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最終章EX 星の英雄
160.5.幕間:辻褄合わせ
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後は待つだけ、となって緩い空気が操縦席内に流れていた。
外の、大気のない状態でまたたかない星空を見ても、最初程の驚きはないし、今はもう、そんな場合でもない。
現状はただ、時間だけが過ぎるのを待つしかない。
ジークの機体内の排泄物の処理は、宇宙服のパーツに繋げるパイプから、所定のタンクに流れ込み、そこで分解処理され、水分などはろ過され飲み水に、他のエネルギーになる様な物は取り込まれ、完全な不要物のみが、機体外に投棄される。その際に、所定パーツの洗浄、消毒、脱臭も同時に行われる。
綺麗になる、と分かっていても、落ち着かないものがあるが、そこも我慢のしどころだ。
その仕組みを知って、飲み水を持って来て良かった、とゼンは心底思うのであった。
「……昔、わしの……“それ”を、飲みたい、と言う馬鹿がおってな」
アルティエールが何故か、おもむろに昔話を話し出す。
「それは……凄いね……」
好きな人の物なら、なんでも愛おしい、と思える、いわゆる悲しき異常者の話だろう。
ゼンは、好きな人がどうの、以前にそこまで達観した境地には至れない。
「燃やして捨てた」
「ふーん。……て、え、殺しちゃったの?」
「当り前じゃ、気持ち悪い!」
ゴミ以下に対する、汚物扱いで、吐き捨てる様に言う。
「あー、まあ、気持ちは分かるけど……」
「なんじゃ、お主も飲みたいのかや?」
「違う!そっちの気持ちじゃなく、アルの殺意の方!」
「そうか、残念じゃ。ゼンなら飲ませてやったのにのう」
「……いや、それを飲まなきゃ死ぬ、ってぐらいの瀬戸際だったら、誰のでも構わず、割り切って飲むかもしれないけど、普通にそんなの飲みたくないよ!」
ゼンは幼少期、知らなかったとは言え、魔物の排泄物を食べた事があるのだ。それに比べたら、何てこと……なくはないだろう。今はもう、色々判断力がつき、多少の常識も知っている。色々無理だろう。
「チッ。最大の弱みを握るチャンスが……」
はしたなく舌打ちし、顔を歪めるアルティエール。
「なんで今更、俺の弱みなんて握る必要が……」
(この人は本当にハイエルフなんだろうか?どちらかと言えば、ゴブリン……戦闘力とか凄いから、ゴブリン・ロードやキングも超える、ウルトラ・エルダー・ハイ・ゴブリン(超越者)とかだったりとかしないのかな……)
「……うぬは、今何か、非常に失礼な事を考えていないかや?」
アルが剣呑な光を瞳に宿し、ゼンを強烈な視線で睨んでいる。
「ソンナコトナイヨ」
ゼンは心を無に、空っぽの状態にして答える。明鏡止水だ!
「…………まあよい。それでじゃな。恋愛事は、常に相手の優位に立ち、相手を逆らえない状態にするのが良い、と聞いた事があるのじゃが?」
(それは、相手を手玉に取る、とか、男を尻に引く方法、とかだったりしないだろうか……)
「……間違ってはいないかもしれないけど、極論過ぎないかな?同格の立場で、相手を思いやる事の方が、良くない?」
ゼンは一般的に、平和な常識論でアルを諭す。
「伴侶の同格が複数いて、それぞれが強敵(ライバル)となる場合、そんな綺麗事は言っていられんじゃろうが」
ゼンの今いる現状を言って、当てこすりしているのだ。
「……俺の中で、全員への想いはそれぞれ別な物で、優劣なんてつけ難い、つけたくない物なんだけど?」
そもそも、複数の伴侶を得よう等ど、考えた事もなかった。なのに、何故だかそうなった。
理解に苦しむ状況だ。
「ふふん。お主は、良き伴侶になるのだろうな。女同士はそうも言っておられんのじゃが。なにせすでに、本妻含む人間派、従魔派、獣人族派、エルフ派、派閥が出来ておるじゃろうが」
「……え?俺、まだ他の誰かを受け入れたりするつもり、ないけど?」
「突き放す事も、振り払う事も出来ぬお主なら、ずるずると、そのままいずれ絆(ほだ)されて、受け入れてしまうのが、目に見えておるのじゃがなぁ……」
「そんな事は……多分……ないよ?」
「その間の多さと、語尾が疑問形なのは、何じゃ!まったくもう……。
お主の優しさは、長所なのじゃろうが、過ぎれば毒にもなろうに」
(何故、女性と会話していると、この手のお説教になりがちなのだろうか……)
「俺は、そんなに優しいつもりはないよ。身内を気遣うのは当り前として、敵の悪党が、人間だろうと平民だろうと貴族だろうと、魔族だろうと、エルフだろうと魔獣だろうと、躊躇なく命を奪うし、それに罪悪感も覚えない」
「う~~ん。戦闘時における、その割り切りは、いいんじゃろうが、平常時のお主は、女性重視と言うか、紳士的過ぎると言うか……。とにかく、女とは、お主が思うよりも図太く、たくましい生き物じゃぞ?」
「そうなのかな?女性なアルが言うなら、そうかもしれないけど(そもそもアルは、平均的な女性とは程遠い気がする……)。
女性を大事に、ってのは、師匠やパラケスの爺さんから言われたから、その教え通りにしてるつもりだけど、それが度を過ぎるって言われても、丁度いいところなんて、それこそ難しくて分からないよ」
優しくしないと冷たい、と怒り、優しくすると、度が過ぎると怒られる。いっそ、なにもしなければいいのか?いや、それは『優しくしない』に入るだろう。本気で難しい。
※
やっと議論が一段落して、ゼンがホっとしていると、何やら後ろから花のようないい香りと、透明な泡粒が、フワフワ飛んで来る。
ゼンが振り返って見ると、アルティエールが自分の頭上に水の塊りを浮かべ、髪の毛を洗っていた。
「……アル、気持ちは分かるけど、こんな狭い所で頭を洗うのは、どうなんだろう?」
「うむ。しかし、洗わずにおるとベタつくでな。お主が毎日風呂に入れるような、快適な環境に慣れさせたのが悪いのじゃ」
「……それ、俺が責められるような事なの?」
ゼンは、スラムの生活で、頭や身体をずっと洗わずにいる事など慣れていたので、こんな状況でも平気……ではやっぱりなかった。
やはりあの、湯舟につかり、頭や身体を全部スッキリ洗える生活に慣れてしまうと、確かに、それが出来ないだけで、苦痛になって来るのだ。
(なんでも慣れだなぁ……。ともかく、3日我慢しなきゃ……)
やっと後ろの方の様子が落ち着き、洗い終えたのだろう、と思っていると、今度はもっとドタバタとやり始めた。
「今度は何を……うわぁっ!」
振り向いたゼンは、アルがあのピッチリした宇宙服を脱ぎ、色白な背中をこちらに向けているのを不用意に見てしまった。
すぐ正面に向き直ったが、至近距離で女性の素肌を見るなど、早々ない事なので、胸の動悸がおさまらない。
正面から見たら、むしろ何もない、面白くもおかしくもない大平原で、平気だったのかもしれない。隠された方が魅力的に思える、の法則が適用されていた。
「髪を洗ったら、やはり身体の方も気になってのう。この服は、ピッチリし過ぎてムレるし、汗の逃げ場もないから困るのじゃ」
「……綺麗好きなら我慢出来ないのかもしれないけど、やるなら前もって言ってくれよ……」
「はっはっは、すまんすまん」
タオルを濡らして拭いているのだろうが、いくらなんでも無神経過ぎないだろうか?それとも、これもいつものからかいなのだろうか?
ゼンの悩みは尽きない。
先の洗髪液とは違う、甘ったるいような、よく分からない匂いがして来て、ゼンは頭に血が昇って来る。
「……何か、石鹸とか使ってるの?」
「……いや、濡らして拭いておるだけじゃ。泡を落とすのに、二度手間になるからのう……」
アルも作業に集中しているのか、上の空な口ぶりだ。
(ならこれって、アルの体臭?汗の匂い?)
男の汗など臭いだけなのに、女性とどうしてこうも造りが違うのか。同じ人間という種の生き物とはとても思えない。男性と女性は、それだけで違う生き物な気がする。
(あるいは、ハイエルフだから、とか?)
エルフは、肉も普通に食べるが、全体的に野菜の方が多く、果物やキノコ類も好きな種族だ。種族的な食生活の好みで、体臭も変わるのかもしれない……。
深く考えると、いけない事を考えている様な気分になって来たので、早々に考えるのをやめた。
……なんだか、何もしていないのに、グッタリ疲れてしまったゼンだった。
※
アルが身体を清めた後、二人はゼンが出した食事を済ませ、二人同時に話を始めた。
「それにしても、さすがアル、凄いスキル持ってたんだな」
「それにしても、ゼンの従魔は、凄いスキルを持っていたのじゃな」
「「……」」
二人とも、出した話題が何故か重なっているのに、微妙に食い違っている事に違和感を覚えた。
「あの、現物があれば、道具を再現出来るスキルは、ゼンの従魔が持っていたのじゃろう?」
「違う。俺の従魔に、あんなスキルを持っているのはいない。アルこそ、スキル沢山持ってるから、勘違いしてるんだろ?」
「た、確かにわしは、長く生きておって、術じゃの技じゃのスキルじゃのは、数え切れぬ程持っておるが、自分のスキルぐらい、ちゃんと把握しておるわい!」
「でも俺は、ジークで同調(シンクロ)してて、あのスキルがあったから、加速ユニットを造れたんだよ。あれは、アルの方のスキルも分かって使えるから出来た事の筈だよ」
「いやいや、わしとて、あんな珍しいスキル持っておったら、必ず色々使っておったよ!」
「……アルじゃないなら、ジークがあのスキルを?」
消去法でいくと、それしか結論はないのだが……
【ププププ……。たまらん……笑え過ぎる……】
青い点滅がして、妙な笑い声をあげるミーミル。
【……我は、すぐに話そうと言ったのだぞ】
赤い点滅がして、テュールが気まずそうに言う。
【どちらもスキルに心当たりがないからと、ジークのスキルと思うとか、マジあり得んじゃろ】
何故か爆笑しているミーミルだった。
「……この神様、結構嫌な性格してないか?」
「……わしは知っておったわい」
【あの状況で、助力をしなければ、間に合わなかったからな。神界の方で、特殊技能を司る神がおるのだ】
まだミーミルが笑い転げているので、仕方なく説明役をするテュール。
「特殊技能専門の?」
【そうだ。いわゆる、ユニークスキルだの固有スキルだの、特別で、普通にはあり得ない様な技能を専門としておる。勇者に与えるスキル等は、彼が作成しておるのだ】
「成程。普通にあり得ない様な力だから、それ専門の神様がいると。じゃあ、俺が知っている、魔具を見て覚えただけで再現出来る、凄腕スカウトのスキルとやらを?」
【いや、それの上位版だそうだ。でなければ、科学の進んだムーザルの電子部品など、そうそう複製は難しいからな】
「ほう。まあ、世界の危機じゃし、何でもありよのう」
【それを、一時的にアルティエールに与えた】
「へ?わし?でも、先程確認したが、そんなスキルは……」
【だから、一時的に、だと言ったではないか……。お主にそんなスキルを持たせたら、何を造るか予想がつかん。持たせたままには出来んわ】
ゼンにスキルが使えない限り、アルティエールに一時付与、が妥当な判断だった。
従魔や超兵器であるジークにも、預けるのは危ないと判断されたのだ。
つまり、そういう理由で、加速ユニットは造る事が出来た……らしい。(どっとはらい)
*******
オマケ
ハ「はぁ~~。婆……アルティ、ズルいよね。ゼンとずっと一緒で」
エ「始祖様にそんな事言えるの、貴方ぐらいよ。……同感だけど」
ニ「暇だからって、研究棟に来る貴方達も大概だけど……」
レ「ゼン君、何してるのかしらね。私も知りたいぐらいよ」
ニ「忙しいのに、研究棟に逃げて来るギルマスの方がもっと大概……」
レ「だって、色々あるのよ。従魔の事とか、治療中の上位ランクの冒険者の事とかで」
ニ「大変なのは分るけど、逃げても仕方ないでしょ」
レ(それも、今しばらくの辛抱だけど)
ニ「?何ニヤけてるの?」
レ「なんでもな~い」
(研究棟の、午後のひと時でした)
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