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第三十一話
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「じつは、話の筋を変えたい」
「話を変える? いったいどういうことか、説明してもらえるかの」
賊退治の騒ぎが明けて数日後、俺はジャックと共に、村長の元を訪ねていた。
祭りの喧騒も消え去り、すっかり村はいつも通りの生活に戻った。
静まり返っていたあの日の広場にも人々の往来があり、それぞれに畑や山など、自分たちの仕事に出ている。
俺はといえば山には戻らず、ジャックとジャニスの家に居候状態だった。
あの熱狂的な騒ぎのあとでは、俺に否定的な者は誰ひとりとしていない。
心の奥ではなにかを抱える奴はいるのかもしれないが、今の俺に露骨に対立しても、そいつが損をするだけだ。
あの暗く、重苦しい、寄り合いの光景。
俺を責め立てた村人たち。
そんなことがあったなんて、まるで嘘か幻のようだった。
そして昨日、ジャックを通じて村長から俺に呼び出しがかかった。
それに応じての、村長の家での面会だ。
彼は俺に、空き家の提供を申し出た。
シャーウッドの村から俺への、報酬ということなのだろう。
ジャックとジャニスへの恩義に報い、彼等を護る。
そのためには、兎にも角にも近い方がいい。
それを思い知らされた俺に、これを断る手はない。
その申し出を、俺はありがたく受けることにした。
だが、一つだけ、どうしてもやっておきたいことがあった。
シャーウッドの村に住むと、俺は決めた。
だが、そもそも俺は訳ありの流れ者だ。
どういう形であれ、外からの興味を持たれたくない。
そのために絶対必要なことが、賊退治の真実を隠す、ということだった。
「領主という人種、あれは、もの珍しいものが好きな奴らだ。祭りでの騒ぎじゃないが、俺が英雄扱いされるのは困る。ひとりでやったようなものだと噂になり、それが領主の耳に入れば…… 今後のためにと、この村へと誰かを派遣してくるかもしれない。それが心配だ」
「いまさら、領主が俺たちの村になんの用がある? 肝心なときには俺たちのために何もしないのに、何しに来るってんだ?」
ジャックが疑問の声をあげるが、すぐに村長が俺に同意する。
「あり得ることだな。賊どもを、どうやって退けたのか。噂になった男とはどこの誰か。ついでに言うなら、払わずに済んだ金の行方はどうなったか…… 奴らの興味を引くには、十分過ぎるかもしれんな」
「おいおい、じゃあなにか? 今度は賊のかわりに、出さなくてよくなった金を領主がむしり取りにくるってのかよ」
「取るものだけ取って、何もしないあの領主のことよ。余っているなら今と、難癖をつけて絞り取りに来ても、さほど驚きはないわい」
「それじゃ賊と同じだぜ。いや、手が出せないだけにかえって悪いじゃねえかよ」
「そこでなんだが……」
それから俺は、事実と異なる作り話を広めることを提案した。
『言い値を払えず申し訳ない、ついては詫びとして宴席を設けたい。もちろん女もつく』
そう伝えて賊を村に呼び出し、宴席に招いた。
シャーウッドの村では、できる限りの料理と酒を用意して迎えた。
そしてそこに、罠を仕掛けたのだ。
酒のつまみ用にと味を濃くした食い物に、それとわからぬよう毒を混ぜた。
もちろん酒にも垂らす。
屈辱を笑顔の仮面の下に隠して賊を歓待し、毒がまわり始めたところを男たちが袋叩きにした。
はじめは賊の遺体を川に流し、魚に喰わせようとした。
だが、魚が毒にあたっては可哀想だ。
そこで村外れに深く、深く、大きな穴を掘り、その中へと投げ落とした。
さらに村の者たち全員が墓穴を囲み、落とした賊めがけて、石を上から投げつけた。
何度も、何度も、何度も。
それは投げ込まれた死体を埋め尽くすまで続き、それからやっと土がかけられた。
埋め終わるとまた全員で、墓穴の上で念入りに足踏みをし、そこから雑草さえ生えないほどに固く踏み締めた。
身体だけでなく、その穢れた魂さえ、絶対に外へ出ないようにと……
だいたいそんな話だ。
細部が正確である必要はない。
毒だってなんでもいい。
芋の目でもいいし、薬草で眠らせたことにしたっていい。
ようは、ありそうな話になっていればいいのだ。
『なるほど、それはありそうなことだ』
聞く者にそう思わせられれば、それで終わり。
俺の姿を煙に巻くことができる。
この話を用事で隣村に出向く者に頼み、先々で吹聴させた。
このさい村の中での真実の話など、どうでもいいことだ。
どうせこの村にやって来るものなど、数えるほどしかいない。
村は村で、外は外。
外から村への興味だけを整えてやればいい。
『シャーウッドの村人たちは、キレると何をするか分からない』
こうしておけば、俺の存在を隠しておけるだろう。
「話を変える? いったいどういうことか、説明してもらえるかの」
賊退治の騒ぎが明けて数日後、俺はジャックと共に、村長の元を訪ねていた。
祭りの喧騒も消え去り、すっかり村はいつも通りの生活に戻った。
静まり返っていたあの日の広場にも人々の往来があり、それぞれに畑や山など、自分たちの仕事に出ている。
俺はといえば山には戻らず、ジャックとジャニスの家に居候状態だった。
あの熱狂的な騒ぎのあとでは、俺に否定的な者は誰ひとりとしていない。
心の奥ではなにかを抱える奴はいるのかもしれないが、今の俺に露骨に対立しても、そいつが損をするだけだ。
あの暗く、重苦しい、寄り合いの光景。
俺を責め立てた村人たち。
そんなことがあったなんて、まるで嘘か幻のようだった。
そして昨日、ジャックを通じて村長から俺に呼び出しがかかった。
それに応じての、村長の家での面会だ。
彼は俺に、空き家の提供を申し出た。
シャーウッドの村から俺への、報酬ということなのだろう。
ジャックとジャニスへの恩義に報い、彼等を護る。
そのためには、兎にも角にも近い方がいい。
それを思い知らされた俺に、これを断る手はない。
その申し出を、俺はありがたく受けることにした。
だが、一つだけ、どうしてもやっておきたいことがあった。
シャーウッドの村に住むと、俺は決めた。
だが、そもそも俺は訳ありの流れ者だ。
どういう形であれ、外からの興味を持たれたくない。
そのために絶対必要なことが、賊退治の真実を隠す、ということだった。
「領主という人種、あれは、もの珍しいものが好きな奴らだ。祭りでの騒ぎじゃないが、俺が英雄扱いされるのは困る。ひとりでやったようなものだと噂になり、それが領主の耳に入れば…… 今後のためにと、この村へと誰かを派遣してくるかもしれない。それが心配だ」
「いまさら、領主が俺たちの村になんの用がある? 肝心なときには俺たちのために何もしないのに、何しに来るってんだ?」
ジャックが疑問の声をあげるが、すぐに村長が俺に同意する。
「あり得ることだな。賊どもを、どうやって退けたのか。噂になった男とはどこの誰か。ついでに言うなら、払わずに済んだ金の行方はどうなったか…… 奴らの興味を引くには、十分過ぎるかもしれんな」
「おいおい、じゃあなにか? 今度は賊のかわりに、出さなくてよくなった金を領主がむしり取りにくるってのかよ」
「取るものだけ取って、何もしないあの領主のことよ。余っているなら今と、難癖をつけて絞り取りに来ても、さほど驚きはないわい」
「それじゃ賊と同じだぜ。いや、手が出せないだけにかえって悪いじゃねえかよ」
「そこでなんだが……」
それから俺は、事実と異なる作り話を広めることを提案した。
『言い値を払えず申し訳ない、ついては詫びとして宴席を設けたい。もちろん女もつく』
そう伝えて賊を村に呼び出し、宴席に招いた。
シャーウッドの村では、できる限りの料理と酒を用意して迎えた。
そしてそこに、罠を仕掛けたのだ。
酒のつまみ用にと味を濃くした食い物に、それとわからぬよう毒を混ぜた。
もちろん酒にも垂らす。
屈辱を笑顔の仮面の下に隠して賊を歓待し、毒がまわり始めたところを男たちが袋叩きにした。
はじめは賊の遺体を川に流し、魚に喰わせようとした。
だが、魚が毒にあたっては可哀想だ。
そこで村外れに深く、深く、大きな穴を掘り、その中へと投げ落とした。
さらに村の者たち全員が墓穴を囲み、落とした賊めがけて、石を上から投げつけた。
何度も、何度も、何度も。
それは投げ込まれた死体を埋め尽くすまで続き、それからやっと土がかけられた。
埋め終わるとまた全員で、墓穴の上で念入りに足踏みをし、そこから雑草さえ生えないほどに固く踏み締めた。
身体だけでなく、その穢れた魂さえ、絶対に外へ出ないようにと……
だいたいそんな話だ。
細部が正確である必要はない。
毒だってなんでもいい。
芋の目でもいいし、薬草で眠らせたことにしたっていい。
ようは、ありそうな話になっていればいいのだ。
『なるほど、それはありそうなことだ』
聞く者にそう思わせられれば、それで終わり。
俺の姿を煙に巻くことができる。
この話を用事で隣村に出向く者に頼み、先々で吹聴させた。
このさい村の中での真実の話など、どうでもいいことだ。
どうせこの村にやって来るものなど、数えるほどしかいない。
村は村で、外は外。
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こうしておけば、俺の存在を隠しておけるだろう。
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