剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

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第4章 フェルズ改革編

140.決戦(3)

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 ※


 訳が分からない。何をどう間違ったら、こんな酷い状況におちいると言うのか―――


 ―――『人間弱体党』フェルズ潜入隊の副指令、空間術士の魔族、『無限の軍勢』のギゼオラは、見張りのアラクネ魔族、ネイジャスの死で鳴り響いた警報にすぐ反応して、1階に設置してあった、軍団収納魔具を解放した。

 強化したコボルト犬鬼オーク豚鬼の集団。

 こういった下級の魔物は、確保しやすく、魔具への収納も、その魔力の弱さに比例して大量に収納可能だ。

 襲撃者であろう冒険者達の体力の消耗のみを考えた、使い捨ての手駒だ。何十何百死のうとも、こちらにとっては、何の痛痒も覚えない。

 それで時間を稼ぐ間に、こちらの手勢の配置が終わる。

 最上階の3階に、幹部9名。2階に、精強な部下達が40名。1階には、ゴブリン小鬼オーク豚鬼を吐き出す魔具を壊されても、人が中に入った事を感知して、中級、上級の魔物を解放する様に魔具が仕掛けられていたし、床にも、人間のみに反応して爆発する罠等が無数に仕掛けられている。

 どのような人数で来たのかは知らないが、1階を超えるのがやっとだろう。

 それに、街中に紛れた大勢の“草”達が騒ぎを起こし、その内こちらにだけ、かまけている暇がなくなる筈だ。

 フェルズの都市内部は、魔族の攪乱工作で、大騒ぎになる運命なのだから。

 仕掛けは充分。どうやら、こちらと似た様な魔具で、転移を封じている様だが、その程度は予想済みだ。糧食も充分蓄えてある。籠城しても、3カ月や4ヵ月は軽くもつ。

 他の高級娼館高級ゲヘナ、酒場パンデモニウムの戦闘員の配置人員は少ないので、すぐに落とされてしまうだろうが、これは問題ない。罠の準備もある。少しでも敵を減らせられるのなら御の字だ。

 本拠であるここが維持出来れば、何とでもなるのだ。2か所の生き残りが、こちらに合流してくれる事を祈るのみだ。

 下からは、乱戦状態で無理だろうが、屋上に来てくれれば、受け入れる事が出来るだろう。

 襲撃者達は、空を飛ぶ術がないのか、全員下で戦っている。

 少数で冒険者が屋上に来れたとしても、上の護りも万全なので、それも問題ではないが……。

 突然、街中に配置していた“草”達の反応が変わった。気絶と死亡。しかも、洗脳で一般人を“草”と思い込ませた者だけが気絶で、後は全員が死亡だ!

 何という事だ!“草”の偽物と本物の区別が完全に把握され、始末されてしまった!全員ほぼ同時にという異常な程の、手際の良さ!

 ここに来てギゼオラは、これが綿密な調査の元、万全の準備で周到に計画された、『人間弱体党』への大規模な殲滅作戦である事を、理解してしまった。

 今日、上級冒険者のみに、新技術の公開がある、と言う事で、上級冒険者は一人残らずギルド本部に集められている。

 密偵を送る必要がなくとも、そちらから機密情報を公開してくれるのか、と高笑いしていたのだが、これも罠に違いない。

 つまり、こちらが冒険者に成りすましをさせた、手勢も全員一緒に集められているのだ。

 彼等がギルド本部で待つ運命は、言わずもがなだ。……すなわち全滅だろう。

 本当に、この高級遊戯場コキュートスが、『人間弱体党』の、文字通り最後の砦になりつつあった。

 ギゼオラの額から、一筋の冷や汗が流れ落ちる。

 完全に虚をつかれた。不意をつかれた。慢心が過ぎた。

 現在のフェルズのギルドマスター・レフライアが、ひとかどの人物である事は分かっていた。元A級の強者だ。要注意人物であり、『神の信望者』の精鋭と戦い抜いた、冒険者の英雄。

 出来る事なら暗殺したかったが、その目立つ地位と、本人の未だ衰えぬ強さに、すんなり暗殺出来ない可能性の方が高かった。

 もし上手く行ったとしても、尊敬され、崇拝されるギルマスの死は、徹底的に調査され、組織への調査の足掛かりにもなりかねない。

 寝た子を起こす必要はない。我々は目立つ行動をしてはならないのだ。計画の事、組織の事にさえ気づかれなければ、誰がギルマスであろうとも関係ない。

 なのに、こうして組織への全面攻勢が、こちらに気づかれる事なく大々的に行われている。

 これは、余程の智将、知略に長けた参謀でもついたのか?ここの所の、ギルドの人事に大きな変更はない筈なのだが、密偵や監視は何をやっていたのか!

 ……いや、もはやそんな事を責めている場合ではない。なんとかここで少しでも長く籠城し、他のアジトからの増援を期待して、粘るしか……。

 ギゼオラの、コキュートスを覆う障壁に繋がっている感覚が、1階の障壁に、部分的に穴が開いたのを感知した。

「中には入らず、まず攻撃魔術で、中の仕掛けや魔物を攻撃するようですね」

 他の、障壁の状態が分かる同士の術士が嘲るように言う。

 迂遠だが、まあ安全で確実な方法だ。1階の仕掛けの、ほんの僅かしか破壊出来ないだろうが……。

 そう軽く見積もっていた者達の期待を裏切る、とんでもない力が感知された。

 外の魔術師達の一人が、『岩の槍ロック・ランス』を六つ、自分の周囲に浮かべ、今にも放とうとしているが、それに込められた力が、普通とは段違いに違う、恐ろしい程の力が中に込められているのが、離れた場所にいる自分達にすら分かったのだ。

「マズイ!あれは単なる『岩の槍ロック・ランス』なんかじゃないぞ、誰か止め……」

 そんな暇はなかった。

 放たれた六つの『岩の槍ロック・ランス』は、障壁に穴の開いた扉から中へと入り込み、しかもその場にいた剣士が扉を戻し、その障壁の穴をご丁寧に塞いでしまったのだ。

「まっ、魔術障壁を張る!皆、近づけ!“気”で防御出来る者は準備しろ!」

 『岩の槍ロック・ランス』の意味が分からない、術者以外の感覚の鈍い者は、首をひねりながら副指令の元に集まる。

 ギゼオラは、自分と、その周囲の護衛に障壁を付与し、近くにいた者から順々に付与をする。

 他の術士も、急いで近くの者に魔術障壁を付与している。

 下の階への警告をする暇がない。どうか、自分達で気づいて対策してくれ、と祈る間もなく、凄まじい爆発が、下から連鎖的に起こり、その爆発が下から全てを破壊しながら上へと昇り、とんでもない轟音と爆風、光と熱の奔流に、建物の中にいた全ての者が飲み込まれ、翻弄されていった。

 それは、地獄の炎熱地獄すら生ぬるい、とでも言うが如く、凄まじい光りと熱の膨張の嵐に、木材は勿論、石材、鉄等の金属すらその高熱に焼け、溶け、蒸発し、消えて行った。

「……目をつぶれ!光を見るな!」

 ギゼオラの警告は、その凄まじい爆音の中、一体どれだけの者に届いたであろうか。

 一体どれだけ、その高温と強烈な光の爆発の力の中で、耐えていたのだろうか?もう障壁がもたない、いや、それ以前に、空気が足りない。このまま全員全滅か?

 爆発からは、試験体であるWライオンのロアが、必死にギゼオラをその巨体で庇い、3人の護衛剣士もそれにならってギゼオラの盾となっていた。

 彼は、副指令であるだけではなく、この組織の最終兵器、その要なのだ。絶対に、死なす訳にはいかない存在だ。

 その祈りが届いた訳ではないのだろうが、唐突にそれは終わった。

 爆発の光が、急激に一点に収束し、そのまま小さくなり、消滅した。

 3階で爆発の奔流に翻弄されていた者達は皆、床も天井も柱もなくなったコキュートスの内部の、1階の地面へと、唐突に落とされた。

 3階程度の高さは何とでもなる者達だったが、突然で対応し切れない者もいて、無様に下に叩きつけられた者もいた。

 ギゼオラはロアが抱え、安全に下に降り立った。護衛の三剣士も一緒だ。

 だが事態はまだ終わらない。広い建物の、広い屋上が、柱も何の支えも無くなったのだ。当然自重に耐えかねて崩れ落ちて来るのは自明の理だった。

 それに引きずられ、建物の壁もまた、中心に向かって崩れ落ちて来た。

「ま、まずい。物理障壁を張るぞ!」

 ギゼオラは、何とかロアと三剣士の物理障壁を付与したが、他の仲間達は爆発の勢いで散り散りになっている。それぞれの対応に任せるしかなかった。

 瓦礫となった建物の破片が、次々と彼等に降り注ぐ。壁が四方から順々に倒れ、何処にも逃げ出す空間等ありはしない。

 そして―――コキュートスの全てが脆くも崩れ落ち、廃墟となり下がるのに、僅かな時間しか、かからなかった。


 ※


 瓦礫を跳ね除け、ようやく外に出れた、組織の合成術の試験体であるWライアオンのロアは、怒声を放ちながら、周りの瓦礫をハルバートで壊し、周囲を見る。

 大勢の冒険者達に、ゴブリン小鬼オーク豚鬼の死体の山。向かいの建物の壁の片隅に、アラクネ魔族のネイジャスの遺体が無造作に転がっている。

 冒険者達には、まるで被害がある様には見えない。

(ネイジャスの鋼糸結界で殺られた奴が、一人もいないと言うのか……)

 ゴブリン小鬼オーク豚鬼達との戦いで、多少の疲労は見られる様だが、これでは戦力差があり過ぎる。
 
 『無限の軍勢』のギゼオラも、同様の事を考えたのだろう。

 すぐに、腕輪の一つは外し、B級の魔獣、ヘル・ハウンド地獄の猟犬10匹を解放した。

 それを見た冒険者達が、彼等を目指してそれぞれ動き出す。

 ギゼオラは、余りにも致命的な間違いを犯した。

 どうせなら、瓦礫の下に隠れた状態から、蓄えた魔獣達の集団を、全て解放し、冒険者達と全面対決させるべきだったのだ。

 それを、わざわざ目の前で実演してしまったが為に、自分が、増える魔物の供給元である事を自らバラしてしまった事になるのだ。

 小さな剣士が、恐ろしい速度でギゼオラを目指して、コキュートスの瓦礫の上を移動して来る。

 彼の最強の護衛であるロアには、いつの間にか現れたのか、三人の、年齢も性別もバラバラだが屈強な3人に戦士が、ロアを囲み、その動きを牽制していた。

「くぅっ……」

 自分の失策に、歯噛みするギゼオラは、急に開放され、睡眠状態から覚醒されたヘル・ハウンド地獄の猟犬がようやく、近づく剣士を敵認定し、襲いかかって行ったが、抜く手すら見せぬ、閃光のような斬撃に、一匹残らず首を飛ばされていた。

「そちらは任せたぞ、『流水の』」

 ロアの前方で、彼の猛攻を巨大な大剣で簡単にいなす、壮年の剣士が言う。

(『流水の』……弟子か!噂は聞いていたが、D級のパーティーに入って、くすぶっていると、調査班が……)

 ギゼオラは、後ろに下がりつつ、護衛の三剣士の邪魔にならぬ様に距離を取る。

(B級のヘル・ハウンド地獄の猟犬を一撃で倒せる剣士が、D級?調査班の奴等は、目が腐ってでもいるのか!?)

 フェルズで組織が、余りにも長く順調に活動して来た事の、弊害が出て来ているのか?襲撃計画を事前に察知出来なかった、“草”や監視の者達。『流水の弟子』の様な強者の実力を見誤る、冒険者調査班の間抜け達。

 そして、例え襲撃が行われたとしても、前準備は万端、と高を括っていた自分達の怠慢。

 A級の冒険者にも匹敵する実力の三剣士が、援護に放たれた弓を落とす、そのほんの僅かな隙に、三人とも斬り倒されていた。

「……下らない茶番はおしまいだ」

 背の低い、まだ少年にしか見えない外見の子供から、歴戦の猛者からしか感じられない筈の、鬼気迫る闘気が感じられる。こいつの実力は、本物だ!

 ギゼオラは、三人が斬り倒される間に、なんとか術が間に合った魔獣を、斬りかかって来るゼンの眼前に出現させる。

 A級の魔獣グリフォンと、同じくA級の、ギガント・バイパーだ。

 鷲と獅子の身体を合わせた様な、キメラ系の魔獣グリフォンは、様々なスキルを操り、空から冒険者を翻弄する、『空の王者』とも呼ばれるAランクの魔獣だ。

 ギガント・バイパーは、濃い緑色の、巨大な蛇の魔獣で、一度その締め付けにはまると、どんな身体強化した力自慢でも抜け出せずに絞殺されると言う。牙には強力な猛毒があり、それを口から吹き付けて来る事もある、かなり危険なAランク魔獣だ。

 捕まえるのに、同士達がえらく苦労した、このA級魔獣ならば、例え相手が『流水の弟子』でも―――

 その、頼りにするべき魔獣の首が、2体とも斬り落とされ、倒れ込むのを、ギゼオラは、茫然とした頭で、心が現実を拒絶していた。

(あ、あり得ない。一撃で、A級の魔獣を倒すなぞ……)

「……この術、相対すると、致命的な欠点があるだろう」

 ゼンは鋭く踏み込み、ギゼオラに剣を向けながら言う。

「ヒィッッ!」

 ギゼオラは後ろに飛び退る。彼は術士であるが、戦士並の身体強化をしており、その上風の術で移動速度を速めている。並の剣士なら、追い付くことさえ―――

 空を裂き、その身に迫った剣を身を捻ってどうにか躱したギゼオラは、『流水の弟子』が並の剣士でない事を実感せざるを得なかった。

 どんなに高速で移動しようとも、ゼンはピッタリと追い付き、剣で斬りかかって来る。

 ギリギリで躱す代償のように、その身につけられた、魔獣達を亜空間に閉じ込めている輪(リング)状の魔具が、どんどんと壊され、ギゼオラの身が軽くなる。

「……眠らせて、別空間に押し込んでるようだが、解放すると同時に覚醒する仕組みか?寝ぼけて隙だらけの魔獣が、A級だろうがB級だろうが関係なく、弱点を狙って容易く倒せる。造作もない事が、分からないのか?」

 時折苦し紛れに開放した魔獣達が、出した途端に死体に成り下がる意味を、ゼンはギゼオラを攻撃しながら解説している。

「あ……」

 そうだった。自分自ら、敵と相対して、解放した魔獣を戦わせた事等、一度もなかった為に、当然理解していた欠点が、頭からスッポリ抜け落ちていた。やはり、瓦礫の下に隠れているべきだったのだ。時間を戻してやり直せれば……。

 度重なる失策に、ギゼオラは血の気が引く思いだ。死、という現実が、先程から身近に刃となって通り過ぎている。必死の思いで躱しているが、完全に躱せている訳ではないので、身に着けていた魔具が音を立てて壊れ、減って行く。

 所詮、ギゼオラは術士なのだ。蓄えていた魔獣が通じず、仲間の援護もなければ、このまま死ぬのは必然。時間の問題だった。

「…思い通りにさせるか!」

 突然、瓦礫を跳ね除け、ギゼオラとゼンの間に割って入ろうとした重戦士の魔族は、甲冑の隙間から顔面を串刺しにされ、倒れ伏す。

 “気”で周囲を感知し、警戒しているゼンには不意打ちにもならない障害物だった。

 それでもギゼオラは、その間に白銀狼(シルバー・ウルフ)二十頭の群れに、強化ミノタウロス牛鬼人十体に、強化サイクロプス一つ目巨人十体を何とか解放した。

 B級やC級の魔獣、魔物だが、ゼンに魔具が壊され、上級の魔獣がもう出せなくなっていた。

 それでも数で、この恐るべき剣士から距離を取り、態勢を立て直さなければ、自分の身が危うい。

 ゼンが、まだ覚醒仕立ての状態でフラフラしている群れを、一息に殲滅させようとするその前に、戦況を見て駆けつけて来た冒険者達がいた。

「『流水』、こいつらは俺達に任せて、あの術士を殺ってくれ!」

 ゼンは、大した手間ではなかったが頷いて、ギゼオラへの追撃に移った。

 オーク豚鬼達より強敵だが、負ける要素のない敵だ。任せて問題ないだろう。

「お願いします!」

 冒険者達に頭を下げ、ゼンは一気にギゼオラへ迫る。

 ほんの少しの間だったが、間が開いたギゼオラは、収納具から杖を出し、特別な魔獣を出そうとしていた。

 その腕を、ゼンはゼンは斬り飛ばし、杖も危険性があると見て、容赦なく細切れに破壊した。

「ぐっ……ガアッ!」

 腕を斬られ、頼みの魔獣バジリスク・ロードすら出せない。

 もしも出せていたら、冒険者もろとも『流水の弟子』も、周囲全てを石の世界に変えられたかもしれない。勿論、自分達もそうなる危険性はあったが、その対抗策は持っている。

 だがそれも、もはや単なる願望の予想でしかない。

 片腕になりながらも、まだ風の術で逃げ足を加速するギゼオラに、ゼンも内心、舌を巻く。

 恐らくは、純粋な術士でなく、魔法剣士の様に、近接の体術も会得しているのだろう。ゼンの神速の剣を、かろうじて、魔具を壊されながらも躱すその体さばきは尋常のものではない。

 それでも、これ以上粘られて、魔獣を増やされ被害が増すのも困る。一気に方をつけよう。

 ゼンは、『流歩』の高速移動で、ギゼオラの正面に追い付いた、と見せかけ、残像の影を残し、腕のない右横へと移動、その胸を一突きで貫通させようとした。

 グサッと、鈍い感触はあったが、剣は胸の真上で止まる。

 ギゼオラが、残った左腕の手で、その剣を受け、貫通した手の平で剣を握りしめ、ゼンの剣を動かせなくしていた。

 こうなると、自力の力が弱いゼンが不利だ。

「……貴様の剣で、死ぬ訳にはいかぬ!ここで使う予定ではなかったが、こうなっては仕方がない。貴様ら全員、道連れとなれ!」

 不穏な力の増大を感じ、ゼンは躊躇なく剣を手放し、後方へと高速移動する。

 その瞬間、ギゼオラの胸にあった首飾りに石が爆発し、ギゼオラ自身も爆死した。

 ゼンは身を伏せ、“気”の防御で爆風をやり過ごす。

「……今更、なんで自爆なんて真似を……?」

 ゼンは、爆風に飛ばされて、回転して飛んで来た自分の剣を難なく受け止めて、その場を見つめる。

 その答えは、すぐに、その場の空間に現れた。

 バリッ!

 不可思議な音が、その場に響き渡り、ギゼオラの真上の空間が、まるで硝子(ガラス)のようにひび割れ、剥がれ落ちて行った。

 物凄い邪気が、その空間に開いたひび割れから流れ出て、その場の全ての者が凍り付いた。

 またバリッ!と不可思議な音が続き、空間に開いたヒビが、大きな穴となり、周囲に破片を飛び散らかせていた。

 その巨大な穴から、邪気と瘴気を纏って、巨大な黒い竜が、ノソノソと、緩慢な動作で、空間に開いた穴を広げながら、こちらの空間へと這い出してきた。

(邪竜?昔、師匠が戦った邪竜よりも、一回りも二回りも大きい……!)

 それは、魔界の奥深くにしか生息しないと言われる、魔獣以上、邪竜以上の存在。

 強大無比な、暗黒魔竜だった……!




*******
オマケ

サ「ねえ、ゼン」
ゼ「なにかな」
サ「本編で聞く機会ないから、ここで教えて欲しいんだけど」
ぜ「……答えられる話なら」
サ「変な話じゃないわよ。あの『本』の話の時、ゼンなんでか自分の事、『僕』って言ってたの?平静じゃないみたいだったけど、出会った時からずっと『俺』だったと思うのだけど」
ゼ「……あ~、あの時は、うん、動揺して混乱して、普通じゃなかったんだ。で、あの少し前から、使用人の子供達、男の子達に言葉遣いを教えてて、『ボク』って使うほうがいいよ、って」
サ「成程。子供達に言葉遣い教えてたのね」
ゼ「……それと、一番最初は、『ボク』って言ってたんだ」
サ「最初って、その、記憶がなくて、スラムに来た時?」
ゼ「そう。自分でもなんでかよく解らないんだけど、そう使ってた」
サ「じゃあ、何故『俺』って変わったの?」
ゼ「その、最初にお世話になった人が、『俺』って使ってたんだけど、その人はいなくなって、で俺は、代わりにそれを使わなきゃいけない、みたいに思って」
サ「……そうなの。辛い事聞いてしまった?」
ゼ「あ、や、実はその、いなくなって、俺もてっきり死んだと思ってた人、生きて孤児院にいたんだ」
サ「それは、良かったわね、と言っていいのよね?」
ゼ「うん、大丈夫。勘違いと思い込みなだけだから。それで、昔を思い出したり、子供達に『僕』って教えたりしてて、時々間違えて使ってしまうみたいなんだ」
サ「ふ~ん。『僕』も、案外悪くない気がするわね」
ゼ「俺は、子供っぽく見られて嫌だよ」
サ「子供、と言うか、礼儀正しい感じじゃない。ゼン、元々そういう印象あるし、そっちでもいいのに」
ゼ「……なんか、旅の途中、お酒飲まされた時、そうなってるって、師匠や爺さん言ってた。無意識には、そっちなのかなぁ……」
サ「へぇ、そうなんだ」(いい事聞いちゃった)
ゼ「……なんか、嫌な事考えてない?」
サ「ぜんぜ~ん。何にもそんな心配する事、考えてないから」
ゼ「……それならいいけど」
サ(シアと一緒に、何とかお酒飲ませてみようっと♪)
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