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第八十二話
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ロデリックが去りゆく連中の背に手を伸ばそうと、叫ぼうと、それで足を止めるものはいなかった。
勝負はもうついていた。
取り残されるはロデリック一人。
あわてて逃げようとするが、難なくフィルに先を塞がれた。
フィルは楽しげに告げた。
「たいへん残念なことですが、私の相手が全員逃げてしまいましてね。ロデリック殿、代わりにお相手願えませんか?」
「なぜだ! なぜこんな男に手を貸す! フィルよ、おまえが異国でさすらうも、すべてこいつが不甲斐ないせいではないか。それなのになぜだ!」
「それを聞いてどうなさいますか? もとより我らは理解できぬ者同士でしょう。私の想いを話したとて、きっとわかってもらえません。そもそも私にも理解できないのですよ、あなたが盗賊に身をやつすことをよしとする、その理由がね。おっと、訳を話して聞かせてくれる必要はありません。繰り返しですが、あなたの身の上話など、そんなくだらないことを聞いても、私には理解はできませんよ。さわりを聞くだけで腹が立って、暴れたくなるだけでしょうからね」
「クソ! こいつのせいで賊にまで落ちた。だからそのツケをこいつの身代金で払わせてやることの、いったいなにが悪いというのだ」
セスはそれを聞いて笑い出した。
「意外に面白いことをいいますね。いや、失礼した。あなたは殿下の配下だったことを恨んでいるようだ。それなのに、今もまだ殿下の支配下にいるようだ」
「なに?」
「殿下が消えてからの数年…… そのすべてが、殿下ありきだと言っているのですよ。
異国をさまようも、苦しむも、賊になるのも、何もかもが殿下のせい。だから殿下を苦しめ、殿下の首で恨みを晴らす。これではいったいどこに、あなたの意志が、あなたの生があるというのですか? 殿下に仕えたことを本当に恨むなら、きれいさっぱり忘れ、殿下もグランリオも何もかも関係のない、あなただけの新しい人生を歩むべきだった。違いますか」
「クッ、それを言うなら……、貴様も同じであろうが!」
「私ですか? 私はね、存外に楽しんでいますよ。敵地での敗北などということがなければ、帰る場所を失って一人の男として生きていくなど体験できぬこと。己の腕がどうであるかを、それこそ肌身で知ることができる。戦いたければ争いのある場所で雇ってもらえばいいのですから。そんな暮らしも、私にとっては悪くない。そこへきて殿下が生きていると知った。もちろん殿下とは一度縁の切れた人生です、二度と会わぬ方を選ぶこともできたでしょう。ですが、殿下と思われる人物の話を聞きつけるたび、単純にね、私はもう一度会いたいと思ったのです。だから自分から探すという行動を選び、動いたまで。
同じ再会でも、そこに至る経緯がまるで違うのですよ。あなたのような恨みではないし、義務感でもない。ま、ある意味ではあなたの方が、私より殿下を愛しているのかもしれません。それはもう、偏執的で変態的なほどに」
フィルはふたたび笑い、ロデリックはその場で膝を折り、地面に四つん這いに伏せた。
土をえぐるように握りしめ、それから拳を地面に叩きつけた。
何度も、何度も。
「さて、ロデリック殿。勝負といきましょうか。かつては望んでもはぐらかされ、一度も手合わせは叶いませんでした。今日くらいは、受けてもらえますよね?」
「——その勝負、認められんな」
勝負はもうついていた。
取り残されるはロデリック一人。
あわてて逃げようとするが、難なくフィルに先を塞がれた。
フィルは楽しげに告げた。
「たいへん残念なことですが、私の相手が全員逃げてしまいましてね。ロデリック殿、代わりにお相手願えませんか?」
「なぜだ! なぜこんな男に手を貸す! フィルよ、おまえが異国でさすらうも、すべてこいつが不甲斐ないせいではないか。それなのになぜだ!」
「それを聞いてどうなさいますか? もとより我らは理解できぬ者同士でしょう。私の想いを話したとて、きっとわかってもらえません。そもそも私にも理解できないのですよ、あなたが盗賊に身をやつすことをよしとする、その理由がね。おっと、訳を話して聞かせてくれる必要はありません。繰り返しですが、あなたの身の上話など、そんなくだらないことを聞いても、私には理解はできませんよ。さわりを聞くだけで腹が立って、暴れたくなるだけでしょうからね」
「クソ! こいつのせいで賊にまで落ちた。だからそのツケをこいつの身代金で払わせてやることの、いったいなにが悪いというのだ」
セスはそれを聞いて笑い出した。
「意外に面白いことをいいますね。いや、失礼した。あなたは殿下の配下だったことを恨んでいるようだ。それなのに、今もまだ殿下の支配下にいるようだ」
「なに?」
「殿下が消えてからの数年…… そのすべてが、殿下ありきだと言っているのですよ。
異国をさまようも、苦しむも、賊になるのも、何もかもが殿下のせい。だから殿下を苦しめ、殿下の首で恨みを晴らす。これではいったいどこに、あなたの意志が、あなたの生があるというのですか? 殿下に仕えたことを本当に恨むなら、きれいさっぱり忘れ、殿下もグランリオも何もかも関係のない、あなただけの新しい人生を歩むべきだった。違いますか」
「クッ、それを言うなら……、貴様も同じであろうが!」
「私ですか? 私はね、存外に楽しんでいますよ。敵地での敗北などということがなければ、帰る場所を失って一人の男として生きていくなど体験できぬこと。己の腕がどうであるかを、それこそ肌身で知ることができる。戦いたければ争いのある場所で雇ってもらえばいいのですから。そんな暮らしも、私にとっては悪くない。そこへきて殿下が生きていると知った。もちろん殿下とは一度縁の切れた人生です、二度と会わぬ方を選ぶこともできたでしょう。ですが、殿下と思われる人物の話を聞きつけるたび、単純にね、私はもう一度会いたいと思ったのです。だから自分から探すという行動を選び、動いたまで。
同じ再会でも、そこに至る経緯がまるで違うのですよ。あなたのような恨みではないし、義務感でもない。ま、ある意味ではあなたの方が、私より殿下を愛しているのかもしれません。それはもう、偏執的で変態的なほどに」
フィルはふたたび笑い、ロデリックはその場で膝を折り、地面に四つん這いに伏せた。
土をえぐるように握りしめ、それから拳を地面に叩きつけた。
何度も、何度も。
「さて、ロデリック殿。勝負といきましょうか。かつては望んでもはぐらかされ、一度も手合わせは叶いませんでした。今日くらいは、受けてもらえますよね?」
「——その勝負、認められんな」
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