。
「息吐いて吐いて、サリー、なんで深呼吸で呼吸困難になってるの~~」
「は、はぁ、だだだだだだだって、どうして急にこんな、意味わかんないわよ!」
(うわぁ、ちょっと混乱し過ぎで、逆にサリー可愛いかも……)
それはそれで、めったに見れないサリサのおも……困惑した様子なのだが、いつまでもそれでは話が進まない。
アリシアとしては、緊急手段に訴えるしかないのだ。
使う機会が余りないから、と無詠唱登録していなかった精神系の呪文を小さく詠唱し、完成させる。
「『鎮静(サディション)』!」
「あ……」
サリサのうろたえ顔がおさまり、ジタバタしていた手も動かさなくなる。
「頭冷えた?落ち着いた?心を強制的に鎮める術だよ~」
「う、うん、さっきよりかは何とか……でも……」
冷静になれたらなれたで、今の状況の大きな変化が実感されてきてしまって……
「なにやら、面白い話をされているようですね」
いつも突然唐突に現れる麗しの精霊王陛下(ユグドラシス)。
「面白くないから!もう!ややこしくなるから口出さないでよ!」
「あらあらご機嫌斜め。でも、こういう事は、全ての事を外側から冷静に見れる、第三者の意見がより有効なのでは?」
意味ありげに微笑むドーラは、サリサやアリシアとの交友を経て、日増しに人間じみた感情表現を覚えるようになっていた。
「サリー、ユーちゃんの意見は貴重だよ。本当に全部の事を見て分かってるんだから」
「む……。まあ、それもそうね。でもその助言をもらうのって、反則な気も……」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!さっきまであわあわしてたのに!」
「し、してないから、そんなには!ちょっと混乱してただけでしょ?」
あれをちょっととか言い張るのは、さすがにどうかと思うアリシアだった。
「……それは横に置いて、ユーちゃんは、今の状況をどう見てるの?」
「確かに、あの治癒術士の女性が、皆さんの共同生活の一員に組み込まれるのは、大きな変化のように見えますが、実際にはそれ程大騒ぎする話ではないでしょう」
ドーラは向かいのベッドに座り、解説する。そちらはサリサのベッドだ。
「……なんで?」
「まず、ザラという女性の主な目的は、スラムの子供達の事、スラムに関わる事をしたい、というのが大前提で、ゼンという少年と同居出来ることに、勿論喜びはあるようですが、この状況を利用してとか、そんな気持ちは一切ないのです。
彼女は、スラムからいきなりフェルズの平和で裕福な“こちら側”に連れて来られて、今まで考えた事もないほどの恵まれた生活を送れるようになっています。
その事に対して、自分がどれ程苦労して来たかは棚に上げて、今もスラムで生活する者達に対して、一方的な罪悪感を覚えているのです。だから、時間を見つけてはスラムに行き、子供達の相手をしたり、病気や怪我を癒したりしているのですね」
解説しながらベッドにあった枕を抱えて撫でている。
「偉いね~。でもゼン君みたいに自分を顧みないで、自己犠牲しちゃうところが、行き過ぎてるかなぁ~」
「で、ゼンという少年は、もっと色々考えているようで、ところどころブロックされて読めない部分もあるのですが、彼も、スラムの子供達の心配をして、時々様子を見に行き、多少のほどこしをしているのですが、その事を余り良くないと考えています。
何も仕事をせずに、安易にただで食べ物等がもらえてしまう事を覚えさせてはいけない、と考え、だから、使用人として雇い、働かせる事で、労働と対価の意味をちゃんと学ばせたい、と思っているのですね」
モギュモギュ。
「ふわぁ。そんな風に考えてたんだぁ~」
「あいつらしい、と言えばらしいわよね……」
「なので、ザラという女性と同居する事自体には、こちらも喜びはありますが、それは男女の恋愛的なものではないです。
むしろ、ザラという女性の恋は、かなり前途多難ですね。彼にとって彼女は、自分の命を二重三重の意味で救った命の恩人です。尊敬しているし、崇拝にも近い、返し切れない恩義のある、本当に“大切な人”という聖域に置かれています。
これを、俗な“恋”だの“愛”だの、という位置まで引き下げるのは、容易な事ではないでしょう」
切なそうに枕に頬ずり。
「あらら。ちょっとそれは、可哀想、かなぁ?」
「……だから、“特別”とか言ってたんだ……」
サリサは段々ドーラのしている事が気になるのだが、話の方が重要なので、止め時を見失っている。
「それでも、同居するという事は、日常的にとても近くで暮らす事。この先どう転ぶかは、その人のとった行動次第、努力次第、とも言えますね」
ドーラはそう悪戯っぽくウィンクして笑う。油断するな、と釘を刺してくれたのだろう。
「うん、そうね。ありがとう。……だから、そろそろ私の枕に悪戯するの、やめてもらえないかしら」
「あらあら無意識の内に。これ、リサの枕でしたか。……持って帰ってもいいですか?」
「いい訳ないでしょ!こっちは勝手にして!」
サリサは乱暴に自分の枕を取り返すと、アリシアの枕を代わりに渡す。
「うわ、サリー、ひどい、あんまりだよ、それは」
「まあまあアーちゃんの枕は持って帰っても?」
「そこまで言ってない!」
(閑話休題)
「……それじゃあ、サリーはもう自分の気持ちをちゃんと認めて、これからは新たに攻めるんだね~」
アリシアは張り切っているが、サリサは違う。
「……私は確かに、あいつに対してモヤモヤした想いがある。それは確か。でも……」
サリサはキっとアリシア達を見回して、はっきりと言う。
「……私としては、この感情をはっきりと何、とか定義したくないの!」
内容はへたれて情けないものだった。
「この期に及んでなに往生際の悪い事言ってるの~」
「うるさいうるさいうるさい。私はね、駄目なの、怖いの。それをハッキリさせてしまうと、私が築き上げてきた土台が根底から崩されてしまうようで……」
(乙女だなぁ。それはそれで可愛いけど、今はそんな場合じゃないのにな~)
「でも、戦略的に絶対優位だと思っていた立場が崩れてゼロになったんだよ?追い詰められてるのに、そんな悠長に…」
「ゼロとか言うなぁ~~!ゼロは何かけてもゼロなんだからね!少し悪くなっただけよ!」
「……ゼロではないにしても、かなり悪くはなってるでしょうが。ザラさんが特別なのは変わらないんだし、それが別な意味の特別になる事だって、あり得るんだよ?」
「わ、わかってる……つもりよ」
モジモジもごもご言ってるのは、本当に分かっているには程遠い感じだ。
二人はまったく気づいていなかった。ドーラが、ゼンの、ザラ以外の者に対しての気持ちをまったく言及していない事に。
「む~~。それをハッキリさせないでじゃあ、どうするって言うの?」
「相手にハッキリさせる!」
サリサはこれしかないでしょ、とドヤ顔だ。
「え~~?!」
「それで全然問題ないでしょ!向こうが言い寄って来るのならまあ、私も、考えないでもないって事よ」
「うわ、なんで急にそんな上から目線になるの~??」
「こういうのはそういう物でしょ!惚れた方が負け!だから、私はまだ自分の気持ちを確定しない!」
「偉そうに言ってもグダグダだよ?さっきまで凄い慌てふためいた、挙句の結論がそれなの?少なくとも、私達にはもう隠せてないじゃない。周囲にだって、分かってる人は分かってるよ?」
アリシアは珍しく、厳しく言う。
「~~~っく。それでも、私はそうするの!」
「信じられない。もうサリーの頑固者~」
「頑固結構。それでもシアは、私の応援してくれるんでしょ?」
「む~~。そりゃまあ、応援はするけどさあ、なんか納得いかないなぁ……」
「ドーラは?」
「私ですか?私としましては、リサが誰かの物になるなど、考えたくもないのですが、恋人は“一時”枠、親友は“永遠”枠ですから、乞われるのなら、多少の協力は惜しみません」
控えめに言うが、求められなければ何もしない、と言っているに等しかった。
「いや、親友だって別に、永遠や一生とかじゃないと思うけどね……」
※
そうしてなんやかんやと時間は過ぎ、日が低くなり、夕日になりかかる頃に、ドアにノックの音がした。
「夕食……にしては少し早いかな。どなたですか?」
「えーと、俺、ゼンです。ちょっといいかな?」
ドタバタだらしなくなっていた服装を整える。アリシアを見ると頷いている。
「は、入っていいわよ」
鍵はかけていなかったので、その声でゼンは部屋の中に入る。精霊王(ユグドラシス)を見て、ちょっと戸惑いを見せたが、まあいいか、とつぶやき二人の所まで来る。
「あ、ザラさんは、どうしたの?」
「先に帰ってもらったよ。本当は治癒室に戻るのを連れて来てしまったから、無断欠勤扱いになってしまうかもしれないし」
明日、口添えするつもりだが、今日はとりあえず、こちらが優先だろう、と。
「そう。で、どうしてまたこっち来たの?何か忘れ物?」
色々話せた後で良かった、直後だったらとんでもない事になったかも、とサリサは内心考えつつ、表面上を取り繕ってゼンと話す。
「うーんと、さっき話してた時、サリサとアリシアの様子がおかしかったから、やっぱり反対なのかなぁ、と思って、今日中に聞いておきたいと思ったんだ」
ゼンは、精霊王(ユグドラシス)を員数外とする事にしたようだ。いてもいなくても、世界全て(?)を把握している様な存在を気にしても仕方ないと。
「あ、あー、それは、えーと……」
今日いきなり戻って来ると思っていなかったサリサは、何をどう言えばいいのか、とっさに思いつかなかった。
「あのねー、ゼン君。反対ではないのだけど、問題があるの~」
アリシアが横から助け船を出す。それが本当に助けかどうかはともかく。
「問題?なにかな?事前に解消出来る事ならいいんだけど」
「うん、それはね~。サリーの個人的な問題なの!だからサリーと二人で話してね!」
そう言うと、精霊王(ユグドラシス)の手を掴んで、二人でサッサと部屋を出て行ってしまった。
「……で、サリサの問題って?」
(ふんぎゃあ、シアってば、何考えてこいつと急に二人っきりにとかするのよ!心の準備も何もあったもんじゃない~~!)
「え、それは、あの、その……」
「うん?」
ゼンは、時間がかかりそうかな、と思って、サリサの向かいのベッドに座る。精霊王(ユグドラシス)が占領していたので座れなかった、そちらはサリサのベッドだ!
「あ、あ、あ……」
(せ、狭い……この部屋は狭い、密室、匂いもこもって……私の汗の匂いするかも!)
羞恥に耐えられなくなったサリサはゼンの手を掴んで、さっきのアリシアのようにゼンを引っ張って部屋を出る。
「わ、痛っ……」
その際、ドアに張り付いていたアリシアがドアに顔をぶつけていたがどうでもいい。
ゼンの手を引いて、宿も出る。
「サリサ、どこまで行くの?」
ゼンが聞いてくるが、サリサも明確な目標があった訳ではない。とにかくあの、自分の匂いのこもった部屋から少しでも遠ざかりたかったのだ。
ズンズンと無言で歩くサリサに、仕方なくゼンも合わせて歩く。その先に、小さな噴水があった。街の各所にある、ゼンが知るのとは別の噴水。
人との待ち合わせや、恋人達の語らいの場にでもなっているのだろうその場所まで来て、サリサは“ここに”する事にした。
ゼンの手を離し、印を組んで、呪文を唱え、即興の魔術を使う。
「『~~』!」
聞き取れない言葉で発せられたそれは、すぐに効果を発揮した。
その場にいた全ての人が、フラフラとそこを離れていく。噴水のへりに座っていた者も同様に、立ち上がってどこかへと去って行く。
「ひ、人避けの呪文。しばらくここに人は来ないわ」
「……こんな事して、いいのかなぁ。直接害になる訳じゃないにしても……」
「いいから、そこ座る!」
「はい……」
噴水のへりに、ゼンは大人しく座る。サリサもその横に座る。
「……で、話、するんだよね?」
「ももも勿論、するわよ!」
と意気込んでみても、何か考えがあってここまで来た訳ではないのだが。
*******
オマケ
綺麗で素敵なリャンカは…
ミ「させないですの!」
リ「あー、何、自分は勝手した癖に、人の妨害してるんですか?!」
ミ「それとこれは話が別ですの!」
リ「ずるい、汚い!」
ミ「あ~あ~、聞こえないですの」
(耳ふせている)
リ「……あ、主様、駄犬がひどいんですよ」
ミ「どどどどこですか?ご主人様は!」
リ「聞こえてるじゃないですか、この犬はー!」
ミ「罠とは卑怯なり、ですの!」
(今日も延々終わらない)
ル「かわいいるーは、一日中主さまとあそんで、なでなでしてもらいました、おわり~、おー!」
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