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第四十九話
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セスの起こした一件が終わったことで、俺のまわりは変わった。
結果的に、俺は『若者を鍛えて欲しい』という、村長の意向を受け入れることになったからだ。
セスは元々、少年たちのリーダーだった。
そのセスが俺のもとへ通うことで、つられるように他の仲間たちも顔を出しはじめる。
まあ、狙い通りだった。
どうせやるなら、同じ年頃で競った方がいい。
俺とセスが向かい合っても、差がありすぎて互いの訓練にはならないのだから。
少年たちに剣を教えつつ、その合間に簡単な読み書きや計算も教えた。
さらには、より大事なことである、『どう村を守るか?』ということについて、問いかけたりもした。
単純に剣だけを教える訓練場になってしまっては、本当の意味でこの村の役に立つとはいえないだろう。
ただ強い者を育てることが目標ではない。
シャーウッドの村を守りつつ、発展させていくことを目標とすべきことなのだ。
まともな兵もおらず、領主の兵による庇護も期待できない田舎の村。
知識や経験、戦術も含め、自分に教えられることはすべて教えていく。
万一の外敵に備えるなら、出し惜しむことはできなかった。
「美しき娘、クリスティーナよ。我らが愛する、このシャーウッド村の息子ジャックと人生を共にし、幸せになることを誓うか?」
「はい。私、クリスティーナはジャックと、幸せな家族となることを誓います」
「聞いたか、村の者たちよ。ここシャーウッドの村に、またひとつの家族が生まれた。
新しい二人の人生を祝し、盛大に祝おう! 乾杯!」
村長の掛け声に、村中の杯が掲げられた。
あちこちで「乾杯」の声があがる。
この日、ジャニスの兄、ジャックはいつになく硬い表情だった。
山を、森を、いつもは自由に駆ける狩人、ジャック。
その彼も、堅苦しい儀礼の場ではそうもいかないらしい。
それが祝いの席であっても、だ。
見ているこっちが吹き出しそうなほどにかしこまった硬い表情の大男であったが、儀式が終わりようやく解放されたのだろう、顔をクシャクシャにして照れている。
花婿と花嫁は朝早くから身支度をする。
だがジャックの奴は、起き抜けからすでに二日酔いのような青い顔。
『前日祝いで飲みすぎて……』という豪快な理由ではなく、慣れない晴れ舞台に緊張しているのだ。
まるで獣かと見紛うような大きな身体のくせに、この日の朝は蚊の鳴くような声で挨拶してきた。
まあ、一生に一度くらい、こういうことがあってもいいのかもしれない。
俺がシャーウッドの村での結婚式に出るのは、これで二度目だった。
当日の村人たちは忙しい。
朝、いつもよりも暗いうちから村全体が動き出す。
雑事を午前のうちに終わらせてしまうためだ。
午後になると村人が全員集まり、その前で婚姻の承認を得る誓いの儀式が行われからだ。
夫が花嫁の父にひざまずいて許しを請い、花嫁の父が許す。
すると今度は、花嫁が花婿の父に誓いを立てる。
それが済むと、乾杯。
といっても、まだ人々が飲んではいけない。
大自然の祝福を受けて幸せになれるよう、捧げるのだ。
乾杯で掲げられた酒は、そのまま空に舞う。
シャーウッドの空に、太陽に、雨に感謝を。
次いで新たに注がれた酒が今度は地面に撒かる。
大地に、樹々に、これからの恵みを願う。
そしてやっと村人たちのための乾杯になる。
隣同士で酒を注ぎ、互いの杯をぶつけ、祝いの声をあげる。
ここから先は、ただの酒宴だ。
それぞれに飲んで騒ぐだけ
ジャックとクリスティーナの恋人同士は、ようやく結婚することになった。
長い付き合いで、長い春だった。
春にもいろいろな春がある。
春一番のような大風も吹けば、冷えた心を溶かすような温かな日もある。
昼下がり、まどろむ陽射しのぬくもり。
そんな心地よい日も、風が吹き始めたかと思うと、いつしか夜には雨混じりの大風に変わってしまう。
そんな嵐もやがて過ぎ去り、新たな陽が射すとまた、花が咲く。
騒ぎになるのは主にジャックのせい。
しかし、過去はどうあれ今日この日、村中が祝福する結婚式となった。
花嫁の席に座るクリスティーナの元へと、村の若い女たちが集まっている。
主役である花嫁の美しさを讃え、祝福の言葉をかけているのだろう。
その集まりの中に、ジャニスもいた。
そしてすっかり大人になったアリーが、ジャニスの横に並んでいる。
子供の成長とは、早いものだ。
いまではアリーとジャニスの二人が並ぶと、「まるで美しい姉妹のようだ」と漏らす村の者さえいた。
俺が村に来てすぐの、あのセスの騒ぎ……
それからはやくも数年の月日が経っていた。
結果的に、俺は『若者を鍛えて欲しい』という、村長の意向を受け入れることになったからだ。
セスは元々、少年たちのリーダーだった。
そのセスが俺のもとへ通うことで、つられるように他の仲間たちも顔を出しはじめる。
まあ、狙い通りだった。
どうせやるなら、同じ年頃で競った方がいい。
俺とセスが向かい合っても、差がありすぎて互いの訓練にはならないのだから。
少年たちに剣を教えつつ、その合間に簡単な読み書きや計算も教えた。
さらには、より大事なことである、『どう村を守るか?』ということについて、問いかけたりもした。
単純に剣だけを教える訓練場になってしまっては、本当の意味でこの村の役に立つとはいえないだろう。
ただ強い者を育てることが目標ではない。
シャーウッドの村を守りつつ、発展させていくことを目標とすべきことなのだ。
まともな兵もおらず、領主の兵による庇護も期待できない田舎の村。
知識や経験、戦術も含め、自分に教えられることはすべて教えていく。
万一の外敵に備えるなら、出し惜しむことはできなかった。
「美しき娘、クリスティーナよ。我らが愛する、このシャーウッド村の息子ジャックと人生を共にし、幸せになることを誓うか?」
「はい。私、クリスティーナはジャックと、幸せな家族となることを誓います」
「聞いたか、村の者たちよ。ここシャーウッドの村に、またひとつの家族が生まれた。
新しい二人の人生を祝し、盛大に祝おう! 乾杯!」
村長の掛け声に、村中の杯が掲げられた。
あちこちで「乾杯」の声があがる。
この日、ジャニスの兄、ジャックはいつになく硬い表情だった。
山を、森を、いつもは自由に駆ける狩人、ジャック。
その彼も、堅苦しい儀礼の場ではそうもいかないらしい。
それが祝いの席であっても、だ。
見ているこっちが吹き出しそうなほどにかしこまった硬い表情の大男であったが、儀式が終わりようやく解放されたのだろう、顔をクシャクシャにして照れている。
花婿と花嫁は朝早くから身支度をする。
だがジャックの奴は、起き抜けからすでに二日酔いのような青い顔。
『前日祝いで飲みすぎて……』という豪快な理由ではなく、慣れない晴れ舞台に緊張しているのだ。
まるで獣かと見紛うような大きな身体のくせに、この日の朝は蚊の鳴くような声で挨拶してきた。
まあ、一生に一度くらい、こういうことがあってもいいのかもしれない。
俺がシャーウッドの村での結婚式に出るのは、これで二度目だった。
当日の村人たちは忙しい。
朝、いつもよりも暗いうちから村全体が動き出す。
雑事を午前のうちに終わらせてしまうためだ。
午後になると村人が全員集まり、その前で婚姻の承認を得る誓いの儀式が行われからだ。
夫が花嫁の父にひざまずいて許しを請い、花嫁の父が許す。
すると今度は、花嫁が花婿の父に誓いを立てる。
それが済むと、乾杯。
といっても、まだ人々が飲んではいけない。
大自然の祝福を受けて幸せになれるよう、捧げるのだ。
乾杯で掲げられた酒は、そのまま空に舞う。
シャーウッドの空に、太陽に、雨に感謝を。
次いで新たに注がれた酒が今度は地面に撒かる。
大地に、樹々に、これからの恵みを願う。
そしてやっと村人たちのための乾杯になる。
隣同士で酒を注ぎ、互いの杯をぶつけ、祝いの声をあげる。
ここから先は、ただの酒宴だ。
それぞれに飲んで騒ぐだけ
ジャックとクリスティーナの恋人同士は、ようやく結婚することになった。
長い付き合いで、長い春だった。
春にもいろいろな春がある。
春一番のような大風も吹けば、冷えた心を溶かすような温かな日もある。
昼下がり、まどろむ陽射しのぬくもり。
そんな心地よい日も、風が吹き始めたかと思うと、いつしか夜には雨混じりの大風に変わってしまう。
そんな嵐もやがて過ぎ去り、新たな陽が射すとまた、花が咲く。
騒ぎになるのは主にジャックのせい。
しかし、過去はどうあれ今日この日、村中が祝福する結婚式となった。
花嫁の席に座るクリスティーナの元へと、村の若い女たちが集まっている。
主役である花嫁の美しさを讃え、祝福の言葉をかけているのだろう。
その集まりの中に、ジャニスもいた。
そしてすっかり大人になったアリーが、ジャニスの横に並んでいる。
子供の成長とは、早いものだ。
いまではアリーとジャニスの二人が並ぶと、「まるで美しい姉妹のようだ」と漏らす村の者さえいた。
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