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最終章EX 星の英雄
171.生還帰還(2)
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【―――とにかく、イチャつくのはいいが、丸三日、点滴のみで、何も飲み食いしていなかったのだ。ゼンは今、腹がへっているであろう?】
「イチャつ……」
ゼンは何気に凄いショックを受けた。別に、イチャついたつもりはないのだが、はたから見ると、そういう風に見えたのだろうか?と。
「……あ、まあ、はい。喉もすごく乾いてます」
【飲料水は、そこにある。点滴は、最低限の栄養と水分を補給するものだが、喉を通らず、腹にも溜まらんからな】
見ると、ベット脇の小さなテーブルに、伏せたコップと水差しがあった。
【食事は、いきなり固形物は食わん方が良いぞ。最初はスープやパンはスープに浸してからに限定、後はおかゆ等の、消化のいい物から食べて、徐々に普通に戻すのじゃ。料理をしたいかもしれんが、二日ぐらいはそれで様子を見るのじゃな】
「四日ぐらいの断食で大袈裟な気もしますが、はい」
【ずっと同じ姿勢で寝ていたから、運動不足だろうが、身体もいきなり動かさない方がいい。最初は、施設内を散歩から始めよ】
「なんか、重傷や重病で入院とかしたみたいですね」
【一時は死にかけて、仮死状態の様な状態だったのじゃから、用心に越した事はない】
「そうじゃ、ゼン。今回は、きつい戦闘の連続となったのじゃ。生命力を回復したからと言って、疲労がなくなった訳ではないじゃろうて」
「そう、かな?うん、言われてみると、身体が重いような……。でも早く帰って、皆を安心させたいんだけど。あ、せめて、ミンシャとリャンカに、念話で連絡が取りたいのですが」
「うむ。それでは、出発前に行った島まで、食事が終わったら転移をしてやろうではないか」
(なんか、至れり尽くせり、だな……)
そこもまた、怪我や病気で寝込んでいるみたいだ、とゼンはくすぐったくなる。
【報酬の件の相談もあるでな。それは、明日からでいいじゃろう】
「……分かりました」
自分で言い出した事だが、報酬の件は、ゼンの念頭からすっかり抜け落ちていた。
ただ、ヴォイドを排除して、今ある世界が変わらずに維持出来るなら、とそんな事ばかりに気を取られていた。
【それと、お主が望むのなら、各国の教会から、星を救った英雄の布告を―――】
「止めて下さい!絶対に!そんな事は!しないで下さい!」
ゼンは、弱った身体だというのに、大声を荒げて、区切り区切り強調して、そう断言した。
【お主の気性なら、そう言うとは、思っておったがな……】
何やら苦笑されているようだ。
「……今でも、大陸の英雄とか言われて、師匠の活躍と混同視されているフシがあるんです。それを助長するような事は、して欲しくないのです」
「謙虚なのか、単に騒がれるのが嫌なのか。珍しい男(お)の子よのう。普通、自分の活躍を喧伝し、名誉を求めるものであろうに」
別に、それ程ラザンと混同はされてはいないと、二柱の神々は考える。
すでに少年は、『流水の弟子』という二つ名の英雄と認知されているのが現状だ。
以前は『流水』の弟子だったのが、『流水の弟子』という風に変化しているのに、気づいていないようだ。
「そう言えば、お主、『超速』とかいう二つ名が、フェルズでは一時つけられた筈じゃが、あれは定着していない様じゃが、何故じゃ?有名人の二つ名が、定着しないのは珍しいと思うのじゃが」
アルティエールは、フと、少し前から考えていた疑念を口にする。
「ああ、あれは、従魔達に密かに、「本人が、あの二つ名を凄く嫌がっている」って噂を、なるべく広範囲で流させたんだ。あの二つ名は、フェルズでのみ、流行りかけてたから、なんとか阻止出来たよ……」
まだ、スーリアとか、使い続けている者もいるが、恐らくそれも、その内言わなくなるだろう。周囲が使っていないのだから。
「ともかくですね。宇宙に出て戦う、なんて概念もない世界で、別次元から来襲した化物を、古代の巨大人型兵器に乗って撃退しました、なんてあまりにも、常識とかけ離れた、馬鹿げた夢物語です。神からのお告げに疑念を持つ事すらも、不敬でしょうが、多分告げられた方は、正確な理解が困難で、困惑するだけだと思います」
アルティエールの様な、異世界の知識を持っている、もしくは異世界人なら、そういう荒唐無稽な話もスンナリと受け入れられるかもしれないが、普通ではあり得ない。
【それはそうなんじゃが、お主は、自分の艱難辛苦を乗り越えた厳しい戦いを、誰にも知られずに終わる事を、不満には思わんのか?】
「思いません。それに、誰も知らない訳じゃありません。神々がそれを知り、戦いにおもむいた我等がそれを知っている。それだけで十分でしょう。ただ……」
「俺の残っていた二人の従魔と、女神の件でも、この件に関係性の深い、サリサにだけ、真実を告げたいのですが……」
【それは、勿論構わんが、お主はそれを嫌がっていたと記憶しているのだが?】
「それは、これから死地に近い未知の戦場に行く事で、いらぬ心配をかけたくなかったからです。無事に終わって帰って来れば、それも過去の出来事に過ぎませんから、笑って許してくれるでしょう」
ゼンは明るく笑って言う。
そんな事は絶対にない、とゼン以外の三者は考える。
無論、無事に帰って来た事を喜ぶだろうが、その事を伏せたまま出撃した事を怒られるだろうし、自分はそれだけ信頼されていなかったのか?と嘆かれるのは、容易く予想出来た。
何故か少年は、自分を想う女性の反応を、まだ完全に熟知出来ている、とは言い難いようだ。
自分を想う女性の愛情の深さ、その献身への自覚が足りていない様に見受けられた。
(楽天的に考え過ぎておる。わしは、何があっても知らんぞい……)
アルは、せいぜいその火の粉が自分には降りかからないように、自分の言い訳だけでも考えて置こう、と思うのであった。
※
それからの一日は、ムーザル製の車椅子まで用意され、アルティエールが面白がって、付きっ切りで車椅子を押し、介護みたいな真似をしてくれた。
別に手で進める事も出来る、軽い材質の金属で造られた車椅子だったのだが、好意を無下にする訳にもいかず、結局甘えさせてもらった。
アルは、車椅子を押すなんて単純労働の何が楽しいのか、終始ご機嫌だった。
一度食事を、ムーザルの完全栄養食だというスープを食べたが、味も素っ気もなく、収納ポーチから出した塩、胡椒などで味付けしてようやく食べられる様なものだった。
(早く料理がしたい……)
それから例の島に転移で連れて行ってもらい、ミンシャ、リャンカと連絡を取った。
二人とも、月や、大気圏での戦闘には、大規模な魔力の変動があった為に気づき、その連絡を、今や遅しと待ちわびていたらしい。
その連絡で、西風旅団が、『悪魔の壁』に再挑戦している話を聞いた。リャンカの戦力予想では、近日中には戻るのではないか、との話だ。
自分を抜かして、新しい迷宮(ダンジョン)には行かなかった事に、四人の気遣いが感じられて、大変嬉しく思った。
でもそれなら、急いで帰る必要性は薄くなった。
ミンシャやリャンカには、義父さん、義母さん(ギルマス)に、無事に仕事を終え、数日以内に帰還出来るとの言付けを頼んだ。
他に、ミンシャやリャンカが人種(ひとしゅ)の従魔である事を知る者は……慌てて、ザラにも同様の言付けを頼んだ。
帰ったらもう、クランの全員に、この事は全て話そうと改めて思う。
従魔の件が、『人間弱体党』の排除で公開となり、冒険者に従魔術の従魔の事は、かなり知れ渡っているらしい。
ランクが下の冒険者達も、そこまで至れば、頼もしい仲魔が増えるという、確実で嬉しい情報を知り、冒険者全体が、やる気に満ち溢れているのだそうだ。
フェルズの街中で、従魔を連れ歩く冒険者も増えてきているらしい。
帰ったら、フェルズの様子は様変わりしていそうだ。
アルが、また島の果物を大量に収穫して来て、それを食べながらゼンの話を聞いている。
前回、大量に収納具に入れた果実は、信じられない事に、アルが行きと帰りの道中で、ほとんど食べ尽くしてしまった。ゼンも、食べるには食べたが、アルに比べれば、微々たる量だ。
「―――まあ、従魔の件、『人間弱体党』の件なんかでずっと邪魔されてたけど、ようやく普通の冒険者稼業に戻れそうだよ」
「……普通、のう。お主、自分がまさか、普通の冒険者だ、等とは、思っておらんだろうな?」
「??何言ってるの。俺は、極普通の、平凡な冒険者じゃないか」
「かーっ!阿呆なのか?馬鹿なのか?とぼけておるのか知らんが、そんな訳あるまい!お主はもう、神々すら認める英雄じゃろうが!」
「……あれは、ジークという、機神(デウス・マキナ)の力があってこその話で、現実の冒険者の話とゴッチャには出来ないよ。ジークに乗ってたら、あの魔竜なんて、小指で倒せてしまうじゃないか」
魔力総量が違い過ぎる。それによって得られる、出力も桁違いだ。
「それは、そうかも知れぬが、のう……」
どうもゼンは、あれを、特別で例外で、緊急時の番外事のように考え、自分の中ではなかった事にするつもりのようだ。
「アルこそ、エルフの里にでも、自分の活躍を知らしめればいいじゃないか」
「ん~?わしはもう、充分悪名轟くハイエルフじゃからのう。今更何が加わっても変わらんから、言う必要はないじゃろ」
何がどう悪名なのか、聞いてみたい気がしたが、この場合は空気を呼んで自重した。
それから、アルの転移で施設に戻った。
あの島の果物は美味しかったので、帰る前に、フェルゼンで待つ子供達や、女の子達のお土産にする為に、取りに来ようと思うゼンだった。
*******
オマケ
ゼ「……ん~~。やっぱり、納得いかないような…」
ア「また何を悩んでおるのじゃ?」
ゼ「…えーと。俺って、年上の方が好みなのかな、って思ってたんだ」
ア「ふむふむ。そうじゃな。おねッショタじゃな。本妻二人は年上じゃし、な」
ゼ「おねしょた?」
ア「そういう文化があるのじゃよ」
ゼ「(また異世界文化の話か)だけど、もしかしたら、違うのかなぁ、と……」
(チラリとアルを盗み見る)
ア「ふむう。しかし、従魔の二人は、お主と同い年、なのじゃろう?」
ゼ「肉体年齢としたら、ね。そっか。あの子達の事もあるのか。あの子達は、赤ん坊から育てた…一カ月のみだけど、な事もあって、どちらかと言うと、年下な感じもするか」
ア「なら、年上限定という事もなかろうて」
ゼ「そう、なるのかな(自分より、見た目だけなら幼く見えるし……)」
ア「わしの様に超年上がいるから、そう思うのも無理ないのじゃがな」
(カンラカンラと笑う)
ゼ「え”?!」
ア「……なんじゃ、今の驚きの擬音は?」
ゼ「いや、うん、年上過ぎて、恐れ多いから……」
ア「うむうむ。解っておるではないかや」
どっと……
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