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第二十九話
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こうしてジャックの気持ちを乗せはしたが、双方の間に割って入るという単純な策に無理があることに気づく。
俺は正面でも十分戦えるが、やはりジャックを賊の正面、俺の隣に立たせてはいけないだろう。
はじめてというのは誰でも、あるいはどんなことでも、とまどいがあるのが普通だ。
ましてや襲い掛かる敵を前にしての初めてでは、誰もが怯む。
ならば、こいつの得意を活かすべきだ。
「俺は広場に入ってくる相手を正面から叩く。一人も後ろへはやらない、任せておけ。ジャック、右手のあの建物、わかるか?」
「煙突の高いあの家だな。あそこには、いい女がいる。旦那に先立たれてから、腰が軽くてな」
「あのなぁ……」
絶句したが、戦場に下ネタは付き物だと思えばそれも懐かしく、腹も立たない。
それにクソ面白くもない冗談が言えるなら、いつも通りだ。
「俺と賊がぶつかったら、横から援護してくれ。当たらなくても注意がそれれば十分だ」
「俺が外すだと? バカにしてるのか」
「言うじゃないか。さっきまでと別人だな。おまえの鍛えた丸太のような体に比べれば、柳のようなひょろい奴ばかりだぞ。本当にちゃんと当たるのか? 終わったあとにジャックが外した矢、証拠として広場に並べてやるからな」
「させねえよ」
俺たちは拳を突き合わせ、別れた。
家の影からのぞき、音もなく走って次の家へ。そう繰り返し、広場へ近づいていく。
繰り返すこと数度、ついに賊の一味が見通せた。
その数は十を超えていた。
俺が奴らの姿をたしかめてから、広場の反対へと目をやる。
——ジャニス!——
広場の端にいた村長たちが、中央に向けて歩きはじめていた。
まるで結婚式の花嫁のような、白いドレスの女が、一人いた。
ジャニスだ。
——ジャニスを苦しめるものは、殺す。誰も生きて帰さない——
鞘から静かに剣を引き出す。
長らく愛用している剣の柄には、握った拳を守るために鷲の翼を模した羽が広がっている。
鷲は空の王者、全てを喰らう猛禽だ。
いま俺がここに鷲となり、すべてを倒そう。
ジャニスに指一本触れさせず、かつ誰も逃さない。
戦の前の緊張感が蘇り、わずかに頬が緩んだ。
だがそれも一瞬のこと。
隠れた俺の前を通るのを息を殺して待つ。
目を閉じ、耳を澄ました。
だらしなく砂を蹴るように歩く足音がする。
下世話な会話がだんだんと大きく聞こえてきた。
目を開き、俺は飛び出た!
手前の一人を横薙ぎにして無防備な横っ腹を切り裂き、返す刃で次の賊へと袈裟に斬り下げる。
さらに驚きの表情を浮かべたままで彫像のように固まったまま、いまだ得物を抜いてもいない長髪の男の首へと渾身の一撃を喰らわせる。
首を刎ねられ、頭部が宙を舞った
突然の事態に呆然としたままだった賊たちの上へ、仲間の鮮血が雨となって降りかかる。
宙を、顔を、服を、赤く染めたそれが奴らに正気を取り戻させた。
賊は剣や斧といった不揃いの武器を慌てて取り出す。
——まず三人!——
恐れをなして逃げる者がいればかえって厄介と思っていたが、見下げ果てた賊とはいえ、そこまで腰抜け揃いではないらしい。
圧倒的多数を生かそうというのか、「囲んじまえ!」と指示する声が。
そうはさせじと、うしろに回り込もうという男に狙いを付け、鋭く剣を突き込んだ。
狙った男は俺の剣撃を交わしたものの、足をもつれさせてその場に倒れこんだ。
不意打ちで三人を葬ったとはいえ、いまだ敵は多い。
深追いして隙を与えるわけにはいかなかった。
あえて転倒した男には追い打ちをかけず、近くの別の男へと向きを変える。
俺に対して一人で相手はできないと判断したのか、次は斧と剣で両側から攻め込んでくる。
剣撃を受け止め、反らし、合間にくる重い斧の一撃は受け止めず身を翻して交わす。
するとどこからか、「グフッ」とくぐもったような悲鳴が聞こえた。
目の前の剣士と斧使いの奥に、うずくまる男がいた。
「仲間がいるのか!」と困惑の声がし、賊が動揺した隙を俺は逃さない。
気を取られて空振りした斧が地面に食い込んでしまい、必死に抜こうともがく男の腕を無遠慮に下から払い上げた。
片腕の肘から先を失い、男が悶える。
苦痛で俺と戦うどころではなくなった斧使いへと、中段の蹴りを喰らわせる。
片腕を失いバランスの取れない斧使いはたたらを踏み、剣を振るう男の方へとよろけていくと、両者がもつれ合って倒れた。
今度はそれを追いかけ、剣士の首へと真っ直ぐに突き下ろす。
俺の剣は深々と地面にまで刺さり、トドメを刺した。
刺さったたままの剣から手を離し、素早く半身を反らす。
すんでのところで後方からの一撃を交わすと、すかさず倒した男の剣を蹴り上げて拾い、次の一振りを受け止めた。
うしろから斬り込んできたのは俺の突きに転倒したが、あえて追撃しなかった男だった。
正面から向き合えば、この間抜けな男では俺と勝負にならない。
難なく切り捨て、剣を振って血を払う。
次は……、振り返って状況を確認する。
俺の倒した覚えのない男が、二人ほど地面に倒れていた。
どうやらジャックがやってくれたらしい。
俺は正面でも十分戦えるが、やはりジャックを賊の正面、俺の隣に立たせてはいけないだろう。
はじめてというのは誰でも、あるいはどんなことでも、とまどいがあるのが普通だ。
ましてや襲い掛かる敵を前にしての初めてでは、誰もが怯む。
ならば、こいつの得意を活かすべきだ。
「俺は広場に入ってくる相手を正面から叩く。一人も後ろへはやらない、任せておけ。ジャック、右手のあの建物、わかるか?」
「煙突の高いあの家だな。あそこには、いい女がいる。旦那に先立たれてから、腰が軽くてな」
「あのなぁ……」
絶句したが、戦場に下ネタは付き物だと思えばそれも懐かしく、腹も立たない。
それにクソ面白くもない冗談が言えるなら、いつも通りだ。
「俺と賊がぶつかったら、横から援護してくれ。当たらなくても注意がそれれば十分だ」
「俺が外すだと? バカにしてるのか」
「言うじゃないか。さっきまでと別人だな。おまえの鍛えた丸太のような体に比べれば、柳のようなひょろい奴ばかりだぞ。本当にちゃんと当たるのか? 終わったあとにジャックが外した矢、証拠として広場に並べてやるからな」
「させねえよ」
俺たちは拳を突き合わせ、別れた。
家の影からのぞき、音もなく走って次の家へ。そう繰り返し、広場へ近づいていく。
繰り返すこと数度、ついに賊の一味が見通せた。
その数は十を超えていた。
俺が奴らの姿をたしかめてから、広場の反対へと目をやる。
——ジャニス!——
広場の端にいた村長たちが、中央に向けて歩きはじめていた。
まるで結婚式の花嫁のような、白いドレスの女が、一人いた。
ジャニスだ。
——ジャニスを苦しめるものは、殺す。誰も生きて帰さない——
鞘から静かに剣を引き出す。
長らく愛用している剣の柄には、握った拳を守るために鷲の翼を模した羽が広がっている。
鷲は空の王者、全てを喰らう猛禽だ。
いま俺がここに鷲となり、すべてを倒そう。
ジャニスに指一本触れさせず、かつ誰も逃さない。
戦の前の緊張感が蘇り、わずかに頬が緩んだ。
だがそれも一瞬のこと。
隠れた俺の前を通るのを息を殺して待つ。
目を閉じ、耳を澄ました。
だらしなく砂を蹴るように歩く足音がする。
下世話な会話がだんだんと大きく聞こえてきた。
目を開き、俺は飛び出た!
手前の一人を横薙ぎにして無防備な横っ腹を切り裂き、返す刃で次の賊へと袈裟に斬り下げる。
さらに驚きの表情を浮かべたままで彫像のように固まったまま、いまだ得物を抜いてもいない長髪の男の首へと渾身の一撃を喰らわせる。
首を刎ねられ、頭部が宙を舞った
突然の事態に呆然としたままだった賊たちの上へ、仲間の鮮血が雨となって降りかかる。
宙を、顔を、服を、赤く染めたそれが奴らに正気を取り戻させた。
賊は剣や斧といった不揃いの武器を慌てて取り出す。
——まず三人!——
恐れをなして逃げる者がいればかえって厄介と思っていたが、見下げ果てた賊とはいえ、そこまで腰抜け揃いではないらしい。
圧倒的多数を生かそうというのか、「囲んじまえ!」と指示する声が。
そうはさせじと、うしろに回り込もうという男に狙いを付け、鋭く剣を突き込んだ。
狙った男は俺の剣撃を交わしたものの、足をもつれさせてその場に倒れこんだ。
不意打ちで三人を葬ったとはいえ、いまだ敵は多い。
深追いして隙を与えるわけにはいかなかった。
あえて転倒した男には追い打ちをかけず、近くの別の男へと向きを変える。
俺に対して一人で相手はできないと判断したのか、次は斧と剣で両側から攻め込んでくる。
剣撃を受け止め、反らし、合間にくる重い斧の一撃は受け止めず身を翻して交わす。
するとどこからか、「グフッ」とくぐもったような悲鳴が聞こえた。
目の前の剣士と斧使いの奥に、うずくまる男がいた。
「仲間がいるのか!」と困惑の声がし、賊が動揺した隙を俺は逃さない。
気を取られて空振りした斧が地面に食い込んでしまい、必死に抜こうともがく男の腕を無遠慮に下から払い上げた。
片腕の肘から先を失い、男が悶える。
苦痛で俺と戦うどころではなくなった斧使いへと、中段の蹴りを喰らわせる。
片腕を失いバランスの取れない斧使いはたたらを踏み、剣を振るう男の方へとよろけていくと、両者がもつれ合って倒れた。
今度はそれを追いかけ、剣士の首へと真っ直ぐに突き下ろす。
俺の剣は深々と地面にまで刺さり、トドメを刺した。
刺さったたままの剣から手を離し、素早く半身を反らす。
すんでのところで後方からの一撃を交わすと、すかさず倒した男の剣を蹴り上げて拾い、次の一振りを受け止めた。
うしろから斬り込んできたのは俺の突きに転倒したが、あえて追撃しなかった男だった。
正面から向き合えば、この間抜けな男では俺と勝負にならない。
難なく切り捨て、剣を振って血を払う。
次は……、振り返って状況を確認する。
俺の倒した覚えのない男が、二人ほど地面に倒れていた。
どうやらジャックがやってくれたらしい。
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