REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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第三十話

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 奴らにとって、すでに数の有利と呼べるものはない。
 次々に倒れる仲間を見せつけられ、戦意を失っていた。
 構えこそ取っているものの、俺へと向かう者はなく、遠くから撃ち込まれる矢を恐れて逃げ惑うばかりだ。

——ここらが頃合いか?——
 勢いのついた一連の動きが終わり、俺はジャニスの方へと賊が間違っても逃げて行けぬ位置をとり、そこで立ち止まった。
 空を仰ぎ、大きく息を吸い込む。
 決して、疲れで息があがったわけではない。
 俺には勝つだけでなく、ある考えがあった。

 胸をそらし、シャーウッド村の空へと吠える。
「聞け! シャーウッドの男たちよ!
 俺とジャックはすでに半分以上の賊を殺した! 俺たちの勝利は揺るがない!
 しかし! 残りの賊は今にも逃げようとしている。卑劣な奴らを、俺たちを苦しめる賊を、このまま優しく見逃してやってもいいのか!」

 俺が村中に響かんと大きな声をあげると、賊の顔色が明らかに変わった。
 逃げ腰から逃げへと変わった賊を追い、背後から容赦なく一人を斬り捨てた。
 やがて俺の呼び掛けに応じた男たちが、手にそれぞれの得物を持ち、方々から飛び出して来た。
 剣や槍といったまともな武器を持つものなど、誰一人としていない。
 鍬に棒、短剣に薪を割る斧、その程度。
 だが、それで十分だった。

 すべてが決するには、わずかな時間しか必要なかった。



 残りの賊たちは散り散りに逃げるも、村人にすぐに囲まれた。
 俺の目の前にいた奴らだけでなく、遅れて村に入ってきた賊もいたらしい。
 が、そいつらも同様、すぐに村の男たちに囲まれたそうだ。
 そこからは、もう、壮絶なものだった。
 それについては、あまり触れたくない。
 先に俺に討たれて死んだ奴らの方が、いくぶん幸せだったかもしれない。
 だが同情する必要はないのだ。
 どうせこの村が初めての悪事ではない。
 あちこちで非道に邪道を尽くしての果て。
 どんなに悲惨な死に方をしようとも、言わば当然の報いだ。
 総出で賊を叩きのめした村人たちの熱狂は、俺からしても恐ろしいほどだった。
 それは、彼らを叩きのめしただけでは終わらなかった。

 本当のところ、俺はすぐにでもジャニスと二人きりになり、この腕に抱きたかった。
 謝りたかったし、生きていることを確認したかった。
 だが、そんなことは許されなかった。

「シャーウッドの英雄を称えよ!」

 誰かがそう声をあげた。

「そうだ!」
「俺たちの英雄だ!」

 あっという間に俺は囲まれ、掴まれ、抱え上げられた。
 それからは、なし崩し的に大きな騒ぎがはじまった。
 祭りだ。
 誰かが酒を持ち出し、女たちが料理を振る舞いだす。
 飲めないと断るも無理に酒を注がれ、もう滅茶苦茶だった。
 それだけ奴らに苦しめられた、そういうことなのだろう。
 真面目なのだ、村の誰もが。
 不足分を女で払えと言われ、暗い部屋で深刻になって答えの出ない議論を続けていた。
 そう思えば、この馬鹿騒ぎも理解できた。
 抑圧からの解放。
 変わるがわるに俺の元へやって来ては自己紹介をし、握手を求められる。
 そんな一気に大勢を覚えられるはずもない。
 逆に何度も何度も繰り返し自己紹介にやってくる、酔いのひどい奴もいる始末だった。
 宴は続く。
 陽が傾くとようやく囲みが解け、俺はひとりで座ることを許された。
 だが退席することは許されない。
 いつの間にやら広場の数カ所に薪が燃やされ、夜通しの騒ぎになりそうな勢いだ。
 俺の前を通り過ぎるものは、誰もが「英雄に乾杯!」などと叫び、杯を掲げていく。

 フッと空気が動き、横に誰かが座った。
 この気配は、見ずともわかる。
 
 視界の隅にチラッと写る着物の裾は、見慣れた灰色。
 昼、広場にいたジャニスは白いドレスだった。
 いつもと違った姿を近くで見たかった、そんな気もしたが、あれは賊に捧げるための服装だ。
 そんなものは呪いに等しいだろう。
 ジャニスは何も言わず、俺の指に自分の指を絡めてきた。
「悪かった」
「……どうして謝るのよ」
「どうしてかな。俺は、ジャニスやジャックに、信頼されるに足りる人間じゃなかった。ちゃんと向き合っていれば、苦しませることも、悩ませることもなかったはずだと思う」
「そんなことない。だって、来てくれた。二度目も」
「二度目、か。そうだな、三度目はないように頼みたいな」
「私もごめんよ」
 ジャニスが頬を寄せてきた。
 それから顔を上向きにして、唇を突き出してくる。
「見られるぞ、みんなに」
「そうじゃない、見せるの。私の英雄が、みんなの英雄になってしまったから。ちゃんと誰のものか、見せておく必要があるわ」
 重なる唇。
 薪は赤々と燃え、夜を照らし続けた。
 夜明けまでは、まだ遠い。
 騒ぎはまだ、続いていく。
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