死神に拾われた少女は、世界の魂を救う運命だった

Saku.

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死神との出会い

魂を視る死神

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死神・烏蓮《うれん》の棲み処は、森の奥深くにぽつりと建つ粗末な小屋だった。
人目につかず、気配すら雪に紛れてしまうような静けさに包まれている。

烏蓮は眠ったままの少女を布の上に横たえ、火鉢に火を入れた。
ぱち、ぱち、と薪が小さく弾ける音だけが室内に響く。

少女の呼吸は浅く、か細い。
今にも途切れそうなほど弱々しい生命の糸。

だが、烏蓮の目には別のものが見えていた。

少女の胸元から――
淡い光が、薄く、脈のように鼓動している。

「……やはり、異常に強い」

死神という存在には、生者の“魂の形”が見える。
それは人によって大きさも色も揺らぎも違い、
寿命の長短や心の状態すら反映される。

しかしこの少女の魂は、烏蓮の記憶のどこにも当てはまらなかった。

透明度が高すぎる。
澄みきっているのに、どこか欠けている。

まるで――

“元々もっと大きかった魂が、どこかで削がれたような”

そんな不自然な欠損を感じた。

普通なら魂が欠ければ、人は生きていられない。
だが少女は生きている。
それどころか、魂の“核”は異様なほど強く輝いていた。

烏蓮は小さく息をついた。

「……人間の身で、どんな生き方をすればこうなる」

少女の体には痣がいくつもあった。
寒さに晒される前に、別の痛みを受けていたことを物語っている。

死にかけていた理由など、想像するまでもない。

烏蓮はほんの少しだけ目を細めた。

死神は本来、情によって動いてはならない。

だがこの少女を見ていると、
胸のざわつきが強まり、
自分の規律がほんのわずかに軋む感覚があった。

火鉢の炎が揺らぐ。
その瞬間、少女の小さな声が漏れた。

「……う……」

薄く目を開けた少女は、ぼんやりと天井を見つめ、
次に烏蓮の姿に気づいて硬直した。

「……ここ……どこ……?」

かすれた声。
それでも怯えが滲んでいる。

烏蓮は椅子に腰を下ろしたまま、静かに答えた。

「死にかけていたところを拾った。ここは森の中だ」

少女はしばらく黙り込んだあと、弱々しく唇を動かした。

「……あなたは……だれ……?」

烏蓮は目を伏せる。

自分の名を名乗ることは、死神にとってほとんど意味を持たない。
人間に名乗る必要も、本来ならない。

だが、なぜか口が勝手に開いた。

「……烏蓮《うれん》だ」

少女はその名を一度だけ繰り返すように口の中で転がし、
次に自分の胸に手を当てて呟いた。

「わたし……葵《あおい》……です」

それは、かすかな光を帯びた名だった。

烏蓮は微かに眉を動かす。

名前を口にした瞬間、少女の魂が揺らいだ。
それはとても自然な、けれど涙を含むような揺れ方だった。

「……葵。お前の魂には欠損がある」

葵は目を丸くする。

「……こんなふうに聞くのも妙だが……覚えているか?」

沈黙。

少女の瞳がゆっくりと伏せられた。

「……思い出せないんです。……なにか、大事な……」

そこで葵は言葉を止めた。
思い出そうとすると痛むように、胸を押さえてうずくまる。

烏蓮は立ち上がり、火鉢の火を少し強めた。

「無理に思い出す必要はない。身体を休めろ」

優しい声でもない。
冷たくもない。

ただ、どこか——
“葵を拒絶しない声”だった。

その響きが安心を呼んだのか、
葵は再びゆっくりと瞼を閉じた。

烏蓮は小屋の入口へ視線を向けた。

雪はまだ降り止まない。

けれど、その静寂の裏で、
確かに世界の“何か”が僅かに動き出している気がした。

――この少女を拾った瞬間から。

烏蓮自身はまだ気づいていなかった。
それが、二人を大きな渦へと巻き込む始まりであることに。
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