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第3章 従魔研編
126.戦闘演習と説得
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従魔術の被験者となったB級冒険者と従魔の戦闘演習は、ゼンやギルドの予想を上回る好成績をあげていた。
初日は、上級迷宮(ハイ・ダンジョン)『草原の彼方(ビヨンドザメドウ)』の入り口付近で、お互いと従魔の戦力を確かめる為に、模擬試合を半日行い、充分お互いの理解を高めた後、『草原の彼方(ビヨンドザメドウ)』に入り、魔獣との戦闘を開始した。
この世界では獣型の魔物でも、B級以上の上位のものを魔獣、と呼称している。上級では、鳥型の魔物も、魔鳥ではなく魔獣だ。魔物の脅威度を明確に区分けする為に、そうなっている。
最初に遭遇したのは、フォルゲンが従魔にした、青銅狼(ブロンズウルフ)十頭ばかりの群れだった。
これは、同系列の進化個体で、しかも統率種である白銀狼王(シルバー・ウルフ・キング)のシルバがいるので、命令が出来てしまう。
本来は戦わずに全滅させる事も可能だったが、今回は戦闘が目的なので、シルバは一行のしんがりを務めているゼンと一緒に、後方待機してもらった。
ゼンの“気”で白銀狼王(シルバー・ウルフ・キング)の気配を隠したので、青銅狼(ブロンズウルフ)の群れは、冒険者4人に従魔3体と、普通に交戦状態に入った。
剣士であるマークと、格闘家のフォルゲンが前衛、ダークエルフのオルガは、細剣(レイピア)で前衛も出来るが、このチームでは弓と精霊魔術を使う野伏(レンジャー)として、中衛に位置している。
精霊魔術士のカーチャが後衛、その従魔、雪豹女王(スノー・パンサー・クィーン)のシラユキは前衛の援護、吹雪や氷を操るスキル持ちなので、遠近両対応の優秀な従魔だ。
そして空に、マークの従魔、ホワイト・ハーピィのピュアが、補助(デバフ)をチーム各員にかけ、治癒術も使える、まさに空の天使な役割を担っている。
オルガの従魔、黒鋼鷲(ブラックスティール・イーグル)のクロマルは、周囲の見張り、偵察とピュアの護衛、必要であれば、風のスキルで前衛の援護も出来る。
まったくの偶然でしかないが、この4人と4頭のチームは、かなりバランスのいい組み合わせになっている。
特に、神術士がいないが、ピュアが補助(デバフ)系を補っているので、治癒術も使える。ポ-ションの出番は、今回ないかもしれない。
精霊魔術でも、水系で回復の術が使える。神術程に劇的な効果ではないが、迷宮(ダンジョン)での回復手段は大事な要素だ。
毛皮に術や打撃の耐性を持つ青銅狼(ブロンズウルフ)の群れ十頭は、決して侮れる相手ではないのだが、『氷の槍』や『風の刃(ウィンド・カッター)』、弓矢の援護を受けての、補助で強化された前衛二人の攻撃は安定していて、見ていて何の不安もない。
ゼンは、時折後ろに沸く、少数の魔獣を確実に仕留めながら、従魔によって、冒険者の戦闘は革命的に変わるだろう、と予言していたギルマスの言葉を実感していた。
彼等は、交戦し始めてから十分と経たない内に、態勢は決し、リーダーとみられる大き目の青銅狼(ブロンズウルフ)を倒された時点で、逃げに転じようとしたが、上空からクロマルが風のスキルで逃げ足を止め、無防備な背中を見せた生き残り達に、とどめの追い打ちが飛ぶ。
見事な初勝利、完勝だった。
ゼン自身も思っていた事だが、冒険者が従魔と連携したチームを組む事で、相乗効果となってチームそのものの強化がなされているその実力は、彼の楽観的な予想すら超えていた。
ソロで従魔とペアだと問題があるが、こうしてガッチリチームを組んで連携すれば、優秀な冒険者、7人相当の戦力になる。シルバが参加していないでこうなのだから、入ればかなり余裕のあるパーティーになるだろう。
ゼンの様に後方からの襲撃をシャットアウト出来る人材がいないと、上級迷宮(ハイ・ダンジョン)では危険だが、今回は純粋な戦力を見る為のものなので、問題ない。
その後も、ハイ・オーガや、ギガロ・バイソン等の群れとも戦ったが、問題なく勝ち続けている。遠距離から術やスキルで削り、混乱させてから前衛が突っ込むなど、戦術のパターンも変え、障壁持ちにはそれを破れる前衛の為の目くらましをする等、とても即席のパーティーとは思えない。
狭い研究棟に閉じこもっての従魔育成をする為の共同生活が、いい意味での相互理解を深める時間となり、最初はギクシャクしていた所もあった四人が、従魔を介してお互いの共通項となり、仲間意識を高めたようだ。
極秘の、閉鎖空間での実験の、思わぬ副産物だ。
初日からの戦闘演習は、上級迷宮(ハイ・ダンジョン)の入ったばかりの低階層、その入り口付近を余り離れず限定的に行っている為か、対処し切れない程の大群と会う事もなく、出会った敵の群れは全て殲滅、と好調過ぎる始まりだった。
二日目以降どうなるのかは、まだ不明だが、奥にいる階層ボスの相手をさせても?
いや、そんな無理をさせる必要はないだろう。
階層ボスがいるのは、草原の奥の奥で、次の階層の入り口を、階層ボスが守っている。
それは、普通の迷宮(ダンジョン)のボスを倒すと現れる転移の魔法陣で、次は草原とはまったく異なる場所に飛ばされる。
つまり、上級迷宮(ハイ・ダンジョン)の階層とは、その広い世界そのもので、階層ボスを見つける事が、次の階層に行く手段を見つける事になる。
これは、迷宮(ダンジョン)側から感知系に対する妨害、隠蔽措置をされてはいるのだが、それでも優秀な感知系の力を持つ者には、階層ボスの所在が、何となくでも感じ取れる。
普通の迷宮(ダンジョン)の様に迷路がある場合もあるのだが、ほとんどがここの第一階層の草原の様に、広い世界そのもので、ともかく階層ボスを目指して進めばいい分、単純(シンプル)で分かりやすい。
だが、中層以降から致死性の悪辣な罠(トラップ)が増え、敵の数が多い事もあって、中級以下の迷宮とは難易度が桁違いに上がる。
戦闘演習は、上級に現れる魔獣相手に、従魔を連れた冒険者がどれだけ有効かを確かめる為の物で、探索を進める意味は無い。
まだ出会っていない敵も、数種類いる。
とんでもない大群に遭遇する確率も、なくはないのだ。
その場合は無理せず、入り口から迷宮(ダンジョン)を一時撤退をする。
迷宮(ダンジョン)は敵の状態をそのまま維持したりはしないので、入り直せばその大群はもういない。
そうして、絶対安全で確実な状況で、戦闘演習は進めればいい。
上手く行っているからと言って、余計な欲をかく事はない。
ゼンのクランは、従魔の要素を考えない上で、上級の中層、深層までの探索を想定して集めた人数だったが、従魔の増強分を考えると、クランを2班、3班に分けての探索も可能だろう。
どれぐらい有効な従魔かでも変わる要素なので、どうなるかは従魔の育成が終わってからではないと判断がつけにくいし、それもまだずっと先の話になるが、確実に訪れる未来だ。
特に、小城のクランは、ゼンがいるので、従魔術の指導役がすでに始めからいる状態なのだ。
ギルマスから許可を貰えれば、従魔が再生出来る強さになっている者からすぐにでも、従魔術での育成が可能だ。
恐らく、西風旅団の4人は今からでも、やろうと思えば出来るだろう。
後、竜人の二人も出来そうな感じだが、彼等が元魔物である従魔を、受け入れるかどうかが問題だ。
竜人は、基本的に魔物嫌いだ。いや、魔物好きな種族などいないが、竜人族は、それが極端なのだと聞いた事がある。
独力でも強い竜人だから、それでも問題はないが、迷宮産の竜や亜竜系ならあるいは?
ゼンは、自分の所属するクランの将来を考えながら、従魔の攻撃手段の事も考えていた。
四つ足の獣系は、口に短剣を、真ん中に咥える所から両方に刃の出た剣等どうだろうか。噛む牙の攻撃力も凄いが、獲物によってはそちらの剣の方が、効果的な攻撃になるかもしれない。短剣に付加をつければ尚いいだろう。生身の牙に付加は難しいだろうから。
そして、前足に、ロナッファが使う様なかぎ爪をつければ、それも生身より強力な攻撃手段になるだろう。
それと、術系のスキルを持つ従魔には、それを強化する護符系の様な物を、アクセサリでつけて強化すれば、更に良くなる。
ゼンがちょっと思いついただけで、色々な考えが浮かぶ。
恐らく、この先の従魔を強化する武器防具、小物関連は、一大事業になるだろう。
それらを、冒険者ギルドだけで独占は、やはり危険だし、反発を招くのは間違いない。時期を見ての情報の有料公開は、やはり正解だろう。
ギルマスも、ハルアの様な専属の錬金術師や鍛冶師に試験的なものを作らせていると聞く。
こちらのクランでも、専属の鍛冶師を雇って、ハルアと組ませたら、いい物が出来そうな気がする……。あ、ハルアが二重で働く事になってしまう。
クランが活動開始出来る様になったら、上級の魔獣の素材が手に入るようになるし、今でもゼンのポーチの中には、世界各地の魔獣達の素材が眠っている。それをただ売り払うよりも、自分の所で有効活用出来たら、最良だろう。
ゼンは、自然にハルアをまるでクランの一員の様に考え、この先の製造に関わらせて考えていたが、彼女はあくまでギルドの専属術士で、一緒の建物に住んでいるだけな、単なる同居者である事を失念していた。
レフライアに言えば、公式クランの協力者として登録してくれるかもしれないが、それは彼女の想いを利用して、クランの強化に貢がせる事にならないだろうか?
それに、そうしたら、むしろ彼女の気持ちを認める事になる。答えるつもり、受け入れるつもりがないのなら、むしろそんな事に関わらせずに、他を探すべきではないだろうか?
エリンも、何故かゼンに好意があるようではあるが、あくまでギルドからの派遣として補佐をしてもらう大義名分がある。
カーチャにも、そもそも告白された訳ではないので、彼女のクラン参加自体に異を唱えるのはおかしいが、事前に気持ちに気づいているなら、彼女も断るべき?
それを言うなら、ちゃんと告白しているロナッファやリーランの方が、どうするべきかちゃんと決めないと駄目だろう。はっきり拒絶して、獣王国に帰ってもらうべきなのか?
ゼンは、大きく深く、ため息をつく。
修行の旅の時は、それが断る口実になったから良かったが、今ではそれはない。
あえて言うなら、今はもう結婚を誓った二人の伴侶がいるのだから、それ以上はいらない、と言えるのだが、その二人が、自分達以外が増える事を予想し、そうなるのも仕方ない、と言ってしまっているので、その口実が決定打に欠けるのだ。
そもそもゼンは、女性に対して、普通に優しく、親切にするのは当たり前で、当然の事だと思っている。師匠のラザンも、建前上はそういう物だと教育していた。自分は大して優しくしていないのだが、弟子にはそれを強要していた。
途中から一行に加わったパラケスも、この厳しい世界だからこそ、女性を大事にするのは当然だと説いていた。
だから、基本、ゼンはフェミニストだ。
爆炎隊のギリの様に、失礼な事を言われれば、男女を問わず実力行使するが、それは少年が、女性と男性を同等の存在と認めているが故の行動だ。
だから、今周囲にいる、ゼンに好意を持った女性達に対し、ゼンの心は普通(ニュートラル)であり、自分に好意を持ってくれている、との有難い事に対しての分だけ好意的になっている。
ハルア等は、最初の言い分がおかしく、彼女だけ逆になる可能性もあったが、その後の行動や態度で、自分の気持ちの真剣さを訴え、そしてこの前聞いた過去の話で、ゼンのハルアへの好感度は確実に上がった。
アルティエールも、その強大な力で実力行使しないのなら、敵体系の種族ではないし、こういう癖の強い性格、人格とのやり取りは、師匠で慣れているので、変な話かもしれないが、ゼンはこういう強気な人は嫌いではない。むしろ好きなタイプかもしれない。
本当にこちらの事を構わず強引に来られたら、嫌うしかないのだが、そこまで行かなかったので今は保留案件だ。例の申し出もある。
つまり、今ゼンは、嫌いだ、気にくわないから目の前からいなくなれ、などと思う女性はいない。強く拒絶して泣かれたりするのも困るし、そこまでして排除したい相手がいない。
優柔不断と言われるかもしれないが、いたいのなら、いればいいんじゃないのか?と放置したいのが、今のゼンの本心だった。
無関心ではない。
ギルドから宿泊費用が出されるエリンはともかく、他は何らかの対価をいただかなくては、単なる、ただで泊まれて風呂も入れて食事も出す、施しの場所になってしまう。
だから、冒険者ならクランに直接参加で、技術者ならその技術で協力を、と思ってしまうのだが、それは間違っているのだろうか?
一度、西風旅団にザラも加えて、皆で話し合うべきなのかもしれない。
師匠の口癖を、ゼンも言いたくなる。
「面倒だなぁ……」
※
サリサとアリシアの部屋に、今5人の女性がいる。
二人以外は、ザラと精霊王(ユグドラシス)と、アリティエールだ。
それぞれが、応接間のソファに座っている。
「……なんでまた、そ奴がおるのじゃ?」
アルティエールは、渋い顔で、旧知の精霊王(ユグドラシス)を睨んでいる。
「公平な調停役、です。力で来られたら、ゼンでさえ敵わない相手に、私達では成す術もありませんから」
サリサは、怒気を放つアルティエールに平然とした顔で言う。
「信用されておらんのは、まだ知り合って間もないから仕方がない、という事じゃな」
「そうです。それに、ゼンをさらいかけた前科もありますし、下等な人の浅知恵、とでも思って下さい」
サリサは、魔術勝負をしたとしても、自分の負けが確実な、格上相手にも臆することなく、不動の態勢でのぞんでいる。自分は、ゼンの伴侶の代表なのだから、力など関係なく、引き下がったりは決してしないのだ。
「で、シア。どう見える?」
「う~~ん、好意ではあるけど、恋や愛には至ってないと思うな~~」
人の恋心が分かると言うアリシアの感覚は、ハイエルフにも通じる様だ。
「そうですね。私も、友情とか親愛みたいな印象として感じます」
「シアに聞かなくても、私達もそう思うわよね……」
婚約者、二人とも同意見だ。
アルティエールには、切実にゼンを欲する感情が、ない訳ではないが、それ程強くはない。
まさに、友達以上恋人未満の、中途半端な想いなのだ。
「アルティエール様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?お主は本妻だから、へりくだらんでもいいぞ。名もアルティと呼べ」
「……まだ、同格の立場にはなっていませんが……。(気が早くて、せっかち……)
ゼンに聞いたのですが、人間を過去に死なせてしまった事があるようだ、と。その話は、話せますか?他人(ひと)に話したくない話なら、無理に、とはいいませんが」
「ん~~。まあ、構わんが、大して面白い話ではないぞ」
アルティエールは腕を組み、頭を回して思考を巡らせているのか、その後で答える。
「面白い話を聞きたくて、お尋ねしている訳ではありませんから」
サリサは、アルティエールのペースには取り合わない。
アルティエールは溜息をついてから、渋々話始める。
「……ずっとずっと昔の事じゃ。わしらハイエルフが住む原初の森は、普通の世界とは位相のズレた場所にある。普通には入れない森なのじゃが、時折、何かの拍子に紛れ込む者もおる。
その人間の小僧がそうじゃった。その森には、わしらハイエルフなら問題にもならんのだが、人間では到底かなわん魔物も、多くうろついておった。
その小僧は、そうした魔物に殺されかけている所を、わしが偶然助け、拾ったのじゃ」
遠い目で、懐かしさを思わせる口ぶり。
「人間では、元の世界に戻る事は出来ん。わしは、暇を持て余していたので、そ奴を飼う事にしたのじゃ」
「飼う?」
ゼンにも似た事を言ったようだが、人間は同格に見てもらえない?
「その頃の人間は、まだそう表現するのが、妥当な知恵しか持たん生き物じゃったからな。
言葉を覚えさせるのも苦労した。わしなりに可愛がり、最初の内はそれなりになついておったが、何かの拍子に、自分を待つ者、心配する者がおる、と言い出し、森に入ろうとするようになった。
森の先に、元の世界がある訳ではない事は、説明したのじゃが、うまく理解出来んかったのか、あるいはわしの単なる脅しとでも思ったのかもしれん。
ついには、眠気を強める木の実の果汁を濃縮した物で、わしを眠らせ、その隙に森に行ってしまったのじゃ」
かなり色々省いているのだろう。展開が早い。
「わしの管理が甘かったのじゃ。それに、木の実でも、余計な知恵をつけさせてしまった。
わしが気づき、追いかけたその先には、すでに小僧は魔物の腹の中におった。
魔物を殺し、腹を切り裂き、救い出したが、もう息をしていなかったのじゃ。生きておれば、治療が出来たかもしれんが、蘇生は出来ん。
わしは、大泣きに泣いて、その亡骸を、わしらが住む場所にある大樹の根本に埋めて弔った。
わしの、愚かな記憶の一つじゃ。何故、もっとちゃんと、森の危険さを理解させなかったのか、しつけが甘かった、後悔しかない話じゃ……」
聞いたその場にも、悲しみが伝染する。それ程深い、後悔と嘆きの思い出だった。
それでも、サリサは言わなければならない。
「アルティさんは、自分が死なせてしまった、とその子供の死を嘆き、自分の責任だと責める気持ちは分かりますが、その子はきっと、後悔していないと思います」
「何を言うのじゃ?」
ただでさえ好戦的な瞳を、剣呑に光らせる。その様子は、とても平和的なエルフの始祖とは思えない。それでも、サリサはたじろがない。
「きっとその子には、アルティさんと出会う前に、自分の運命だと思える、命がけの行動が出来るぐらいの、強い想いを持った相手がいたんでしょう。
それが、“恋愛”の想いです。アルティさんがそれを分からずに、自分を責めるのは、アルティさんがまだ、恋をした事がないから、なんじゃないですか?」
「……わしは、長き時の間に、同じハイエルフやエルフ、人間とも交わり、子を何人もなした事があるのじゃぞ?それが、恋を知らぬじゃと?」
「子供を産む事は、恋愛を知らなくても出来る事です。アルティさんは今、その時の伴侶となった相手には、まるで触れていない。それが、恋愛の末の子供なら、不自然なんです」
アリサは思ったままの感想を、正直にぶつける。こういう相手には、変に小細工しない方がいいと思っているからだ。
「あ、相手は、それなりに気に入った者を、その時々で選んでおる。神に至る人種(ひとしゅ)に、ハイエルフの要素を加えるのも、大事な役目じゃから……」
アルティエールは、自分の気迫にひるまない、おびえない相手には、めったに会った事がない。その珍しい一人が、ゼンだったのだが、その連れ合いまでもがそうである事に、面食らっていた。
同族でもなく、武道家でもない、人間の魔術士風情の小娘に……。
「だから、それなりに気に入った、とか役目だから、とか仕方なしに、状況に押し流されてするようなものではないんです。“恋愛”は、もっと強い想いです。
例えばゼンは、まだ剣術を覚えていない、弱い時でも、強い大人に捕まったザラさんを、命がけで助けようとしています。そして、実際に死にかけてもいます。
私達も、同様に昔、ゼンには助けられています。帰って来てからも……。
強くなる前も、強くなった後も、ゼンは変わらずゼンだから。
そんなゼンを、私達は好きになり、同じ様に、私達もゼンを命がけでも助けたい、支えたいと思っています」
ザラが、感動したのか、涙ぐんで頷いている。
「……わしの想いは、そんなに強くはない、か……」
そんな事を言われたのは、生まれて初めてだ。だが、何故かすんなり納得出来る話でもある気がする。
アルティエールは、その存在自体が強者故に、何かを命がけでなした事などなかった。片手間で済んでしまうからだ。
「今、この小城にも、沢山ゼンを好きになった子がいるのは、アルティさんも気づいているでしょう?その子達や私達を見て、本当の恋が、愛がどういうものか、それを知って欲しいんです。
アルティさんには、時間がいくらでもありますから、ここにいる間に、ゼンへのその想いが、恋愛にまで昇華する事もあるでしょう。
あるいは、ゼンの方が先に、アルティさんへの想いを持つようになるかもしれません。その時は、私達は反対したりしません」
「片方だけでも良いのか?」
「片方が本気の想いを持てば、その相手は感化されて、相手と同じ想いを持つようになる事が多いんです。拒絶をされないなら、その先に進む余地がある、とも言えます」
ゼンは、多分その事がよく解っていない。
勿論それは、絶対的な法則とかではないが、人の経験則から来る、普遍的な流れだ。
流される、絆される、というのは、そういうものなのだ。
サリサは、ゼンにそれを教えたりはしない。
もし教えたら、ゼンは自分達以外の女性を拒絶し、遠ざける様になるだろう。
それは、サリサ個人の感情からしたら、歓迎すべき話だが、ゼンや、それを取り巻く周囲の、世界の幸福を考えるのなら、そうすべきではないのだ。
サリサは、これを、親友に言われた様な自己犠牲だとは思っていない。
ゼンの幸せこそが、何よりもサリサの幸せなのだ。
自分達だけの独占で、ゼンの大きな可能性の芽を摘む事だけは、してはいけないと思う。
「……了解した。しばし、様子を見る事にしよう」
自分には、赤子同然にしか思えない人間の小娘に、こうも強く説得されるとは、思いもよらない事だった。
拳を痛い程に握りしめ、震えを隠すサリサを見、それを母の様に、姉の様に、慈愛のこもった眼差しで見守っている、精霊王(ユグドラシス)の、意外な様子を見て、アルティエールは考える。
(世界にとっての重大な“要素”か。確かに、先々を傍観する方が、よほど面白い事になりそうじゃな……)
*******
オマケ
冒険者と従魔の会話(従魔の念話は、主人にしか聞こえません)
フ「どうよ、この実力!師匠も俺を見直すな!」
シ<さすが、主様です>パチパチ(狼)
マ「いい調子だな。連携も出来てる。頼りになる仲間と戦う事が、こんなに楽しいって事を、忘れていたよ……」
ピ<ピュアモ、ガンバッタヨ~♪>
オ「本当に、悪くない、どころじゃないね。今までの自分が、馬鹿にしか思えなくて、ちょい落ち込むよ」
ク<アルジハ、ワルクナイゾ>
カ「本当に。後ろの心配もまるでないし、協力する楽しさ、喜び。それが抑制されてたなんて……。いえ、これからの事を前向きに考えましょう!」
シ<主様と仲間と戦闘、楽しいわ。素敵ね>(豹)
ゼ(念話を、声、音に変換出来る魔具とか、造れないかな。こっちには、何話してるか分からないし、有ったら便利そう。ハルアに相談してみるかな…)
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