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第八十話
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賊と俺とで、ひたすら睨み合いだけが続いていた。
——たとえ死んでも全員倒す、絶対だ。それだけはあきらめん。犠牲が出た腹いせに村を襲われても困るしな——
自警団の若者たちの顔が次々に思い浮かび、消えていった。
——もっともセスもジャックもいる。賊も数人だけなら、みんなで討ち果たせよう。そのためにも、一人でも多く減らして……——
これが最後と、自分を奮い立たせる叫びをあげた。
それが合図のように、賊も俺も駆け出した。
——しまった!——
囲まれた俺に複数の剣が襲いかかる。
いかに相手が多かろうとも、同時に俺へと攻撃できるのは前後ともう一人程度。
それ以上は仲間が邪魔になり、手は出せない。
紙一重で受け止め、払いのけ、ときに相手の勢いをそらしてほかの賊にぶつけてやる。
そうやってどうにか凌ぐが、防戦一方だ。
もはや攻めに転じる余裕はない。
敵の数は多くとも、個人に絞れば相手に隙はある。
そう、あるのだ。
しかしそこを突こうと動けば、それがそのまま俺の隙になること間違いなしのジレンマ。
正直手詰まりの状況。
そうなればもう、あとは時間だけの問題だった。
そしてそれは、唐突に訪れた。
一人の攻めを横に払いのけ、さらに右からの攻めを受けようと身体をひねるが間に合わない。
右腕に、白刃が振り下ろされる。
利き腕を断たれたと思い、俺の全身が痛みに備えて硬直する。
——終わった——
そう思ったが、俺の剣はいまだ手中にあった。
打撃を受けた手首上より先も、なぜか、まだつながっていた。
致命的と思われた攻撃であったが、俺の腕を切り落とすことはなかった。
そこには腕輪が、ジャニスにもらったそれが、火花を散らして一撃を凌いだ。
——ジャニスは俺を離さない。ならばまだ!——
その瞬間、『終わった』と思ったのは俺だけではなかった。
束の間のぬか喜びで動きの止まった敵より早く、戦いへと意識を戻す。
跳ねるように身体ごと飛び込み、俺の手首を打った敵へお返しとばかりに強烈な突きを叩き込んだ。
しかし勢いがよすぎたか、そのままもつれるように俺まで倒れてしまった。
すぐに横へと転がり、跳ね起きようとする。
が、体が悲鳴をあげた。
腕に、足に、力を込めて立とうとするが、鍛えた身体が俺の意思を離れ、震える。
それでも無理に力を込めて地面から引きはがし、どうにか立ち上がった。
——気力だけでは難しい。しかしみっともなくても、最後まで——
すでに構えを取ることがしんどく、引きずるように剣は下げたままだ。
それでも、相手を見据えることだけはやめない。
たとえ倒れようとも、敵に背を向けることだけはしたくなかった。
俺に居場所はない。
どこにも居場所がないなら、当然逃げ場もない。
ここで死ななければ、次の戦い。
次で死ななければ、さらに次の戦い。
どうせ死ぬなら、格好だけは前を向いて死にたかった。
すでに日の出から、だいぶ時間が経っている。
ジャニスは今ごろ、何をしているだろうか?
せっかく俺を守ってくれた形見だったが、俺が敗れれば賊に剥ぎ取られてしまうだろう。
最後の最後まで、ジャニスには応えられなかった。
それが一番の心残りだ。
覚悟を決めて一歩を踏み出した。
突如、正面奥側の敵が悲鳴をあげて得物を落とした。
腕を押さえてしゃがみ、苦しみもだえている。
すぐには何が起こったのかわからなかった。
『同士討ち?』と見当違いなことを思ってしまう。
よく見れば、そいつの腕には矢が刺さっていた。
とまどったのは、俺だけではない。
余裕のない俺よりも、驚いたのは賊たちの方だった。
あからさまに動揺し、俺から視線を切って周囲を見回していた。
——ジャックなのか!——
余所見した賊の隙を逃さず、一人を下段から切り上げた。
続けざまに矢が放たれ、賊は降りかかる矢を回避すべく、慌てて逃げ散らばった。
——ジャックにしては不正確だ、これは?——
ジャックは腕があるだけに、無駄な矢は使わない。
確実に狙って仕留めるのがジャックだ。
違和感に心がざわつき、眼前の敵を捨て、ついに俺も矢の放たれた方へと目を走らせた。
——たとえ死んでも全員倒す、絶対だ。それだけはあきらめん。犠牲が出た腹いせに村を襲われても困るしな——
自警団の若者たちの顔が次々に思い浮かび、消えていった。
——もっともセスもジャックもいる。賊も数人だけなら、みんなで討ち果たせよう。そのためにも、一人でも多く減らして……——
これが最後と、自分を奮い立たせる叫びをあげた。
それが合図のように、賊も俺も駆け出した。
——しまった!——
囲まれた俺に複数の剣が襲いかかる。
いかに相手が多かろうとも、同時に俺へと攻撃できるのは前後ともう一人程度。
それ以上は仲間が邪魔になり、手は出せない。
紙一重で受け止め、払いのけ、ときに相手の勢いをそらしてほかの賊にぶつけてやる。
そうやってどうにか凌ぐが、防戦一方だ。
もはや攻めに転じる余裕はない。
敵の数は多くとも、個人に絞れば相手に隙はある。
そう、あるのだ。
しかしそこを突こうと動けば、それがそのまま俺の隙になること間違いなしのジレンマ。
正直手詰まりの状況。
そうなればもう、あとは時間だけの問題だった。
そしてそれは、唐突に訪れた。
一人の攻めを横に払いのけ、さらに右からの攻めを受けようと身体をひねるが間に合わない。
右腕に、白刃が振り下ろされる。
利き腕を断たれたと思い、俺の全身が痛みに備えて硬直する。
——終わった——
そう思ったが、俺の剣はいまだ手中にあった。
打撃を受けた手首上より先も、なぜか、まだつながっていた。
致命的と思われた攻撃であったが、俺の腕を切り落とすことはなかった。
そこには腕輪が、ジャニスにもらったそれが、火花を散らして一撃を凌いだ。
——ジャニスは俺を離さない。ならばまだ!——
その瞬間、『終わった』と思ったのは俺だけではなかった。
束の間のぬか喜びで動きの止まった敵より早く、戦いへと意識を戻す。
跳ねるように身体ごと飛び込み、俺の手首を打った敵へお返しとばかりに強烈な突きを叩き込んだ。
しかし勢いがよすぎたか、そのままもつれるように俺まで倒れてしまった。
すぐに横へと転がり、跳ね起きようとする。
が、体が悲鳴をあげた。
腕に、足に、力を込めて立とうとするが、鍛えた身体が俺の意思を離れ、震える。
それでも無理に力を込めて地面から引きはがし、どうにか立ち上がった。
——気力だけでは難しい。しかしみっともなくても、最後まで——
すでに構えを取ることがしんどく、引きずるように剣は下げたままだ。
それでも、相手を見据えることだけはやめない。
たとえ倒れようとも、敵に背を向けることだけはしたくなかった。
俺に居場所はない。
どこにも居場所がないなら、当然逃げ場もない。
ここで死ななければ、次の戦い。
次で死ななければ、さらに次の戦い。
どうせ死ぬなら、格好だけは前を向いて死にたかった。
すでに日の出から、だいぶ時間が経っている。
ジャニスは今ごろ、何をしているだろうか?
せっかく俺を守ってくれた形見だったが、俺が敗れれば賊に剥ぎ取られてしまうだろう。
最後の最後まで、ジャニスには応えられなかった。
それが一番の心残りだ。
覚悟を決めて一歩を踏み出した。
突如、正面奥側の敵が悲鳴をあげて得物を落とした。
腕を押さえてしゃがみ、苦しみもだえている。
すぐには何が起こったのかわからなかった。
『同士討ち?』と見当違いなことを思ってしまう。
よく見れば、そいつの腕には矢が刺さっていた。
とまどったのは、俺だけではない。
余裕のない俺よりも、驚いたのは賊たちの方だった。
あからさまに動揺し、俺から視線を切って周囲を見回していた。
——ジャックなのか!——
余所見した賊の隙を逃さず、一人を下段から切り上げた。
続けざまに矢が放たれ、賊は降りかかる矢を回避すべく、慌てて逃げ散らばった。
——ジャックにしては不正確だ、これは?——
ジャックは腕があるだけに、無駄な矢は使わない。
確実に狙って仕留めるのがジャックだ。
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