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第1章 魔の森編
009. 森の災禍
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3/20 18:00細部の直し、オマケ追加。
6/8 皇帝の一人称を、妾から余に変更します。
その他、細々とした修正を。
※
過去の一時期、波乱混迷な状態にあった烈央帝国は、腐敗した帝国上層部の政治により、内部から崩壊し、分裂すると思われた時代があった。
その時、皇帝の四女、まだ若干八歳になったばかりの幼き皇女が、悪政の限りを尽し、放蕩三昧であった愚帝と悪名高き父親を退けて、自ら皇帝となり、分裂しかけた広大な帝国を、その類稀なる智謀と、側近として召し上げた“四神”の武力でまとめ上げ、崩壊を防いだのだと言う。
皇女の名は、虞麗沙(グレイシャ)。
西方でも通じやすい語感の名をつけられたその少女が、西方諸国を脅かす存在になるとは、いかな賢者とて、見通せる者はいなかったであろう。
そしてその皇帝の偉業はそれだけではなく、帝国全土に善政を行き届かせ、領民に悪政を強いる領主、大公等を容赦なく排除し、地位が低くとも優秀な者を多く取り上げ、国政の重要な地位へと採用した。
それだけでなく、帝国の周囲で反帝国同盟を組んでいた小国連合を、自ら軍を率いて圧倒し、併合して、ついに帝国は、過去最大級の領土を誇る巨大帝国へと発展していった。
神聖皇帝、神帝と呼ばれる皇女改め皇帝、虞麗沙(グレイシャ)が、皇帝に即位してからしばらくして、烈央帝国は烈央神聖帝国と国名を改め、無敵の覇権国家となった。
その勢いは凄まじく、大陸全土で帝国の侵略に耐えられる国は、一つとしてないであろう、と恐れおののかれていたが、ある時期から、帝国はそれ以上領土を広げようとはせずに、軍を動かす事はなくなり、今日にまで至る。
と、一般に流布されているのが、烈央神聖帝国の復興の歴史であり、ゴウセルはそのかいつまんだ概略のみをゼンに教えた。一般教養であり、ゼンが将来、冒険者として帝国におもむき、何かいざこざを起こすだろう、等と予見して教えた訳ではない。
ましてや、その師匠となったラザンが、すでにいざこざの種を蒔き終えてから、フェルズに来た、等とは知る由もなかった。
神帝は艶やかに笑う。本当に楽しそうに、嬉しそうに満面の笑みを扇で隠して。
側近である近衛である“朱雀”李朱蘭は、愛想笑いや作り笑いばかり見て来た主(あるじ)の久方ぶりの真なる喜びに、自分の胸も熱く震える。
「では、久方ぶりに、その腕が衰えておらぬか、余、自らが、確かめてみようではないか。李朱蘭、汝(なれ)は何があろと動くでないぞ。手出し無用。岩となっておれ」
虞麗沙(グレイシャ)は、ピシャン、と扇をたたみその口元を覗かせる。
目には隈取(くまどり)の様な化粧。唇の紅も、大きく口の端を吊り上げた様な模様を描き、その怪しい雰囲気に似合った、見た目の歳とは釣り合わない大胆な化粧がほどこされていた。
ゼン等は、あんなに派手な化粧しなくても、素で充分綺麗だろうに、と思う位に。
「……は、主上(しゅじょう)」
内心、言いたい事はあるのだが、それを押し殺して李朱蘭は頭をたれる。
「ゼン、この護符(アミュレット)を持っていろ。ある程度の流れ弾は防げる」
ゼンはラザンが無造作に投げつけた護符(アミュレット)らしき小さな像を、慌ててその手で受け止めた。
そして―――二人の姿が消える、と同時にその中間点で凄まじい衝撃が走る。
護符(アミュレット)の防御膜ごしでも、ビリビリと震えが響いて来る程の衝撃だ。
大太刀を抜き、正眼に構えたラザンが後ろに下がり、飾りの付いた扇が、飾り全てが吹き飛び、鉄扇としての、本来の姿をあらわにした物を構えた皇帝が、こちらはラザンの様に下がらず、その場で微動だにしていなかった。身体は浮いたままだ。
「……やはり、あのようなヌルい場所では腕も鈍ったのか濃(のう)。前と代わり映えせぬ、衰えた一撃じゃぞ、『流水』の」
「……はっ、言ってろ、ババア幼女が」
そしてまたラザンの姿が消える。
今度は虞麗沙(グレイシャ)はそのまま、ラザンの攻撃を、ただ受けるだけのつもりの様だ。
「ほれ、それそれ、どうしたどうした?」
皇帝は扇を片手で動かし、まるで舞の様にゆったりと回り、動きながら、四方八方から『流歩』の高速移動で攻撃する、ラザンの常人には見る事すら叶わぬ一撃を、余裕の仕草で簡単に受け流している。
それは、何処か楽しそうで、まさに遊戯の舞いを踊っているかの様であった。
ゼンなどは、音と衝撃だけが、ラザンが攻撃している事を感じられる数少ない手段であった。
「チッ、小技をいくら繰り出しても意味はねぇか……」
ラザンが動きを止め、大太刀を構えると、またゼンの目には止まらぬ神速の斬撃が繰り出された。その数は四つ。一瞬で四の斬撃を重ねて飛ばす“四光斬”と呼ばれる『流水』の技の一つだ。
「おお、これはさすがに受けきれぬか濃」
と余裕の口ぶりだか、皇帝は多重斬撃の“四光斬”を避け、それまでのフワフワした動きとは違い、高速で空へと飛び上がった。
ラザンもそれを予想していたのか、虞麗沙(グレイシャ)を追い、力強い踏み込みで土飛沫(つちしぶき)を上げ、上空へと飛んだ。
途中、失速もせずに、足で空を駆けるかの様に皇帝を追う。その姿が一瞬ブレ、それまで半分以上あった皇帝との距離は零に、いきなり追い越していた。大太刀の斬撃が皇帝の頭上から襲い掛かる。
虞麗沙(グレイシャ)はまたもそれを、当り前の様に鉄扇で受ける。
「師匠、空まで飛べるんだ……。それに、今の移動は……?」
ラザンと虞麗沙(グレイシャ)の、人外としか言い様の無い戦いぶりに、ゼンは感心や感動を通り越して、何も考える事が出来ないでいた。
「少年は見た事が、ないのですか?」
いつの間にか、李朱蘭がゼンのすぐ近くに立ち、腕を組んでこちらに話しかけていた。
「あ、は、はい。俺はまだ、弟子になってから二月も経っていないので。
あ、あの、俺はゼンといいます。師匠の子供ではなく、弟子です!」
ゼンは、先程に虞麗沙(グレイシャ)が言ったラザンの子供、との話を急いで否定する。
「ええ、知っています。ラザン殿の様子は、主上が暇を見ては式神(しき)を飛ばして、常に把握していましたから。先程の話は、ラザン殿をからかった、主上の冗談です」
李朱蘭は、言葉数は多いものの、その口調は主に対する口調とも、ラザンに対する口調とも、どれとも違い、言葉に感情を乗せない、平坦な話ぶりだった。
それは、普段そうした話し方をする訳ではなく、無理矢理込み上がる、羨望や嫉妬の感情を抑える為の口調だった。
「そう、なんですか……」
なんとなくゼンも、自分がよく思われてはいない事には気が付いていた。
「ええ。ところで、ラザン殿が空を駆けるのは、『流水』の移動技術“空歩”で、時折消えて、距離を大幅に越えた場所に現れるのは、“縮地”という、“気”で短距離転移をする、気功術の高等技術の一つです」
「へぇー……。そういえば、帝国のお寺で気功術を習った、とは話してました」
「習った、と言うか、ただ見て聞いて、それですぐに覚えてしまったらしいですね」
「それは……凄いですね」
「天才、鬼才というのは、あの人の様な者を指す言葉なのでしょう……」
その言葉には、妬みや嫉みの様な負の感情はなく、ただただ心酔し、憧れている、遠くの明るい星を眺める少女の様であった。
「ですよね!師匠はもう、とにかく凄いって言葉しか出て来ません」
ゼンは思わず完全同調して、大きく同意する。
無邪気な言葉に、ゼンに嫉妬する李朱蘭の毒気が大きく減退する。
遥か上空では、その二人が超高速で移動し合いながらぶつかり、激しい轟音と衝撃を周囲に響かせていた。
ゼン達に被害が及ばない様に、距離を取った上空へと戦場を移したのだ。
「さて。それではそろそろ、余の方から攻撃させてもらおうか濃」
遥か上空で微動だにせず滞空する虞麗沙(グレイシャ)は、扇の先に光弾を造り上げる。
「げ、やべぇ……」
それを見て、ラザンが邪魔する為に動き出す、その前に光弾を見る見るうちに大きく、虞麗沙(グレイシャ)の倍近い大きさへと肥大していた。
「受け止めれるか濃……」
楽し気に言って扇を振るう。光弾はそれに合わせ、超高速でラザンへと飛来する。
「この、クソがっ……!」
大太刀で受け、横へと流す。流す事しか出来なかった。
その光弾はラザンから軌道を変え、ゼン達が初めてこの森に来た時に降り立った、中央に見える岩山目がけて落ちて来た。
そして―――
岩山に光弾が当たった瞬間、激しい光が溢れ、ゼンが視線を変え、手で目を覆うが、それでもその激しい光の残像は、しばらく消えなかった。
「い、今のは、一体……?」
ゼンが目をパチパチと瞬きを繰り返し、光を振り払おうと苦しんでいる。
「今のは、主上の、“破邪光弾”という術です。本来、魔を滅するだけの光なのですが、主上の力が強過ぎて物質に当たっても、それを消滅させてしまう程の破壊力を秘めています」
李朱蘭は、淡々と事実だけを述べる。
「物質を消滅って、物を消してしまうんですか?!」
「そうです」
「師匠は、そんなのを受けて……」
と言っている間にも、虞麗沙(グレイシャ)は少しばかりサイズを小さくした光弾を無数に作り、ラザンへと次々に放つ。
ラザンはそれも大太刀で、器用に右へ左へと全て受け流す。
「あれを受け流す事など、我等“四神”にも出来ません。ラザン殿だけです。それが出来るのは……」
「え?“四神”……李朱蘭、さん、にも出来ないって、皇帝の近衛なのに、ですか?」
ゼンは思わぬ言葉に、敬語や敬称が適当になっていたが、李朱蘭は気にしない。
烈央神聖帝国で、“四神”の地位は単なる近衛騎士ではなく、皇帝の側近、皇帝の次の位の貴族と位置づけられている。言い換えるなら公爵級だ。平民がさん付けして許される様な気安い身分ではない。
「そうです。我等は、近衛の癖に、守るべき主人よりも、ずっとか弱き存在なのですよ……。
言い変えると、帝国で、主上よりも強き存在等、いはしないという事なのですが……」
ラザンが受け流した無数の光弾は、全て森の至る所に降り注いだ。
爆発こそしないが、物質を消滅させる光弾の性質の為、森のあちこちに被害が及んだ。その主な被害者は、森の木々であったが、その次に被害が多かったのは、当然魔物達であったので、その事を気にする者は、この場には一人もいなかった。
「……ラザン殿は、あなたに被害が及ばない様に、この近くに来る様に受け流しはしないでしょう。つまりここが、一番の安全地帯ですね」
李朱蘭の言う通りに、光弾は、森の離れた場所にしか降らなかった為に、この場は至って静かであった。
遥か上空では激しい戦いが行われ、光弾が降り注ぐ森は阿鼻叫喚の坩堝……。いや、叫ぶ暇もなく消滅するのだから、その表現は当たらないかもしれないが、半端に半身や四肢に光弾の余波を受け、生き延びてしまった魔物達は悲惨の一言に尽きた。
気付いたら、森の木々と同時に自分達の身体の大部分が奪われ、生活の場であった森すら地面をえぐった小さく浅いクレーターと化している。しかも、その恐るべき光弾の雨は、未だ降りやまず、森のあちこちに降り続けている。
魔物達にとっての地獄がそこに顕現していた……。
*********************
オマケ劇場
ゾ「おうおう、随分と派手にやってるな。しかし、別に俺等の出番とか、いらんのだがな」
セ「……そ、そうですね。ボクとしては、ミンシャさん達に全部任せて、引っ込んでいたい位です」
ガ「……同意」
ボ「だねぇ。ボンガも熊だから、そんなに頭は良くないから~」
ゾ「ま、愚痴っても仕方ない。解説だ。こんな派手な戦い、ギルマスには報告してなかったよな」
セ「……それは、後でラザン様から口止めされるから、です」
ゾ「ああ、そう言う事か」
セ「……て、言い訳らしいですけどね」
ゾ「なんだ、そりゃ?」
セ「前書きで、テコ入れ云々、と書いてたじゃないですか。つまり、この話は序盤の地味な展開に、盛り上がりや花を添える為に急遽考えられた話、らしいですよ」
ボ「ゼン様、まだ修行の最初の段階だし、地味なのは当然じゃ?」
セ「それで通らないのがお話、ですから……」
ゾ「つまり、皇帝様らは本来出番なし、か」
セ「はい。烈央帝国の設定自体は変わらないのですが、その皇帝や側近らと関わる話はない予定だったみたいです」
ゾ「しかし、その領土内での修行も、確かあったよな」
セ「はい。あの、グレートサンドワームとの戦闘は、その領土内の砂漠ですね」
ゾ「そこら辺、どう調整するのかねぇ」
セ「……どうにかするんでしょう。ボク等には関係ありません」
ゾ「違ぇねぇな!」(笑)
ガ「激しく同意……」
ボ「そうだね~」
ル「……ぶーぶー!るー、おはなしむずかしくて、全然わかんなかったお!」
セ「まあまあ。そういう時もあるから、ね」
(皆でルフをあやして終幕)
6/8 皇帝の一人称を、妾から余に変更します。
その他、細々とした修正を。
※
過去の一時期、波乱混迷な状態にあった烈央帝国は、腐敗した帝国上層部の政治により、内部から崩壊し、分裂すると思われた時代があった。
その時、皇帝の四女、まだ若干八歳になったばかりの幼き皇女が、悪政の限りを尽し、放蕩三昧であった愚帝と悪名高き父親を退けて、自ら皇帝となり、分裂しかけた広大な帝国を、その類稀なる智謀と、側近として召し上げた“四神”の武力でまとめ上げ、崩壊を防いだのだと言う。
皇女の名は、虞麗沙(グレイシャ)。
西方でも通じやすい語感の名をつけられたその少女が、西方諸国を脅かす存在になるとは、いかな賢者とて、見通せる者はいなかったであろう。
そしてその皇帝の偉業はそれだけではなく、帝国全土に善政を行き届かせ、領民に悪政を強いる領主、大公等を容赦なく排除し、地位が低くとも優秀な者を多く取り上げ、国政の重要な地位へと採用した。
それだけでなく、帝国の周囲で反帝国同盟を組んでいた小国連合を、自ら軍を率いて圧倒し、併合して、ついに帝国は、過去最大級の領土を誇る巨大帝国へと発展していった。
神聖皇帝、神帝と呼ばれる皇女改め皇帝、虞麗沙(グレイシャ)が、皇帝に即位してからしばらくして、烈央帝国は烈央神聖帝国と国名を改め、無敵の覇権国家となった。
その勢いは凄まじく、大陸全土で帝国の侵略に耐えられる国は、一つとしてないであろう、と恐れおののかれていたが、ある時期から、帝国はそれ以上領土を広げようとはせずに、軍を動かす事はなくなり、今日にまで至る。
と、一般に流布されているのが、烈央神聖帝国の復興の歴史であり、ゴウセルはそのかいつまんだ概略のみをゼンに教えた。一般教養であり、ゼンが将来、冒険者として帝国におもむき、何かいざこざを起こすだろう、等と予見して教えた訳ではない。
ましてや、その師匠となったラザンが、すでにいざこざの種を蒔き終えてから、フェルズに来た、等とは知る由もなかった。
神帝は艶やかに笑う。本当に楽しそうに、嬉しそうに満面の笑みを扇で隠して。
側近である近衛である“朱雀”李朱蘭は、愛想笑いや作り笑いばかり見て来た主(あるじ)の久方ぶりの真なる喜びに、自分の胸も熱く震える。
「では、久方ぶりに、その腕が衰えておらぬか、余、自らが、確かめてみようではないか。李朱蘭、汝(なれ)は何があろと動くでないぞ。手出し無用。岩となっておれ」
虞麗沙(グレイシャ)は、ピシャン、と扇をたたみその口元を覗かせる。
目には隈取(くまどり)の様な化粧。唇の紅も、大きく口の端を吊り上げた様な模様を描き、その怪しい雰囲気に似合った、見た目の歳とは釣り合わない大胆な化粧がほどこされていた。
ゼン等は、あんなに派手な化粧しなくても、素で充分綺麗だろうに、と思う位に。
「……は、主上(しゅじょう)」
内心、言いたい事はあるのだが、それを押し殺して李朱蘭は頭をたれる。
「ゼン、この護符(アミュレット)を持っていろ。ある程度の流れ弾は防げる」
ゼンはラザンが無造作に投げつけた護符(アミュレット)らしき小さな像を、慌ててその手で受け止めた。
そして―――二人の姿が消える、と同時にその中間点で凄まじい衝撃が走る。
護符(アミュレット)の防御膜ごしでも、ビリビリと震えが響いて来る程の衝撃だ。
大太刀を抜き、正眼に構えたラザンが後ろに下がり、飾りの付いた扇が、飾り全てが吹き飛び、鉄扇としての、本来の姿をあらわにした物を構えた皇帝が、こちらはラザンの様に下がらず、その場で微動だにしていなかった。身体は浮いたままだ。
「……やはり、あのようなヌルい場所では腕も鈍ったのか濃(のう)。前と代わり映えせぬ、衰えた一撃じゃぞ、『流水』の」
「……はっ、言ってろ、ババア幼女が」
そしてまたラザンの姿が消える。
今度は虞麗沙(グレイシャ)はそのまま、ラザンの攻撃を、ただ受けるだけのつもりの様だ。
「ほれ、それそれ、どうしたどうした?」
皇帝は扇を片手で動かし、まるで舞の様にゆったりと回り、動きながら、四方八方から『流歩』の高速移動で攻撃する、ラザンの常人には見る事すら叶わぬ一撃を、余裕の仕草で簡単に受け流している。
それは、何処か楽しそうで、まさに遊戯の舞いを踊っているかの様であった。
ゼンなどは、音と衝撃だけが、ラザンが攻撃している事を感じられる数少ない手段であった。
「チッ、小技をいくら繰り出しても意味はねぇか……」
ラザンが動きを止め、大太刀を構えると、またゼンの目には止まらぬ神速の斬撃が繰り出された。その数は四つ。一瞬で四の斬撃を重ねて飛ばす“四光斬”と呼ばれる『流水』の技の一つだ。
「おお、これはさすがに受けきれぬか濃」
と余裕の口ぶりだか、皇帝は多重斬撃の“四光斬”を避け、それまでのフワフワした動きとは違い、高速で空へと飛び上がった。
ラザンもそれを予想していたのか、虞麗沙(グレイシャ)を追い、力強い踏み込みで土飛沫(つちしぶき)を上げ、上空へと飛んだ。
途中、失速もせずに、足で空を駆けるかの様に皇帝を追う。その姿が一瞬ブレ、それまで半分以上あった皇帝との距離は零に、いきなり追い越していた。大太刀の斬撃が皇帝の頭上から襲い掛かる。
虞麗沙(グレイシャ)はまたもそれを、当り前の様に鉄扇で受ける。
「師匠、空まで飛べるんだ……。それに、今の移動は……?」
ラザンと虞麗沙(グレイシャ)の、人外としか言い様の無い戦いぶりに、ゼンは感心や感動を通り越して、何も考える事が出来ないでいた。
「少年は見た事が、ないのですか?」
いつの間にか、李朱蘭がゼンのすぐ近くに立ち、腕を組んでこちらに話しかけていた。
「あ、は、はい。俺はまだ、弟子になってから二月も経っていないので。
あ、あの、俺はゼンといいます。師匠の子供ではなく、弟子です!」
ゼンは、先程に虞麗沙(グレイシャ)が言ったラザンの子供、との話を急いで否定する。
「ええ、知っています。ラザン殿の様子は、主上が暇を見ては式神(しき)を飛ばして、常に把握していましたから。先程の話は、ラザン殿をからかった、主上の冗談です」
李朱蘭は、言葉数は多いものの、その口調は主に対する口調とも、ラザンに対する口調とも、どれとも違い、言葉に感情を乗せない、平坦な話ぶりだった。
それは、普段そうした話し方をする訳ではなく、無理矢理込み上がる、羨望や嫉妬の感情を抑える為の口調だった。
「そう、なんですか……」
なんとなくゼンも、自分がよく思われてはいない事には気が付いていた。
「ええ。ところで、ラザン殿が空を駆けるのは、『流水』の移動技術“空歩”で、時折消えて、距離を大幅に越えた場所に現れるのは、“縮地”という、“気”で短距離転移をする、気功術の高等技術の一つです」
「へぇー……。そういえば、帝国のお寺で気功術を習った、とは話してました」
「習った、と言うか、ただ見て聞いて、それですぐに覚えてしまったらしいですね」
「それは……凄いですね」
「天才、鬼才というのは、あの人の様な者を指す言葉なのでしょう……」
その言葉には、妬みや嫉みの様な負の感情はなく、ただただ心酔し、憧れている、遠くの明るい星を眺める少女の様であった。
「ですよね!師匠はもう、とにかく凄いって言葉しか出て来ません」
ゼンは思わず完全同調して、大きく同意する。
無邪気な言葉に、ゼンに嫉妬する李朱蘭の毒気が大きく減退する。
遥か上空では、その二人が超高速で移動し合いながらぶつかり、激しい轟音と衝撃を周囲に響かせていた。
ゼン達に被害が及ばない様に、距離を取った上空へと戦場を移したのだ。
「さて。それではそろそろ、余の方から攻撃させてもらおうか濃」
遥か上空で微動だにせず滞空する虞麗沙(グレイシャ)は、扇の先に光弾を造り上げる。
「げ、やべぇ……」
それを見て、ラザンが邪魔する為に動き出す、その前に光弾を見る見るうちに大きく、虞麗沙(グレイシャ)の倍近い大きさへと肥大していた。
「受け止めれるか濃……」
楽し気に言って扇を振るう。光弾はそれに合わせ、超高速でラザンへと飛来する。
「この、クソがっ……!」
大太刀で受け、横へと流す。流す事しか出来なかった。
その光弾はラザンから軌道を変え、ゼン達が初めてこの森に来た時に降り立った、中央に見える岩山目がけて落ちて来た。
そして―――
岩山に光弾が当たった瞬間、激しい光が溢れ、ゼンが視線を変え、手で目を覆うが、それでもその激しい光の残像は、しばらく消えなかった。
「い、今のは、一体……?」
ゼンが目をパチパチと瞬きを繰り返し、光を振り払おうと苦しんでいる。
「今のは、主上の、“破邪光弾”という術です。本来、魔を滅するだけの光なのですが、主上の力が強過ぎて物質に当たっても、それを消滅させてしまう程の破壊力を秘めています」
李朱蘭は、淡々と事実だけを述べる。
「物質を消滅って、物を消してしまうんですか?!」
「そうです」
「師匠は、そんなのを受けて……」
と言っている間にも、虞麗沙(グレイシャ)は少しばかりサイズを小さくした光弾を無数に作り、ラザンへと次々に放つ。
ラザンはそれも大太刀で、器用に右へ左へと全て受け流す。
「あれを受け流す事など、我等“四神”にも出来ません。ラザン殿だけです。それが出来るのは……」
「え?“四神”……李朱蘭、さん、にも出来ないって、皇帝の近衛なのに、ですか?」
ゼンは思わぬ言葉に、敬語や敬称が適当になっていたが、李朱蘭は気にしない。
烈央神聖帝国で、“四神”の地位は単なる近衛騎士ではなく、皇帝の側近、皇帝の次の位の貴族と位置づけられている。言い換えるなら公爵級だ。平民がさん付けして許される様な気安い身分ではない。
「そうです。我等は、近衛の癖に、守るべき主人よりも、ずっとか弱き存在なのですよ……。
言い変えると、帝国で、主上よりも強き存在等、いはしないという事なのですが……」
ラザンが受け流した無数の光弾は、全て森の至る所に降り注いだ。
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「……ラザン殿は、あなたに被害が及ばない様に、この近くに来る様に受け流しはしないでしょう。つまりここが、一番の安全地帯ですね」
李朱蘭の言う通りに、光弾は、森の離れた場所にしか降らなかった為に、この場は至って静かであった。
遥か上空では激しい戦いが行われ、光弾が降り注ぐ森は阿鼻叫喚の坩堝……。いや、叫ぶ暇もなく消滅するのだから、その表現は当たらないかもしれないが、半端に半身や四肢に光弾の余波を受け、生き延びてしまった魔物達は悲惨の一言に尽きた。
気付いたら、森の木々と同時に自分達の身体の大部分が奪われ、生活の場であった森すら地面をえぐった小さく浅いクレーターと化している。しかも、その恐るべき光弾の雨は、未だ降りやまず、森のあちこちに降り続けている。
魔物達にとっての地獄がそこに顕現していた……。
*********************
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ゾ「おうおう、随分と派手にやってるな。しかし、別に俺等の出番とか、いらんのだがな」
セ「……そ、そうですね。ボクとしては、ミンシャさん達に全部任せて、引っ込んでいたい位です」
ガ「……同意」
ボ「だねぇ。ボンガも熊だから、そんなに頭は良くないから~」
ゾ「ま、愚痴っても仕方ない。解説だ。こんな派手な戦い、ギルマスには報告してなかったよな」
セ「……それは、後でラザン様から口止めされるから、です」
ゾ「ああ、そう言う事か」
セ「……て、言い訳らしいですけどね」
ゾ「なんだ、そりゃ?」
セ「前書きで、テコ入れ云々、と書いてたじゃないですか。つまり、この話は序盤の地味な展開に、盛り上がりや花を添える為に急遽考えられた話、らしいですよ」
ボ「ゼン様、まだ修行の最初の段階だし、地味なのは当然じゃ?」
セ「それで通らないのがお話、ですから……」
ゾ「つまり、皇帝様らは本来出番なし、か」
セ「はい。烈央帝国の設定自体は変わらないのですが、その皇帝や側近らと関わる話はない予定だったみたいです」
ゾ「しかし、その領土内での修行も、確かあったよな」
セ「はい。あの、グレートサンドワームとの戦闘は、その領土内の砂漠ですね」
ゾ「そこら辺、どう調整するのかねぇ」
セ「……どうにかするんでしょう。ボク等には関係ありません」
ゾ「違ぇねぇな!」(笑)
ガ「激しく同意……」
ボ「そうだね~」
ル「……ぶーぶー!るー、おはなしむずかしくて、全然わかんなかったお!」
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俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる
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エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
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残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
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【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
三十年後に届いた白い手紙
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三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
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公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
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