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最終章EX 星の英雄
149.女神様と少年と……
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「でも俺、馬ぐらいは乗れるけど、機械の巨人の乗り方なんて、当然知らない訳で、操縦法って、どう覚えればいいんですか?それも、情報として送ってもらうとかする、と?」
色が変化して、まるで別の機体になった様なジークを前に、ゼンは途方に暮れて、二柱の神に問いかける。
【いや、覚える必要はない。それは、乗ればすぐ分かる事だからだ。
だがその前に、これから来たる二柱の女神から、その加護を授かって欲しい】
テュールが赤い光を点滅させながら、おごそかに告げる。
他にもまた神が出て来るのか、とゼンはつい癖で、嫌な顔をしてしまうが、思い直し、心構えをして、何色の光を内包した立方体(キューブ)だろう、と考えていると、そこに唐突に、漆黒の上品なドレスを纏った、物凄い美少女が現れた。転移して来たようだ。
漆黒の髪に漆黒の瞳の、何処かサリサに似た面影のある少女。
しかし、目を細めて、少し眠たげでダルそうな感じの、幾分かタレ目気味の、不思議な雰囲気を持つ少女だ。
【夜の女神、ノートだ。宇宙は、夜空に通じる星々の世界、闇の世界だ。その加護は、この星を出た際にきっと役立つだろう】
テュールの紹介に、ノートは優雅に一礼して、ゼンにニッコリと微笑みかける。
【初めまして、人の子よ。以前に、貴方は夜の闇が落ち着くものだと、私を褒めたたえてくれましたね。とても感激いたしましたわ。私(わたくし)の加護を持つ少女を通して、聞かせてもらいました】
褒めたたえた、と言う程の話ではなかった気がするが、否定する事でもないだろう。
しかし、あれはサリサと二人だけで話した、睦言のようなものだ。勝手に、“通して”聞かせてもらった、と言われても、どういう顔をしていいか分からない。
「いえ、別に、大した話では……」
と、視線を逸らして、言葉を濁す。
【後、もう一柱、ニヴルヘイムと冥界(ヘルヘイム)を統べる女神ヘル。世界に満ちる魔素(マナ)も、彼女の管轄で、魔神の側面も持っている。この戦いで、魔力(マナ)の総量は、戦いの行方を左右するものだろう。その加護も授かって欲しい】
またテュールが紹介するが、転移で現れて来る様子がない。どこにいるのだろう、と不思議に思っていると、ゼンの眼前にいたノートが一瞬、ピカっと光り、そこには妖艶な微笑みを浮かべた、ノートとは印象のかなり違う、煽情的な美少女がいた。
胸や大事な部分だけが黒布を巻いて隠しているが、それがギリギリ過ぎて、より男の欲望を掻き立てるような恰好をしている。
【妾(わらわ)が、魔を司る女神ヘルである。妾(わらわ)の加護深き少女の想い人には、格別の感謝を……】
ヘルは、感謝と言うよりも、まるで誘惑して来るような、怪しい笑みをゼンに投げかけている。
「……って、その身体、サリサじゃないですか!なんだかさっきから、似た顔付だと思って見ていたら!」
【そうじゃな。お主の愛しき伴侶の一人じゃ】
何故か楽しそうなミーミル。結構いい性格しているのであった。
「平然と肯定しないで下さいよ!なんでサリサの身体を、二柱の女神が交代で使っているんですか?!」
予想だにしなかった事態に、流石のゼンも戸惑いが大きい。
【丁度、器としての資質を、彼女が持っていたからじゃ。黒髪に黒の瞳を持つ種族には、ノートの加護がある。そして、魔術師として特に優秀であった彼女に、ヘルの加護がある事ぐらいは、予想出来て然るべき事柄じゃろう?】
「そ、それは、そうかもしれないけれど、俺は神々の事なんかに、詳しくないんですよ……」
どちらかと言えば嫌いで、その知識を積極的に調べた事など皆無であった。通り一遍の知識ぐらいしかない。
アリシアに、光の神の加護があるのだろう、ぐらいしか考えた事がなかった。いや、二人が同等に規格外な事を考えれば、確かに予想出来る事だったのだ。
「ともかく、その凄い恰好をどうにかして下さい!」
【おや?伴侶ならば、見慣れたものであろうに。折角、さあびすしてあげたと申すに、つまらぬ男(おのこ)よなぁ……】
不満げな口ぶりで、それでもヘルは衣装を変えてくれた。
肩を丸出しな、ノースリーブの黒のドレス。何故かスカートに大きくスリットが入っている。動きやすそうではあるが、そこから黒の網タイツを履いた足が、チラチラと見え隠れしている。真っ赤なハイヒールまで履いている。
サリサには。確かに似合うのだが、だから余計にゼンは困る。
それでも、これ以上言うのは藪蛇だ。次は、何かもっと奇抜な服にするかもしれない。この女神は、ゼンの反応を見て楽しんでいるのだ。
「~~~。じゃあ、その加護とやらを、さっさと済ませて下さい!」
言うゼンの前で、ヘルがまたノートに入れ替わる。
【それでは、僭越ながら、私(わたくし)から……】
「?なんで、入れ替わる必要が……」
ノートはまだ、ヘルに比べて常識神のように見えたので、ゼンは油断していた。まるで考えもしない行為に、対応出来なかった。
ノートはゼンの顔を両手でガッチリと掴み、身動き出来ないようにしてから、肉食獣が獲物に襲い掛かるように、精悍な動きでゼンに迫り、口を急速に近づけ、キスして来たのだ。
「?!」
余りに意表を突かれ、驚いたせいで口が開いてしまった。それが余計に悪かった。
怒涛のように、口の中に舌を差し込まれた。そしてそれはそのまま、ゼンの口内で暴れ回る猛獣と化す。
ノートの舌とゼンの舌が絡まり、それはまるで独自の意志を持つ軟体動物のように、口内を逃げ回るゼンの舌を追いかけ追い回し、何処にも逃げ場などありはしない。
ゼンは、自分の顔を掴むノートの手を引きはがそうとするが、力の弱い魔術師のサリサの手とは思えない程の力強さで、まるでビクともしない。神的な身体強化でもなされているのか。
いくら嫌でも、サリサの身体を蹴ったり殴ったりはしたくない。それに、しても無駄な感じがひしひしと伝わって来る。
いっそ、この無遠慮な舌を噛んで……いや、それこそサリサのか弱い箇所を傷つけてしまう。
ゼンは頭が混乱し過ぎてワヤヤになっているが、あくまでこれは、サリサの身体なのだ。それを忘れてはいけない。
思えば、サリサとこうした深いキスをした事も、まだなかった。
一度、試しに舌を差し入れたら、涙目になって身体を押し返され、「それもまだ早いから……」と言われてしまったからだ。
ゼンは、そういういらん技術まで、若い頃は伊達男で、かなりの女を泣かせたと言うパラケスに、口頭で教え込まれていた。
女性を喜ばせる様に、恥をかかせぬようにと言われ、何も知らないゼンは、頭から老魔導士の教えを信じ込み、熱心に習い覚えた。
おかげで、サリサにいらぬ誤解を与えてしまった。ザラも、似た様な感想をゼンに持っている様だった。
つまり、旅の間にそれなりな女遊びをしていた、とか、もう女慣れしているとか、である。
誤解が過ぎて泣きたくなった。従魔の件でパラケスと連絡を取った時、その事の苦情を言ったら、死ぬ程笑われた。ついでに、その場にいた義母(ギルマス)にまで笑われた。
それは、もういい。無知過ぎた自分の落ち度もある。
それでも、この世界でそれなりにいい年齢の二人の婚約者の、初心(ウブ)で純情可憐が過ぎるのにも問題があると思うのだが、そんな二人だから大事にしたいとも……。
―――……ハッ!
心が現実逃避して、今の状況への拒絶反応が強過ぎたのか、二人との思い出に逃げ込んでいた様だ。
とにもかくにも、タップリ五分間は、ゼンの口内を堪能し尽したノートは、最後に多量の唾液を、ゼンの口に注ぎ込んだ。
「ッ☆★!?」
思わず吐き出しそうになるゼンの口を手で押さえ、ニッコリと、物凄い圧力を感じさせる笑顔で女神が強制する。
「全部飲み下しなさい。身体の内側から加護が隅々まで行き渡るのです。出す事など、許されませんよ?」
……ゼンは、泣く泣く全部飲み込むより他に、道はなかった。
全身、汗がグッショリで、脱力した。鍛錬よりも消耗した気がする。
なのに、まだ終わりではなかった。
【妾(わらわ)の番じゃな。安心するが良いぞ。妾(わらわ)はノートよりも“てくにしゃん”、じゃからな】
脱力して今にも倒れそうなゼンの顔を、無理矢理上に向かせると、また女神の口唇が、少年に襲い掛かって来る。
ゼンはもう、何も考えない様にして、力も抜いて相手のされるがままに身を任せた。
抵抗しても無駄でしかない。疲れるだけ、無意味だ。
そう思っても、無心でいられる訳がない。
ヘルが、ノートよりも“てくにしゃん”かどうかは判断出来ないが、かなり中身が違ったのは確かだった。
ノートが獣レベルなら、ヘルは魔獣レベルの激しさと、遠慮の無さでゼンを攻め立てた。
しかも、ヘルはキス(口)だけでなく、ゼンの身体をしっかりと抱き締め、色々な箇所に触れて撫でて、手を動かして来る。
ゼンがいくら、何も考えない様にしようとしても、敏感な場所を、繊細な手つきで触れて来られては、無反応ではいられない。
思わず目を開けると、うっとりと上気し、興奮し切ったヘルの紅潮した艶やかな表情を目の当たりにしてしまう。
サリサのそんな表情など、見た事もないのに、いつかサリサもそんな風な顔を、自分に見せてくれるようになるのだろうか、等と夢想してしまう。
危険な兆候だ。
今、ゼンが相手をしているのは、あくまでヘルで、彼の愛しきサリサ(恋人)ではない。しかし、同じ顔、同じ身体なのだから、つい混同してしまうのだ。
もはやゼンは、嵐の海を、粗末なイカダでこぎ出した、無謀な旅人だ。
ただただ、激しい嵐(ヘル)に翻弄され、イカダの帆を張る柱(理性)にしがみつき、大海(欲望)に落とされまいと踏ん張っているが、それもいつまでもつか分からない。
いつ果てるとも分からぬ、長い長い時間が過ぎた様な気がした。
それは実際は、十分程度で、ノート時の倍程度の時間でしかなかったのだが、ゼンには一晩中嵐に揉まれていた様な疲労感があった。
また最後に、たっぷりヘルのが唾液をゼンの口の奥へと流し、抵抗する気力もないゼンは、そのままそれを飲み干した。
【いい子だ、フフフ……。このまま妾(わらわ)の眷属に召し立てたいものよのぅ……】
【それは協定違反よ。他の女神達からも、きつく言われた癖に、私(わたくし)よりも長く、濃厚な接触をしておいて、ヘルはズルいわ……】
【初物を先に摘んでおいて、その言い草はなかろう】
何か言い合っているが、ゼンは茫然として、耳から聞こえてはいるのだが、ちゃんとした情報として頭の中に入って来ない。
無心なろうとし過ぎて、意識がどこかに飛んでしまったようであった。
バッチィーーーーン!!!
それを呼び覚ましたのは、ようやく身体の主導権を戻してもらったサリサであった。
思いっきり無防備なゼンの頬を、全力で引っ叩いたのだ。
「あ……っ痛……」
ゼンは、いつも黒のローブ姿に戻ったサリサが赤い顔をして、憤怒の眼差しで自分を睨んでいるのを、やっと目視で確認し、意識を自分の身体に戻す。
「痛い、じゃない!ボーッとしない!」
「ああ、うん、サリサだ。本物の、いつものサリサだ……」
疲れ切ったゼンに、サリサは侮蔑の視線を向ける。
「……早く拭いて!二種類の口紅(ルージュ)が、べったり口についてるわよ!」
サリサは、自分のハンカチを、ゼンに押し付けるようにして渡す。
「いや、そんなに怒らないでよ。俺だって、好きでやってる訳じゃないんだから……」
受け取ったハンカチで、素直に口をぬぐうゼン。
「はぁ~、そうですかぁ?なんか、ウットリ陶酔した顔してた様に見えたけどぉ~」
嫌味たっぷりなサリサの顔の赤さは、サリサが女神二柱の感覚を共有していたからだ。
つまり、表には出ていなかったが、サリサも二柱がゼンとしたディープ・キスを、一緒にしていたも同然だったのだ。
「……好きな人の身体であんな事されたら、誰だって悪い気はしないだろ……」
ゼンの言い分も、無理もない事だ。
「今のは、私であって私じゃないんだからね!浮気よ、浮気!」
感覚を共有していたサリサは、その高揚や陶酔感を誤魔化したくて、否定的な事ばかり言っているのだった。
「それは、見方として厳し過ぎると思うよ……」
ゼンの方は、確かにサリサへの罪悪感があるので強く出れない。
微妙にすれ違っている二人であった。
それでも、これから命がけの戦いになるかもしれないのだ。こんな風に、ギクシャクしたまま別れては、悔いしか残らない。それは駄目だと二人とも思っていた。
「……うん、こんな言い方は、女神様には不敬かもしれないけど、口直しがしたい」
ゼンは、衝動的に動いていた。
「え?な?ぜ、ゼン……?」
ゼンは、サリサを抱き寄せて、そっと口付けする。
いつものように、舌など入れず、抱き締め方も、柔らかく、大事な物を、少しでも傷つけないように。
最初は堅かったサリサの身体からも力が抜けて、ゼンに身体を寄せていく。
二人は、そうしていつも通りの、暖かな幸福を取り戻す。
それを、アルティエールは少し離れた機神(デウス・マキナ)の足元で、羨ましそうに見つめていた。
「……焼けるのう。何か胸がモヤモヤするではないか……。
おや、お主もそうかや?気が合うのう……」
何故か、また不穏な気配を放ちだした『ジーク』を見て、アルティエールはその足を、拳でコツンと叩く。
ウォン、と同意する様な音がした。
<……また、機神の適合率が変わったぞい。ゼンは82%に落ち、アルティエールのものは、70%まで上がっておるようじゃ>
<まさか、焼餅とか言わんでくれよ。……その適合率と言うのは、好感度のパラメーターのようだな……>
二柱の神は、また念話で、不可思議な反応を示す機神(デウス・マキナ)に、どうしたらベストの状態に調整出来るのか、頭を悩ますのであった。
*******
オマケ
ある日の女子会
サ「なんか、時々不安になるのよね。なんだか、あいつってば、妙に女の子のあしらい方が上手い、って感じがして……」
ザ「私も、それは思います。自然に抱き寄せたりとか……」
サ「うんうん。それが当り前、みたいな行動するのよね」
ア「ゼン君の年齢を考えたら~、もっとアタフタして、年上のお姉さんがリードしてあげなきゃ、って感じのが普通だよね~~」
サ「まあ、あの子が普通じゃないのは、今に始まった話じゃないけどね」
ス「さすが『流水の弟子』って感じだけど、無理して大人ぶってるんじゃないの?」
ザ「それも、あるとは思います。でも、もうそれが様になってて……」
サ「なのよね。頼りになるのは嬉しいけど、頼っても欲しいから」
ア「恋人に、多くを求めるのは、誰でも~、どこの時代でも一緒だね~~」
ス「そうね。私から言わせてもらうと、二人とも少し我が侭かな」
サ「そう、なのかしら……」
ザ「そう、かもしれませんね……」
(話は尽きない模様)
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