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第3章 従魔研編
120.ゼン教官の従魔教室3.
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「―――従魔術の従魔について、パラケス翁からの連絡で、ひとつ新たに確認された事があるので、お伝えしておきます」
一日、クラン勧誘会の為に、休みをもらってからの、従魔研での講習。
「従魔術の従魔に魔石はなく、魔石は、主人自体がその役目になるのだろう、とお伝えしていたと思うのですが、パラケス翁は、従魔術の従魔に、魔石ではないが、魔石の様に、主人の力を受け取って、自分の全身に流す役目の、いわゆる『核』というべき器官、部位、なのかな?
が、ある事を、確認したようなんです」
ゼンは、パラケスと通信魔具で話した内容を、思い出しながら言う。
「これは、パラケス翁と同じで、従魔推奨ではないスライムを、実験的に従魔にした冒険者が、した実験で分かった事です。
スライムは本来、弱点部位もなにもなく、核である魔石を狙って倒すのが常道です。
ですが、従魔になったスライムには、それがないので、何処を斬っても、いくら細切れにしても意味はない、と、なってしまいます。従魔スライムの不死身性ですね。
スライムは、魔石でない場所を斬ったり、ちぎったりして分裂しても、すぐに繋がって戻ってしまいます。
一気にその身体全てを燃やし尽くす、蒸発、消滅攻撃でなければ、従魔スライムは死なないのか。
従魔スライムの不死身性を試す為に、少しずつ切っていた時に、スライムが致命傷を受けて、自分の中に戻った事で、はっきり明確に、『核』という物があると分かったのです」
そこでゼンは言葉を切り、被験者を見回す。理解出来ていない者はいない。常識的な話しかしていないので、当然だ。
「実際、“気”の流れを細かく、繊細に感じ取れる人なら分かる事です。
試しに、自分の従魔の“核”がどこにあるか、確かめて見て下さい」
ゼンに言われて、被験者の4人が、それぞれ、自分達の従魔4体とにらめっこ状態をする。
その中で、一番大きな身体に成長したのは、フォルゲンの従魔、白銀狼(シルバー・ウルフ)のシルバだ。もうフォルゲンの2、3倍の体躯だ。
白銀狼(シルバー・ウルフ)だから、『シルバ』なんて、安直な名前をつけられているが、その頭部には、輪の様に銀の色が濃い毛並みがある。
フォルゲンのシルバも、カーチャのシラユキと同じで、白銀狼(シルバー・ウルフ)の王、支配種だったのだ。
白銀狼王(シルバー・ウルフ・キング)と呼ばれる個体だ。だから、身体も普通の白銀狼(シルバー・ウルフ)より大きい。
青銅狼から進化させた上に、支配種にまでしていたのだから、元々“気”を集中的に使うフォルゲンには、従魔再生術は、丁度相性のいい作業だったのだろう。
それに、その前の日に、ゼンに“気”の強化を叩きこまれた。それらが相乗効果となって、白銀狼王(シルバー・ウルフ・キング)にまで進化出来たのだろう。
それで、カーチャがまたスネないか、心配したゼンだったが、もうそんな事はなかった。
カーチャは、雪豹女王(スノー・パンサー・クィーン)のシラユキを、自分の愛する唯一の従魔として可愛いがっていたので、他は本当にどうでも良さそうだった。
今も、真剣に雪豹女王(スノー・パンサー・クィーン)のシラユキを、じっと見つめて、その力の流れをたどっている。
「……胸の方にあるみたいです」
「俺もだよ、し…教官」
どうして、未だに言い間違えそうになるのだろう……。
「私のクロマルも、胸ね」
オルガも、力強く頷く。
大体魔石は、心臓の近くにあるので、正確に見えているようだ。
「ピュアは、頭部、額近くですね」
マークは、ピュアと顔をつき合わせて、お互いテレテレしながら言う。まるで仲の良い親子だ。
「ハーピィの魔石は、何故か頭部にありますね」
全員、優秀な冒険者なので、従魔の“核”の確認が簡単に出来た。
「主人が、従魔の弱点を狙われない様にする、というのは難しいと思いますが、一応気にとめておいて下さい」
「……これって、何の意味があるんだ?」
フォルゲンが不思議そうに尋ねて来る。
「例えば、スライムや、幻獣系みたいに、核の魔石がなければ中々倒せないような魔物が、従魔になっても、同じ方法で倒せるって事の確認だよ。
もし、それがないなら、そういう系統の魔物が従魔になったら、倒し様がなくなるぞ。
ガス・クラウドとか、気体系、霧系、霊関連とか。従魔にしても、命令に従わせるのが難しいのが多いが、それに核がないなら、魔術や大きな力で全消滅、とかしか手がない事になる。
前衛の物理攻撃陣は、手の出し様がなくなって、かなり困るぞ」
「でも、そんな大事な事が、今更分かったんですか?」
「あー、いや。核らしいのがある、っていうのは、力の流れ見れる人は多いから、前々から分かってはいたけど、自分の従魔の核って、斬ったりしたくないし、人にも斬らせられない人が多くて、確認が出来ていなかったのです」
ゼン等は、直接言葉で文句が言われるし、頼めば我慢してくれる従魔ばかりだが、ゼン自身の方が、それをしたくない、させたくない、派だったのだ。
「あー、そりゃ、そっすよね」
「私達も、確認の為に、自分の従魔を一回殺す、なんて事は……」
もう従魔の大事さが、身に染みている者ばかりなので、共感する他ないのであった。
「だから、志願者が、痛覚のないスライムで試した、という訳です」
パラケスは、今も協力者を募って、色々と研究を続けているらしい。
「でもそれって、従魔と人が戦う、対人戦を想定しての話ですよね。そういう事って、起こり得ないんじゃないですか?
冒険者が冒険者を、って、喧嘩ぐらいならともかく……」
オルガが、その状況を想像して、疑問に思う。
「冒険者同士だって、何が起こるか、絶対なんて想定は出来ませんが、それよりも、従魔が悪用される、その事自体は、多分、この先いくらでも起こり得る問題だと思いますよ」
「この子達を、悪用するなんて、あり得ないんじゃ?」
ちょっと、従魔愛で盲目的になっているカーチャが、怒り顔で言う。
意外に事に、他もそういう表情をしているのが多く、冷静な判断力がなくなっているんじゃないか、と心配になるゼンだ。
「そんな事は、残念ながらないです。
何か新しい発見発明等があった時、それをそのまま素直に使うのが普通ですが、それを悪用する奴も、悲しいかな、この世界には沢山いるでしょう。
例えば、解毒がしにくく、判定も難しい新しい毒が発見されたとします。
その毒で人殺しをすれば、まだ毒の存在が知られていない世界では、完全犯罪となる。
どうしても排除したい相手、憎くてしょうがない対象なんて、大抵は、一人ぐらいいたりします。
そういう相手がいて、誰にもバレずに実行出来る手段があった時、自制出来る人、というのは、少ないものです」
少し主題と違うが、新しい『従魔』という便利な“手段”を得た時、人は何をするか、という話なので、間違ってはいない。
「また、そんな重大な話でなくとも、例えば小さなリスやネズミの魔物を従魔にして、人では入り込めない様な所に入らせて、盗みを働かせる等、何か、悪事に利用する手段はいくらでもあります。
ここしばらくは、従魔術は、冒険者ギルドの独占的な技術で、冒険者以外がそれを手に入れる事は出来ないでしょう。
でも、この半年先、遅くとも1年先には、従魔術は、世界の各技術、学問機関に売り渡され、公開される事になります。
そうしたら、冒険者以外の従魔持ちも、この先、限定的ではあっても、かなり増える事になります。
そうすると、ただ、魔物を相手に戦う以外の、別の使い方をされてしまうのは、避けようがないんです」
「冒険者ギルドで、従魔術の独占、管理を続ける事は出来ないんですか?」
マークは、それが一番いいと思い、発言する。
「それは、無理ですし、やってはいけない事でもあると思います。
一つの新しい知識、技術を、世界的な組織とはいえ、冒険者ギルドのみ、で独占というのは、周囲からは、悪と見なされるでしょう。
世界的な非難が、冒険者ギルドにいくら正当性があっても、集中する事になりますね」
「そうなんですか?」
オルガも不思議そうな顔をしている。一冒険者な彼等は、組織や国家規模の話では、ピンと来ないのかもしれない。
「どうしてかというと、従魔によって、冒険者ギルドは少なからぬ利益を、そこから得てしまうからです。
冒険者が強化されれば、それだけで、ギルドに売られる魔石、素材の量は、単純に考えても、かなり増えます。
他も色々あるんですが、この一つだけ見ても、それを得られない他の側から見れば、ズルい、と言われてしまうものなんですよ。
それに、技術、知識の独占は、その可能性の多様性を阻害する事にもなりかねません。
他の研究、学問機関や、他の組織、国であれば、冒険者ギルドが気づかなかった、新たなに有効な利用法を思いつく、なんて事も、あり得なくもない話です。
恐らく、教会も黙ってはいないでしょう」
それがあった、と皆が顔をしかめる。
教会は、ある意味、冒険者ギルドの敵対組織だ。協力する事もあるが、それ以上に抗議して来る事も多い。
「それに、どんなに厳重に秘匿し、管理しても、情報というのは、どこかで洩れるか、もしくは盗まれる物です。
利益が大きければ大きい程、秘密にすればする程、他はやっきになってそれを手に入れようと、強硬手段に訴えるかもしれません。
だから、そんな事が起きる前に、平和裏に、利益も得て、売り渡す方が得策なんですよ」
これは、パラケス自身の考えでもある。
「でもその先に、暗殺ギルドなんかが、それを使い、暗殺術を強化する事に使う、なんて事もあるかもしれません。
皆は個々に、従魔との親愛を深めているから、その従魔達を悪い事に使うなんて、あり得ない、と思うかもしれませんが、組織や社会というのは、もっと非情で合理的なものです。
暗殺者ギルドに雇われる暗殺者も、もしかしたら個人的にいい人、なんているかもしれませんが、組織の上から、従魔を使って仕事をしろ、と言われ、それを断る事なんて、そうそう出来ないんじゃないでしょうか」
ゼンの話を聞いて、皆が暗く、落ち込んだような顔をしている。
「……それじゃあ、従魔術が普及しなければ、悪い事は起こらないんでしょうか?」
カーチャは涙目になっている。まるでもう、シラユキの兄弟姉妹な従魔が、悪事に使われると決まってしまったかのような様子だ。
「少し悪い面を強調し過ぎましたか?従魔は、普通に考えれば、冒険者をこれから大勢助け、護ってくれる、重要な相棒(パートナー)になってくれる存在です。
従魔術の利用に、さっきまで話した、暗い面がないとは決して言えませんが、それはどんな事にでもあり得る話ですよ?
例えば、人にとっての、一番古く、原初の知恵の元になったと言うのは、火、炎です。
それを神々や精霊が、人間に授けてくれたから、火は暗闇を照らし、寒さを防ぐ暖となり、料理に使えば、肉を焼き、湯を沸かし、一部の野獣を退け、魔物でも炎に弱いものもいます。
火、炎、熱は、さまざまな利用法がある、でも、それは逆もあります。
炎で人は焼死します。山や森に燃え広がり、大規模火災ともなれば、全てを灰とし、一晩で一切合切焼き尽くす、恐ろしい面だってあります。
でも、だからと言って、今更人が、火を使う事をやめると思いますか?
そのマイナス面は、その取扱いを間違えなければ、防げる話です。
そういう意味であれば、魔術等の、各種術関連もそうです。
魔術は自然界から力(マナ)をくみ上げ、様々な、人間一人では出来ない、大いなる現象を引き起こす事が出来ます。
魔物に対抗するのに、術士が必要とされるのも当然です。
でも、その術だって、使う人によって、いくらでも悪用出来るんです。
少し前、王都で大規模な商会による、詐欺、乗っ取り騒ぎがありましたが、その詐欺にも、上級の術者が雇われ、その悪事に加担したが為に起きた、と言っても過言ではないのでしょう。
でも、もうすでに得た術の知識を、人間が手放すなんて、あり得ないんです。
炎と一緒です。その悪い面は、使い手次第。
だから、術その物を非難する人なんていません。炎を非難する人なんていません。
将来的に従魔が、何か大きな悪事に使われたとしても、それは使った奴が悪いだけで、従魔が悪い、なんて事は、これっぽっちもないんです!」
ゼンは、つい前の教卓を強く叩き、熱く力説してしまった。
後ろ側で聞いていた研究者、学者連が何故か感動して、手を叩くように拍手して、歓声をあげている。
いつの間にか、レフライアとファナ、それに、アルティエールまでいた。
他と同様に、拍手をしているが、アルティエールまで嬉しそうな顔をしているのは、もしかしたら、炎の話が出たからかもしれない。
彼女は、炎の精霊王の加護を持つ、火には縁の深い存在だ。
丁度、休憩に入る頃合いだった。
ゼンは、色々照れ臭くなったが、休憩を宣言して、その場をまとめた。
「見事なものじゃな、子猿よ!」
大層偉そうに、アルティエールは大声で言う。
褒めてくれるのは嬉しいが、ゼンの名称はもう完全に、『子猿』で統一なのだろうか。ゼンとしては、激しく気になる点だ。
「あ、婆様だ!」
その声で初めて気が付いたのか、ハルアが声を上げると、他のエルフな人達が、軒並みそちらへと移動し、片膝ついて、平伏する。カーチャも、ダークエルフのオルガもだ。
ニルヴァーナとエリンも、研究者な他のエルフも平伏している。
「よいよい。わしはここでは、一冒険者じゃからな。いちいち面倒くさいんじゃから、普通にせよ!」
いかにも本気で面倒そうなので、慌てて皆立ち上がり、研究者や学者達は急いで退室して行った。
「ゼン君って、色々難しい事言うけど、誰に習ったの?」
レフライアは、ギルマスらしく、それらには構わずゼンに話しかける。
「合流してからは、パラケス翁から。それ以前は、街に着いたら本とか買って、独学です」
「『東の隠者』の愛弟子……教え子になるのかしら」
「どうでしょうね。色々と、教えてはもらいましたけど……」
余り、そうした格付けには、興味のないゼンだ。
*******
オマケ
被験者&従魔ズ(従魔の声は主人にしか聞こえません)
マ「長くいたフェルズを、もうすぐ出るのは感慨深いものがあるが、楽しみでもあるな」
ピ<ピュア、ガンバルヨ~~♪>
オ「この先どうなるかは、まだ分からないけど、なんかいい流れが来てる感じがするね」
ク<アルジサマ、シンパイ、ナイ。クロ、ズット、ソバニ、イル>
カ「私も、フェルズにはいい未來が来るって、信じてます」
シ<主様、ゼン様、大好き、だもの、ね>
カ「そ、それは、今は関係ないのよ!」
シ<??いい未來、考える。ゼン様。、一杯、だったよ?>
カ「………」(///)
フ「?俺は、何とかここに残ろうと、親父と交渉してるんだが、うまくいってねぇ。一度は帰国しなきゃ、駄目かなぁ。チクショウ。リーランと姉御は、そのまま残るのによぉ……」
シ<シルバは、主様について行くだけ。どこまでも>
フ「ありがとうよ。何とかならねぇかなぁ……」
シ(元気づけるように、フォルゲンの顔を舐めている)
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