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最終章EX 星の英雄
169.女神ヘル
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「……えーと?」
ゼンは目の前の、ヴォイドの討伐におもむく際に、加護を授けてくれた女神ヘルとさも高級そうな丸テーブル越しに対峙して戸惑う。
相手がニコニコ笑って自分を見つめるだけで、何も話してくれないからだ。
ヘルは、胸元が際どく覗くドレスに、サリサとは違い、豊かな胸を隠し、意味不明なスリットの入ったスカートで、大胆に足を組んで座っているので、素足が晒され、根本の方まで見えそうだった。
同じ格好のサリサを見た筈だったが、余りに見た目が違うので、まるで気づかず、ゼンは気まずい思いをしていた。
「何か、御用がおありだったのではないのですか、女神ヘル」
「様をつけよ、ゼン助」
「助?」
ニコニコは変わらず、毒舌を発揮する。
「……ヘル様」
「冗談に決まっておるではないか。真に受けるなタワケが」
何か、やり取りがアルティエールに近しいものを感じる。
「それは当然じゃのう。アレは人より、こちら側に近しき存在ゆえ」
と、聞きなれた声に顔を上げると、そこには、慣れ親しんだムーザルの戦闘服を着たアルティエールの姿がある。中味は別人だが。
ゼンの思った事と、ヘルの台詞(セリフ)では、微妙に意味がすれ違っていたが、それはどうでもよくなった。
「……何のつもりですか?」
「わしでは話しづらいようじゃったのでな、ここでは外見を変えるぐらい、造作もない事」
口調までアルそのままだ。
「止めて下さい。趣味の悪い。もう二度と会えない相手の姿を見せて、俺が苦しむのがそんなに楽しいんですか」
「そんなつもりはないのよ、ゼン君」
今度は、レフライアに姿を変える。
「君が、“そう”思っているなら、不快に感じるのも、当然かもしれなけど、私としては、君と話をする為に呼んだのだから、これは話しやすい環境づくりの様な物。ここで、外見や姿等、何の意味も持たないわ」
そう言って、ゼン自身を指し示す。
ゼンは、いつもの冒険者の、皮鎧の姿に変わっていた。あの、アルの夢の中と同じような感じだろうか。
そしてヘルは、今度は従魔研の主任、白衣を纏ったエルフのニルヴァーナに姿を変える。
「この姿が、それ程に親しくなく、貴方に負担を感じさせない姿かしら?」
「……ヘル自身の姿が、思春期の少年には、毒だっただけです」
話しづらい、と言うよりも、目のやり場に困ったのだ。豊満な胸に、無意味なスリットの入ったドレスのスカートは、根本まで見えそうで危ない。
(あれ?でも、座って、テーブルを挟んでいるのに、俺、なんで足の方の心配なんて……)
「それは、貴方が魂であるから、視界が目の位置に限定される訳じゃないからよ。思えば、足からでも手の先からでも、物が見れるのよ」
「そうなんですか……って、俺の思ってる事、自然に読めるんですか?」
「ここは、私の領域。そして貴方は、生身の肉体なしの魂で、心を晒している様なものなの。普通になんでも伝わってしまうのよ」
「……そうですか」
ただでさえ苦手な感じのする相手なのに、どうしろと?……そう思っているのも伝わっているのだ。どうしようもない。
「だから、思う存分、欲情して、私を本能のおもむくままに、むさぼってもいいのよ。私がそれだけ魅力的なんだから、仕方がないの。でも、あくまで妄想に留めてね」
ゼンは、心を落ち着かそうと、用意されたお茶を含んだ所だったので、とっさに横を向いて吹き出してしまった。
「本当に、すごく素直に反応するのね。とても面白いわ」
ヘルは、ニルヴァーナの顔で、上品にクスクスと笑っている。人格が変わる訳ではないので、悪趣味で下世話なのはそのままだ。
「……からかうのはいい加減にして、本題に入ってもらえませんか?」
じゃないと、ゼンの方が精神的にまいってしまう。
※
「そう……ね。私としては、いくら話しても飽き足りないのだけれども、他の神にも怒られそうね」
ヘルは、人差し指を下唇に押し当て、考え込む素振りを見せる。
「まずは、やっぱりお礼かしら。貴方は、私達の期待以上の働きを見せてくれました。被害は最小限に食い止められ、ヴォイド全ての撃退が叶いました。
私は別に、神々を代表する立場でもなんでもないけれど、やはり、一言お礼を言っておきたかったの。
ありがとう、ゼン。貴方は、立派にこの星を、世界を救ってくれました」
「……俺は、別に、世界がどうとかじゃなく、俺の好きな人達が暮らす場所を、維持したかっただけです。失敗も多かったし、立派だなんて、到底……」
「いいえ、言えるの!貴方の、反省や後悔は聞いていましたが、おかしな点だらけで、私としては困惑せざるを得ません。愛し子が、貴方の事で悩み、気に病むのも当然ね。
貴方のその、自分一人で何でも抱え込みたがり、なのは明らかに、貴方の欠点よ」
「……よく言われます」
「なら、もっと素直に受け入れなさいな。それに、今回の事で責任を負うとしたら、貴方方に同行した二柱の神々であって、貴方ではないわ」
ヘルは、憤懣やるかたない、と腕を組みむくれる。
「そうでしょうか?実際に、ジークを動かせたのは俺だけなんだから、最終的には、俺に来ると思うんですが……」
「なんて傲慢!貴方は、二柱の神が、何故同行したか、聞いた筈よね?」
「えーと、俺がヘマした時に、敵の手にジークの技術が渡らない様に、消滅させる為」
平然と言い切られて、ヘルは顔をしかめる。
「違います!それは、貴方が言った話です!確かに、そんな面がないとは言いませんが、本来の役目は、地上でしか活動した事のない、貴方達の、知識不足、経験不足を補う事、及び、戦闘においても有効な助言をする事、です!その為の、ミーミルであり、テュールなのです!」
「……」
「なのに、あの二柱は、貴方が優秀なのを見て、どこまで出来るのか、見て見たいと欲が出てしまったようです。だから、あえて積極的な助言は避けたのよ」
「でも、協議とかちゃんとしてましたよ?」
「それでも、基本は貴方任せです。そもそも、敵の計略や、最後の予備の存在なんて、あの二柱が気づかないで、何のために同行したんですか!他にも行きたがっていた神々はいたのにも関わらず!
戦術や戦力の予測もしないで、何の為の軍神!軌道の計算や予想なんて、戦ってない、計算機能の有り余ってるミーミルがやるべき事でしょうに!」
ゼンには、よく解らない。それなりに助言は貰っていた気がするし、話を聞き流した事もあったような覚えがある。
「~~~。謙虚とか、そういう問題じゃ、なさそうね……。
それはそれとして、ジークに頼り切り、とかって考えも変!この迎撃は、機神(デウス・マキナ)ありきで成立した戦いだったのよ?人が個人でどうにかなるような次元の話じゃないの。ジークの力を使うのは当り前だし、アルティエールに頼るのも、充分ありなの!
あの子は、ハイエルフの中でも特別製だし、ちょっと猪突猛進の猪武者なところがあるけど、貴方にいい所を見せたかったからか、今回、変な暴走はしなかったから、良かったわ」
ヘルは深く吐息を吐く。
問題児で、行き過ぎた行動も多かったが、それでも今まで大目に見ていて良かった、と思える。
「頼りになる仲間を頼るのは、当り前で自然な事よ。冒険者なら、解っているでしょ?反省するなら、仲間を十全に生かし切れなかった事の方を悔やみなさい。貴方は無茶し過ぎなの。そんなギリギリまで力を使い切って、ボロボロになるまでやって、何を嘆くの?自分をもっと誇りなさい」
「……それでも、約束を破ってしまったから……」
肩を落とし、打ちひしがれた少年を見て、ヘルは悪ふざけが過ぎた、と反省する。
ゼンの身体は、いつの間にかヘルの腿の上にあり、優しく、柔らかく抱き締められていた。
ヘルの方も、黒ドレスの自分の姿に戻っている。
「うぬは、本当に神嫌いじゃのう。得た知識を忘れてしもうたのか?うぬほどの活躍をした戦士ならば、戦乙女が迎えに来て、ヴァルハラに直行、が当然であろうに」
ゼンは、ヘルに子供の様に抱き締められながら、急速に眠気が来て、その言葉の意味がよく解らなかった。
「妾(わらわ)の管轄であるヘルヘイムは、戦士以外の、普通の死者が来る場所。「藁の上の死」であって、うぬが訪れる場所ではなかろうに。聡いようでうとい、不思議な幼子よのう……」
そのまま陽だまりのような暖かさに包まれ、ゼンは安心し切った様子で眠りについた……。
―――
次に目が覚めた時ゼンは、見知らぬ、白い天井を見ていた。
*******
オマケ
ゼ「だから、失敗して反省するのは大事な事なんだよ」
ア「それはそうかもしれんが、ゼンのそれは、行き過ぎじゃと思うそい」
ゼ「いや、俺より強い人もいる。俺より頭いい人だっている。そういった中で、俺が最善の選択を取れるようにしたいから、必要な事なんだよ」
ア「分からぬでもないが、だからと言って、自分を正当に評価せぬのは、おかしいのではないかな?」
ゼ「あ~。でも、ね。俺も、余り褒められたりとか、されると、気持ちが浮つくとか、舞い上がるとかあるんだ」
ア「ゼンが?嘘臭い!」
ゼ「いや、実際あったの!だから、それ以来、自分を戒めて、必要以上に自分を評価しない事にしてるんだ」
ア「まるで、修行僧か何かのようじゃなぁ……」
ゼ「別に、悪い事じゃないだろう。自惚れたり、高慢になったりするよりは」
ア「それはそうなのじゃが、何か納得いかぬのう……」
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