REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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第七十九話

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 さあ、次だ。
 そう思った。

 しかし、どうにも様子がおかしい。
 次の番手の出足が鈍いのは、もう何人も前からだ。
 それにしても、今回は時間がかかり過ぎていた。
 待ち時間がしんどく、膝に手をつくなり、どかっと地面に腰を下ろすなりしたい。
 休みたかった。
 水が欲しい。
 しかしいったん楽をしてしまえば、相手に引っ張り上げられなければ二度と立てないだろう。
 弱みを見せてはいけないのだ。
 敵よりもなによりも、自分自身に。
 折れた心を立て直すことは難しい。
 ただまっすぐに立ち、遠く山の端をにらみつけ、精一杯のなんともない振りを続けて待つ。
 疲れていない、まだやれると言う虚勢。
 するとようやく、奴らに動きが見えた。
 動きだす影。
 それはこれまでと違い、一つだけではなかった。
——まあ、最後はそうなるだろうな——
 どうやらもう、一騎打ちの時間は終わりのようだ。
 ありがたいことに、俺はこいつらの誰よりも間違いなく強い、『この場で最強である』、という最高評価を頂戴したらしかった。
 誰ひとりとして、疲れきって倒れる直前の俺であっても、真正面からでは勝てない。
 ならば、どうするか?
 答えは簡単なことだ。
 残った全員で、袋にすればいい。
 それしかない。
 じつに単純な答えだ。
 残った賊は七か? 十か?
 距離をとりつつ俺を囲むように動きはじめた。
 疲れ切っている俺を恐れているのか、ずいぶんと俺から間をとる緩やかな包囲網。
 奴ら同士の距離は遠く、スカスカだ。
 訓練なら叱り飛ばされてしまうほどに、ひどい囲み方。
 俺は思わず笑ってしまう。
 しかしその緩い囲みでさえ、走って突破できるほどの余力は残っていなかった。

——向こうが総出で来るなら、俺だって休憩を要求してもいいはずだ——
 わずかでも休息の時間が欲しい俺は、ロデリックの姿を探し、視界の正面にすえた。
 あいも変わらず安全な背後に隠れたままだった。
 自分は包囲に参加せず、後方から叫ぶばかりである。
「ロデリック! 見世物の時間は終わりか。そっちの役者ども、すでに舞台にはあがらないようだぞ」
「クソ面白くない舞台なぞ、途中で打ち切りが常だ。そんなことも知らんのか」
「そうかそうか、それはすまないな。主役の俺の、力不足かな?」
「クッ、言いたいのはそれだけか」
「言いたいこと? どうかな……、ないな。言いたいことがあるのは俺じゃない。むしろ俺より、おまえの方じゃないのか?」
「なんだと?」
「悪党とはいえ、男が一度決めた約束を破るんだ。なら、普通ひとことあるだろう」
「約束なんかねえよ、俺がルールだ。俺のやりたいようにやる。思い上がるなよ」
「それがロデリック流の、上に立つ者の在り方ってわけか? 今も、安全な場所に隠れているようだが」
「だまれ、黙れよ。
 あんたのその、『俺が常識だ』みたいな言い方、昔から嫌いなんだよ。その口が動くのも、あとわずかだ、せいぜい覚悟しておけ」
 口だけは威勢を保っていたが、ロデリックは右に左にと血走った目を忙しく動かして、部下どもの反応を気にしていた。
 少しはロデリックの中にも、常識的な感覚がまだ残っているのかもしれない。
 こんなリーダーのもとには、碌な奴は集まらないだろう。
 だからこそ、ロデリックは部下の一挙手一投足が気になって仕方ないのだ。
 集まる部下からの視線を払うように手を振り、「やれ!」と叫ぶ。
 その笛に応じて踊りだすはずの手下たちは、ロデリックの望むようには動いてくれない。
 二度三度と部下を叱咤するも、動きは鈍く、にじり寄る素振りだけ。
 戦う意思を明確に示すような動きにならない。
 ロデリックが唾を飛ばしてけしかける声だけが、朝の澄んだ空気のせいか草原に異様に響いていた。

 その一方で焦れているのはロデリックだけではない。
 休むために煽って時間をつくりはしたが、俺とて自分から動き出したいのというのが偽らざる本音。
 いまのところ、我先にと攻め込んでくる賊はいない。
 がそれだけに、逆に動き出すときは皆一斉にかかって来るはずだ。
 複数に囲まれて攻撃されれば、どうしても受けに回らざるを得ない。
 長い忍耐になるだろう。
 さらなる体力の消耗は避けられない。
 それよりもこちらから先手を取り、各個にあたって一人でも先に倒してしまいたいのだ。
 理想は先手であるが、それを実行するだけの体力がない。
 気持ちの上では『今ここで!』となるが、身体は蔦でも絡みついているのかと思うほどに反応してくれない。
 掛け声で動かぬのはロデリックの配下だけではなく、俺の身体もそうだった。
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