REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

第二十三話

　この村には、毎年やってくる賊がいるという。
　賊は同じ時期に来て、金品を求めていくのだ。
　だが、去年の天候が不順だったために不作だったという事情があり、村の財政は底をついていた。
　そこで困った村は、賊に『今年は収穫物でかわりに……』と頼み込んだ。
　しかしその願いは、とりつく島もなく断られたらしい。
　それは当然だろう。
　麦やら芋やらを奪って喜ぶ賊など、どこの国でも聞いたこともない。
　それに農作物では嵩張るうえ、運ぶにも大がかりな用意がいる。
　人も荷車も、それを引く馬や牛も必要だ。
　作物を金にかえるにはとんでもなく手間がかかり、おまけに皮肉な特典がつく。
　まずは足がつくリスク。
　商人でもなく街に売りに行く村人でもなく、賊の一団が足の遅い荷車を従えて行進するのだ、いくら何でも目立ち過ぎる。
　さらに、出所の怪しい品ゆえ、足下を見て値引きされるに決まっている。
　当然、賊としての評判も落ちる。
　農作物だけを奪い取るのでは、格好がつかない。

「この村は、領主に収めていないのか？」
　意見を求められていた俺は、当然の疑問を返した。
「もちろん払っている。安くはないがな」
「なら、領主に保護を求めるのが筋だ」
　なぜかまずいことを聞かれたとでもいうように、村長とまわりの連中はせわしなく視線を交わし合った。
　もう、その様子が答えなのだろう。
——きちんと保護してくれるくらいなら、わざわざ余所者をここに呼ばない、か——
「取るもの取って、義務は果たさない。この村は見捨てられてる、そういうことなのか？」
「ひらたく言えば……」
　ひどい領主だ。
　しかし、あり得る話でもある。
　兵を出して守っても、結局その費用は領主側の持ち出しになる。
　宿や飯は村に支給させるとしても、派兵の準備もあれば道中の費用もかかる。
　もちろん兵たちへの手当ても、だ。
　その費用、まさか賊から回収できるはずもないだろう。
　かかる費用と辺境の村の税。
　それを天秤にかけたとき、どちらに傾くかは明らかだ。
「『かかる費用すべてを村で負担するなら』と、条件を出されてな」
　ジャックが代わりに答えた。
　そんなものは条件でもなんでもない、体の良い断りだ。
「では、このあたりに別の村があるか？」
「大人の足で半日ほどの距離にある。ここよりずっと大きい村だ」
「それならちょうどいい。小さいから領主に無視される。だったら隣村に受け入れてもら——」
「——そんなわけにいくか！　代々受け継いだ畑はどうなる！　新しい村で荒れ地をあてがわれて、俺たちに惨めな思いをしろというのか！　村長！　だから言ったはずだ！　余所者をこの場に呼ぶことなど反対だと。何も知らないくせに、若造が偉そうなことを！」
　ジャックと俺のやりとりに割って入られた。
　名前も知らない男から口汚く罵られ、それに同意する声が複数続いた。
　が、俺は特になんの感慨も抱かない。
　さらに言うなら腹も立たない。
　求められたから、ただ意見しただけのこと。
　しかしながらここの連中には、俺の言葉は聞き流すことはできなかったようだ。
　なんとも手厚い歓迎っぷりだ。

　ようやく俺を批判する声が収まると、ここから退出すべく腰を浮かせ、言った。
「移住すれば、まさにいま俺があんたに言われたのと同じようなことになるだろうさ。『余所者は意見するな』、『何も知らないなら黙っていろ』とな。家も畑も良い場所は与えられないし、新入りいびりのようなことをする奴らがいても不思議はない。余所者が来れば、誰でも警戒するし、なかには脅威に思う者もいる。それが自然な反応だ。
　勘違いしないでくれよ。べつに俺はあんたの発言を責めちゃいない。むしろ丁度いい見本になったんじゃないのか？
　もちろん嫌なら、移住なんてする必要はない。あんたらが別の答えを出せば済む話だ。ただの一案に過ぎない、それだけよ。……俺の意見は出した。これで失礼していいかな、村長さん」
「まあそう結論を急ぐこともないだろう。君の……、なんといったかな？」
「……ウッドだ」
「ウッドの言うことは一理ある。しかし、なにか別の方法がないかと、我々はずっとそれを探している」