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第八十四話
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あとは賊を討ったと村に報告に戻れば、終わりだ。
これほど上手くいくとは、正直思わなかった。
俺が今こうして生きているのも、賊を討ち果たせたのも、すべてジャニスとフィルが駆けつけてきてくれたから。
しかしながら、逃げのびた賊もいる。
もうシャーウッドの村には住めないだろう。
しかしこの二人とは、ずっと共に進んでいくことになる気がした。
「村に戻るか。賊は倒したと、知らせるべきだろう。さすがに今日くらいは気絶したように眠りたい。今後のことは明日か明後日にでも、ゆっくり決めればいい」
「そうね、今は戻りましょう。村のみんなを安心させてあげなきゃね」
「……殿下」
「ん?」
「お疲れのところへ申し上げにくいのですが、あちらを御覧ください」
フィルは街道の先を指差した。
それは村に至る道とは反対方向だ。
言われて目を細め街道の先を見る。
たしかに遠くに影があった。
それは連なっていて、一人ではなく集団のように思われた。
それもさっきの賊のような、雑然としたものではない。
きちんと整列して歩いているように見受けられた。
——あれは……、いったい?——
このような片田舎の街道にありながら、集団でシャーウッドの村の方へと向かってくる者たち。
見たことのない光景に、不吉な予感がした。
いつの間にか、風が吹き始めていた。
「あの人たちって、もしかして」
ジャニスが不安げに俺を見上げる。
戦いが終わり、喜んだのも束の間。
ジャニスの瞳はもう曇っていた。
遠くからこちらへ向かう人影はだんだんと大きくなり、旗を掲げている様子が見てとれた。
風になびく布地には、何やら印が描かれているようだ。
「どうやら領主の兵だな」
「肝心のときに頼りにならないのに、いったい何の用よ」
「俺たちからすれば、頼りにはならない。しかし自分の利益になるなら、重い腰も急に軽くなる。困ったことだ。これからどうなるか、だいたい予想がつく」
整然と二列に並んだ完全武装の兵が、俺たちの前で停止する。
その数二十ほど。
先頭の一人が前に出てきた。
領主兵の中でもひときわ目を引く、立派な武装だ。
鎖かたびらではなく、豪華な板鎧を着込んでいた。
それに応えるように、俺も前に歩みを進める。
俺には立派な装いはない。
そのかわりに派手な傷やアザ、乾いてこびりつく血をまとってはいるが。
「我らは領主の使いの者である。おまえたち、知っていることを偽りなく答えるがよい。
隣国グランリオの元皇太子を立て、反抗を企てる村があるという報せが、我らが領主様の元へあった。それについて聞きたい。貴様らは、シャーウッドの村のものであるな?」
——ロデリックの奴め、思ったより抜け目ない。俺の情報をすでに領主に売った後だったか——
「どうした、答えぬか」
「使者のわりに、その大所帯。ずいぶんと何か、恐れていることがあるようだな」
「貴様、我らを愚弄するつもりか? 余計な詮索は無用だ」
「フッ、勘違いするな。俺のためのあまりに手厚い歓迎、泣いて喜んでやってるだけのことよ」
「……では、貴様が?」
「いかにも。探しているのは俺だろう。俺がグランリオの元皇太子、オーウェンその人。それと……」
少し迷ったあと「配下二名」と続けた。
俺が名乗ると、兵たちに緊張が走る。
剣を抜く者、槍を構えようとする者……
「はじめに言っておくが、あんたの情報は間違ってるな。シャーウッドの村自体はまったくの無関係。俺が身を隠すため、都合よく利用していただけにすぎん。それに反抗というが、それも間違い。あのような田舎村に、そんなたいそうな動きがあるものか」
値踏みするように俺を見、ついでフィルを、最後にジャニスへと視線が移る。
俺もフィルも、典型的な村人らしい様子や雰囲気とは言えない。
ましてや俺は、賊との激しい戦いを終えたばかりだ。
血にまみれ、子供が見れば泣いて逃げるのではと思うような格好になっているはず。
——さて、この男はどう判断するか?——
「そうか。なるほど、よくわかった」
「じゃあ、帰ってくれるのね」
「勘違いするな、野蛮な女よ」
ジャニスが野蛮と謗られたことに抗議の声をあげているが、それは無視され、話が続けられる。
「わかったのは話だけだ。それが正しいかどうか、ことの真偽を確かめるが我らの務め。使者とは遊びではない。
オーウェンとやら、そなたには同行を願おう。その上で村に反抗の意思のあるか、なしか、私の目で確認させてもらう。武器を捨て、縄に付くがよい」
指揮官の言葉を受け、両脇の配下が動き出す。
するとフィルが俺の前へ出て腕を広げ、俺のかわりに答えた。
これほど上手くいくとは、正直思わなかった。
俺が今こうして生きているのも、賊を討ち果たせたのも、すべてジャニスとフィルが駆けつけてきてくれたから。
しかしながら、逃げのびた賊もいる。
もうシャーウッドの村には住めないだろう。
しかしこの二人とは、ずっと共に進んでいくことになる気がした。
「村に戻るか。賊は倒したと、知らせるべきだろう。さすがに今日くらいは気絶したように眠りたい。今後のことは明日か明後日にでも、ゆっくり決めればいい」
「そうね、今は戻りましょう。村のみんなを安心させてあげなきゃね」
「……殿下」
「ん?」
「お疲れのところへ申し上げにくいのですが、あちらを御覧ください」
フィルは街道の先を指差した。
それは村に至る道とは反対方向だ。
言われて目を細め街道の先を見る。
たしかに遠くに影があった。
それは連なっていて、一人ではなく集団のように思われた。
それもさっきの賊のような、雑然としたものではない。
きちんと整列して歩いているように見受けられた。
——あれは……、いったい?——
このような片田舎の街道にありながら、集団でシャーウッドの村の方へと向かってくる者たち。
見たことのない光景に、不吉な予感がした。
いつの間にか、風が吹き始めていた。
「あの人たちって、もしかして」
ジャニスが不安げに俺を見上げる。
戦いが終わり、喜んだのも束の間。
ジャニスの瞳はもう曇っていた。
遠くからこちらへ向かう人影はだんだんと大きくなり、旗を掲げている様子が見てとれた。
風になびく布地には、何やら印が描かれているようだ。
「どうやら領主の兵だな」
「肝心のときに頼りにならないのに、いったい何の用よ」
「俺たちからすれば、頼りにはならない。しかし自分の利益になるなら、重い腰も急に軽くなる。困ったことだ。これからどうなるか、だいたい予想がつく」
整然と二列に並んだ完全武装の兵が、俺たちの前で停止する。
その数二十ほど。
先頭の一人が前に出てきた。
領主兵の中でもひときわ目を引く、立派な武装だ。
鎖かたびらではなく、豪華な板鎧を着込んでいた。
それに応えるように、俺も前に歩みを進める。
俺には立派な装いはない。
そのかわりに派手な傷やアザ、乾いてこびりつく血をまとってはいるが。
「我らは領主の使いの者である。おまえたち、知っていることを偽りなく答えるがよい。
隣国グランリオの元皇太子を立て、反抗を企てる村があるという報せが、我らが領主様の元へあった。それについて聞きたい。貴様らは、シャーウッドの村のものであるな?」
——ロデリックの奴め、思ったより抜け目ない。俺の情報をすでに領主に売った後だったか——
「どうした、答えぬか」
「使者のわりに、その大所帯。ずいぶんと何か、恐れていることがあるようだな」
「貴様、我らを愚弄するつもりか? 余計な詮索は無用だ」
「フッ、勘違いするな。俺のためのあまりに手厚い歓迎、泣いて喜んでやってるだけのことよ」
「……では、貴様が?」
「いかにも。探しているのは俺だろう。俺がグランリオの元皇太子、オーウェンその人。それと……」
少し迷ったあと「配下二名」と続けた。
俺が名乗ると、兵たちに緊張が走る。
剣を抜く者、槍を構えようとする者……
「はじめに言っておくが、あんたの情報は間違ってるな。シャーウッドの村自体はまったくの無関係。俺が身を隠すため、都合よく利用していただけにすぎん。それに反抗というが、それも間違い。あのような田舎村に、そんなたいそうな動きがあるものか」
値踏みするように俺を見、ついでフィルを、最後にジャニスへと視線が移る。
俺もフィルも、典型的な村人らしい様子や雰囲気とは言えない。
ましてや俺は、賊との激しい戦いを終えたばかりだ。
血にまみれ、子供が見れば泣いて逃げるのではと思うような格好になっているはず。
——さて、この男はどう判断するか?——
「そうか。なるほど、よくわかった」
「じゃあ、帰ってくれるのね」
「勘違いするな、野蛮な女よ」
ジャニスが野蛮と謗られたことに抗議の声をあげているが、それは無視され、話が続けられる。
「わかったのは話だけだ。それが正しいかどうか、ことの真偽を確かめるが我らの務め。使者とは遊びではない。
オーウェンとやら、そなたには同行を願おう。その上で村に反抗の意思のあるか、なしか、私の目で確認させてもらう。武器を捨て、縄に付くがよい」
指揮官の言葉を受け、両脇の配下が動き出す。
するとフィルが俺の前へ出て腕を広げ、俺のかわりに答えた。
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