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第3章 従魔研編
119.アルティエールの策謀
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猛きハイエルフ、アルティエール・ブラフマスは困っていた。
せっかくお気に入りの玩具が手に入る所だったのに、諸事情で手に入らずに、無茶な方法で手に入れる事を禁じられてしまった。
(朝の朝食も格別で、最高級の専属料理人も、兼任させられると思ったのじゃが……。
強引な方法で駄目なら、比較的穏やかな、合法的手段で、手に入れるしかないであろうな)
「メリッサ、気に入った雄を手に入れようと思ったら、主ならどうする?」
食後のお茶を飲む、付き人のエルフに質問してみる。
「あのあの……。わ、私では、経験不足で、分かりません……」
「さも、ありなん、か……」
恐縮するメリッサには、鷹揚に手を振っておく。
そういう欲望の薄いエルフに聞いた、アルティエールが間違っていた。
「アルティ殿には、意中の殿方でも出来ましたかな」
竜人の若僧が、馴れ馴れしく話しかけて来る。
「まあ、のう……」
「今日はちゃんと服を着てらっしゃいますし、恋は乙女を変えますね」
竜人の妹、コルターナは、いかにも分かってます、とにこにこ笑顔だ。
とりあえず、その誤解を解く気合が、今はない。
あの精霊の親玉に、無駄な感情を刷り込まれたせいなのだが、その説明は、他にはしたくないのだ。
「殿方を落とすには、まず、その方の弱点を掴んだり、借りを作らせたりして、それをきっかけで、頼み事を出来る環境に、追い込むのがいいと思いますわ」
蜥蜴モドキのメスにしては、中々賢いようだ。悪くない。
兄は、妹の知らなかった暗黒面を見て、茫然としている。
(修行不足じゃな……)
しかし、昨日の今日で、アレがアルティエールに、何か頼み事をして来る可能性は……。
「……ちょっと良いですか、アルティエール様」
何となく、視線を逸らし気味でゼンが、なんと、向こうから自分に話かけて来た。
「何の用かのう」
アルティエールは、すぐ飛びついたりはせずに、ゆっくり様子を伺う。
(急いては事を、なんとやら、じゃ)
「込み入った話なので、後で、自分の部屋に来てもらえますか?」
「ほう。まあ、聞くだけならいいじゃろう」
(チャンス到来、じゃ!)
※
ゼンは困っていた。
昨夜、精霊王(ユグドラシス)が、アルティエールをちゃんと説得出来ているか、分からないのだが、なんとか彼女をギルマスに引き合わせて、伏兵うんぬん、の話をしてもらいたいからだ。
その前に、確認もしなければいけない。
もし、アルティエールの感知しているのが、例の店にいる者達であるなら、手助けは必要ないのかもしれない。問題は、分かりにくい“草”の者達だからだ。
幸い、今朝のハイエルフ様の様子は、不機嫌な感じで、これからゼンに何かしてきそうな気配はない。
精霊王(ユグドラシス)がどういう話をしたかは知らないが、説得は、功を奏したのだろう。
と、言う事は、機嫌を損ねている彼女に、頼み事をしなければいけない訳で、それはそれで難しいのだが、昨夜のように戦わなければいけないよりは、まだマシだ。
そう言えば、今朝方、『破邪剣皇』のリーダー・ガイが、大火傷をしているのが見つかったが、それを誰がしたかも、どうしてそうなったかも、大体の者が分かっていたので、別に騒ぎにもならず、治癒術士に治癒されていた。
自業自得としか言いようがない。
扱いを間違えれば自分もそうなる、火薬庫の様な人物なのだ。
ゼンも、物言いにはくれぐれも注意して、事にあたろう、と思うのであった。
※
「……それで、話と言うのは何じゃ?」
アルティエールは、ゼンの部屋のソファで、偉そうに足を片膝に乗せて、いかにも大仰に、話を仕方なさそうに聞く態勢なのだが、何だかその態度が嘘臭い。
実は興味津々、みたいな感じだ。
ゼンとしては、猛獣の餌係にでもなった気分だ。
「……アルティエール様、今日は服を着ていただいている様で、大変お似合いですよ」
昨日と同じ服だが、とりあえず社交辞令から入る。
「……お主らの文化に合わせて、仕方なく、な」
なんだか、耳がピクピク動いているが、あれは機嫌がいいサインなのだろうか、それとも逆?気のない素振りをしているが、怒ってはいない様なので、機嫌はいいのだろう。
「ありがたいです」
未成熟の真っ平な身体でも、堂々と出されると、常人としては、ギョっとせざるを得ない。
いや、一応幻術で隠してはいたのだし、露出趣味はないのだろう。
「それで、話とは?わしも暇ではないのじゃ」
何かご予定が、などと切り返してはいけない。
「はい。ご多忙な時間を割いていただき、ありがとうございます。
実は、昨日、アルティエール様が話されていた、伏兵の話なのですが、その伏兵と言うのは、街の三か所の店にいる連中の事、でよいのでしょうか?」
「集まっているのはそこかもしれんが、街のいたるところに、バラバラにおるではないか。普通の市民共に混じって」
やはり、“草”の者でも、ハイエルフの感覚、もしくは能力で感知出来るらしい。
「実は、その伏兵共を一掃する計画が、今現在、冒険者ギルドで進行中なのですが、こちらはアルティエール様のように、鋭い感覚の持ち手がいないので、市民達に混じった連中の特定に、手こずっているのです」
「ふん。人間どもの鈍い感覚では、その程度かもしれんな」
調査に当たっているスカウトには、エルフも多数いるのだが、いちいち言わない方がいいだろう。
「はい。ですので、是非、ギルドマスターに会って、その情報をご教授してもらえないでしょうか?」
「……それは、つまり、わしに借りを作る事になるが?」
「ええ。冒険者ギルドが」
「今、わしに頼んでおるのは、子猿ではないのかえ?」
「…………そうですね。俺個人も、アルティエール様に借りを作る事になります」
どうにも、言いたくない事を、強制的に言わせられているが、仕方ない。
アルティエールは、それを聞いて、ひどく嬉しそうに、ニタァと物騒に笑う。
それを見ただけで、すでにゼンは深く後悔をしている。
「ではまず、子猿にはわしを、アルと呼ぶのを許す」
「アル……様?」
「敬称はいらん。敬語もいらん。光栄に思うが良いぞ」
「は、はあ。では、ありがとう、アル」
「うむうむ」
アルティエールは、満足げに頷く。
危険度Sクラスの魔獣と、親しくするような気分で、心臓に悪い。
「ところで、お主と一緒に料理をしているメイド達。“あれ”はなんじゃ?魔族で、あのように、人種(ひとしゅ)に進化した者など、わしでさえ見た事もないのじゃが。
おまけに、お主と霊的に繋がっておるように感じられる」
(うわ、そこまで見えるのか。ハイエルフの超感覚は、やはり本物だ……)
「えーと、ですね。今、『従魔再生契約技術』というのが解明され、ギルドの研究棟でも研究されているのですが、魔物を倒した者が―――」
ゼンは、“従魔術”の事について、アルティエールに詳しく説明する。
これは、もうすぐ秘密ではなくなる技術だ。話す事自体は、大丈夫だろう。
聡いハイエルフに隠し立てしても、後々困る事になりそうだし。
「ほう。そのようなシステムが魔石に。神々も、凝った仕掛けを隠すものじゃ」
「で、今は、本来ならもうすぐ実験も終わり、上位の冒険者に情報公開が出来る筈だったのが、このフェルズの上位冒険者は、アルの言っていた伏兵の組織に、洗脳、とまではいかないまでも、精神汚染された状態である事が判明したんだ」
「ああ、上の者達が、妙に荒く、好戦的なのはそのせいだったかや」
(好戦的の塊りみたいな人に、そう言われるのか)
「うん。だから、情報公開前に、その勢力を一掃したい訳なんだ。
いつかはそちらに情報が流れるにしろ、今、解明し、普及しようとしている状態で流れるのは、人間側としては困るからね」
「あいわかった。敵側の人員を特定し、一網打尽にしたい訳じゃな」
「その通り。これから俺は、ギルドに行くから、出来れば一緒に来て、ギルマスに紹介させて欲しい。俺の、義母になる人でもあるから」
「なんじゃ、それは?」
ギルマスの事は知っていても、その結婚相手までは知る訳がない。
「俺を養子にしてくれた人と、ギルマスが結婚する予定なんだ。だから、血とかの繋がりは全然ない、義理の関係なんだけどね」
「ほほう。すると、わしと子猿も親戚関係になるのう」
「…………凄い、遠い、薄い関係な気がするけど、そうなるかもね」
「わしは血統の大元。言わば長、大長じゃぞ?」
「エルフ的には、そういうものなのかな」
嫌な流れだ。
「ところで、その従魔術じゃが、お主の様に、人種(ひとしゅ)までの最終進化を果たすのは、そうない事であろう?」
「……よく分かるね」
「当り前じゃ。あのような者が、そうゴロゴロ生まれる訳が、なかろうて」
「俺以外だと、俺の師匠とか、後S級に近い人とかで。どうも、質の問題じゃないかって、今では言われてる」
「じゃが、お主はS級にまでは至ってないようじゃが?」
「うん。だから、特別な“質”があるんじゃないか、って。
それで、魔物が人種(ひとしゅ)まで進化出来るって話は、教会が騒ぎそうだから、今のところ秘密事項になっているんだ」
「ほうほう、成程な。確かに、教会が騒ぎそうなネタではあるのう。
その従魔が、例外的に多数いて、全部が人種(ひとしゅ)の従魔な子猿は、絶対的に秘密にしたい訳じゃな?」
「……そうだよ」
「つまり、これは子猿の弱みになる訳じゃな?」
「そうですよ!でも、一族の長老であらせられるアルを信頼して、明かしたんだからね」
実際は、別に信頼したからではなく、話の成り行き上、明かさない訳には、いかなかっただけの事だ。
「うむうむ、よくわかったぞよ」
なにか凄く機嫌が良くなり、ニタニタ笑っているアルティエールを見ると、信頼など吹き飛びそうな感じしかしない、ゼンなのだ。
※
ところ変わって、ここは、冒険者ギルド東辺境本部の、5階の執務室。
「あら、ゼン君。今日は早くからどうしたの?」
フェルズのギルドマスター・レフライアは、すぐに面会を受け入れてくれた。
余程大事な事でもないと、ゼンが自分に会いに来ない事が分かっているのだ。
「アル。認識阻害を解いて。
こちらは、エルフの始祖のお一人、ハイエルフのアルティエール・ブラフマス様です。
ギルドマスターの、祖にあたる人だそうです」
ゼンは自分の隣りの、同じぐらいの背しかない、一見少女な人物を紹介する。
「うむ。わしが、アルティエール・ブラフマスじゃ。以後、よしなに」
レフライアの対応は早かった。
すぐに椅子から立ち上がり、こちら側に来ると、片膝をついて礼をする。
「偉大なる始祖様、お会いできて光栄です」
エルフとしての自意識は低い筈のレフライアだったが、何か祖母に言い含められてたのかもしれない。
呆気に取られていたファナだったが、すぐギルマスの隣りに来て、同じ様な礼をしている。
彼女は初対面ではないが。
「うむ。よいぞ、ギルドマスター。以後は普通に対応してくれ。わしも一冒険者じゃて、な」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
言うと、素早く立ち上がって、執務机の椅子に戻る。
「彼女は『古(いにしえ)の竜玉』というパーティーで、アルティという精霊術士として登録されています」
「ああ、貴方のクラン勧誘の……」
ギルマスは、クランの勧誘予定まで把握していた。
「それでアルは、どうも、ハイエルフ特有の感覚なのか、このフェルズにいる、全ての敵の特定が出来るようなのです」
「造作もないのう」
子供のように得意気なアルティエール。
「それは、“草”も?」
「“草”も、です」
そこで、ようやくゼンが、わざわざこの大物ハイエルフを、ギルドまで連れて来た意味が分かるのであった。
アルティエールは驚くべき事に、今この場所にいても、フェルズ内全てが感知区域内であるらしく、敵の人数から名前、偽名も本名も、全てが分かるようだ。
秘書のファナが、速記でアルティエールが並べていく名前を、全て書き留めていく。
レフライアは、フェルズの地図を出し、書かれた名前の人物が、何処に住む、何の職業をしているのか、等を調べ始めている。
それなりに、長い作業になりそうだ。
ファナは、朝からお風呂に入り、こちらに出勤して来たのか、テカテカした肌に、滑らかな髪からは、かすかにフローラルな香りがしている。
昨日の話は、ドワーフのガドルドから聞いた。
ドワーフの鍛冶王が、ゼンの提供した素材を買った話。
勿論、ゼンは知っていたが、それが『剛腕豪打』との交渉に使えるとは思わなかった。
気遣ってくれたファナには、本当に感謝なのだが、何か、ここ数日のファナのゼンへの対応が、前よりも、印象的に、なのだが柔らかく、優しくなっている様な感じがする。
レフライアは、ゼンの義母に、いずれなるのだが、ファナ的には、ゼンはあくまでゴウセルの子であり、レフライア命な彼女にとっては、結構どうでもいい扱いだった気がするのだが、どこで変わったのだろうか?
何かあるとすれば、レフライアがファナに、何かを言ったのではないか、と思われるのだが……。
ともかく、ここにいても、ゼンが手伝える事はないだろう。
従魔研に行く旨を、メモにしたため、レフライアのデスクに、見えるように置く。
レフライアが頷くのを見届けた後、ゼンは、アルに手を振り、執務室を退室した。
*******
オマケ
ハ「昨日はゼンがお休みで、つまらなかった~」
エ「え、まあ、そうかしらね」
カ「シラユキも寂しかったわよね?」
シ「ガウ!」
ハ「さすがに雪豹、結構大きくなったね」
エ「単体だとC級だけど、群体ならB級超えの強い魔物なのよね」
カ「ええ。でもシラユキは女王だから、群れに会っても大丈夫」
ハ「支配種かぁ。凄いね」
カ「大きくなっても、まだ甘えんぼだけど」
エ「ハルアと一緒ね」
ハ「えー、なんでさ。ボクは、誰かに甘えた事なんて……」
エ「始祖様のとこ、よく行ってたじゃない。あそこ、本当は行っちゃいけない場所なのに~」
カ「度胸が凄いわよね」
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エ「あの方、凄い怖いわよ。ハルア、感覚が麻痺してるんでしょ!」
カ「怖く思わないエルフはいなかったわね」
ハ「え~、そうかなぁ。ハル坊ハル坊って、よく可愛がってくれてたよ?」
エ「禁忌の穴を抜けて、原初の森に行ったのなんて、あなたぐらいよ」
カ「行けた、って事は、何らかの資格を持ってたのかもね」
ハ「えへへへ。じゃあボクも、末はハイエルフだ!」
エ「あれって、なれるものじゃないでしょうに……」
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