REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

第三十八話

「俺の力、ですか。役割ですから、これまで通り村外に出る村人の護衛はもちろん、シャーウッドに害をなそうとするものがいれば戦いましょう。それで食わせてもらっている、当然です。それとは別に、ということですか？」
「ああ、そうだ。けっしてウッドが頼りにならない、ということではないのだ。それは理解してくれ。ただな、ウッドがどう頑張ろうとも、ウッドは一人しかいない。これが問題だ。そなたの留守に何かあれば、村はどうなるだろうか？」
　まあ、当然の疑問だ。
　俺が誰かの護衛について出かければ、俺は村からいなくなる。
「それだけではない」そう言って村長は、村の南北を順に杖で指した。
「複数ヶ所から村へ迫られたら、どうなるだろうか？」
　これも言う通り。
　現状ではどこからでも村に入れる。
　辺境の村は都市ではない。
　門もなければ、囲いもない。
「これらをどうするか考えると、だ。結論は一つしかなかった。ウッドよ、ひとつ若者たちに教えてはもらえないだろうか」



　村長たちの提案とは、アリーのお願いと同じ類のものだった。
　つまり、『村の若者を鍛えてはどうだろうか？』ということだ。
　その考えはよく理解できた。
　だがやはりデメリットもあるのだ。
　俺はさっきアリーに聞かせたことを、ここでも話すことになった。
　さほど大きくないこの村にとって、人の流出は大きな問題だ。
　多少増える分には問題ない。
　だが、働き手が減れば、村自体の維持や存続そのものに問題が出かねない。
　井戸や川といった水関係、住居に作付けの維持……
　こういったことには絶対に人手がいる。
　戦えるものを育てるというのは、村を守るには意味のあることだ。
　しかし一方で、離村が増えるかもしれないリスクがある。
　いや、リスクではない、確実に増えるだろう。
　これは村長には言わなかったが、俺としては気が乗らない別の理由もあった。
　村人が組織的に本格的な訓練などしていれば、いやでも悪目立ちする。
　領主は反乱を警戒するし、それを指導する俺は一番目立つことだろう。
　必ず、『あいつは何者だ？』となる。
　
　この日、結論は出ず、村長と俺の話は持ち越しになった。



　眼前の見えない敵を真っ二つに裂くよう、剣を振り下ろす。
　何度も何度も何度も、納得できるまで繰り返す。
　振り下ろすたび、汗が散った。

　一人で鍛錬を続けるには、イメージがすべて。
　かつて戦ったことのある者たちを記憶から呼び出し、再現し、打ち倒す。
　ただ無駄に型通りの動作を繰り返しても、身体に負荷をかけているだけだ。
　それではたんなる体づくりになってしまう。
　集中力を高め、一振りの意味と価値を高め、ただひたすらに追求し続ける。
　はじめの頃は入れ替わり立ち替わりでいた見物人も、今やいない。
　俺がぞんざいに扱ったということもあるだろうが、珍しいものを見る期間は終わった。
　そういうことだろう。
　人は見慣れたものへの興味を失うようにできている。
　集中して訓練を続けるには、邪魔がない方がいい。
　どうせこの村に、対等に俺と立ち合える者はいないのだ。
　
　こうして鍛錬していても、気を抜くといつの間にか考え事をしてしまう。
　先日、村長に若者たちへ教えてほしいと言われた。
　かつて、ジャニスにも言われたことがある。
　村の人たちは『戦い方を知らない』と。
　しかし、内容が内容だ。
　絵や文字、裁縫といったことを教えるのとは、わけが違う。
　村を守る為とはいえ、人を斬ることを、殺すことを教えようというのだ。
　それは傷やアザといった痛みなくして身につくものじゃない。
　訓練を積んでいけば自分の身体も痛むし、当然、相手も傷つく。
　誰だって、痛みや苦しみなど、望まない。
　興味のない者、目的意識のないものには、剣を教えることは難しい。
　いや、無理だろう。
　多くの者が興味を持つ期間は長く続かなかったのだ。
　やはり、俺が改まって村長に断りの返事をするまでもないことのように思えた。
　さりとて代案も思いつかず、村長の元へと足は向かないまま日々が過ぎてゆく。