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第七十話
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正面切って争うなら、負ける気など全くない。
一騎打ちであろうが、戦場であろうが、俺は最後まで立ち続ける。
自分の、ひいては我が陣営の優秀さを見せつけ、勝つこともできたと確信していた。
だが、問題があった。
これは大きな問題だ。
『決定的な勝利を早期に得る』
この一点において。
『短期間』での決着。
これが不可能であるという、確実な予想。
王と婚約者の父という後ろ盾が、どちらもまるで期待できないのだ。
俺が完全な勝利を収めるには、長く、苦しい戦いになる。
それはこの国に大きな被害が出るということを意味していた。
人も物も、経済も、あらゆるものが血を流すことになるだろう。
いつしか俺は、グランリオという国に、愛着を持ち過ぎていた。
戦争か?
融和か?
あるいはかつて、グランリオ王が俺を呼んだような奇策があるのか?
注目された俺の出した結論。
それは、皇太子の地位の返上と、ポートアーサーに戻るという決断だった。
完全撤退。
手を取り合っての融和路線はそもそもあり得ない答えだ。
中途半端な迎合は、問題の先送りでしかない。
俺の決断は、有力者の出席する会議で発表することになった。
だが、俺は正直すぎた。
一般に正直は美徳とされるが、馬鹿正直は暗愚の証明にすぎない。
甘かったのだ。
大きな決断をし、気が抜けていたとも言えるだろう。
俺が壇上に上がり、皇太子の地位返上を宣言した。
その直後だった。
グランリオ王が席を立って前に出、発言したのだ。
予定にない動きだ。
返上宣言のどよめきが収まるのを待っていた俺は、完全に虚をつかれた。
そこに割り込んだグランリオ王は列席者を前にして、朗々と語った。
オーウェンの勇気ある決断を讃える。
さらに主人公から、不退転の決意を伝えられた。
なんと、我が愛するオーウェンはモンテルレイに侵攻するという。
モンテルレイの領地を己の力で切り取り、それをグランリオの一部として献上し、そこに主人公が治める国をつくると約束してくれた。
この王の一言により、先のどよめきが一転した。
会場は狂乱の熱に包まれていく。
『未来の英雄に喝采を!』
『洋々たる前途に祝福を!』
あちこちで俺を讃える声があがってしまった。
熱くなる会場。
しかし、俺のまわりの側近たちは青ざめていた。
もちろん俺もだ。
そんな約束をした覚えもなければ、提案されたことも、命令されたこともない。
よりによってこの会場で、とは……
神だ何だと言われていても、しょせんは人に過ぎない。
いかに王とて、ただの親だったのだ。
俺を恐れ、マルセデスに帰る事をよしとせず、実子を守るために確実な追い落としを図ったのだ。
正式な場での王の発言。
それを覆すなど、不可能なこと。
俺は完全に梯子を外された。
準備の時間も満足に与えられず、わずか数百の手勢で出兵することになった。
だが、限られた人数だけあって、誰もが鍛えられた精鋭。
俺が信頼し、そして俺を信じる者たちだ。
『見捨てた者たちに力を見せつけ、見返してやる』
誰もが息巻く我が軍の士気は高かった。
俺は止める側近を拒み、進んで先頭に立ち剣を振るった。
敵を斬り、味方を鼓舞し、駆け回り指示を飛ばす。
誰にも負けぬ自負があった。
強い者が、強さを発揮すべきだと思った。
一振りして返り血を浴びるたび、敵は俺を恐れて退がる。
そんな俺の姿に、味方は奮い立った。
難なく国境を越え、散発的な反攻をものともせず、攻め入る。
いよいよ地方都市の攻略に本格的に取り組もうとしていた。
手勢を二手に分けた。
平地で正面からぶつかる部隊と、山側から雪崩のように奇襲する部隊だ。
山側へと迂回する隊の方が、配置には時間がかかる。
正面から押し進む隊の指揮を取る俺は、奇襲部隊の体勢が整うのを待っていた。
ところが定刻を過ぎても、まったく報せがない。
配置完了の合図もなければ、不都合を報せる使者もない。
何が起きているのか心配になったが、俺の信じる配下だ。
間違いはないはず。
ここは我慢の時。
待ちきれずにむやみに動けば作戦は失敗になる。
たとえ不安がよぎっても、全軍を指揮する俺がどっしりと構えて待つことこそが、隊に安心を与えるのだ。
耐え難き時間を耐え、ようやくもたらされた報せ。
しかしそれは、後方からの襲撃だった。
一騎打ちであろうが、戦場であろうが、俺は最後まで立ち続ける。
自分の、ひいては我が陣営の優秀さを見せつけ、勝つこともできたと確信していた。
だが、問題があった。
これは大きな問題だ。
『決定的な勝利を早期に得る』
この一点において。
『短期間』での決着。
これが不可能であるという、確実な予想。
王と婚約者の父という後ろ盾が、どちらもまるで期待できないのだ。
俺が完全な勝利を収めるには、長く、苦しい戦いになる。
それはこの国に大きな被害が出るということを意味していた。
人も物も、経済も、あらゆるものが血を流すことになるだろう。
いつしか俺は、グランリオという国に、愛着を持ち過ぎていた。
戦争か?
融和か?
あるいはかつて、グランリオ王が俺を呼んだような奇策があるのか?
注目された俺の出した結論。
それは、皇太子の地位の返上と、ポートアーサーに戻るという決断だった。
完全撤退。
手を取り合っての融和路線はそもそもあり得ない答えだ。
中途半端な迎合は、問題の先送りでしかない。
俺の決断は、有力者の出席する会議で発表することになった。
だが、俺は正直すぎた。
一般に正直は美徳とされるが、馬鹿正直は暗愚の証明にすぎない。
甘かったのだ。
大きな決断をし、気が抜けていたとも言えるだろう。
俺が壇上に上がり、皇太子の地位返上を宣言した。
その直後だった。
グランリオ王が席を立って前に出、発言したのだ。
予定にない動きだ。
返上宣言のどよめきが収まるのを待っていた俺は、完全に虚をつかれた。
そこに割り込んだグランリオ王は列席者を前にして、朗々と語った。
オーウェンの勇気ある決断を讃える。
さらに主人公から、不退転の決意を伝えられた。
なんと、我が愛するオーウェンはモンテルレイに侵攻するという。
モンテルレイの領地を己の力で切り取り、それをグランリオの一部として献上し、そこに主人公が治める国をつくると約束してくれた。
この王の一言により、先のどよめきが一転した。
会場は狂乱の熱に包まれていく。
『未来の英雄に喝采を!』
『洋々たる前途に祝福を!』
あちこちで俺を讃える声があがってしまった。
熱くなる会場。
しかし、俺のまわりの側近たちは青ざめていた。
もちろん俺もだ。
そんな約束をした覚えもなければ、提案されたことも、命令されたこともない。
よりによってこの会場で、とは……
神だ何だと言われていても、しょせんは人に過ぎない。
いかに王とて、ただの親だったのだ。
俺を恐れ、マルセデスに帰る事をよしとせず、実子を守るために確実な追い落としを図ったのだ。
正式な場での王の発言。
それを覆すなど、不可能なこと。
俺は完全に梯子を外された。
準備の時間も満足に与えられず、わずか数百の手勢で出兵することになった。
だが、限られた人数だけあって、誰もが鍛えられた精鋭。
俺が信頼し、そして俺を信じる者たちだ。
『見捨てた者たちに力を見せつけ、見返してやる』
誰もが息巻く我が軍の士気は高かった。
俺は止める側近を拒み、進んで先頭に立ち剣を振るった。
敵を斬り、味方を鼓舞し、駆け回り指示を飛ばす。
誰にも負けぬ自負があった。
強い者が、強さを発揮すべきだと思った。
一振りして返り血を浴びるたび、敵は俺を恐れて退がる。
そんな俺の姿に、味方は奮い立った。
難なく国境を越え、散発的な反攻をものともせず、攻め入る。
いよいよ地方都市の攻略に本格的に取り組もうとしていた。
手勢を二手に分けた。
平地で正面からぶつかる部隊と、山側から雪崩のように奇襲する部隊だ。
山側へと迂回する隊の方が、配置には時間がかかる。
正面から押し進む隊の指揮を取る俺は、奇襲部隊の体勢が整うのを待っていた。
ところが定刻を過ぎても、まったく報せがない。
配置完了の合図もなければ、不都合を報せる使者もない。
何が起きているのか心配になったが、俺の信じる配下だ。
間違いはないはず。
ここは我慢の時。
待ちきれずにむやみに動けば作戦は失敗になる。
たとえ不安がよぎっても、全軍を指揮する俺がどっしりと構えて待つことこそが、隊に安心を与えるのだ。
耐え難き時間を耐え、ようやくもたらされた報せ。
しかしそれは、後方からの襲撃だった。
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