REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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第七十一話

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 敵などいるはずのない背後から、謎の部隊による突撃を受けたのだ。
 完全に想定外、隊は総崩れ。
 あたりは逃げ惑う兵で大混乱となった。

 人馬入り乱れるなか、真っ直ぐに俺のいる方へ向かってくる隊がいた。
 その隊を率いる者は、山側の襲撃部隊を率いていたはずの男だった。
『貴様に手柄を立てられては、実績の無い皇太子の障害となる』
 だいたいそんな事を喚きながら、俺へと向かってきた。
 俺はいまさらながら、ようやくすべてを悟った。
 甘かった。
 すべてが甘かった、と。
 討ち死にすればよし。
 逃げ帰れば、敵全逃亡で処刑。
 進撃を続ければ、グランリオとモンテルレイの全面戦争にならぬよう、暗殺を図る。
 すべてが俺を殺すための、はかりごと。
 考えてみればわかりきったこと。
 自国の跡目争いさえ収めきれぬ王に、大国同士の正面衝突を覚悟する度量などあろうはずもない。
 はじめから決まっていたのだ。
 愛するグランリオに血を流さぬため、退くことを選んだあの日から。
 それなのに多くの仲間たちを、大掛かりな自分の処刑のために巻き込んでしまった。
 皇太子を意地でも降りるべきではなかった。
 降りたなら一人で死ぬべきだったのだ。
 優秀だと錯覚した自らの暗愚ゆえ、多くの者の運命を変え、いたずらに血を流させることになるとは……

 そこからのことは、よく覚えていない。
 放心状態となった俺は、側近たちに守られながら逃げたようだ。
 そしてついには一人きりとなって森をさまよい、ジャニスに会った。
 そうして紆余曲折あり、今を迎えるに至った。



 俺が話し終えてから、しばらくは誰も口を開かなかった。
 にわかには信じられないような話だ。
 無理もない。
 だが、事実として俺を元皇太子のオーウェンとして、探しに来ている賊がいる。
 彼らの語る特徴は俺そのものだ。
 この村に危機を、災厄を、実害を、もたらしている者。
 それはほかでもない。
 俺自身だった。

 誰も口を開かぬなら、俺が言うしかない。
「今回のことのすべて、俺の責任だ。なにひとつとして、この村に落ち度はない」
 それでも沈黙が続いた。
 ここで村が決断すべきはどちらかだ。
 俺を差し出すか、俺を追放するか。
 それ以外の決断はない。
 迷うほどの事とは、俺には思えなかった。
 だが剣を携えた俺を前にしては、恐ろしさに口を開けぬのも無理のない事だろう。
 俺は脇に差した剣をつかむと、壁の方へと投げ捨てた。
 ゴトンと重い音が響いた。
 慌ててフィルが立ち上がり、俺が投げ捨てた剣を拾いに行こうとしたが、「止めよ」と鋭く制する。
「遠慮は要らん。確保するならこのとおり抵抗はしない。出て行けというなら従おう。ここは決断すべき時だ。いたずらに集まりを開いて時間をかけるべき場面ではないはずだ」
 結論を催促すると、村長は腕組みをしたまま屋根裏を見上げ、それから姿勢を戻して言った。
「正直言って……、失望はしておる」
 村長はついに口を開いた。
 これでこの村での暮らしが終わりだ。
 俺を受け入れたこの村からすれば、重大な事実を隠していた俺は、恩を仇で返す裏切り者同然。
 かつて裏切られた俺自身が、はからずとも裏切り者に落ちることになるとは、因果なことだった。
 失望などと言わず、もっと直接的な言葉で激しく罵られても仕方がない。
「長話の真偽などどうでもいい。じつにくだらん。そんなものは本当であっても、嘘であってもどうでもいい」
「どうでもいい、だと? それはどういう意味だ、俺にわかるように言ってくれ」
「ウッドよ、そなたの村での役目は何であったか忘れたのか? 村への危害を排除することであろうが。そのための前向きな話だと期待すれば、過去のくだらぬ想い出話とは…… で、我らは今回の事態、どう対処すればよい? 戦うのか? 戦うならどんな策をとるか?」
「どうもこうもない。俺を追放するか、差し出すかのどちらかしかないはずだ」
「『どちらか』、だと? そんなものが対処なものか。外敵を排除する方法を示せと言っているのだ」
「だからそれは、二つのどちらかだと——」
「——わからぬ奴めッ!」
 村長が声を荒げた。
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