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第3章 従魔研編
121.エルフ諸事情と、今、大事な事
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「なんじゃ、随分顔見知りが集まっておったのだな。この従魔研、という場所には」
アルティエールは、さも面白そうに、里で見かけたエルフ達を見やる。
皆、居心地悪そうだ、例外はハルアだけか。
「婆様は、なんでここにいるの?」
彼女だけが、普通に話す。
「わしは、あの坊主のクランに参加したパーティーの一員じゃ。訳あってな。
それで、わしに、ギルドの協力をして欲しいとか、坊主が必死に頼むのでな、わしとしても、快く引き受けた訳じゃよ」
「ゼンのクランに?いいなぁ。ボクも参加したい……」
「ハルア、専属錬金術師を辞める気なの?」
エリンは、現実的な事を言って、ハルアの目を覚ます。
「あの方が、そんな要請に答えたのですか?世俗の事には不干渉、里の一大事にすら、平気で無視を決め込んだ、あのお方が?」
ラフレイアと話していたゼンに、ニルヴァーナは不信の思いを顔全体で現わし、そんな事はあり得ない、と言ったも同然な素振りだ。
「快く、ではなく、条件有ですが、とにかく引き受けてもらいました」
後で、どんな無茶な対価を求められるか、憂鬱でならない。
「ニルヴァ、あの人って、その能力、信じていいのよね?私は、話でしか聞いた事ないんだけど……」
「神話の時代から生き続けてる化物よ。能力の高さは、Sクラス以上でしょうね。
問題はそれを、気紛れにしか使ってくれない事よ。
どうやって口説き落としたか、本当に不思議な話だわ」
里でも崇拝はされ、恐れられていたが、微妙に尊敬されていなかった。
「なんか、ゼン君が気に入られたみたいよ」
「意味合いに不穏な物がありますが、おおむねそんな所です……」
何をどう気に入られたのか、経緯が不明だ。
「成程。悪魔に魅入られたも同然ね」
「聞こえておるぞ、性悪娘めが。随分と変わり、同族を慈しんでおるうようで、安心したのじゃがな」
研究棟のエルフは、エリンを始め、大体が、ニルヴァーナに拾われるか、世話をされるかして集まった者が多い。
「お褒めにあずかり、恐悦至極……」
言葉では敬っているが、それなりに慇懃無礼な態度。
どうやらニルヴァーナは、アルティエールが苦手、ハッキリ言ってしまえば嫌いなのだろう。かなり色々複雑な想いが、顔から溢れている。
「ニルヴァーナさん、エリンさんは、いつから屋敷に…こちらに来れますか?」
「それは、本人次第ね」
「昨日の勧誘会で、ほとんどのクラン予定メンバーが揃ってしまったので、秘書的な役割をしてくれるなら、早めに来て欲しいんです」
「あら?前はそんな役職いらないんじゃ?とか言ってたのに、どういう心境の変化なのかしら」
レフライアは、少し意地悪に聞く。
「昨日、ファナさんに来ていただいて、色々助かったので、やはりそういう役目の人はいるかな、と」
「あらあらファナ、ベタ誉めじゃない。いっその事、貴方が行く?」
「……私は、あくまでギルマスの秘書です」
ツンと済ましているファナだが、付き合いがそれなりのレフライアには、ファナがかなり好感触なのが見て取れた。
(意外や意外。そんな事も、あり得るのね……)
「そうね。フフフフ……」
レフライアは含みのある笑いを見せる。やはり、ファナに何か言ったらしい。
「だ、駄目です!それは、私の役割ですから!」
「じゃあ、今日来て、自分の部屋を決めるぐらいはしますか?引っ越しは後日としても」
「は、はい!それで、お願いします!」
生真面目なエリンは、何故かとても張り切っている。
「カーチャさんは、もしかしたらアルのいる『古(いにしえ)の竜玉』に入ってもらうかもしれません」
「アルって、アルティエール様の?でも、私なんか必要ないんじゃ?」
「アルには、術の指南役とかになってもらうつもり。S級の大砲なんてあったら、クランの必要性がなくなるからね」
「アルなんて、呼んでるんですね……」
「そう呼べと、言われてるから。何をどう気に入られたんだか……」
ゼンは、溜息をつくばかりだ。
「そこに、アルの付き人で、メリッサて名前のエルフもいるけど、もしかして知り合いかな」
「あ、はい。付き人の家系の子ですね。大人しい子でした」
他にもまともなエルフがいる、と知って、安堵するカーチャだった。
「婆様~」
「ハル坊。主(ぬし)も、それはやめて、アルティと呼べ。その呼び方は、年寄り臭くてかなわん」
「ふ~ん。まあ、いいけどさー」
10倍以上年の差があるのだ。年寄りなのは、事実なのに、と不思議がる。
「あ、ハルア、例の件、明日か明後日かにしよう。もう1週間くらいで試験期間も終わるし、その前の方がいいだろ?」
結界魔具を作ってもらった報酬の、半日デートの話だ。お金でなく、代替えの行為でお礼を求めるのが、アルティエールに似ている。教えを受け継いでたりするのだろうか。
「う、うん!勿論だよ!あす~、明後日にする!準備あるから」
「分かった。午前中しか時間取れないから、うちに来て朝食食べる?頼んだ防御結界の魔具の具合も、出来たら見てほしいんだけど」
「いいよ、お安い御用さ!それに、ゼンのとこで朝ご飯、食べたい!あ、ゼンの部屋も見たい!いいよね!」
「あ、ああ、見るぐらいは、別にいいけど」
久々の、グイグイ来るハルアに、ゼンはタジタジだ。
「なんじゃ、まさかハル坊も、子猿狙いか?」
「……子猿がゼンの事なら、そうだよ。ここの三人の中では、一番ボクが早く言い出したんだからね。二人は、そもそも何も言ってないけど」
「ほうほう、成程のう。お主、エルフ・キラーか?」
「いや、知らないよ、そんな事」
旅の途中、言い寄って来た子に、エルフはいなかった気がする。
フェルズに戻ってからだって、従魔研に参加し出してからおかしくなった様な……。
「それよりも、アル。そろそろ子猿呼び、止めてくれないか?
俺、自分でも小さいの気にしてるから、呼ばれる度、少なからず傷つく……」
「ほう。繊細なおのこよのう。ゼン坊と呼べばいいのか?」
「アル婆って呼ばれたいならそれで」(パラケス爺さんと同じ呼び方だ)
「ふっふっふ。中々度胸があるのう。では、ゼンと呼ぼう」
「頼むよ」
周囲のエルフ達は、自分達の始祖と、ざっくばらんに敬語もなく、砕けて話すゼンを感心した様子で見ている。
同格のハイエルフですら、アルティエールを避ける傾向にあるのだ。
アルティエールは、色々な意味で、エルフの里の異端児だった。
一度暴走して、一つの森を焼失させた事さえあった。
人的被害はなく、強大な魔獣の襲来に対してのものだったが、それでも、やり過ぎ感はぬぐえなかった。
だからこそ、ゼンの話に感じるものがあったのかもしれない。
ゼンは、休憩が終わった後も、従魔の講義や、育成の様子等を見るのに時間を費やした。
ザラは、前の様に、ゼンにハルアや他の女の子が近づいても、慌てて追い払ったり、焼餅を焼いたりしなくなった。(完全に、ではないが)
婚約した余裕からなのか、この中で、誰が自分の『仲間』になるのか、と穏やかに観察してすらいるようだった。
サリサもそうだったが、どうしてそう寛容になれるのだろうか。制度上、それが認められているからと言って、ゼンとしては、余り嫁的な女性を増やしたいとは思わない。
仕事で雇う、とか、あるいは後見人になるとかなら考えなくもない、と思うのだが。
アルティエールは、いつの間にかいなくなっていた。
同族をからかうのも飽きたのか、ゼンが頼んだ役割は果たしたからか、転移で小城まで戻ったのかもしれない。
ゼンとしては、彼女が見返りに何を要求してくるかを考えると、頭が痛い。ついでに胃も痛い。
(食事をそれなりに喜んでいた様に、見受けられたから、スィーツ系で誤魔化せないだろうか?多分、無理だろうな。それで済むような、単純な人には思えない……)
だが、そのお陰で、ギルマスは、スカウト達の内偵をある程度で切り上げて、実践部隊の応援を呼び、組織への襲撃作戦が、確実に早まると言っていた。
フェルズの真の、大掃除となるだろう。
相手は、長い年月、フェルズに居ついていた組織だ。もしもの時の反撃の戦力や、仕掛け等、十二分に用意している可能性が高い。
人死にが出るかもしれない。
もし、アルティエールに頼めば、それこそ一瞬で片が付くかもしれないが、ギルマスもそのつもりはないようだ。出来る借りが大きすぎるし、出来れば、自分達の問題は、自分達の手で、解決したいものだ。
だがそれも、すぐには行われない。
今は、目の前の事を、一つずつ、こなして行こう。
まず、エリンの小城での部屋決め、引っ越し。ハルアとの半日デート。
そして、従魔研の総仕上げ。被験者の、迷宮(ダンジョン)での実戦演習。
他に、クラン参加者への“気”の指導、鍛錬。これである程度の強化が済めば、それぞれが中級迷宮(ミドル・ダンジョン)の制覇(クリア)を目指す。その後、昇級試験だろう。
今日は、昨夜の歓迎会で深酒が過ぎた者が多かったので、志願者だけで軽い鍛錬をした。
ゼンは、何気に被験者達の実戦演習を楽しみにしている。
本格的な、従魔と冒険者の連携、一時的にではあるが、パーティーを組んでの合同演習だ。
前衛職、後衛職のみで、治癒術士がいないが、それはポ-ションを多めに持てば済む事だし、ホワイト・ハーピィのピュアは、回復術を使える。
空からの治癒は、その安全さえ確保出来たら、かなり有効で頼もしい補助役になる。
主人の冒険者も、それなりの実力者揃いで、従魔にもその力が受け継がれている。
四人と四体。それだけの戦力で、どれだけの事が出来るか、大体の判定が出来れば、これから先の、従魔と一緒に戦う冒険者の、良き指針となるだろう。
当然、無理はさせない。
何か、想定外の敵、こちらの戦力以上の敵が出たら、撤退もするし、ゼンも応援に入る。従魔達を複数出してもいい。
剣狼のゾートは、驚かれるだろうが、倒した事自体は有名なので、それ程の問題にはならない。人種(ひとしゅ)形態では出せないが、それに、ボンガやガエイまで出せば、万全だろう……。
あ、普通の場合、同時使用が可能なのは、2体までだった。
忘れない様に、くれぐれも注意していこう。
そうして、3日の実戦演習を終えたら、彼等の実験は終了。
従魔の育成実験は成功となり、従魔研から卒業、と言うのはおかしいかもしれないが、そうなって、それぞれが望む場所へと旅立つ事になる。
フェルズに居残る者もいる。
そしてすぐ、従魔術の公開、とならないのは残念だが、フェルズの根深い問題を解決する為の、やむを得ない処置だ。
実験の終了まで1週間弱。頑張って、いこう。
※
今日、ゼンはアルティエールを連れて来る事もあって、早めに従魔研に来たので、こちらで昼食をとった。
そのまま、いつもの終了時間まで、従魔研で作業をした。
ザラの時に早退をしているし、早く来たから早く帰る、という事はしなかった。
お陰で、当初頼まれていた、従魔術の教本らしき物が書き上げられた。
学者達に渡し、文章的におかしい所がないか、研究者に、従魔術の事で足りない話はないか、じっくり検証してもらって、手直しをしてもらってから完成だろう。
学者達は何故か、渡された文章の束をもらって、小躍りして喜んでいる。そこまで喜ぶ事だろうか?それとも待たせ過ぎた?
よく分からないので、とにかく頭を下げ、退室する。
一つの懸案事項が解決し、ゼンはホっと安堵の息をつく。
これで、ザラと一緒に帰宅、となった所で、ザラから、今日はマルセナが少し話があるので、治療室に寄ってもらいたい、と言われた。
なんだろうか。単純にお祝い?もしくは、いきなり二人との婚約で、お小言だろうか?
漠然とした不安を抱えながら、研究棟を出て、ギルド本部に移り、2階へと上がる。
幸い、治療している患者等はいなかった。
二人を迎えたマルセナは、満面笑顔で、二人の婚約を祝ってくれた。
「真面目な話、ゼンさんがザラを恩人として大事にし過ぎて、恋愛対象に見てくれないんじゃないかと心配してたんです」
それは、サリサにも言われた、正確なゼンの心情だ。
「だから、ゼンさんがちゃんとザラの気持ちを受け入れ、ザラ個人を女性として、異性として受け止めてくれた事を、私は師として、友人として、とても嬉しく思っているんです」
「……ありがとうございます」
それもこれも、サリサがゼンに色々な場合での、自分の気持ちを確かめさせていたお陰で、ゼン個人としての功績でも何でもないので、ゼンとしては気まずい感じだ。
「ですけど、ちょっと心配な事もあって……」
マルセナは、ゼンだけを手招きし、耳元で、小声でささやいた。
「ザラから日替わりでの話は聞きましたが、二人一緒に子供達と添い寝しているだけで、少しもいちゃつく時間、持ててないですよね?何もされてないですよね?」
その通りなので、ゼンは頷くしかない。
「だから、ここで1時間、奥に宿直室があるので、そちらでされてから、お帰りになってもいいんですよ」
マルセナは、ニッコリいい微笑みをして、巨大なお節介を焼いて来る。
気が利いているとも言えるが、利き過ぎていて、扱いに困る。
「……あ、いえ。実は、もう一人の婚約者、サリサとも話したのですが、俺が成人するまで、そういう事はなしで行こう、となりまして」
「……え、本気ですか?ゼンさん、それでいいんですか?我慢出来るんですか?」
マルセナは、とても信じられない、と、ゼンはその機能や欲望に欠けているのでは、と治癒術士ならではの余計な疑いまで持ったりする。
「まあ、そこら辺の制御も、修行でやってますから。
それに、俺はまだ自分が子供の自覚があるので、その俺が、子供をつくる行為をする事に、抵抗感がある……まだ、父親になる覚悟がないんです」
ゼンは、ちょっと自嘲気味に笑う。それが、正直な話なのだ。
「そう、ですか……」
ゼンに理由を聞き、マルセナは納得したようだが、何だかひどく残念そうだった。
「あ、でも、確かに、婚約者……恋人らしき事は、まるで出来ていなかったので、少しそちらをお借りします」
ゼンは、何の話をしてるのかしら、と不思議顔で待機していたザラの手を引いて、治癒室の奥のベッドに座らせ、カーテンを引いて、マルセナから見えなくした上で、遮音結界に似たものを“気”で展開する。
「どうしたの、ゼン?」
「うん。マルセナさんにも言われたんだけど、俺も気になってたんだ。
ザラと、全然恋人らしい事が出来ていなかったから」
そう言って、ザラの身体を、を強く抱きしめる。
「え?え?え?」
「俺は、ちゃんとザラが好きだ。でも、サリサとは少し違う想いだけど、絶対に失いたくないと思っている」
「え、ええ、うん。私もよ。私は、どんな形であれ、ゼンの傍にいられれば、それでいいの……」
ゼンは、真っ赤になったザラの頬の両手を添えて、唇をそっと近づける……。
―――しばらく経った後、真っ赤に茹で上がり、その場で倒れてしまうのでは、と心配になるぐらいフラフラしているザラを連れて、ゼンが奥から出て来た。
「色々、気遣わせてすみません」
ゼンは平静で、まるで何もなかったかの様に見えるが、ほんの少しだけ耳が紅くなっていた。
「うううん、いいのよ。いつでも来て、利用してくれたって」
「さすがに、そんな訳にはいかないでしょう」
ゼンは、気まずく笑う。
ザラは、真っ赤になったまま、心はどこか高くに舞い上がっているようだ。
「気をつけて、帰ってね」
弟子兼友人の幸福そうな様子に、会心の笑みを浮かべるマルセナだった。
*******
オマケ
ミ「ついに、ご主人様が考えた、種族別メニュー、選択形式が始まるですの!」
リ「私は、これって色々選べて、いいようで、悪い面もあると思うの」
ミ「その心は?ですの」
リ「あり過ぎると、すぐに決められない人とかっていると思うの。パパっと決められる人もいるでしょうけどね」
ミ「それは、ひとそれぞれで仕方ないですの」
リ「まあ、そうね。だから、コース別はあってもいいと思うけど、全部を選べるのは、あり過ぎて、むしろ困ると思うのよね」
ミ「なら、何故それをご主人様に言わないんですの?」
リ「主様は、あくまで料理人で、商売人ではないから、最初は手探りで、理想的なやり方を、失敗してもいいから探していきたいみたいだから……」
ミ「そうですの。ご主人様は、失敗を恐れずチャレンジするですの!」
ミ&リ「「そこにしびれる憧れるぅ!」」
セ「いや、まあ、なんて言うか、盲目的な愛と献身?」
ゾ「本人達が幸せなら、いんじゃねぇか?」
ボ「二人とも、楽しそう」
ガ「愛に生き、愛に死す…」
ル「あこがれるぅ~~~お?」
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